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第22話

 

 土を入れた鉢植えを全て箱に詰め終えたので、これで引越しの準備は完了である。当初は一時間くらいは掛かるかと思ったのだが、思いのほか早く作業が済んたため、軽くお茶をしながらミーシャ待つことにした。


 いくらポーションで誤魔化しているからといっても寝不足には変わりないので、今日はアキナのために眠気覚まし効果のあるハーブティーを入れてあげることにした。そろそろハーブの在庫も切れ掛かっているので、採取か買い足す必要がありそうだ。



「今日のお茶は、爽やかな味がしますね。温かいのに飲んだ後にす~っとするのが癖になりそうです」


「これは眠気覚まし効果があるカモミールに少しミントを混ぜたブレンドティーですね。一応そのまま薬にもなるので、とても優秀なハーブですよ。ここに『パレンの実(レモンの様な果実)』のスライスを入れても美味しいですね」


「先生は本当、お茶の種類に詳しいですね」


「昔に趣味の延長で、調べたことがあるだけですよ。それに、昨日は俺の知らないお茶をリックさんのところで飲ませてもらったばかりでしてね。まだまだ知識に偏りがあると、良い経験になりました」


「そうだったんですか。そういえば、商談の日取りってどうなりましたか?」


「一週間後と言わず、午後なら何時来てくれてもかまわないとまで言われましたよ。何でも、アキの作った洋服を着たミーシャさんの目撃情報が商人さん達の間で噂になっていたらしくて、その裁縫師の作品を是非見せて欲しいと、逆に頼み込まれてしまいましたよ。もし販売用の洋服もあるなら、一緒に買い取ってくれるそうです」


「それは頑張らないとですね!ただ、昨日作ったサンプルはお手伝いしてくれた方達に全部プレゼントしてしまったので、また最初から作り直さないとなんですけどね。ですが、たくさんアドバイスをいただけたので、よりこちらの方達に合った物が作れそうです」


「楽しいことをしていると、時間を忘れますからね。値段交渉なんかは手伝いますので、思う存分納得のいく品を作ってください。ですが、商品の説明は流石に俺では出来ませんので、そちらはお願いしますよ?


 それと、今日から一週間は午後に作業用の時間を設けますね。錬金術のレベル上げは午前だけでも十分間に合いますので」


「ありがとうございます。それでは期日までにサンプルと資料作りと、洋服も何着か用意してみます。せっかくなので、体のシルエットが綺麗に見える系の服でも仕立ててみようかな?


 なんか、凄く楽しくなってきました♪」


「鉄は熱いうちに打てって言いますしね」


「ですです!でも、そうなると先生はその間どうしますか?鉢植えもあるから遠出はできませんよね?私が見れればいいのですが、“配合”ってのが難しそうですし・・・・」


「空いた時間は適当に魔導具を作ったりして時間を潰しますので、気にしないでもいいですよ。それに、ここからだと木工ギルドも近いので、この機会に“ある準備”も同時進行で進めてしまおうかと思います。先週から改装手伝いのおかげで、木工細工のレベルもガンガン上がっていますしね」


「なんか、どちらも凄く気になりますが・・・・まぁ、後で楽しみにしていますね。それと、昨日渡しそびれましたが、研究レポートが完成しましたので、後で確認お願いします」


「了解です。では、さっそく今日の午後にでも読ませてもらって、修正点がなかったらそのままガレットさんに提出しときますね」


「はい!お願いします」



 それから少しの間二人でまったりとしていると、入り口の方から来客を告げるチャイムが鳴ったので扉を開けて出迎えると、そこにはニコニコ楽しそうに待つミーシャの姿があった。



「お待たせしました!もう準備は終わっていますか?」


「ミーシャさんいらっしゃい。先ほど終わって、後は運び出すだけですね」


「それではご案内しますね。あっ、アキナさんさっきぶりです!」


「はぁい。昨日はありがとうございました」


「いえいえ。最初は何事かと思いましたが、最終的には大きな黒字だったので大満足です!」


「またデザインなんかの相談したいので、お手伝いよろしくお願いしますね」


「お任せください!っと、最近私の帰りが遅いと先輩から注意されたばかりでした。それでは、さっそく温室へ向いましょう!」



 ミーシャの案内で研究棟の階段を使って上へと進んでいく。そういえば、この研究棟では一階の部屋を使っているので、他の階に来たのは、何気に初めてであった。温室に向いながらミーシャに詳しく説明してもらったところ、一階と二階はゴールドクラスの錬金術師専用の実験室がずらりと並んでいるらしく。今は殆どの部屋が使用者で埋まっているらしい。ちなみに前にアメリア達が利用していた入浴スペースは、この建物の一階の奥に設置されている。


 そして、三階部分はそれ以外の研究者用に確保されたエリアとなっており、ギルド員共用の広めの実験室や談話室が設置されているため、大抵の錬金術師はここを利用して自分の研究を進めているらしい。


 勿論アキナやリズベットのようにゴールドクラスの錬金術師に弟子入りしてそちらで研究をしている者もいるのだが、流石にゴールドクラスの錬金術師も全員を弟子入りさせられるほど多くはないので、師匠を得るのも中々に狭き門なんだそうだ。また、自分が学びたい分野を専門としている先駆者に就こうとすると、更にチャンスが少ないらしい。


 それに機密保持の観点から、必要以上に弟子を取りたがらない錬金術師も多いので、その辺の調整も難しいのだそうだ。ナタクの場合もまさにこれなので、その弟子を取りたがらない錬金術師達の気持ちもよく解る。


 たまに講師をしたり教材提供をするくらいなら協力をしてもいいのだが、ちゃんとした下地がない状況で弟子を取るとそれだけ責任と情報漏洩のリスクが増えるので、たぶんアキナのような稀有なケースでもなかったら、まず自分から弟子を取ろうとしなかっただろう。


 一応、研究者育成の関係上ギルドからも弟子をとっていないゴールドクラスの研究員へ『一人でもいいから弟子入りをさせてくれないか』と打診はしているそうなのだが、それでも弟子入り希望者の需要を満たすことができてはいないらしい。ちなみに、ナタクの場合は登録二日目にしてアキナを連れてきたため、そういった声掛けをしなかったそうだ。


 なので見事弟子入りを果たせたアキナやリズベットなんかは、普通は他の錬金術師から羨望の眼差しを向けられたり、やっかみの対象にされることも多いそうなのだが、リズベットは既にシルバークラスの錬金術師であるし、アキナも登録してたったの一週間でポーション作製において高品質を連発し、ブロンズクラスに王手をかけているので『天才なんじゃないか?』と噂されているらしい。


 それでは自分は?と思ったので聞いてみると、ナタクへの評価は『謎』なんだそうだ。なんでも、突如現れた新進気鋭の錬金術師にして、登録日初日から合格不可能とまで言われていた難関試験を、驚きの満点合格でゴールドクラス入り。文句をつけようにも公表されてる研究結果が凄まじく、更に作るポーションが等級問わず全てにおいて高品質。


 また、取引も殆ど金貨でしかしていないので、あまりの規格外っぷりに、他の錬金術師や職員達から天才を通り越して『あの人、本当に人間?』と噂されているらしい。



 (またしても人外扱いですか、解せぬ・・・・)



「でも、ナタクさんへの弟子入り希望者も結構現れているんですよ。弟子にとったアキナさんの成長度合いも凄いので、『弟子になれなくても、せめて講義だけでも聞いてみたい』という若手の錬金術師も多いんですよ」


「そうだったんですか?」


「ただ、ナタクさんも最近お忙しそうだったのと、ギルマスに暫くナタクさんを自由に研究させろって言われているので、お伝えしていませんでした。特に女性の若手錬金術師から大人気です!」


「へぇ、良かったですね。先生?」


「評価いただけるのは有り難いですが、暫く忙しいのでアキ以外を弟子に取ったりするのは難しいと思います。せめてもう少し身の回りが落ち着いてからじゃないと、自分の研究もままなりませんしね」


「そうですか、それは残念ですね♪」



 (アキナさん、全然残念そうじゃないですよね?何とか、地雷回避には成功したようでほっとしました・・・・)



「まぁ、その辺も考慮してギルマスが話を持っていかなかったんだと思います。でも、もし手が空くようになったら講義だけでもお願いしますね。ゴールドクラスの方に指導していただけると、他の錬金術師の方も喜びますので。ちなみに現在、当ギルドで一番人気の講義はギルマスの授業ですね」


「なんか、たくさんお弟子さんがいるみたいですね」


「ギルマスのお弟子さんの場合、自称の方も結構いますけどね。っと、着きました。こちらが四階、屋上部分に設置されている巨大温室ですね。まだ利用者はナタクさんだけなので、しばらくは自由に使って大丈夫ですよ」


「ほえぇ、かなり広いですね」


「もう少ししてから色んな薬草や樹木を此方に入れる予定だったんですけど、今はまだ何も置いてないので好きに使っちゃっていいそうです。あっ、ナタクさん。入り口の魔導具で鍵の認証をお願いします。私がここの鍵を預かっているので、さっそく登録しちゃいましょう」


「真新しい機材ばかりで、これはテンションが上がりますね。登録は実験室と一緒ですか?」


「そうですね、ここの鍵のカードとナタクさんのギルドカードを一緒に押し当てれば・・・・よし、これで登録完了です」


「温室での注意事項とかありますか?」


「戸締りはもちろんの事、ここには空調関係の魔導具だったり温度変更ができる魔導具なんかもありますから、そちらの詳しい使い方の説明もさせてもらいますね。まずは・・・・」



 この後、ミーシャから他の魔導具の使用方法や機材や薬品の説明、利用時の注意事項などを詳しく教えてもらった。どうやらこの温室、低出力だがエアコン機能までついているらしい。他の設備もコストさえ無視すれば、かなり良い物が置かれていたので、これは非常に助かった。



 (後で“少しだけ”(魔)改造をしてしまおうかな・・・・)



 それと、植物を専門に研究している錬金術師は、ここイグオールの錬金術ギルドでは今のところナタクだけらしく。他の研究者はギルド本館の温室で事足りるらしいので、本当に貸切状態で使えるそうだ。



 では、なぜ此方の棟にも温室を増設したかというと、『珍しい薬草の安定供給を図るため』というのが建前で、実際は、ガレットのこれまでの功績を称えて国王から特別に賜った補助金の期限が差し迫っていたため、使い道に困って急遽研究棟や施設を増設したらしい。


 使わないなら返せばいいのでは?とも思うのだが、貴族の世界では国王の決めたことに対してそれをやることはかなりの無礼な行為になるそうだ。こういう場合は、目に見えて立派だとわかる物を建てたり、高額な実験道具を買うことが望ましいらしい。貴族社会も、なかなか大変そうである。


 ちなみに、期日を過ぎたからといってお金が没収されることも無いのだが、使うのが遅れても無礼になるそうなので、そのために設けられた暗黙の期限らしい。そんな訳で、利用者がいなかったこの広い温室を、暫く自分達だけで自由に使っても問題ないそうだ。



 そういう事なら、お言葉に甘えて大いに活用させてもらおうじゃありませんか。さぁ、楽しい品種改良の再開です!

良かったですね、先生?(*`Д´*)


ひやっ!?( ゜Д゜;)


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