第27話
苗が成長しきるにはもう暫く時間がかりそうなので、錬成に使った道具の片付けなどをしていると、不意に温室の入り口の方から扉をノックする音が聞こえてきた。
振り向いてみるとそこにはアキナが立っており、なにやら不安げにこちらの様子を窺っていたのだが、一向に此方に来る気配がなかったので『なにやってるんだろ?』と不思議に思っていると、彼女がドアノブを指差して何かを言っているのを見て、漸く自分しかここの鍵をもらっていない事を思い出して、慌てて入り口の扉を開けに向った。
「すいません、鍵を俺しか貰っていない事をすっかり忘れていました」
「私もノックに気づいてもらっているのに、何で開けてくれないんだろうと不思議に思ってました。やっぱり忘れていたんですね」
「いやぁ、面目ない」
「いえ、別に怒ってないからいいですよ。それより、魔導具の方ってどうなりましたか?私、それが気になっちゃって仕事に手がつかなかったので、少し早いですけどこっちに来ちゃいました」
「魔導具はちゃんと作れましたよ。一応こちらをアップグレードさせた物が最新版になるのですが、現状では素材が足りないのでこれで完成ですね。
アイテム名は『リサイクルボックス』と言って、錬金術の『分解』と『抽出』のスキルを利用して採取の終わった鉢植えをこの陣の上に置いて起動するだけであっという間に苗を肥料に変える事ができる魔導具になっています。他にも生ゴミを水と栄養豊富な土にすることが可能ですよ」
「えらい直球なお名前ですね。でも、丁度今やってる作業にもってこいの機能ですし、確かに凄く便利そうです!」
「そうでしょう!他にも複合金属を分離させたりすることができるのがコイツの売りなんですけどね、今は材料が足りないので今度手に入ったらまた改造しておきます」
「また凄い物を作りましたね・・・。それで、結局失敗しないで作れましたか?」
「いえ、残念ながら流石に等級2相当なので失敗しないでは無理でした。ただ、パーツに細かく分けて錬成をおこなったので、それほど損失は大きくありませんでしたよ。全部込みでだいたい金貨30枚くらいで作ることができました」
「・・・・はぁ、よかった。昨日買った金属が全部ダメになってたらどうしようかと思いましたよ」
「失敗も少なかったため結構金属も余らせることができましたので、また何か便利な道具でも作ることにしますよ」
「それはそれでなんか怖い気が。っと、そうだ!先生、私の方も『防塵スカーフ』の試作品を作ってみましたよ。レベル上げ用なので最初は白い布でもいいかと考えてたのですが、領主様に売り込むには少し地味すぎるかなと思って、買ってあった柄物の布もいくつか合わせてみて作ってみました」
「これが前に言ってたやつですか。随分色々と用意しましたね」
「最近はお金が溜まる一方なので、適度にお店をのぞいて布類などを買い足していたんですけど、これはその中の一部ですね。それに、今日は中々いいアイデアも浮かばなかったので、途中から少しだけレベル上げをやっていました」
「そういうことでしたか、しかし懐かしいですね。スキルの揃っていないゲーム初期の頃、俺もこれには大変お世話になっていましたよ。そういえば後々知ったのですが、この『防塵スカーフ』って実は口に直接当てていなくてもちゃんと効果があるらしいですね」
「そうですよ。裏地に魔法陣が刺繍されていて、頭部のどこかに装備していれば魔法陣が勝手に発動して効果が現れるって仕組みです。男性なんかは普通に口に当てたりバンダナみたいに使っていましたけど、女性達は髪留めとかリボン代わりに装備している人も多かったですね。消費魔力も自然回復の余剰分で足りるので、装備してても特に違和感とかはなかったはずです」
「これなら喜んで買ってもらえそうですね。では、これで暇な時にレベル上げを進めちゃってください。できた在庫は頑張って売り込んでみせますので!」
「了解です。それじゃ、サンプルを作り終わったら此方の作製もしちゃいますね。って、先生そろそろ時間じゃありませんか?」
「おっと、そうですね。それじゃ、『リサイクルボックス』を使って植え替え作業をしてしまいましょう。次に植える用の種の選別は俺の方でやっていくんで、アキは残った鉢植えをさっそく魔導具を使って肥料に変えてしまってください。使い方は簡単なのですぐ解かると思いますよ」
「了解です。もし解からなくなったら先生に聞きますね」
「あっ、それと唐辛子はもう種はあるので全部収穫してそこの袋に詰めちゃってください。俺もこっちが終わり次第手伝いますので」
「はぁい。それでは、お花屋さんを頑張るぞぉ!」
張り切ったアキナに魔導具の操作を任せて、自分の方は配合に適した種を見極める作業を済ませていく。どうも最近ゲーム時代より成長変化が安定しているので、もしかしたらここにも加護の効果が現れているのかもしれないな。
香辛料達の方は順調に変化しているようで、このままいけば予定よりはやく品種改良が終わるかもしれない。それに『トマト』の方も香辛料ほど変化させる必要がないので、後数回で食用としての合格点が出せそうなのだが、せっかくなのでいけるとこまで味を追求してしまうのもアリかもしれない。生食用に甘みが強いタイプと、調味料用の酸味がしっかり利いたタイプに途中から分けて研究するのも楽しそうだ。
そんなことを考えながら作業をして、種の選別と植え替えようの合成を済ませた頃には、アキナはすでに2/3程の作業を一人で終わらせてしまっていた。
(やっぱり、この魔導具って便利だよな。なんで全く売れなかったんでしょうか?)
「これ本当に楽ちんですね!鉢植えを乗っけて“ポン”で植え替え作業が終わっちゃうので、あんなに時間の掛かってた作業が嘘のように早くなりました」
「もうそんなに終わってたんですか」
「実際、鉢の移動くらいしか時間かかっていませんからね。これなら一人で10分も掛からないんじゃないですかね?」
ここへ入ってきた時とは別人のようにとてもご機嫌になったアキナと一緒に、残りの鉢の植え替え作業も終わらせたので、少し早いが今日の仕事はこれで一通りの目処が立った。後はガレットに改造した魔導具の説明を終わらせれば用事は全て終了なのだが、彼女はもうギルドに帰ってきているのだろうか?
片付けも終了し、一応個人所有の魔導具なので『リサイクルボックス』もインベントリに収めたところで、いきなり温室の入り口が勢いよく開け放たれた。
(噂をすればなんとやら、タイミングピッタリですね)
きっとここまでの階段を全力で駆け上がってきたのであろう、息を切らせて辛そうに扉の前に立つガレットの姿がそこにはあった。しかし凄い咽てるが、大丈夫であろうか?
このまま倒れられても困るので、インベントリから昨日渡した物と同じスタミナポーションを取り出して手渡すと、それを見て最初は凄く嫌な顔で遠慮されたが、自分の状態の酷さに背に腹は変えられなくなったのか、何かを諦めるように最終的にはそれを受け取り、漸く落ち着きを取り戻した。
「人が弱ってる時になんてもん渡すんだい!普通に水を渡せばいいじゃろうが!!」
(あはは、だって自分の部屋じゃないので水なんて持っていない・・・・って、あぁ!そういえば女神様から貰った水筒を持ってましたね。最近使ってなかったので、すっかり忘れていました。まぁ、お金を請求するつもりもないので許してください)
「昨日も言いましたが、たくさんあるので気にしないでください。それより、こっちも丁度作業が終わったところだったので、タイミング良かったです。ガレットさんは今ギルドに戻られたのですか?」
「あぁ、そうじゃ。本当は朝一にこっそりお前さんのところを訪れようとしたんじゃが、途中で職員連中に見つかって、無理やり馬車に押し込められて外回りをさせられてきたところじゃ。まったく、あいつ等ワシをなんだと思っておるんじゃ!」
『たぶん先に魔導具を先に見せたら、自分の気の済むまで調べてその場を動こうとしなくなると思われたんじゃないかな?』っと伝えたいところだが、怒っている今は言うのを止めおこう。きっと彼らもガレットの行動パターンをちゃんと理解しているからこその対応だったのではないだろうか。職員達も相当苦労していそうだ。
「取り敢えず、魔導具は完成しているので、すぐに確認されますか?ちなみに、新技術のレポートはまだ書き上げていないので、もう少しお待ちいただくことになると思いますが、口頭でなら質問に答えられると思いますよ」
「ふむ、では内部構造については後で聞くとして、まずは改造したことによってコイツがどう変わったのかを聞くとしようかね」
「了解です、それではご説明させていただきますね。まず・・・・」
その後、結局普段帰る時間を過ぎても延々と魔導具の説明をさせられることになってしまった。もちろん、部屋にいたアキナも最初は一緒になってちゃんと話を聞いていたのだが、内部構造の説明辺りから眠くなり始めたのか船を漕ぎ始め、今は完全に机に突っ伏して眠ってしまっている。説明も専門用語だらけなので、基礎知識がないとチンプンカンプンだと思うのでそうなってしまうのも仕方がなかろう。
今度じっくりと魔導具作りの基礎から教えることにしよう。ガレットも、自分の行き詰まっていた研究の足がかりになりそうな技術の数々に小さく唸りを上げ、今は真剣に構造のチェックや動作確認をしている。
って、これ俺達はいつになったら帰れるのかな?あっ、はいはい。これはですね・・・・・
結局、俺とアキが解放されたのは、だいぶ夜が更けこんだ後になりました。
坊主、これはなんじゃ!?( ・`ω・´)
はいはい、これはですね・・・(´・ω・`;)
すやぁ(*´﹃`*).。zzZ




