逢崎凛
「ねぇ、月村さん? あなた魔法が使えたらって思ったりしてない?」
学校からの帰り道。
コンビニで買ったアイスを公園のベンチで座って食べている月村麻耶の背後からそんな言葉を投げかける者がいた。
(ーーえっ、あっ………)
麻耶は驚いた拍子に手元のガリガリちゃんを地面に落としてしまった。
「ごめんね。急に変なこと言ってびっくりさせちゃったわね。アイスは後で買って返すわ」
そういって声の主は麻耶の横に座ると申し訳ないといった表情をしてみせた。
「逢崎先生……」
麻耶はつぶやき、真横に座る金髪の女性を見た。
逢崎凛。
星翔学園の美術担当兼図書管理を務める学園の教師をしている。長い金髪はもともとの地毛で、整った顔立ちからハーフという噂が学園では流れている。
その整った容姿とは裏腹に姉御肌なところがあり、学園では男性生徒や男性職員だけじゃなく、同性からの人気も高い。
公園での出会いから数時間前。
星翔学園に教師という立場でやってきた彼女。
逢崎凛もとい、魔法使いアイザ・キリングは学園の中庭で教育主任の君島にある頼みごとをされていた。
「うちの学園にはいろんな生徒がいるんですけど、
一人変わった女子生徒がいましてね……。月村っていう子なんですけど」
アイザは相手の目をみただけで相手の嘘や心理、思考。感情の表裏など、そういった全てを見抜くことができる。これは魔法ではなくアイザ自身が育った環境から得た『心眼』というスキルだ。
「その子がどうされたんですか?」
アイザは聞き返しながら軽く笑顔を作り、ごく自然な感じに君島の瞳の奥を覗く。
「いつも一人でぽぅーっとしていて、何を考えているのかわからないんです。成績は良くも悪くもないんですけど。男の私からなにか話かけるのも今のご時世、変な風に思われるのも嫌ですし。女性の逢崎先生からお声掛けをお願いできませんでしょうか?」
そう言う君島の心理の本音をアイザは見通す。
この教師は紛れもなく本当に、その月村という生徒の事を思って私に相談をしていることが見て取れた。
建前も本音もなく心から生徒の事を思うこの君島という名の教師にアイザは感心して素直に心からの笑顔がこぼれた。
「君島先生はお優しいんですね。わかりました。私から少し話してみます」
「ありがとうございます。逢崎先生だったら安心して任せられます。あと、僕が頼んだというのは内緒で」
「そんなとんでもないです。本当だったら君島先生本人からのほうがいいとは思いますし。でも同性が相手のほうがその子も話やすいのも事実ですしね,もちろん先生のことは言ったりはしませんので安心してください」
アイザはそう言って君島に軽く会釈してから、
「じゃあ今から話してきます」
君島に背を向ける。
「今日じゃなくてもいいですよ。もう放課後で彼女ももう帰ってると思いますし、それに名簿も明日渡しますのでーー」
アイザは顔だけ後ろに向けて答えた。
「心配しないで。この学園の生徒の顔ぐらい全部覚えてるわ。それに私も彼女に興味があるし、今すぐ会いたくなっちゃったの」
そして正面を向いて中庭の出口に向かった。
つい、素の口調で返してしまったアイザの反応にーー君島はなんとも言えず呆然としていたが、
「お願いします!!」
その声を背にアイザは中庭を出て、学園の校門を出て月村のいる公園に向かった。
ちなみに転移の魔法などをアイザは使えない。
残念ながら彼女の魔法は移動に関してそこまで都合良くはないのだ。