第31話
調子に乗って三皿もパスタを平らげてしまい、少し動くのが億劫になってしまった。
辺りを見る、と自分以外にも似た症状の人がかなり出ているようである。ウィルも練習になるからと言って、全員分の御代わりを何度も楽しそうに作っていたので、こういった結果になったのは必然だったのかもしれない。新しいレシピが手に入ると、職人としては試してみたくなるものなので、ナタク自身もその気持ちはよく理解できた。
食事も終わり、ウィルと借金についての話し合いが設けられたのだが、ナタク自身は特に無条件で貸し与えても良かったが、それだとウィルが申し訳ないと言いだしたのと、アメリアからの助言もあり、最終的には借金が返済されるまではナタクが“仮の”オーナーになることで話が纏まった。
「しかし、俺なんかがオーナーになってもいいんでしょうか?実験やらで忙しいので、あんまり店は手伝えないと思うのですが・・・・」
「まぁ“仮の”なんだし、今まで通り殆どウィルさんに任せちゃっていいんじゃない?要は妨害対策で、名前を貸しているんだと考えればいいと思うよ。
なんてったってナタク君は、当家のお抱え錬金術師だからね。その人物の店を妨害するという事は、領主である父上を間接的に攻撃するようなものだから、今までのようにそう簡単に手出しできなくなるはずだよ。もしなんだったら、私がお店の看板にローレンス家の旗印を掲げられるよう、父上に掛け合ってあげるよ」
「それは・・・・面白いことになりそうですね」
「だろう?それにこれだけ美味いパスタを出す店が自分の部下の店ともなれば、父上にも利がある話だからね。それに、ナタク君のさっきの口振りだと、他にもレシピが控えているんだろう?」
「今は時間と材料が無くて作れませんが、他にも“たくさん”レシピを提供することができますね」
「それなら、尚更だね。その料理達が上手くこの街の名物になってくれれば、更に父上も鼻高々だろう。しかも、宣伝にお誂え向けのイベントがもう少ししたら開催されるしね」
「街を挙げておこなわれる、領主様主催のオークションですね」
「あれは一種のお祭りみたいなものだからね。毎年国中から貴族や商人がこの街に押し寄せるから、その時にまでにレシピを彼にマスターしてもらえれば、借金なんてすぐになくなるだろうよ」
「俺もこのパスタを食べて、ウィルさんがすぐに借金を返済しきるだろうと確信が持てました。思い切って、融資して正解でしたね。こんな腕のいい職人を潰すとか、勿体無さ過ぎます」
「そこまで評価していただき、ありがとうございます。もしかしたら家族を引き裂かれ、料理人としての人生も終わっていたかも知れないのに、また前を向いて歩き出せるようにしていただけて、とても感謝していますよ」
「期待していますので、これからも美味しい料理をお願いしますね。
それでは用事もできたことだし、俺達は一旦出かけてきますね。残念ながら、ここは彼らに壊されてしまったので、修理が終わるまで店を開くのが難しそうなので、その間にできそうなこともこちらで考えておきます。
それと修理に関しても、木工ギルドの方には伝手がありますので、ウィルさんは暫く安静にしていてください」
「ありがとうございます。しかし・・・・」
「安心してください。明日からかなり忙しくなると思うので、むしろ休みが欲しくて困ってしまうかもしれませんよ?」
「休める時に休んでいた方がいいと思うよ。彼のことだから、本当に忙しくて休めなくなるかもしれないからね」
「・・・・分かりました、それではお願いします」
「あぁ、それと。明日からアーネストさんと料理研究をする約束をしていたのですが、良かったらウィルさんも一緒にいかがですか?」
「師匠とですかっ!是非参加させていただきます。できればあの方にも、この料理を食べてもらって意見を聞きたいので!」
「では、伝えておきますね。用事が済みましたら、帰りにまた寄らせてもらいます」
「はい、分かりました。行ってらっしゃいませ」
「ナタクさん、色々ありがとうございました!」
軽く手を振って店を出る。それでは、行動開始と洒落込もう。
「それで、ナタク君はこれからどうするんだい?」
「まずは、冒険者ギルドに行って店の護衛依頼を出しにいきます。流石にすぐに襲ってくることは無いでしょうが、早めに良い人材は確保しておきたいので。アテナさんとゴッツさん達に指名依頼をするつもりです。
後は木工ギルドの知り合いに修理依頼をしてから、ガレットさんのところで作戦会議って感じですかね?」
「ふむ。それだったら一旦バラバラに行動した方が効率が良さそうかな?ナタク君には木工ギルドに行ってもらって修理依頼を。アキナ君には、冒険者ギルドでナタク君の名前で指名依頼をしてもらって、私はばあちゃんの確保をしておくよ。それぞれ用事が済んだら、ばあちゃんの執務室で作戦会議といこうじゃないか!」
「りょうかいです!アテナちゃんとゴッツさん達を指名すればいいんですよね?期間と金額はどうしましょうか?」
「契約期間は取り敢えず一週間で、金額はギルドの指定してきた金額の1,5倍ほどを提示してください。その方が気分良く働いてもらえますしね。お金はこれを使ってください、足りなかったら追加で出しますんで」
「先生、絶対こんなに掛からないと思うんですけど・・・・まぁ、余ったら持って帰りますね」
「それじゃ、余ったら小粒の魔石をできるだけ買ってきてください。かなり在庫が目減りしているので、そろそろ買い足そうと思っていたんですよね。たぶんフィーリアさんに言えば、いくらか割り引いてもらえると思うので」
「確かに、最近あれだけたくさん消費しましたからね・・・・分かりました、買ってきます」
「それにしても、ナタク君はいつの間に木工ギルドの人と仲良くなったんだい?」
「お屋敷の改装工事を手伝った時にドワーフの親方達と知り合いまして、他にも作業場を借りて色々作っていた時に声を掛けてもらって仲良くなったんですよ。一応、あそこのギルドカードも作ってもらってますよ。これがそうですね」
「・・・・ナタク君、これアイアンじゃなくてシルバーだよね?」
「先生、また何かやらかしてたんですね・・・・」
「別に大した事はしていませんよ?ギルドで間借りしていた作業場で“ある物”を黙々と作っていたら『その建築方法を教えてくれ!』と現場にいた人達に頼まれたので、二つ返事で教えた次の日、何故か親方が俺のところまで態々来てくれて、笑顔でこれくれたんです。
しかも冗談で、『何かあったらうちに就職しろ』とまで言ってくれましてね。言葉遣いは荒いですが気のいい人ばかりでした」
「それ、たぶん冗談じゃなかったと思いますよ。先生・・・・」
「本当に君って多芸だね・・・・」
方針も決まったので、それでは各自移動を開始する。木工ギルドは西通りの錬金ギルドを通り過ぎて、更に西門の近くまで行ったところに建てられている木造の大きな建築物になる。なんでも、木の運搬が楽におこなえるのと、門から入ってすぐの所は自分達の技術力を見せ付ける象徴を飾っておくには、もってこいの場所なんだそうだ。
親方は忙しい人なので、ギルドにいるかなと事務所の方に顔を出してみると、今日はデスクワークに追われているらしく、受付の奥で難しい顔をしながら座っていた。なんか、筋肉モリモリの職人が事務作業をしている姿は、中々シュールな光景であった。
「親方、おはようございます。今日は現場じゃなかったんですね」
「おぉ、ナタクか!お前こそ、今日は錬金ギルドで仕事だって言ってなかったか?」
「そっちは午前中に終わらせて、今は他の用事で街をふらついてました。そこで、ちょこっとトラブルがあって扉の修理依頼と机と椅子の発注をしに来たのですが、今日って急ぎで仕事は頼めますか?」
「お前の腕なら自分で直せるんじゃねぇのか?まぁ、仕事を振ってくれる分には助かるがな」
「ちょっと、今は忙しいので俺では厳しいんですよね。それに、親方達に頼んだ方が確かな仕事が期待できますし」
「嬉しい事を言ってくれるじゃねぇか。よし、手の空きそうな奴を手配してすぐに向かわせてやるよ。急ぎなんだろ?」
「助かります。場所は中央通りの噴水近くの『ラ・デューチェ』ってお店になりますね」
「了解した、この後すぐに向かわせるとしよう」
「ありがとうございます。ところで、親方は何を難しい顔をして悩んでいたんですか?どうやら図面を描いていたみたいですけど?」
「あぁ、お得意様の紹介なんだがちょっと面倒な依頼人でな。結構大きな建物なんだが、店をするからなるべく柱の数を減らして建てろって、中々無茶な注文を言ってきやがってよ。何度か図面を描き直させられてるんだが、一向にオーケーがもらえなくて難儀してるんだわ」
「成程、ちなみに図面を見せてもらっても?」
「お前なら、構わねぇぞ。ほらよ、取り敢えず次はこんな感じでいこうかと思ってるんだが、たぶんこれでも文句が来そうだな」
「あぁ、大黒柱が気になる感じですかね?」
「そうみたいだな。ただこれを抜いてしまうと今度は屋根と二階の床を支えきれねぇからな。妥協してもらわにゃいけないんだが、なかなか依頼人も頑固でよぉ・・・・」
「ちなみに、この店舗は飲食店ですか?」
「あぁ、店をとにかく広く見せたいらしいな。ナタクよぉ、お前さんのとんでも知識でなんかいいアイデアは出ねぇか?」
「とんでも知識かは置いとくとして、例えば普通の四角い建物ではなく六角形のこういった建物にして、真ん中のスペースに簡単な厨房を設けるとかはどうでしょう?勿論手の込んだ料理を作る厨房はこのように店の奥にも設置して、真ん中ではお酒と簡単な料理を作るイメージですかね。
そこを囲うようにカウンターを設置して、お客様には座りながら料理を作る様子を見て楽しんでもらう、とかどうでしょうか?これなら真ん中の柱は気になりませんし、梁をこの様に通せば、そんなに気にならないと思いますよ?まぁ、普通のお店とはだいぶイメージが違いますので、その依頼主が気に入るかは分りませんけどね」
「これは・・・・、やっぱお前は面白い発想をしてるな。しかし、換気はどうするよ?真ん中で料理をしちまったら店中煙くならないか?」
「鉄板を温めるだけの魔導具だったら金貨2枚くらいで作ってあげますよ。それなら火は使わないので煙くなりませんし、換気用のダクトをこのように一階の天井と二階の間に隠せばそれ程目立ちませんしね。なんだったら、換気扇という煙を外に逃がす魔導具も込で金貨3枚で作りましょうか?
構造が簡単なので、そんなに難しくありませんし、しかも燃費もいいので、そこまで維持費もかかりませんからね」
「なかなか、いいアイデアだな・・・・。流石、領主様期待の錬金術師だ。もしそうじゃなかったら、本気でうちに勧誘したいところだぜ」
「またまた、褒めてもなんにもでませんよ?」
「いや・・・・たった今、十分すぎる程のアイデアが、飛び出てきたところなんだが?
まぁ、取り敢えずお前さんの意見を参考にして、また図面を書き直してみるわ。もしオーケーがでたら魔導具を正式に依頼させてもらうとするぜ。しかし、本当に金貨3枚でいいのか?オーダーメイドだろ、これ?」
「構造が簡単すぎるので、それ以上とってもって感じなんですよ。材料費も全然かからないと思うので、むしろこれでもだいぶ利益が出ますね」
「お前がいいのなら、それで構わねぇがよぉ・・・・」
さて、修理依頼も無事に済んだことだし、錬金ギルドへ帰るとしますか。他の二人はどうなりましたかね?
そういえば、親方の名前ってなんでしたっけ(´・ω・`)?




