第29話
店内に入ってきた人物は計四名で、真ん中の小太りの男を護衛するかのように、冒険者然とした男達がそれに追随して入店してきた。薄ら笑いを浮かべ、今しがた店の備品を壊した罪悪感など微塵も感じさせてないため、明らかに友好的な態度を取るつもりは無いようだ。
「よう、ウィルよ。元気にしてるか?とは言っても、こんな昼間に客も取れないようじゃ、料理店としては終わってるな」
「なんの用だ、コンゴ。今は開店準備中だ、それに人の店を破壊しておいてなんて言い草だ」
「おぉ、そうだったそうだった。今は“まだ”お前の店だったな、ここは。だが、“明日には”俺の物になるんだよなぁ、これが。頭の悪いお前でも、これがなんだか解るかな?」
「それはっ、うちがギルドから借りている融資の契約書じゃないか!?
なんでお前なんかが、それを持っているだ!!」
「がっははは!!それは俺様が買い取ったからだよ、この間抜け。ちなみに、これは本物だ。お前はギルドから見捨てられたってことだな!」
「ふざけるな!ギルドがそんな不正をする訳が無いだろ!!
それに、その契約は10年間の契約のはずだ。もしそれをお前が手に入れたとしても、直ぐにどうこうできないはずだ」
「うん、なんの事かな?この契約書には『今日の日付までに金貨500枚の返済を完了させるものとする』と明記されておるが?ウィルよ嘘はいけないなぁ、嘘は」
「なっ!!」
話を聞く限り、どうやら契約書の不正売買に公的文書偽造がおこなわれたようである。ちなみに、あの用紙を鑑定してみると確かに本物の契約書として表記されているので、これは調理ギルドも何らかの関与をしている可能性が極めて高いとみていいだろう。
「アメリアさん。明らかに偽造と不正売買っぽいですけど、法的に無効にすることはできますか?」
「腹立たしいが、私も鑑定をかけてみたがあの借用書は本物のようだ。一応ギルドを訴えることもできるが、書類が本物である以上、ギルド側もしらを切るかもしれないね。ただ、ギルドマスターの印ではなくギルド印が押されているみたいだから、そこをつけば何とか。ただ、期日が今日までだから、かなり難しいと思うよ」
「成程、ちなみにリリィさん。お父さんの借金って金貨500枚で合っていますか?」
「はい、確かに合っていますけど・・・・」
「それならば“やりよう”はありますね。それでは、介入させていただくとしますか」
「ここでその笑顔ってことは、何か策があるみたいだね」
「策といいますか、売られた喧嘩を正面から“買ってやる”だけですよ。文字通りの意味でね」
「お相手さん、お可愛そうに・・・・」
「それは私も同感だ!」
「あの、一体なにを・・・・」
「彼に任せておけば悪くはならないだろうから大丈夫だよ。まぁ、あちらさんはその限りではないけどね!」
「??」
未だ楽しそうにウィルを罵っている小太りの男へゆっくりとした足取りで歩み寄る。
(さて、それでは此方のターンを開始させていただきましょうか!)
「どうした、金貨500枚は用意できんのか?それなら奴隷にでもなってもらって借金を返してもらわにゃならないが、お前のその腕じゃそれもできんだろ。
しょうがないから娘と妻を娼館にでも売り飛ばして、少しは足しにでもさせてもらうとするか。確か両方とも多少は顔が良かったはずだからな、そこそこの値段にはなるだろうよ」
「ふざけるな。娘と妻には指一本振れさせはしないぞ!!」
「今のお前に何ができると言うんだ、人をあまり笑わせるな」
「それは・・・・」
「取り込み中大変申し訳ないのですが、要は今日中にウィルさんが金貨500枚をあなたに支払えば問題ないのですね?」
「なんだお前は、関係ない奴は引っ込んでろ!!」
「申し遅れました。俺はここリマリア地方を治める領主様のお抱え錬金術師をしております、那戳と申します。それで、先ほどと同じ質問なんですが、今日中に金貨を渡せば問題ないかと聞いているのですが、返答はいかに?」
「あぁ、そうだとも!お抱えだかなんだか知らないが、関係ない奴は黙ってろ!」
「なら話が早い。ウィルさん、俺があなたにこの場で融資しましょう。ここに金貨500枚がありますので、どうぞ使ってください」
そう言って、あらかじ金貨100枚づつに小分けしてあった革袋を5つまとめてウィルの横の机にドン!っと置いてやった。本当は手渡そうかとも思ったのだが、ここまでの枚数になると流石に結構な重さになるので、今の彼だと片手で持つことは不可能であろう。
「なにっ!?」
「えっ、あの・・・・本当にいいのですか?」
「俺は以前ここで食事をして、あなたには融資するだけの価値があると思ったため行動したまでです。もし後ろめたく思われるなら、俺個人から借金をしたと考えてくれても結構です。その場合、契約内容は10年後までに返済していただければ無利子で構いません。そもそも、金貸し屋ではないので、これで商売するつもりも無いのですしね」
「ふざけるな!そんなのは無効・・・・「無効なわけ無いですよね、その契約書には他者からお金を借り入れてはならないと記載されてはいないのですから!」・・・・っく!!!」
という訳でと小太りの男から借用書を奪い取り、変わりに金貨の詰まった革袋をウィルの手で男に渡してもらうと、借用書には契約満了の文字が浮き上がってきたことが確認できた。なんと、契約に魔力紋まで仕込んでいたようだ。随分手の込んだ借用書を用意したものだと、証拠品としてこれはインベントリに没収させてもらった。
「それではお帰りいただきましょうか。それから、扉と備品の修理代は後できっちり請求書をお送りさせていただきます」
「こんなことが許されると思っているのか!」
「それはこっちの台詞だね。コンゴとかいったか?これ以上何かをするっていうならローレンス家を代表して、この私がお相手して差し上げようか?」
「ボス、やばいです。あの乳・・・じゃなかった。あの女性は領主様の愛娘のアメリア嬢ですよ!冒険者ギルドでおこなわれた領軍との合同演習でお会いしたことがあるので間違いありません。もし、彼女に何かしたらこの国では暮らせなくなります!!」
「なっ!なんでそんな方が、こんな店に!!」
「それに、先ほどお抱えの錬金術師と名乗っていたので、最近噂になっている奴かも知れません。だとすると、ここは一旦引いたほうが良いかと。戦闘になっても我らだけでは勝てない可能性があります」
「っくそ!俺があの紙切れにいったいいくらつぎ込んだと・・・・ええぃ!覚えておれよ!!!」
そう言い残し、小太りの男とその護衛達は渋々といった感じで店を去っていった。
(って、アキナさん。塩が無いからって代わりに砂糖を撒くのはやめてください。勿体無いので)
「本当に、なんて言ったらいいのか・・・。助けていただき、ありがとうございました」
「ナタクさん、私達とお店を救ってくれてありがとうございます!!」
「いえいえ、そんなに頭を下げないでください。それと治療の続きがまだでしたね。此方の薬が一番効きそうなので、これを一気に飲み干してください。だいぶ症状が軽くなるはずです」
「何から何まで、本当にありがとうございます。・・・・っ!?」
ウィルが薬を飲みだすと、どうやら直ぐに薬の効果が現れたようだ。鑑定しながら見守っていたが、あっという間に状態異常も無くなり、HPも全快まで回復できたようである。
「この薬は一体・・・・」
「ちゃんと治ったようですね。しかし、この惨状だと残念ですが今日はお店を開くのは無理そうですね。知り合いに腕のいい職人さんがいますので、後で直ぐに来れないか頼んでみますよ。それでは、片づけを済ませてしまいましょうか」
「お父さん、痛みは大丈夫そう?」
「腕の痛みどころか、長年患っていた腰痛まで無くなっているのだが・・・・」
「やっぱりナタク君の薬は本当に凄いね。2ヶ所もあった骨折までも綺麗に治してしまうとは。それに、あのお金の使い方には惚れ惚れしたよ」
「まぁ、正直見ていてムカっとしましたからね。それに借用書もいただけたので、今度はこれを使って不正をやらかした奴らにケジメを付けに行こうかと思います」
「怒りすぎて大事な証拠を回収するのを忘れたのか、あのコンゴとかいうヤツ」
「きっと先生のことですから、とんでもない報復が期待できそうですよね」
「まぁ、回収しようとされても返すつもりは無かったですけどね」
「その書類で調理ギルドに抗議するなら、ばあちゃんを通した方が面白いことになると思うよ。なにせあの人は元公爵夫人にして、この街に存在する一大ギルドの長をしているからね。
そんな人に事態がばれているなら、調理ギルドもしらを切ることはできなくなると思うし。いやぁ、実に楽しそうなイベントが見られそうだ」
「それはいいですね。では、午後一でさっそく訪れるといたしましょうか。もちろん、一緒に来られますよね?」
「当たり前じゃないか、こんな面白そうな出来事を見逃す手は無いからね。今日は仕事を休みにしておいて、本当に良かったよ」
「二人とも、今の状況をしっかり楽しんでますね・・・・」
「「まあね!」」
息ぴったりな二人に呆れて、アキナが一人でため息を漏らした。この二人を同時に敵に回した彼らに、碌な未来が待っていないことを察したためであろう。
その後、奥にいた従業員達も出てきて皆で店の後片付けをしていたのだが、誰の音かはわからなかったがお腹が『ぐぅ~~!』と鳴る音が聞こえてきた。そういえば、ゴタゴタがあってお昼ご飯にありつけていなかった。
「もしよろしければ何か作らせてはいただけませんか?助けてもらって、まだ御礼しか言えていませんので」
「それでは、お願いしますかね」
「そうだね、元々ここには食事をしに来たんだし」
「えぇ、とっても楽しみに来ましたからね!」
「それでは、すぐに何か作らせていただきます」
「お父さん身体は平気なの?」
「あぁ、むしろいつもより調子がいいくらいだ。この先生の薬がかなり効いたみたいだよ」
「なら良かった。ナタクさん、本当にありがとうございました!」
「いえいえ、どういたしまして。っと、そうだ。丁度いいので、もしよろしければ今から書くレシピを作ってもらってもいいですか?足りないであろう材料も一緒に渡しますので」
「構いませんが、私に作れるものですか?」
「むしろ、あなたの腕を見込んで頼みたいレシピがあるんですよ。是非挑戦してみてください」
「分かりました。できる限り全力で作らせていただきます」
「先生、まさか・・・・」
「せっかく麺料理の達人がいるので、向こうの味を此方で再現してもらいましょう。まずは塩系パスタの完成形の一つを作っていただきましょう」
そう言って、ナタクはスラスラと紙にレシピを書き写してゆく。塩系が終わったら今度はクリーム、そしてトマトへと。
ふっふふ、夢が広がりますね!
帰れかえれ~!! ( *`Д´)シ=3
【アリさん'S】ありやでぇ~♪(*´∇`)
あぁ・・・・(´・ω・`;)
※この後、砂糖は働き者のアリさん達が美味しくいただきました。




