*プロローグ*
サッカー友達がだいぶそれた軌道で蹴った。位置関係でボールを拾いに行ったのは、俺だった。渡り廊下を通して、向こう側が見える。そこは中庭で、ベンチがある。そこに座って、幸せそうに読書をしている女子がいた。
ベンチの側には木があって、風にそよいで木葉が舞い、それに気づいた彼女は髪の毛を押さえていた。なんとなく近づいて行ったのは、もう無意識とか本能ってやつなのかもしれない。近づいて来る俺に気づいて、彼女が顔あげた。不思議そうな顔をしている。
「葉っぱ、ついてるよ」
「え?え?」
あわてて髪に触れた拍子に、彼女の膝の上の本のページがぱらぱらとめくれた。
「こっち」
彼女の髪の毛にからまった楓の葉を取ってあげて、それを示した。
「あ、ありがとう」
何故かそれを彼女が受け取ろうとしたので、今度はこちらが不思議そうな顔になったかもしれない。彼女は読みさした本のページを見つけて、そこに楓の葉をはさんで本を閉じた。彼女は俺に笑いかける。
「しおりにします」
「あ、うん。赤くなるんかね?」
「え?どうだろう」
「俺達、挨拶くらいしかしないよね」
「うんうん、そう言えばそうね」
「これから、ちょくちょく話しようよ?」
「喜んで」
「なに読んでるの?」
「今回は推理小説です」
「俺のおじぃちゃん、推理小説家だったんだよ」
「ええっ?誰?どなたですか?」
「あまつかしんいちろう、って言う」
「知ってます~。ぜひこれから、お友達になって下さい」
「マジで?」
「はい」
「おじぃちゃん、ありがとう」
「え?」
「いや、ううん、なんでもない。これからよろしく」
「はい」
そんなことがきっかけで、
俺達の仲はぐんと深くなっていった。
運命の歯車が周りはじめたのは、
この日だったのかもしれない。
市川イクタ