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第21話

 

 日付は変わり、今日は朝一番で錬金ギルドへと向かった。さっそく『トマト』の栽培を始めたかったのと、今日から利用できる温室を早くこの目で確認したかったからだ。ちなみに、今朝もアテナはレストランのホールに立たされており、半分寝ながら給仕の仕事をやらされていた。冒険者なので朝には強いはずなのだが、ここ最近街の外に出してもらってないせいで、生活リズムが狂っているのかもしれない。


 宿屋を出て真っ直ぐ錬金ギルドへ向うと、今日も販売エリアはいつも通りの大盛況であった。ここ数日魔物の出現率が下がっているらしいので冒険者の客は少ないが、その分商人が余ったポーションを買い占めようと必死に売り場へと殺到していた。この売り場担当の職員は、いつも本当に大変そうである。


 総合受付でミーシャを探してみると、今日はわりとすぐに見つけることができた。だが、ひと目で睡眠不足とわかるくらいのクマを瞼に飼っており、いつも元気な彼女には珍しく、どこか虚空を見つめながら『ぽけぇ~』っと自分の席に座っていた。昨日あの後、彼女の身に何が起こったのか・・・・



 (まぁ、だいたい予想はつきますけどね)



「ミーシャさん、おはようございます。大丈夫じゃなさそうですが、平気ですか?」


「あっ、ナタクさんだ。おはようございます」


「なんか凄くやつれてますけど、あの後いったい何があったんですか?」


「ナタクさんと別れた後は、部屋に入ってすぐに皆さんに着せ替え人形にされ、そのままアメリアさんのお家に連行されました。でも、アキナさんの新商品はタダで貰えたので、収支的には黒字でしたけどね。


 そのまま明け方近くまで作業をしていたので、今日はとっても眠くて・・・・」


「それはお疲れ様でした。これは俺からの差し入れで、ポーションと飴になります。元気出してください」


「わぁ~い。ナタクさんのポーションだ。さっそく頂きますね。


 ・・・・ぷはぁ!なんだか凄く元気でますね。さすがはナタクさん特製のポーションです。ちなみに、このポーションはなんだったんですか?」


「あぁ、ただの等級3の『スタミナポーション』ですよ。自分用にストックしている物ですので、お気になさらずに」


「・・・・へ?等級3!?」


「一週間前に作製したヤツの残りですね。なんか取引価格がとんでもなかったので、まとめて出すと悪いと思って死蔵していました。もし必要になったら売りますので声を掛けてくださいね。なるべく在庫は確保するようにしておくので」


「ななな・・・・私はてっきり等級5とかのポーションかと思って、全部飲み干しちゃいましたよ!?」


「構いませんよ、疲れを癒す為のポーションですしね。しかも等級3からは持続回復効果も付きますので、激しい運動をしなければ数時間はもつはずです。これで、今日の仕事時間くらいは何とかなると思いますが、対症療法なので帰ったらちゃんと眠ってください」


「ナタクさん、さらっと金貨で取引されている商品を簡単に飲ませないでください!驚きすぎて心臓止まるかと思いましたよ。これ一本で私の給料数ヶ月分が一気に吹っ飛びます!!」


「本当にお金は気にしないでください。自作の物ですし、足りなければまたすぐに作れますからね。それより、温室の件よろしくお願いします、今日は凄く楽しみに来ましたよ」


「りょうかいです。そっちはちゃんと専用の鍵をギルマスから受け取ってあるので、いつでも行けますよ。なんだったら、今すぐ向いましょうか?」


「ではさっそく・・・・と言いたいところなんですが、現在部屋で栽培してある植物を一度撤去をしないといけないので、一時間後とかでも大丈夫ですか?


 結構数があるので、少し時間が掛かりそうなんですよね」


「では、そのくらいの時間にお伺いしますね。施設の説明なんかもあるので、今回は私も同行させてもらいまから、鍵の手続きはその時おこないます」


「よろしくお願いします。っと、そういえば。これは昨日会った商人さんに聞いたんですけど、『とても可愛いらしい錬金ギルドの受付嬢さんが、素敵な洋服を着て出歩いてた』とミーシャさんの事が街で噂になっていたそうですよ。今度是非その姿を俺にも見せてくださいね」



 あれ?ミーシャが顔を真っ赤にして固まってしまっていた。どうやら自分がそこまで注目されているとは本人も自覚はしていなかったのだろう。確かに、一日出歩いただけであそこまで話題になるとは思わないだろうし、きっとそれで照れているに違いない。


 再起動に時間がかかりそうだったので、一旦ミーシャと別れて自分の実験室に向かった。先ほどのミーシャの様子から察するに、アキナもかなり疲弊していそうなので、彼女にもポーションを渡すとしよう。アメリア辺りは、なんとなく自力でどうにかしていそうな気がするが・・・・


 部屋に着くと、案の定机に突っ伏しているアキナの姿がそこにはあった。隣に座っても全く反応がなかったので、鼻先にキャラメルを置いてみたところ、もぞもぞしながらゆっくりした動作でキャラメルを食べ始めようと動きだした。どうやら本人は今だ夢の住人らしく、寝ぼけながらも口にキャラメルを入れると、『にへらぁ』と実に幸せそうな笑顔になった。



「アキ、おはようございます。ちゃんと起きてますか?」


「はぁ、キャラメルうみゃ~。ほえ、先生?」


「そうですよ、ナタク先生です。ちゃんと起きてください、仕事を始めますよ」


「はっ!おはようございます。私寝てましたか!?」


「はい。なんか昨日は遅くまで作業していたみたいですね、お疲れ様です。これは差し入れのポーションなんで、飲んで体力を回復してください。少しはマシになると思いますよ」


「ありがとうございます!って、なんで私はキャラメル食べてるんですか??」


「寝てるのかなと思いまして、顔の前にキャラメルを置いてみたら、ゆっくり食べ始めたので声を掛けました。『ぱくっ』と食べる姿は、なかなか可愛らしかったですよ」


「あぅ、寝てる私で遊ばないでくださいよぉ。夢の中でキャラメルが出てきたのは、そういうことだったんですね」


「ごめんなさい、つい出来心(できごころ)で。それでは作業を開始しますので、準備ができたら鉢植えの方に来てください。選別した後、一旦ここにある植物は全部撤去して鉢植えだけにしますので。今日は最初に、鉢植えのお引越し作業と種植えから始めますよ」


「分かりました、ちょっとお待ちください」



 そうしてポーションを飲み干した後に、先ほどのミーシャと似たやり取りをしてから苗の撤去作業を開始した。本来であれば昨日の20時頃にすでに種が回収できる段階までは進んでいたのだが、装置の設定でその段階で急成長が止まるようになっているので、ちゃんと全て収穫直前の状態で成長が止まっていた。



「収穫の見極めはどうするんですか?全部集めるわけじゃないですよね?」


「そうですね、だいこんの時とは違うのでその辺も説明していきます。まずは鉢植えに埋まっている状態の苗に、鑑定をかけてみてください。普通とは違う項目が表示されているはずなので」


「なるほど、ではさっそく・・・・」



 アイテム名

 『ライネの実の苗』


 比較的どの地方でも栽培可能な一年草の植物。実を服用すると一定時間俊敏力の強化が見込める。


 成長率【10/10】

 収穫 【可】

 変異率【35%】



「おぉ、なんだか知らない項目が追加されていますね」


「これらの項目は鉢植えに埋まっている状態じゃないと確認できないので、引っこ抜く前にちゃんと鑑定するのを忘れないでください。今回はこの中で一番変異率が高い物を、選定して収穫していきます」


「了解です。変異率の数字が一番高い物を探せばいいんですね」


「運がよければ最高で50%前後までいっている物があると思うので、探してみてください。その一番高い物を、次の実験で使いますので」


「はぁい。それで他の実は回収しますか?」


「残念ですが殆ど廃棄になりますね。“配合”を開始してしまった種って、見た目が同じでも違うアイテムになってしまうので、他の実験では使えないんですよ。特に今は状態を不安定にしているので、もしこの実を使って錬成したりすると、非常に暴走しやすくなっているので。炒ってナッツ代わりのオヤツくらいにはなりますけど、そんなに量も要らないですしね」


「なんか贅沢な研究ですね。解りました、それでは探してみますね」


「お願いします。俺は反対側から鑑定をかけていくので、最後にお互いが見つけた中で一番いいものを見せ合いましょう」


「ということは、勝負ですね!なんかやる気が出てきました♪」


「あはは・・・・では、よろしくお願いします。一番いいのが決まりましたら、そちらは机の上に置いて、他は鉢植えから引っこ抜いてこの箱の中に入れてください。今度郊外で燃やしておきますので」



 その後、二人で苗の鑑定をしていったのだが、ナタクが担当した鉢植えは48%が最高で、アキナが担当した鉢植えはなんと54%まで変異が進んでいる物があった。なので、今度お出かけした際のお昼はナタクの奢り(おごり)という事になってしまった。



 (・・・・まぁ、別にいいですけどね)



 選定が無事終わったので、今度はアキナが見つけた苗の時間を再び進めて、種が収穫出るようにセットする。その間に、他の苗は鉢植えから外して木箱に詰める作業を二人でおこなったのだが、ついでにチカの実も収穫できるまで成長していたので、此方も片付けてしまうことにした。こちらはもう一回変異させれば、唐辛子へと名前が変わるだろうから後もう少しだ。


 殆どの鉢植えを空にできたので、土を集めてもらって次の栽培の準備をアキナにやってもらい、その間に先ほどできたばかりの『ライネの実』と『チカの実』のそれぞれの種を、次の“配合”に適した植物と合成して新しい種を用意する。『ライネの実』は後一回『ヒカゲ草』の種と合成して次で変異率100%を目指す事になる。



「ふぅ。土作り完了っと!先生、種はもう植えちゃいますか?」


「今植えてしまうと移動ができなくなるので、このままインベントリしまってお引越しの準備ですね。此方の箱に植木鉢をしまって、そのまま温室に運んでしまいましょう。本当インベントリって便利ですね、これなら一度で済むので、腰を痛めずに済みそうです」


「りょうかいです、では箱に詰めちゃいますね」


「それが終わったら休憩しましょう。予定より早く準備が終わりそうなので、鍵を持っているミーシャさんが来るまで、のんびりできそうです」



 さてと、これで準備は何とか間に合ったかな。後はミーシャさんが来れば、待ちに待った温室だ!

ななな・・・!?(゜□゜;*)


(´・ω・`)?


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