第30話
レシピと詳しい調理法の書かれたメモは先ほどウィルに手渡したので、これでお昼は更に期待が持てそうだ。新しい食材と調味料の使い道は、明日の商談が無事終了してからアーネストと一緒に研究しようかと考えていたのだが、思わぬ形で試せる機会に恵まれた。
ウィルが厨房で料理を作ってくれている間に、残りの片づけをしておこうと、残ったメンバーで作業をしていたのだが、何やら可愛いくしゃみの声が聞こえてきた。
「くしゅん・・・・失礼しました」
「あらら、リリィちゃん体調が悪かったんですか?はい、これ使ってください」
「アキナさんすいません、・・・・ちぃーん。毎年の事なのですが、私この時期は外にでると何故かくしゃみが止まらなくなるんですよ。室内にいれば比較的平気なんですけど」
「ふむ、どうやら病気の類ではなさそうだね。鑑定してみたが、特に問題はなさそうだよ」
「毎年、あと一月もすれば治まるので問題は無いのですが、小さい頃からなのでもう慣れてしまいました。お騒がせしてすいません」
たぶん花粉症ではないだろうか。『そういえば似たようなクエストを前に受けたことあったなぁ』と、ゲームの頃を懐かしむ。花粉症であれば、確かあの薬剤レシピで症状を抑えられるので、今度作製して持ってきてあげるとしよう。それに、丁度いい物をアキナが作っていたので、そちらでもかなり症状を抑えられるのではないだろうか。
「アキ、『防塵スカーフ』って今持ち歩いてますか?」
「『防塵スカーフ』ですか?えっと、サンプル作りの合間にちょこちょこ作っていたので種類も在庫も結構ありますよ」
「リリィさんの症状から察するに、たぶん花粉症だと思うので、一枚彼女にプレゼントしてもらってもいいですか?」
「これって花粉症にも効くんですか!どうぞどうぞ、お好きなのを選んで使ってください。いっぱいあるので、何枚でも選んでくれても大丈夫ですよ」
「すごく綺麗なスカーフですね。本当に貰ってもいいのですか?」
「もちろんですとも!あっ!!そういえば、リリィちゃんってアテナちゃんと背格好が大体同じくらいですよね?でしたら、この給仕服もよかったら貰ってください。せっかく作ったのに着てくれる人がいなくなってしまった、可哀想な子なので」
「えっ!流石にそんな高価な物は戴けませんよ!って、凄く可愛いお洋服ですね」
「元々アテナちゃん用に作ったんですけど、彼女『もう給仕はこりごりだ!』って言って冒険者のお仕事に戻ってしまって。残念な事に、一度も袖を通してもらえなかった可哀想な子なんです。他にこのサイズの服を着れそうな知り合いもいなかったので、できれば着ていただけると助かります」
「リリィさん、もし良かったらアキの宣伝代わりに着てもらえませんか?彼女は今売り出し中の裁縫師なので、できるだけ人の眼にふれる仕事に就いている人にこれを着てもらえれば、それだけ彼女の名前も売れるんですよ。お互いにメリットが多いので、是非協力お願いします」
「そ・・・そういうことなら、遠慮せずに使わせてもらいますね。わぁ、こんな可愛い洋服初めてだぁ。でも、私なんかがこんな高そうな洋服を着てもいいのでしょうか?これって新品のお洋服ですよね??」
「私が最初から作った物ですので、間違いなく新品ですよ!しかも、先生に願いしてエンチャントまで施してあるので、よっぽどで無い限り『汚れや生地の痛み』とは無縁の一級品です」
「そんな効果まであるんですね、このお洋服は・・・・」
「まぁ、先生を一旦通すと性能がおかしなことになるのはいつもの事なので。それにその洋服なら、この柄のスカーフとか頭に着けたら似合いそうですね。あっ、こっちもいいかも。良かったら今着て合わせてみませんか?」
「分かりました!ちょっと二階で着替えてきますね。スカーフは取り敢えずこれにしてみます!」
そう言って、リリィは実に嬉しそうに洋服とスカーフを持って店の奥まで下がっていったこの世界だと新品の洋服を着れる人は結構限られてしまうので、彼女くらいの年齢の女の子にとっては、凄く嬉しい事なのかもしれない。ここの店は時間によってかなり繁盛しているので、アキナのいい広告塔になってくれるであろう。
(それにしてもアキナさん、俺は特殊フィルター完備の浄水器ではないですよ?まぁ、みんな喜んでるから言いませんけどね。一応、自覚も少しはありますし・・・・)
しかし、直ぐ汚してしまいそうなアテナにあげるつもりでエンチャントを施していたので、かなりの高性能になってしまっているのだが、本人達も喜んでいるので良しとしよう。今度マリーをここに呼んで、洋服を見せてあげるのもいいかもしれない。
そうして、暫くみんなで待っていると、新しい給仕服に着替えたリリィが店の奥から戻ってきた。全体的に白を基調としたデザインになっており、要所要所に青と黒の挿し色の入った可愛らしい給仕服になっている。なんというか、向こうの世界でいう『原宿辺りのファミレス店員』が好んで着ていそうなデザインだ。
(まぁ、あの辺もどちらかというとファンタジー寄りの格好をしている人が多いからな・・・・)
作ったのが裁縫職人のアキナであるため、細部まで拘り抜いて作られており。量産型などの安っぽさなどは微塵も感じさせない、一級品の出来栄えとなっていた。それに、着ているリリィもかなり可愛い女の子なので、もしかしたら『彼女目当てで客を呼べるのではないか?』と思えるぐらいに、その姿は板についていた。
「どうでしょう、似合っていますか?」
「可愛いです!百点満点ですよ、リリィちゃん!!」
「ほぉ、流石アキナ君の作った洋服だね。こんな可愛らしい店員がいる店なら流行らない訳ないね」
「えぇ、本当に素敵ですね。リリィさんの魅力を存分に引き出してくれていると思います」
皆に褒められてリリィは真っ赤になって照れてしまった。それに彼女と一緒に働いているであろう若手のコック達まで顔が真っ赤になっていた。確かに凄く似合っているので、これで更にこの店は流行ることになるだろう。そこに今ウィルが今作っている料理が加われば・・・・
(ふっふふ、面白くなってきたじゃないか!)
どうやらさっきの小太りの男は、話から察するに向かいのレストランのオーナーらしいので、先ほどの行為を存分に後悔していただこう。
皆でリリィの事を褒めちぎっていると、厨房の方から『お~い、料理が出来あがったから取りに来てくれ!』というウィルの声が聞こえたので、リリィが慌てて厨房の方へと駆けていった。さて、今できそうな片付けは大体終わったので、自分達も席に座って待つとしよう。
今日は従業員達も一緒に食事をする事になったので、店の人達が総出で食事の用意をして次々に料理が運ばれてきた。今回は時間がなかったので一品だけだが、ウィルほどの料理人が手がけたらレシピがどう変化するのか、実に楽しみである。
「お待たせしました。此方の料理は『ボンゴレ・ビアンコ』という名前のパスタだそうです。作った父も、あまりの完成度にかなり驚いていましたね。あっ、丁度来ました!」
「ナタクさん、このレシピと食材は一体何処で!私が何年も研究していたパスタの終着点のようなレシピが、まさか既に実在していたとは・・・・」
「いえ、これは終着点ではなくて“出発点”になります。本当はもう一つ基本となるレシピがあるのですが、そっちはちょっと食材が足りなかったので此方のレシピをお教えしました。ですが、現在アーネストさんが研究をしてくれているので、直に手に入ると思いますよ。その時また、レシピをお教えしますね」
「この出来栄えで“出発点”ですか・・・・。あはは、確かにそうかもしれません。最近レシピ研究に行き詰まっていたのが嘘のように、今は試してみたいことが頭の中で溢れかえっています」
「それは何よりです。こちらのお渡ししたレシピはウィルさんの好きに使っていただいて結構ですよ。食材の方はこれから領主様と相談して栽培をどう進めるのかを話し合わないといけないのですが、すでにこの店に卸すくらいなら数ヶ月分は確保できていますので、欲しかったらいつでも声をかけてください」
「それは助かります。では・・・・「お父さん、食事冷めちゃうから後にしようよ!」・・・・っと、そうだったね。それでは、頂くとしましょうか。私の現時点での最高傑作の料理になります」
「これは・・・、私が以前食べた料理に似ているね」
「えぇ、これは俺の故郷にあった『ボンゴレ・ビアンコ』といった二枚貝を使ったパスタになります。見た目は確かに似ているかもしれませんが、食べたらきっと驚くと思いますよ?」
「作った私が言うのもおかしな話ですが。味は全くの別物と言っていい程、こちらの方が美味しいと思います。こんな調理法があったのかと、目から鱗の気分でしたよ」
「それは期待できそうだね。アキナ君はこの料理を知っていたのかい?」
「知ってはいましたが、料理法までは知りませんでした。また、先生に女子力で負けてかなりショックです」
「以前は料理人のレベルも上げていましたからね。その関係で、色んなレシピも憶えていますよ。この前も言いましたが、調理って錬金術の調剤なんかと似た工程があって憶えやすかったので」
さてと、それでは頂くといたしよう。磯の香りとニンニクの食欲を掻き立てる良い匂いが鼻孔を刺激し、『早く食せ』と身体がまるで催促しているかのごとく目の前の皿に意識を集中させられる。ホークに絡ませる麺にはソースの香りがしっかりと行き渡っており、口に入れた瞬間、丁寧にすり潰されたバジルの味と香りがソースの旨味が絡み合い、絶妙な美味さをかもしだしていた。
また、二枚貝から出た出汁はニンニクとバジルと合わさり独特の旨味を形成し、そこにアクセントとして入れられた胡椒と唐辛子の辛味が味を引き締め更に美味しさを後押ししている。更に極めつけは植物油だけでは再現できないバター特有のコクが加わっている事により、パスタの味に更なる深みが増しており、美味しさを何倍へと高めているのが食べていて感じ取れた。
『これこそが、求めていた味』とウィルが言っていたように、まさにこれがパスタの基本にして完成型の一つであると言っても過言では無いほど、この料理の出来は素晴らしかった。やはり、この世界では向こうの世界よりも料理人の腕がそのままダイレクトに料理に繋がっているようで、この料理ならアーネストにも全く引きを取らないくらいの美味しさを再現してみせていた。
いやぁ、なんか久しぶりにちゃんとしたパスタが食べれた気がしますね。
この後、あまりの美味しさに御代わりをする人が続出したのは言うまでもありませんでした。
あなたの今日のお昼を当てましょう!パスタです!!(*´∀`*)ノ。+゜ *。
先生は誰とお話しているんですかね?(´・ω・`)
さぁ?あっ、私も御代わりね♪(*´∀`*)




