第32話
木工ギルドでの修理依頼も済んだので、破損状況や使われている木材の材質などの詳しい情報を分かる範囲で伝えた後に、前金としていくらか置いてから木工ギルドを後にした。親方は「お前なら後金でもいいぞ」と言ってくれたが、同じ職人仲間としてルールは守りたかったので、丁重に断りを入れておいた。
(信用してもらえるのは光栄ですけどね)
錬金ギルドに着くと、すでにアキナとアメリアが本館のロビーで待っていたので、どうやら自分が一番遅かったようだ。
「お待たせしました、修理依頼は無事に済みましたよ。飛び込みの依頼でしたが、この後さっそく確認をしに来てくれるそうです」
「それは良かった。こっちも、ばあちゃんの確保はできてるよ。君がギルドに着いたらすぐに部屋に来てくれだってさ」
「私の方もフィーリアさんが丁度受付にいたので、すぐに手続きしてもらえました。ただ、二組とも今は街の外に狩りに出かけているそうなので、帰ったらすぐに彼らへ伝えてくれるそうです。
指名依頼はギルドとしても箔がつくので、彼女も小躍りして喜んでましたよ。後、魔石もかなりオマケしてくれましたので、後で確認をお願いします」
「二人とも、ありがとうございます。それでは、ガレットさんの所に向かいましょうか」
「ここから、かなり楽しくなりそうだね!」
「まずは契約書を横流しをした犯人に気付かれる前に、調理ギルドの方を押さえたいですね」
「向こうとしても、信用ガタ落ちな案件ですもんね」
三人でガレットの執務室までやってくると、すぐに入室許可が下りて部屋に入ることができた。どうやらアメリアが事前にある程度説明してくれていたみたいで、内容が内容なだけにガレットも仕事の手を止めて待ってくれていたようだ。
「なんだか坊主がワシの部屋を訪れる度に、扱う事件が大きくなってる気がするのはワシの気のせいかのぅ?」
「今回は調理ギルドの融資契約書が、何者かに横流しされた事件に遭遇しました。こちらが、その証拠の契約書になります」
「よくもまぁ、こんな決定的な証拠を手に入れてきたもんじゃな。どれ、少し拝見させてもらうよ?」
「一応私も現地で鑑定をしてみたけれど、間違いなく本物の契約書として表記されていたよ。しかも被害者によると、契約時と内容が一部変更されていたそうだね」
「ふむ、これは随分とふざけた契約内容が記載されておるが、ギルド印自体は本物のようじゃな。ただし、本来ここにはギルド印ではなく“ギルドマスター印”が必要なんじゃが?
これは直接、問い詰めた方が良いじゃろうな」
「この契約書が本物として鑑定されてることもおかしいのですが、もっと不自然なのがこの契約書には“魔力紋”までもが仕掛けられていたという点ですね。これって奴隷契約なんかに使われる呪術の一種なので、通常の契約書ではまずお目に掛からない仕掛けなんですが・・・・
一応確認しますが、この国ではこの仕様が一般的だったりしませんよね?」
「それこそ、おかしな話じゃて。そもそも、この国では奴隷制度は法律で厳重に取り決めが為されておって、国から許可を得ているほんの一握りの者にしか“魔力紋”の使用は禁じられておるはずじゃ。
だから、融資の契約書でそのような処置をすること自体が考えられんのじゃが・・・・この紋様は確かに本物で間違いなさそうじゃな」
「しかも借金奴隷契約ではなく“永久奴隷契約”なので、本来犯罪者相手に使われるような、かなり強力な呪術が仕込まれていますね」
「さてさて、大変なことになってきたね!ばあちゃん、これからどうしよっか!?」
「・・・・お前は随分楽しそうじゃな。取り敢えず公爵家の人間として、知ったからには野放しにはできん。それに同じ街でギルドを預かる者としても、一度向こうのギルマスと話がしたいのじゃが・・・・
気になるのは、あそこのギルマスはこういった不正が大嫌いな一本筋の通った男として一目置かれる存在なんじゃ。あいつが関与してると、ワシはどうしても思えん」
「それでは、一旦少人数で会ってみるのはどうですか?」
「ワシもそうしたいな。通例ならば領兵を召集して周辺を封鎖し、一気にガサ入れをおこなったりするんじゃが、流石に領主不在でそれをやるとかなり大事になるからのぅ。かといって犯人も判っておらんから、もし組織だっての犯行だった場合襲われる危険性も十分ありえる。まったく、こういった時の領主じゃろうに、あの馬鹿息子は何で街に帰って来ておらんのじゃ!」
「もしあれだったら、私が陣頭指揮を執ろう・・「ややこしくなるのが目に見えてるから、余計なことはせんでいい!」・・・ちっ!」
「俺も微力ながらお手伝いしますよ。なにせ、さきほど被害者の店のオーナーにもなりましたしね」
「・・・・お前という奴は、ほんと少しでも目を放すと直ぐこれじゃ。えぇい!それなら坊主もワシと一緒に付いて来い。そんなに面倒事に首を突っ込みたいなら、最後までトコトンつき合わせてやるわい!」
「ありがとうございます!」
「なんで、お前までそんなに嬉しそうなんじゃ・・・・」
「あはは・・・・、ガレットさんふぁいとです!」
「それで、結局どうするんだい?何もしないって事は無いんだろ?」
「いい案が思いつかんから悩んでおるんじゃ。ちょっと考えるから待っておれ!」
「ガレットさんは、まず最初に調理ギルドのギルマスとだけ話がしたいんですよね?」
「あぁ、ワシはアイツは白だと思うからな。それなら味方に引き込んでおきたい」
「それでしたら俺に“いい考え”がありますよ。これを使いましょう!」
そう言って、インベントリから徐にある野菜を取り出した。
(少し早いですが、彼には一足先に仕事をしてもらいましょう!)
「その赤い実はなんじゃ?」
「これは俺が品種改良をして作り上げた、『トマト』という野菜になります。本当だったら明日からこいつの調理法の研究をして、領主様が帰ってきた時に新しい特産品にできないかと売り込む予定だったんですが、これをダシにして調理ギルドのギルマスと面会をするのはどうでしょうか?
なにせ、この野菜は現状だと品種改良でしか生み出すことができませんからね。錬金術師が作り上げた新しい野菜なのは間違いないので、ガレットさんが売り込みに行っても不自然ではありませんよね?
それに俺は領主様のお抱え錬金術師ですから、公爵家の人間としてもこの作物に期待してるとか適当に言っていただければ、かなりの確率で信じてくれると思います」
「ぷっははは。やっぱり君は凄いね!よく直ぐにそんなことを思いつくもんだ」
「本当に、坊主の悪知恵には事欠かないのぅ。だが、確かにそれなら食いつく可能性も高そうじゃ」
「それと少人数で乗り込むなら、俺達以外で護衛としてついて来ても不審がられず、尚且つ安心して任せられる人物にも心当たりもあります。それにあの人ならば、室内だろうとそこら辺の人に不覚を取ることもまず無いでしょうしね」
「あっ、私も分かりました!」
「私もだ。彼なら適任だし、むしろ一緒にいた方がさっきの話に信憑性が増しそうだね」
「言いたいことは大体分った。アレックスの親友のアーネストじゃな?」
「はい、その通りです。あの人は元ゴールドクラスの冒険者ですし、現在調理ギルド所属の一流の料理人ですからね。それに被害者は彼の弟子のウィルさんですから、理由を説明したら絶対協力してくれると思います」
「そういうことなら、私がひとっ走り行ってアーネストさんに説明してくるよ。どうせ調理ギルドは、こことは逆の東エリアにある事だしね。ばあちゃん達は準備ができ次第、すぐにこっちに来ておくれ!」
そう言って、アメリアはガレットの執務室を飛び出していったが、大丈夫であろうか?彼女はこういうイベント事を、面白おかしく引っ掻き回す天才でもあるからな・・・・
「やっぱり、アメリアさんって領主様に似てらっしゃいますよね・・・・」
「嬢ちゃん、それは言わんでやってくれ。本人は、あれで結構気にしてるみたいなんじゃ」
「あはは・・・・。で、では俺達も準備をして出かけるとしましょうか?」
「話を合わせる為に、ワシの馬車に乗っていった方が良いじゃろう。この後すぐに手配をしておこう。
そういえばこの契約書なんじゃが、これを見る限り契約内容は完了しているようだが、金は坊主が立て替えたのかい?」
「えぇ、一応は。どうやら融資の額の変更はされていなかったみたいなので、その場で払ってやりました。それに被害者の彼も腕のいい料理人でしたので、投資としても悪くありませんでしたからね。あの場にいて彼を守れて本当によかったです」
「確かに、今日あそこを訪れたのは偶然でしたもんね。もし、一日でもずれてたらと思うと・・・・」
「しかし、契約書の改ざんにそれの不正売買。さらには“魔力紋”まで使われておるときたか・・・・随分と厄介な事件じゃな。坊主はどうやったらこんなことができるか、心当たりはあるか?」
「一番簡単なのはマジックアイテム、または幻術系のスキルか魔法を使って偽の契約書にサインをさせたってところですかね?金額を弄れなかったということも、その仮説の裏付けになると思います」
「ほぉ、詳しく聞いてもいいかの?」
「構いませんよ。そもそも簡単な話で、偽の契約書を本物にするためには一旦融資を本当に成立させる必要があるからです。そうでないと“魔力紋”の効果をこれに付与することができませんからね。とても理不尽な契約書ではありますが、効果が強力な分、これにも厳守しなければならないルールが存在しますので。
それに、もしかしたら本来本物として扱われるはずの契約書も存在して、今もギルドに保管されているのかもしれませんね。ただ、その場合は二重契約になるので、こちらが本物として効力を発揮した以上、残された方の契約書は鑑定してもただの紙切れと表記されるでしょうけど。なんでしたら、試しに実験して見せましょうか?」
「いや、ワシも契約書を作る側の人間じゃから、その辺のルールは知っておるから必要ない。しかし、お前さんはよくそんなことまで知っておるの」
「本当ですね、そういうところは流石です」
「以前、こういう事を詳しく教えてくれる人物が身近にいただけですよ。それに俺も他で騙されそうになった経験があるので、それ以来契約書には気を付けるようにしているだけです。その点、領主様との契約はとても誠実でしたね」
「領内の司法を司る親玉が、率先して不正をおこなっていては示しが付かんからな。“誠実であれ”、これが我が公爵家に伝わる家訓の一つじゃて」
「とても御立派な教えだと思います」
「しかし、そうなると幻術への対策も必要になるのか」
「先生、何かいいアイデアとか無いですか?」
「そうですね・・・・気休め程度で良かったら、一応心当たりはあります。少し時間をいただければ作ってきますよ」
「あっ、やっぱりあるんですね・・・・」
「とは言っても、急拵え品だと完全なレジストではなくて、術を使おうとしているのが判る程度の代物ですけどね。ちゃんとした物はミスリル以上の金属で作ったアクセサリーになりますが、見破るだけなら“エンチャント”だけでも事足りますので。
それに、これ系の術は対象の眼に一定時間干渉する必要があるので、術が完成する前に眼を逸らせばいいだけですから、対処もそれほど難しくないはずです。確か、どんなに早くても5~10秒は必要なはずですし、人を自在に操る程の幻術をかける場合は、もっと時間が必要になりますから」
「お前さんは本当に博識だのぅ」
「それでは、実験室に行って作ってきますね。たぶん時間的にも一個が限界だと思うので」
「よろしく頼むよ、こっちも準備が出来次第に現地へ向かおう」
それでは急いでアイテムを作ってしまうとしよう。ガレットに断りを入れてそのまま自分の実験室へアキナと向かう。今回作るアイテムは感知系スキル『看破』が付与されたメガネの予定だ。
一応このスキルは“レンジャー”という中位職の習得スキルになり、効果は罠や敵が使おうとしているスキルなどを発動前に見破ることができるスキルになるのだが、今回はその能力を多少劣化させてエンチャントで付与した物を用意する。
ただ劣化しているだけあって、本家のような瞬間的に発動するタイプのスキルを見破ることは難しいのだが、今回のように時間をかけて相手に効果を与えるタイプの場合はこのアイテムとも相性がいいので、見破れる可能性が非常に高いはずだ。それに、状態異常の人は鑑定で見分けを付けることができるので、そちらはアイテムに頼らなくても平気であろう。
このアイテムはゲームの頃にも探索向けのスキルの保有者がいない冒険者PTなどで、とても人気があったのだが、ナタクはその時既に『看破』のスキルを取得していたため、その存在を今さっきまですっかりと忘れていた。
さて、時間もあまりありませんしサクサク作って出かけるといたしますか!
楽しくなってきたね♪(≧∀≦*)b
はぁ・・・・(´Д`;)
ふぁいとです!(; ・`д・´)




