【万病に効く花を探し、厳しい雪山へ行くというよくある話】(^ω^)のようです
ヘナンの谷には、年に一度だけ花が咲く。
その花は奇跡の花と呼ばれ、根を煎じて飲めば、どんな重病人もたちどころに元気になると云われている。
(^ω^)「そういう訳なんで、奇跡の花を探しに行ってきます」
('A`)「無茶だ!冬山は雪で覆われていて、命が幾つあっても足りないぞ!」
(^ω^)「それでも行くしかないんだ。父さんを助けるために」
('A`)「!?そんな、重症なのか……?」
(^ω^)「ああ……今も寝たきりさ」
('A`)「くそッこんな事ってアリかよッ!」
(^ω^)「ああ。父さんにはまだ働いてもらわないと困るからな」
('A`)「は?」
(^ω^)「いや、彼には働いて金を稼いでもらわないと。仮にも大黒柱だし」
('A`)「え……?でも、今、君のお父さん、重症なんでしょ?」
(^ω^)「ああ、おかげでもう何か月も働けてないし、貯金もほとんど尽きた」
(^ω^)「母さんもパートに出ているが、この不況だ。今月で契約が切られるんだと」
(^ω^)「するとどうだ。家賃だって払えない。路頭に迷うとはこのことよ」
('A`)「友人の家庭状況が、思ったよりリアルに危機的状況だった件」
(^ω^)「つー訳で俺はあの花を手に入れる。今度は止めてくれるなよ?」
('A`)「待てよ」
(^ω^)「止めるなっつったがや」
('A`)「俺も行く」
(^ω^)「なッ!お前、正気か!?」
('A`)「ああ。正気だ」
(^ω^)「冬の山は雪で覆われていて、命が幾つあっても足りないんだぞ!」
('A`)「それさっき俺が言った」
(^ω^)「奇跡の花を手に入れても、お前にはやらないぞ!」
('A`)「いや、うん。別にいいけど……」
(^ω^)「ならいいや。じゃあさっさと行こうぜ。電車が出ちまう」
('A`)「なんだろう。なんか釈然としない」
こうして、二人は奇跡の花を手に入れる為の過酷な旅を始めた。
(^ω^)「電車乗るから、切符は自分で買ってね」
('A`)「あ、電車移動なんだ」
(^ω^)「そりゃ公共交通機関あるなら使わないと」
中野原→深紅樹→丁子池→(特急)→西斑地部
(^ω^)「さて、ここでまた乗り換えだ」
('A`)「またかよ……え?まだ1時間も待つの?」
(^ω^)「なんて過酷な旅なんだ!」
御花畑→参峰口
(^ω^)「はい。ここからはバスです」
('A`)「あ、バスも通ってるんだ」
(^ω^)「そりゃ夏季は観光名所になってるし」
('A`)「たしかに、そりゃそうだな……あ、雪降ってきた」
彼らの乗り換え先は、この山を巡回して走る、町営の小規模な路線バス。
駅を出ると、くたびれた様子のバスがロータリーに寂しく停まっており、少し錆び付いた青い花のシンボルから、この町の厳しい財政状況がうかがえる。
二人は雑談しながらそのバスに乗り込んだが、乗客は一人も居なかった。
息を呑む二人。その光景は、これから先が今までよりも厳しい道のりであることを暗に示していた。
すると、運転席で暇そうに新聞を読んでいる老いた運転手が、好奇の眼差しと共に二人へ忠告した。
(゜Д゜)「あれ?お客さん、芙蓉山に行くの?この時期見るものないよ~?」
(^ω^)「あ、はい。俺は絶対、奇跡の花を手に入れるんです」
('A`)「俺はその付き添いです」
(゜Д゜)「奇跡の花?あぁ、そんな昔話もあったねぇ~」
(゜Д゜)「最近じゃめっきり聞かないけど。まさかお前さん、信じているのかい?」
(^ω^)「ええ。どんな難病でも治すと云われる奇跡の花」
(^ω^)「開花の時期は丁度今月。一年で一番寒い大寒の時期です」
('A`)「おっさんは地元なのに信じてないのか?」
(゜Д゜)「まぁ、こういうのは地元民の方がドライだったりするんだよ。今まで生きてきて見たことも無いしな」
そう鼻で笑うと、運転手は「出発時刻だ」と会話を断ち切って、緩やかにバスを発進させた。
長い間この地に住んできた彼の言い草から、二人は、これから身に降りかかるであろう困難を確信した。
バスは急勾配の山道をぐんぐん登っていき、それに伴い降雪量も増えていった。
窓ガラスには一面真っ白になるほど雪が張り付いており、暖房の効いた車内とは裏腹に、外が極寒であることが容易に見て取れた。
やがて、運転手はとある駅でバスを止め、アナウンスした。
(゜Д゜)「着いたよ、お客さん。ここが芙蓉山の駅ね」
(^ω^)「ありがとうございました」
('A`)「どうも」
(゜Д゜)「見るモンも無くてすぐ帰りたくなっても、あと3時間はバス来ないから気をつけな」
('A`)「マジか」
(^ω^)「いや、すぐに奇跡の花が見つかるとは思えない。丁度いい」
(゜Д゜)「……とりあえず。コレを渡しとくよ」
運転手は一枚の紙きれを寄越した。
(゜Д゜)「私の電話番号だ。夜は危険だしバスも無いから、暗くなったらここに電話しろ。私が迎えに来てやる」
(^ω^)「そんな。なんでそんなこと!」
('A`)「どうして一介の乗客に過ぎない俺たちにここまでしてくれるんですか!?」
(゜Д゜)「いや、私副業で個人タクシーもやってるんだよね」
(^ω^)「あ、なるほど。営業努力」
('A`)「お疲れ様です」
(゜Д゜)「じゃ。まぁ詳しい話は知らんが、満足いく結果になるといいな」
そう言うと、運転手は昇降口を閉め、再びバスを走らせ、雪の降る山道に消えていった。
('A`)「んじゃ。まぁ早速、谷の方に行こうかね」
(^ω^)「そうだな」
(・∀・)「さぁ、ここからが冒険の始まりだ!」
(^ω^)「……」
('A`)「……」
(・∀・)「ん?どうした。行かんのか?」
('A`)「誰?」
(・∀・)「おいおい!ずっと一緒に居たじゃん!俺だよ俺!」
(^ω^)「誰?」
('A`)「誰?」
(・∀・)「だから、ずっと二人の後ろで状況説明していたじゃん」
(^ω^)「あ、なんかブツブツ聞こえると思ったら、お前だったのか」
('A`)「幻聴じゃなかったんだ」
(・∀・)「もぉ~ちゃんとして二人よとも~」
(^ω^)「だとしてもお前誰だよ」
('A`)「勝手にナレーション的な事すんなよ。気持ち悪ぃだろ」
(・∀・)「え?気持ち悪い?」
(^ω^)「そりゃ、勝手に他人が付いてきて、状況説明されても怖いわ」
('A`)「あとお前、電車の中だけやけに静かだったのはなんで?」
(・∀・)「いや、電車の中では静かにするのがマナーじゃん」
(^ω^)「その常識があるなら勝手に他人の行動をナレーションすんなよ」
(・∀・)「良かれと思って、実はただのお節介だったのね……」
(^ω^)「いや、お節介と言うか、なんだろう。もっと禍々しいよね」
('A`)「後、所々で心象描写を語ってたけど、別に俺たち何にも思ってないからな」
(^ω^)「うん。ずっとこの旅が終わったら何処に飲みに行くか話してたし」
(・∀・)「まじで?じゃあ俺も付いて行っていい?」
('A`)「なんでだよ!怖ぇよ!」
(^ω^)「あ、いいよ」
('A`)「いいのかよ!」
(・∀・)「あれ?でもそれってこの旅が無事に終わること前提じゃない?」
(^ω^)「そらそうよ。失敗を前提に行動する馬鹿は居ねぇよ」
(・∀・)「かっこいい……」
('A`)「そうか?」
(^ω^)「じゃ、まぁ。話も済んだし、谷の方に行くか」
(・∀・)「そうだな」
('A`)「え?何がどう済んだの?様々な謎が残されたままだけど?」
(・∀・)「そうして一行は雪を踏みしめながら山道を下っていき、遂に谷に到着したのだった」
('A`)「ナレーションすんな!」
◇
こうして一行は雪を踏みしめながら山道を下っていき、遂に谷に到着したのだった。
(^ω^)「はい、という訳でね。谷の底まで降りてきましたけども」
(・∀・)「なかなか見つかりませんねぇ。奇跡の花」
('A`)「そんな早く見つかったら奇跡でも何でもないだろ」
('A`)「何か手掛かりとか無いの?谷に咲くってだけじゃ見つけるのキツイわ」
(^ω^)「そうだなぁ……この地図を見る限り、花は崖の中腹辺りに咲いてるかな」
('A`)「つーか、お前がさっきから見てる地図は何なの?」
(・∀・)「それが手掛かりなん?」
(^ω^)「うん。何か売れるモノ無いかって家を漁ってたら出てきたんだよ」
('A`)「それってホントに正しいのか?」
(^ω^)「その真偽を確かめるために旅してんだよ」
(・∀・)「ふぅん。でも崖なんて登れるの?人間にはきつくない?」
(^ω^)「まぁ、確かに雪が降っていて難しくはあるが……」
('A`)「そこまで風は強くない。大丈夫そうだな」
(・∀・)「え?」
(^ω^)「取り出したるは文明の利器。小型ドローン」
('A`)「これで崖を観察して、植物が見つかったら搭載されたアームで植物を掘り出せばいい」
(・∀・)「そ、そんなのがあるんだ。便利になったんだな」
(・∀・)「あ、でも。君ら花の色とか形知らないじゃん。どうやって見分ける予定なの?」
(^ω^)「んなもん。こんな時期に咲く花なんてそうそうねぇからよ」
('A`)「咲いてる花を片っ端から引き抜けばいい」
(・∀・)「Oh...物量作戦……」
(^ω^)「さて、行ってる間に準備完了!行け、俺のドローン!」
('A`)「ちなみに、カメラで撮った映像はこのスマホから見られます」
(・∀・)「先端技術の粋じゃないですか」
(・∀・)「つか、それ買うお金があればそれで父親の病気治せよ」
(^ω^)「え?いや、無理無理。父さんの病気は医者じゃ治せんよ」
(・∀・)「あ、不治の病……」
(^ω^)「いや、ソシャゲ依存症」
(・∀・)「は?」
('A`)「え?」
(^ω^)「でも会社休んでひたすらゲームし続けるんだもん。立派な病気よ」
('A`)「寝続けるってそういう……」
(^ω^)「ったく。貯金まで課金ガチャに使いやがって。おかげで家計は火の車よ」
('A`)「思ったより現代特有の病気に罹ってるね。君の父親」
(・∀・)「……」
(・∀・)「無理だよ?」
(^ω^)「え?」
(・∀・)「君の父親の病気、奇跡の花じゃ治せないよ?」
(^ω^)「なんで?どんな病気でも治せるんじゃないの?」
(・∀・)「だってあの花が生まれた時代には存在していなかった病気だもん。
ソシャゲ依存症」
(^ω^)「随時対応しろよ。アップデートしとけよ」
('A`)「つーかなんでお前そんなこと知ってるの?」
(・∀・)「黙っていたけど、実は俺、ヘナンの精なんだよ」
(^ω^)「なんて?」
(・∀・)「ヘナンの精」
('A`)「なにそれ?」
(・∀・)「この谷の本当の名前だよ。もう誰も呼ばないけど」
(^ω^)「そのヘンナの精さんがなんで俺んところに?」
(・∀・)「この谷、夏は観光で栄えてるんだけど、冬は人気無いんだよね」
('A`)「ああ、バスの運転手も言ってたな。この時期見るものないって」
(・∀・)「それに、最近は夏も観光客減って結構ヤバいのよ。財政的に」
(・∀・)「だから昔話を使って冬も人が来ればいいなって。君らを導いたのよ」
(^ω^)「あ、なるほど。営業努力」
('A`)「でも、なんでコイツなんだ?病に苦しむ人は他にも居るだろ?」
(・∀・)「なんか置かれた状況に比べて余裕そうだったから」
(^ω^)「まぁアイツは働かねぇだけで、死にゃしないしな。但し家計は死ぬ」
('A`)「金がありゃ、まだ何とかなるんだけどな……」
(・∀・)「金?……それなら奇跡の花を売ればいいんじゃない?」
(^ω^)「それだッ!!なんでも治す奇跡の花!売れば億はするはず!」
('A`)「でも、ホントに売れんのか?」
(・∀・)「さぁ。人間社会のことは知らんけど」
(^ω^)「っと!ここで偶然にもドローンのカメラが花を捉えた!青い花だ!」
('A`)「へナヘナの精!これは!?」
(・∀・)「ヘナンな……これは、確かに奇跡の花だな」
(^ω^)「よっしゃあ!刈り取れぇ!金だ金だァ!」
('A`)「完全に悪役の顔になってやがる」
(・∀・)「来年の為にも少しは残しといてくれよ?」
3時間後……
一行はバス停に戻り、バスを待っていた。
(^ω^)「いや大量大量!これだけありゃ億万長者だ!はっはっは!」
('A`)「リュックからはみ出るまで詰め込んじゃってまぁ」
(・∀・)「既に大金持ち気分だね」
すると、丁度良くバスが来て、三人の前で止まった。
数時間前に乗った時と同様に、車内に乗客は誰一人としていなかった。
(゜Д゜)「やっぱり兄ちゃん達か。なんだ花探しは飽きちまったかい?」
(^ω^)「おっちゃん!いやいや、奇跡の花が大量に見つかっちゃってよ!」
(゜Д゜)「なんだって?そりゃあすげぇ、ちょっと見せてくれよ!」
(゜Д゜)「……ってなんだお前、こりゃヘナンの花じゃないか」
(^ω^)「え?」
('A`)「え?」
(゜Д゜)「確かに珍しいモンだが、こんなのだったら道の駅でも買えるぞ?」
(^ω^)「え?」
('A`)「え?」
(・∀・)「あれ、なんでアナタ。この花の名前知ってるんです?」
(゜Д゜)「そりゃこの町の象徴の花だしな。あれ?アンタさっき居たっけ?」
('A`)「まさか奇跡の花が、何でもないただの珍しい花だったなんて……」
(^ω^)「そ……それじゃあ、この花は?数十億円は?」
(゜Д゜)「数十億?いや、そんな高価じゃないけど……」
(゜Д゜)「一本30万円くらいじゃないか?」
('A`)「え?」
(^ω^)「え?」
(・∀・)「一応値段は付くんですね」
(゜Д゜)「なんでも、根っこの部分に強い鎮痛作用があるとかないとかね」
(^ω^)「……それって麻薬じゃね?」
めでたしめでたし