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プロローグ2.アリスティック総合事務所

これも本日更新です。


一応この二つの視点で書いていければと思います。

 人が人の世界を築き、天が天の世界を築き、物の怪が物の怪の世界を築き、魔術師が魔術師の世界を築き、悪魔が悪魔の世界を築き、異人が異人の世界を築き、神が神の世界を築く。

 想像であり、空想であり、幻想であり、過去であり、夢想であり、現実である。

 そんな古の日々は今は昔。竹取の翁と言う者もいたことすら、はるか昔。

 世界は一つの世界に集約し、消滅し、邂逅した。

 不干渉による閉鎖的世界は終わりを告げ、全ての生の集約すべき整う環境下に、それは集った。

「局長、最近クライアントの申し込みが多すぎません? 専属契約も過去最高です」

 人間の女、瀬戸綾乃。ハイスクール卒業後、進学ではなく就職を果たし、現職に就き今年で四年目。後ろ一つ束ねの長髪が特徴の事務兼人間の相談担当官。

「どこの事務所もクライアントが飽和状態だとお伺いしたことがありますわ。あの事務所は除いてだとは思いますけれど」

 亜麻色の長い髪の乙女。そのような印象を受ける美女。豊満で妖艶な体は天の使者、天使の特徴。主な業務は相談窓口受付兼天使担当秘書官、ユーフォリア。

「全くだ。超過労働の手当てがあるからまだしも、それがないんじゃ、こっちが辞めるっての」

 物の怪の女。犬神の夜々(やや)。銀短髪に犬歯のような牙と臀部の銀の尾が特徴。物の怪全般の相談を請け負う弁護部門、物の怪担当官。

「もう少し、従業員を雇って頂けますと、魔術訓練にも休暇利用できるのですけれど」

 キャリアウーマンのビジネススーツ姿の女、グレース。青い瞳が魔術師の特徴を示し、金髪テールが凛とした華やかさを放つ。傍らのスーツがけには、白金のローブがかかっている。主業務は魔術師担当官であり、総合相談受付秘書官。

「つーか、下んない依頼とか小会社に廻せば? 相談所で解決する問題とか、マジ時間の無駄なんだけど? たまには実戦とかしてストレス発散しないとぉ、おかしくなっちゃうぅ」

 制服と言うものがない中での、せめてもの礼服と言うものがある中での、ゴシック服の似合うパンクファッションの悪魔の女、リーディル。目を強調した化粧と細く黒い尾が不満げに揺れるのが、最近の特徴の悪魔系担当弁護官。

「本当なのですですよぉ。私なんてですですね、規模が宇宙全域からなのですですから、誰が誰だったかなんて覚えていられないくらいなのですですよぉ」

 異人の女、アルビス。一見は綾乃同様の人間だが、耳が横にとんがりを見せ、大きい。物の怪の人狼族のようでもあるが、情報処理能力が他の生命体を圧倒している。それ故にもっとも規模の大きい全宇宙弁護担当総監と言う、事務所の中では取締役に匹敵する役職を持つ。

 そして、六人の視線と言葉を受ける、事務所最奥部にひときわ大きなデスクを構える女がそれを受け止める。

「そんなことはね、あんたらに言われなくてもあたしが一番理解してるっての」

 相談件数がうなぎ登りの経営上はうはうはではあるが、その処理に身を削る労働疲労がピークを迎えようとしている社員たち以上に、頭を抱えている女、女神のレイシア。事務所内では最も美しい美貌を有し、全能を発揮してはいるが、それでも一般相談、顧問弁護、経理、裁判出廷など諸々の仕事をこなすにも限界と言うものはあるわけで、その美貌もやつれ気味。

「従業員雇おうにも、有能な人材って少ないのよ。即戦力が必要なの、うちは。というよりも顧客情報多すぎてスペースないのもどうにかならないわけ?」

「データベース作業完了まで約二年ですですぅ」

 アルビスが作業担当しているが、顧客が多すぎてデータ化するにも、人間の作業効率の数百倍の効率を持つアルビスでさえ、てんてこ舞い状態。

 代表取締役のレイシアを含めての人数は七人。それがこの事務所、アリスティク総合事務所。中心街一等地に立つ超高層ビルに事務所を置き、名も知れた一級の事務所だが、広い室内の大半は書棚と応接場として埋まり、人数的にも増やそうに増やせない状況。

「嬉しい悲鳴って、所詮は苦痛なのよ……」

 レイシアの言葉とため息に、全員が同じため息を漏らしていた。その間にも相談電話は次々と鳴り、嬉しい悲鳴もどこへやら、休暇を求める悲痛の悲鳴が事務所内に木霊した。

「あぁん、もぉっ! 夜吹相談所にはどうしてクライアントが流れないのよっ!」

 レイシアの言葉に、冷静なツッコミが返ってくる。

「夜吹相談所は宣伝してませんし」

 綾乃は特に興味を持つことなく、パソコンにデータを打ち込んでいた。

「あそこは能力はこちら同等なのですけれど、場所が場所ですから、気づかれないという欠点もありますね」

 ユーフォリアが頬に手を当て、少し残念そうに言う。

「夜吹はエロイから嫌いだ。しかしな、言埜は良いぞ。あいつは優しいし、使える。うちに呼べ」

 夜々は相談所自体より、双剣に対して嫌悪があるようだ。その一方で言埜には信頼があるようだが、レイシアは聞き流す。

「紅鬼君には秘められた魔力反応を覚えているので、またお会いしたいですね」

 グレースは単純に魔力能力にしか興味がないようだ。

「あたし、あのフリフリ毒女とは、決着つけないとなぁって思ってんだよねぇ。あいつ、マジぶりぶりぶりっ子でむかつく。あー、思い出したらまた苛々してきた」

 リーディルは属性の近い飛芽に対して、思う所があるよう。

「私は、夜吹所長のこと、ちょっと格好良いなぁなんて思ったりしてるのですですよぉ」

 ポッと頬を染めるアルビス。一斉に奇異の目が向けられるが、レイシアだけは盛大にため息を漏らした。

「あれに頼るのは嫌なんだけどねぇ。でも、この現状は無理があるし、しょうがない、か。綾乃、例の件、双剣のとこに委託しといて」

「えぇ? 良いんですか? あれは、夜吹相談所には担当者がいないんですよ? と言うより、あそこに所属する担当官はほとんど現場担当官で、事務は実質一人だけですよ?」

 レイシアの言葉に、綾乃が反対の意を持って意見する。

「良いのよ。たしかあいつんとこにも新しい担当官が着任するはずだから。言埜さんの能力と、夜間なら猫女さんの仕事消化率には期待できるわ」

「あら? そうでしたの?」

 ユーフォリアが意外そうに頬に手を当てたまま、レイシアを見る。レイシアとは同界にいて、レイシアの直属の天使ではあるが、あまり敬う態度は見られない。

「へぇ、資金繰りに苦労してる割には、そう言うことしてるわけね、あそこも」

 夜々が大して興味はなさそうだが、一応話には乗る。

「意外ですね。でも、少し興味が湧きました」

 グレースが話を聞きたがっているが、仕事中は仕事に集中するしかなかった。

「つーか、使えんだろうね、そいつ? あれはこっちも結構手間ってもんだよ?」

 出来るもんなら渡せ、と言いつつも、案ずるリーディル。

「大丈夫ですですよぉ。夜吹所長なら何とかしてくれるはずなのですですよぉ」

 アルビスは無責任と言うのか、それとも双剣への全幅の信頼なのか、それしか言わない。それぞれの意見があるようだが、レイシアは手を叩くだけで静寂を生む。

「はいはい。こっちもこっちでやることあるんだから、いちいち気にしないの。綾乃、書類の用意して。私と行くわよ」

「はぁーい」

 仕事に戻る中で、レイシアは鏡で身だしなみを整えていた。それを含み笑みで見るリーディルたちは顔を合わせて、なにやら肯きあっていた。

「気がないくせに、ありゃ、絶対気があるね」

 リーディルが不敵に耳打つ。

「そうですわね。レイシア所長は何だかんだで信用されていますし」

 ユーフォリアは喜ばしいことのように笑む。

「男っ気ないレイシアには、ちょうど良いんじゃないの? あたしは御免だけど」

 夜々は肩をすかす。趣味が悪いとでも言うように。

「え、えぇっ!? 所長、夜吹所長が好きなんでふはぁっ!?」

 アルビスが驚きの声を出すが、とっさに綾乃が口を塞ぐ。

「ダメだって、アルビスちゃん。ここで機嫌悪くさせちゃ、また夜吹所長と喧嘩になっちゃうから」

 綾乃の言葉に、一同がアルビスに肯く。ん〜っとアルビスはその肯きに強く反対の意を唱えたいようだが、押さえ込まれた。

「綾乃? 何してるのよ? 早く行くわよ」

「あ、はい。じゃあ、アルビスのことお願いね」

「分かりましたわ」

「はいはい。さっさと行ってきなって」

「ふっふーん。ちょっとしたストレス発散しちゃおっかなぁ? ねぇ、アルビス?」

「んん〜、んん〜っ!」

 一人レイシアを止めたいアルビスを他所に、綾乃は手早く書類をバッグに詰め込むと、レイシアの後を追った。

「アルビスどうかしたわけ?」

「さ、さぁ? 何か電波でも受信したんじゃないですか?」

「おかしな子ね」

 何も気づかないレイシアを他所に、事務所内にはアルビスの叫びと、主にリーディルの楽しげな悪魔の笑いが木霊していた。

 

 世界が大変遷を起こし、異次元が一つに繋がった時、七つの世界の中心は、銀河太陽系第三惑星アースを全ての中継星として、世界は新時代を構築した。それは戦渦を持って始まり、全ての敵対に破壊が進んだ。多くの犠牲を出し、多くの難民を出し、資源を失い、文明を失った世界が誕生し、世界は明けない夜として、涙すら枯らせてしまった。そうして気づく、和平と言う悲しみを払拭する動きに、徐々に世界は力と交渉を持って歩み寄る。そこからは武器、暴力による戦争ではなく、対話による戦争。戦争とは終わることはなく、気づかない今でもそれは起こっていることでもあった。復興と構築が始まり、異文化の接触、交流が小さな所で起こり、それが次第に広がっていく。犠牲を払う開闢を望むものはいない。

 ただ、恐れから、力を見せ付けるために戦争は起こってしまった。


 それから百八十九年後。完全とはいかぬ七種に通ずる法の整備の流布に、巷を迷う民がいる。争いを起こす民がいる。それを平定し、一刻も早くの世界泰平を目指すために組織された機関が、七界特別執行廷。通称SSH(ダブルエスエイチ)。人間界だった頃のアースの司法廷を再編し生まれ変わったもの。法の流布活動に努め、国という概念を消失し、人類として踏み出した歴史の中で、根強く残る領土問題、異種人への偏見、差別、武力排除などの問題から、生命の飢餓、貧困、扮装などを取り仕切り、法に反する処罰を下す司法機関。そして、検察として違法者の取り締まり、SSHへの立件などを要請する為に組織された組織は、七界検法取締局、通朱SICO(スィコ)。と改変し、弁護に当たる組織も七界保全弁護協会、通称SPDS(スパダス)として生まれ変わり、七種族による、七種族の為の、社会のシステムの整備が徐々に安定を迎えようとしていた。


 その昨今の中で、七界保全弁護協会に所属する夜吹相談所は一向に顧客が伸び悩む事務所ではあるが、一方のアリスティク総合事務所は、多忙極まりない日常に、安らぎの時はなかった。午前八時からの業務開始と同時に、本日のSSHで執り行われる裁判への弁護要請による出廷から、電話相談、直相談、訪問活動の一般業務の他に、SPDSに所属する事務所には、SSHの許可を受ければ、その事務所に応じる特別な能力解放による事件未然阻止措置の発動が認められている。これはクライアントへ及ぶ危害を未然に阻止し、安全かつ迅速に解決へと導く実力行使。この権限はSICOにも同様にあるが、SICOの権限には、逮捕権と共に強制送還の権限がある。罪を犯した異種人を祖国へ送ることで、アースにおける処罰件数を減らす目的もあるからだ。多くの異種人のクラス用になってきたアースでは異種人口が爆発的にアースを覆い始め、昨今になり、SSHがようやく定住制限を定めた。


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