第9話 転生2日目1-5
「さて、それでこのポーションの扱いについて何じゃが。ちと面倒なことになりそうじゃ」
「材料はギルド持ちだったので、そのまま差し上げますよ。俺はただ腕を評価して欲しかっただけなので。それに、かなり遣り甲斐のある錬成で楽しめましたしね」
「いや材料以上に錬金術師の技量がこのポーションには求められるので、これをそのまま貰い受けることはギルドを預かる者として、絶対に頷くわけにはいかんのじゃ。
って、そうじゃなくてな。等級2以上のポーションを発見した場合一度国に・・・・、ここなら領主じゃな。彼等に報告する決まりになっておるんじゃよ。しかも、今回このポーション作成者の欄にはしっかり坊主の名前が記載されておるので、これをそのまま届け出たら大変なことになると思うぞ。何せ失われた等級2のポーションを作れる者が現れたのじゃからな」
「あぁ、確かに面倒なことになりそうだね。もし私が領主なら、このままナタク君の身柄を確保したいと考えると思うよ。なにせ、あのポーションは政治の交渉材料としてもかなりの力があるしね」
「だからじゃよ。幸いここの領主は“聡明”じゃからそう悪い扱いをせんと信用できるが、その上の国がどういう判断を下すかまでは、正直想像できんのじゃ」
「やれやれ、研究者は政治の道具ではないんだけどねぇ」
「あの、それでは正規の再生ポーションの材料と製法を公表してしまうのはどうですか?正直、飼い殺しは勘弁して欲しいので、それならば公開してしまって、他の錬金術師にも作れるようになってもらった方が助かるのですが」
「たしかに、それならば錬金術師として名声も得られるし、他の者も作れるのであれば飼い殺されるリスクも減るが、先ほど秘伝のため話すことができないと言っとったのに、本当に良いのか?」
「えぇ。あくまで秘伝なのは今回使用した製法であって、正規の手順にのっとった製法なら別に公表しても構いませんよ。そちらはあまり特殊な方法ではないので、材料さえ集まれば腕に見合う錬金術師ならば、作成は可能なはずですし。レシピもたくさん持っている手札の一枚なので、そこまで痛みません」
「ほぉ、伝説の等級2のポーションのレシピを切れる手札の1枚と言ってのけるのか。かっかか!ますます面白い坊主じゃて!」
「なので、今回その製法とレシピを持ち込んだ無名の錬金術師がデモンストレーションでこのポーションを作製したことにしてはいただけないでしょうか。その功績で階級を与えてもらったことにしていただければ、お互い体裁は保てると思うのですが」
「面白い、その話に乗ろうじゃないか。流石に勘違いで受けた試験で、誤って置かれた素材を使ってこれを作り上げたという話より信憑性もあるしのぅ。
それとレシピの発見者として、新たに錬金術師名鑑に坊主の名前が載ることを、イグオール錬金ギルドマスターとして約束しよう。ちなみに、新たな技術を発見した者はそれ相応の目で周囲から見られるが、まぁ坊主ならば問題なかろうて」
「そうですね、まだやりたい事はたくさんありますし、他の錬金術師の方に負けないように頑張らせていただきますよ」
「では、その方向で話を進めさせてもらおう。それでポーションの扱いについて何じゃが、やはり所有者は坊主の方が都合が良いので、受け取ってはくれぬか?流石にこれを無償でギルドが取り上げた前例を作ってしまうと、いつか暴動が起きてしまうのでな」
「しかし、材料費もかなり高価になってるはずですので、俺がそのまま貰うわけにもいきませんよ。本当は材料費を俺が払えればいいですが、流石に『レッドドラゴンの肉』を買い取れる程のお金は、今は持ち合わせていませんしね」
「うん?ドラゴンの肉についてはさほど気にしないでくれても構わないよ。私もゴールドクラスの錬金術師だからね、お金に余裕はあるので、そこまで懐事情は痛んではいないのだよ。
がっかりしていたのは、午後の研究がなくなった事にたいしてだけさ。流石にそれほど流通している物ではないからね、次に実験できるのが遠のいて凹んでいただけさ・・・・」
「それじゃったら、一本は保管しておいてもう一本をオークションにかけてみたらどうじゃ?レシピが失われたからといってもポーション自体は年に数本程度は発見されるからのぅ。普通に売り出されても問題あるまいて。
確か相場は、通常のポーションで金貨200~400ぐらいにはなったはずじゃ。それでこやつに服でも買ってやればええ。まったく、年頃の娘のくせにこんなはしたない格好ばかりしおって!」
「おっと、また始まってしまったか。この格好は楽だからしているのだがね。ただ、ナタク君の選ぶ洋服には若干興味はあるので、その話に乗らせてもらおうかな。どうやら、ナタク君は私の胸に興味津々のようだしね」
そう言うと、アメリアは胸の下で腕を組み、唯でさえ立派にそだった果実を更に強調させた。
(すいません、やっぱり見てたのばれていましたか・・・・)
「・・・・はい。ではそれでお願いします」
「では、ポーションは預かっていくからね。領主にも現物は一度は見せないといけんのじゃし、せっかくだから領主が主催しているオークションの方に出展してもらえるよう、交渉しといてやるさね」
「分かりました。あ、ちょっと待っていただければ、正規のレシピと製法については今書き上げるのでそちらも一緒に持っていってください。そんなに時間はかからないと思うので」
「それじゃ、ちぃとばっかし待たせてもらうとするかね。年甲斐もなく興奮してしまって疲れてしまったよ。アメリア、悪いけどお茶を用意してくれんかね」
「了解、私も何か飲むとするか。ナタク君もお茶でいいかな?」
「では、同じものをお願いします」
後ろ向きに手をヒラヒラと振りながらアメリアは奥の部屋に下がっていた。それでは、今のうちに研究レポートを仕上げるとしよう。
しばらくすると、アメリアが紅茶セットが用意されたカートを押しながら部屋に戻ってきて、お茶と菓子を振舞ってくれた。
その後は、ナタクがレポートを仕上げている間、後ろでガレットとアメリアが談笑していて静かな時間が流れていたのだが、ふとアメリアが解答用紙裏のレポートの事を思い出し、二人でそれを読み始めると、その静寂は再び終焉を迎えた。
「こ・・・この組み合わせで新薬ができるだと!アメリア、このレポートが正しいのであれば・・・・」
「あぁ、これだけ集めやすい素材でこの病気の治療がおこなえるのなら、助かる命が大幅に増えることになるねぇ」
「材料はあるかい。一度作って調べてみたいのじゃが?」
「これなら確か、保管庫に材料が全部あるはずだよ。今直ぐ取ってきて調合してみるね」
「頼んだよ。まったく、これだけでも歴史的な大発見じゃないかい!」
後ろの方でなにやらガチャガチャと錬成している音を聞きながらも、さして気にした様子も無く、ナタクは黙々とレポートを書き上げていった。そうして、書き始めてから一時間くらいで、遂にレポートが完成した。少し丁寧に書き過ぎたため、思っていたよりも時間がかかってしまったみたいだ。
出来たばかりのレポート渡そうと後ろを振り返ると、2人ともまだ何かの錬成作業中だったので、あちらの切りの良さそうなところまで、お茶を飲みながら待たせてもらうことにした。
そうして、丁度お茶を一杯飲み終わったところで、二人の錬成も終了したみたいであった。
「本当に成功したよ。しかもこれ、この病気専用の特効薬みたいで、鑑定結果に“副作用も無し”って表示されてるし・・・・」
「あぁ、ワシも今鑑定で確認したが、まさか本当にこの材料で出来上がるとは・・・・」
アイテム名
『ライレッド病特効薬』
ライレッド病専用の薬剤。特効薬のため他の病気に対して効果は薄いが、代わりにこの症状については効果大。後遺症も無し。
作成者:アメリア・ローレンス
ライレッド病とは麦の収穫時期に増えるウィルス性の病で、体に発疹と高熱、強い吐き気をもたらすのが特徴である。成人の場合はあまり重篤になるケースはないのだが、これが生まれたばかりの乳幼児や高齢者が病にかかると途端にその脅威度が増し、毎年少なくない死者を出している病気であった。
一応、効果のある薬は存在しているのだが、症状緩和に時間がかかるのと、材料に特殊な素材が必要で、少しばかり高価な薬になってしまっていたことに加え、量産するのに向かない素材までも含まれていたため、薬が手に入らずに命を落とす者が毎年何人も存在していた。
なぜナタクがこの新レシピを知っていたかというと、実は病に対する特効薬を作る目的ではなく、別の実験をしている最中に偶然発見したモノであった。
それは、クラメンの錬金術師と一緒になって、どこまで素材を分解して薬効を抽出できるかを試していた時に、たまたまライレッド病の薬と、良く手に入る素材の薬効が同じ物であることを発見して『それならば、苦労して素材を集めなくても薬ができるのではないか?』と試して出来上がったのがこの新レシピであった。
そのレシピを攻略サイトに載せたところ、あっという間に拡散していき、ゲームの世界に流通したという経緯があった。結構広範囲で蔓延していた病気であったため、当時も関連クエストが多数存在していたのだ。
なので、この薬に関しては、紛れもなくナタクが発明した新レシピであった。
「あの、レポート終わりましたよ」
「坊主!!このレシピはいったいどうやって手に入れたんじゃ!!」
「あぁ、それですが。それは昔に薬効の勉強を仲間としていた時に偶然発見した物なんですけどね。良くできてるでしょ。この薬の売りは『いかに安く』『大量に』『効果の高い薬』がコンセプトになっていますからね。
もう一つのレシピだと素材集めるのに時間がかかるので、我ながら良い仕事をしたと思っています。“向こうでも”大人気でしたから」
「なっ!これは古文書などや発掘で発見されたレシピではなく、自分で作り上げたものなのかい!?それは本当にすごい・・・・」
「元々あったレシピは確か古文書か何かに記載されてるんでしたっけ?こっちは完全に俺のオリジナルなので、よかったら使ってやってください。自信作ですよ」
「あぁ、大いに活用させてもらうことにするよ。本当にとんでもない新人がギルドにやって来たものさね」
「まさか一日でこう何度も驚く体験をするとは思わなかったよ。午後のポーションの研究がなくなってよかった、このメンタルでは良い結果が出るとは思えないからね。きっと無理をして、暴走してしまいそうだ」
「ワシもこの資料を領主に届けたら、今日はそのまま休ませてもらうことにするよ。さすがにこれ以上は身が持たん。アメリア、後でこやつに実験室の場所を教えてやってくれ。ゴールドクラスは自分の実験室を持てるからね、空いてる部屋を好きに案内してやるといい」
「了解した。私も部屋に案内したらちょっと外の空気を吸いに出かけてくるよ、私の実験室の扉の修理も頼まなくちゃいけないしね!(ニヤニヤ)」
「ふん!後は頼んだよ」
そう言ってガレットはナタクから書類受け取り、出来上がった薬とポーションを持って、部屋を後にしていったのであった。
別にワザとやったんじゃないわい!(; ・`д・´)
ふぅん♪(*´﹀`*)