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第19話

 

 何とか無事に興味を引くことにも成功し、今後の商談にも応じてもらえる期待が持てそうなので、まず最初の山場は越えることができたとみていいだろう。後は、領主主催で後日おこなわれる本格的な商談が残っているが、今の感じであればまず商談に来ないということは無いはずだ。


 一応の保険として持参していたサンプルも渡しておいたので、今晩は大いに驚いてもらうことにしよう。特に女性受けが良いことも伝えておいたので、上手くご家族の支持を取り付けることが出来れば、今後の商談もさらにスムーズに進んでいくことだろう。


 それにしても最後のリックの爆弾発言にはかなり驚いたが、誤解が解けてほっとした。


 商談もひと段落つき、リックが従業員を呼んで新しくお茶を淹れ直してくれたので、そのお茶を飲みながら引き続き彼と談笑していたのだが、ふと、机にポツンと置いてあった鉢植えが気になったので、話のネタにと思い聞いてみることにした。


 この世界でも部屋に花を飾ったりする事はよくあるのだが、観葉植物のような花の咲いていない植物をそのまま飾るといった習慣は聞いた事がなかったので、少々興味が出た。



「リックさん、あそこに飾られている鉢植えは何の植物なんですか?見たところ花が咲いている訳ではなさそうなので、少々気になりまして」


「あれは、よく私が買い付けに行く村の村長さんに、新しい作物として取引ができないかと相談された植物の苗だよ。成長すると片手に収まるくらいの大きさの赤い実が生るんだけど、現地で食べてもあまり美味しくなくてね。


 試しに一カゴ買って調理ギルドに調理できないかと依頼してみたんだけど、そちらもあまり芳しくなくてね。でもまぁ結構可愛らしい実だったから、せめて観賞用にならないかと思って飾って育てていたんだよ。苗はその時に一緒にもらってきたものだね」


「よろしければ鑑定してみてもいいですか?これでも専門分野は植物研究なので」


「おぉ、よろしく頼むよ。食用に適さなくても、せめて薬の材料になればあそこの村と取引できるからね。なんだったら持って帰って調べてくれても構わないよ」



 了承も得られたので、さっそく鉢植えの前まで行き鑑定にかけてみる。




 アイテム名

 『トトアの実の苗』


 リマリア地方山岳部原産のナス科の植物。栄養価は高いが非常に癖が強い。

 成長率【3/10】




「おっ!!」


「ナタク君、何か分かったかい?」



 つい嬉しくて大きな声を出してしまった。これこそが、最近ナタクが探していた野菜の原種である『トトアの実』であった。


 この植物を品種改良で進化させていくと、自分達が地球で食べていた『トマト』へと生長する超が付くほどの優良作物。最近どこかでこの実を見たと思っていたのだが、どうやらこの世界に転生してきて初日に乗ったあの荷馬車の中だったようだ。


「すいません、つい嬉しくて声を荒げてしまいました。丁度、研究用にこの作物を探していたところだったんですよ」


「そうだったのか。それで、これは薬の材料なんかに使えるのかな?」


「栄養価が高いので、それを抽出すれば薬にすることもできますが、研究を進めていけば普通に食用としても食べられるようにもなりますよ」


「本当かい!でも、この実は青臭さ過ぎてとても口に入れたいとは思えなかったんだが・・・・」


「確かにこのままではあまり食用に適していませんが、研究進めることで、とても美味しい野菜に進化させることは可能ですね。よろしければ、この苗を譲ってもらうことはできますか?」


「もちろん、君の好きにしてくれて構わないよ。ただ、もしその研究とやらが成功したら、その苗をくれた村でも栽培をさせてもらうことはできないだろうか?


 ここの村には駆け出しの頃から大変お世話になっていてね、ぜひ彼らの力になってあげたいんだよ」


「『分かりました!』と二つ返事で言いたいところなんですが、立場上こういった場合は領主様にお伺いを立てる必要が出てくると思うんですよね。ちなみに、その村があるのは領主様の治める地域ですか?」


「そうか、君は領主様のお抱え錬金術師だったね。でも、そこは大丈夫だと思うよ。なにせ、その村はここイグオールの東部に位置するすぐ隣の村だからね。スイール村っていう場所だよ」


「スイール村ですね、分かりました。研究が上手くいったら優先して栽培できるよう領主様に掛け合ってみます。それにこの植物から進化する作物はとても味が良いのと、高い栄養価、それと幅広い調理法がありますからね。きっと領主様も喜ばれると思いますよ」


「それは楽しみだ!今日は君が訪ねてきてくれて本当によかったよ。これで、村長さんに残念な報告をせずに済みそうだ」


「リックさん、安心はまだ早いですよ?何せこれから研究を成功させて、領主様の許可を取らないといけないのですから」


「はっはっは!そこは、君を信用することにするよ。何せ商人は『実績』と『信用』がステータスになるからね。君にはそれだけの価値があると、私はすでに確信しているよ。


 それにね、これでも私は商人として人を見る目は確かな方なんだ。十二分に期待させてもらうよ」



 そしてリックはニカっと笑うと、実に楽しそうにその村の事情を教えてくれた。


 なんでもそこの村は山沿いに面しているらしく、川からも距離があるため、あまり麦栽培には適していないらしい。なので、山から取れる作物や動物、魔物の肉などを売ってそのお金で足りない分の麦を購入しているそうなのだが、この土地でも育てることができる作物はないものかと皆で模索している時に、村人の一人がこの『トトアの実』を山から見つけてきたので、試しに栽培をしてみたんだそうだ。


 ただ、育ててみたものの、見た目はいいが味があまり良くなく。煮ても焼いても青臭さが抜けずに困り果てていたらしいんだが、丁度その時リックが街から買い付けに現れたので、都会の知識ある人達の力でなんとかこの作物の活用方法を見つけ出してほしいと頼まれたらしい。


 このスイール村は、リックが駆け出しの頃から取引に応じてくれていた大切な商売相手でもあったので、なんとか力になりたくて話を請け負ったのまでは良かったが、調理ギルドでも匙を投げられるほど扱いが難しかったらしく、せめて何か他の用途はないかと色々模索していたんだそうだ。


 また、この村の村長は食用の作物として『トトアの実』に期待を寄せていたので、錬金ギルドに依頼するという考え自体が思いつかなかったらしい。一般の人にとって錬金ギルドという場所は、薬剤や魔導具を作っている場所っていうイメージが強いのかもしれない。


 それにしても、今日この場に来たおかげで念願だった『トマト』の原種を手にすることができたのは僥倖だった。これで色んな味を再現することができるため、さっそく宿に帰って明日の準備をしなくては。



 その後リックと暫く話した後に、時間もだいぶ経ってしまったので後日会う約束をしてから店を出ることにした。もちろん、鉢植えはちゃんと受け取り、インベントリの中に大切に収めておいた。


 商会からの帰り道、とても気分が良かったので途中寄り道でもしようかと思ったのだが、すでに周りは飲食店以外は開いておらず。残念ながら買い物できる店が、そもそも営業をしていなかった。すっかり日も落ちてしまっていたので『しかたないか』と一言呟き、そのまま真っ直ぐ宿へ帰ることにした。


 そういえば途中で昼に食事をした店の前を通りがかったのだが、話に聞いていた通り、結構な数の冒険者達が楽しそうに酒を飲みながら騒ぐ姿が店の外から確認できた。どうやら客足も悪くなさそうだし、特に妨害をされている感じもしなかったので、あれならばたぶん大丈夫であろう。


 逆に向かいの大型レストランは、店の大きさの割りにこの時間にしては客足が悪そうであった。なんとなくだが、この状況が向かいの店の経営者は気に食わないんであろう。だが、それで妨害をして良い理由にはならないので、彼らのやっている行為は忌むべきものだ。


 ただ、あまりお節介をかけて逆に迷惑をかけたくはないので、今は黙って見守ることにしよう。もちろん、相談されたら“色々”お手伝いはさせてもらうつもりでいるが。



 ご機嫌に鼻歌交じりで宿屋に帰ってきたのだが、流石アーネストが厨房を担当するレストランだけあって、この時間のお店はたくさんの人で賑わっていた。いつもなら鍵を受け取ってから行動するのだが、どうやら今はアンジュもホールの手伝いに回っているらしく、受付に誰もいなかったので、今日は食事をしてから部屋に向うことにした。


 『さて、空いている席は?』と辺りを見渡すと、いつもの二人席が空いていたので、そこに腰掛けて誰かが来るのを待つことにする。


 席についてから暫くすると、見慣れないウエイトレスさんが此方に向ってきてくれたのだが、誰かと思ったら少しブカブカなエプロン姿のアテナであった。普段はボーイッシュな狩人の格好をしているのが、今はヒラヒラとしたスカートにフリルのついたエプロンドレス姿で非常に可愛らしくはあったのだが、どうやら本人はあまり機嫌の良さそうな顔はしていなかった。



「・・・・あれ、ナタクは今帰ったの?ご飯、何にする?」


「今日はいつもより遅い時間に寄らせてもらいました。って、アテナさんはその格好どうしたんですか?とても似合ってはいますけど・・・・」


「・・・・うぅ。家に帰ったら、みんなにすごく怒られた。今は罰として給仕をさせられてるの、ここなら逃げられないからって。いつもは宿の受付くらいしかしてないのに・・・・。服はお姉ちゃんに無理やり着させられた」


「それはそれは・・・・。あっ、そういえば。アキは今日アメリアさんのお家で泊まりで仕事をするので、宿には帰ってこないとアンジュさんに伝えておいてもらってもいいですか?心配させると悪いので」


「・・・りょうかい。ママに言っておけばいいんだよね?」


「はい、お願いします。それで、今日はお魚料理でお願いしますね。後、飲み物はお茶で。この後、もう少し仕事をしますので」


「・・・魚とお茶。わかった、ちょっと待ってて」



 そう言って、思い出したようにぺこりと頭を下げてアテナは厨房の方まで下がっていった。なんというか、その姿は小柄な体型も相まって、新人のバイト学生を見ているようで実に微笑ましかった。


 その後、料理が来るまで危なっかしげに働くアテナをヒヤヒヤしながら見ていたら、姉であるアルマが近づいてきて声をかけてきた。どうやら此方もアテナを心配しながら見ていたようだ。



「ナタクさんこんばんは。今日はアキナさんと一緒じゃないんですね」


「今日はアキが泊まりでお仕事ですね。今頃アメリアさんの家で裁縫師として楽しく遊んでる頃かと思いますよ」


「あぁ、アメリアのとこですか。って事は洋服作りか何かで?」


「新作のアイテム作りですね。女性物の下着らしいので、俺では戦力になれないため大人しく帰ってきました」


「あらら、そうだったんですね。彼女の作る服ってどれも可愛いくて素敵ですよね。私もこのエプロンドレスを作ってもらったんですが、今一番のお気に入りなんですよ!


 それに予備まで作ってもらったから、アテナにも着させてみたんですが、今は汚されないかとヒヤヒヤものです」


「あはは・・・・。しかし、危なっかしいのに料理を落としたりしないのは流石ですね。きっとバランス感覚がいいんでしょう」


「お姉ちゃん的には、もう少し優雅に振舞ってほしいんですけどね。あっ、そうだ!お父さんから飴を頂きました。とっても美味しかったですよ!


 それに、他にも料理のレシピをいくつか教えてくれたみたいで。お父さん凄く楽しそうに新作料理を作っていましたよ。本当にありがとうございました」


「どういたしまして。俺的にも、ここで美味しい料理が楽しめるので願ったり叶ったりです。存分に使ってあげてください」


「お父さんにちゃんと伝えておきますね。それに、今日のナタクさんの食事は新作を出すんだって凄く張り切っていましたから、是非期待しててください!」



 そういえば、昨日厨房を借りていた時にアーネストにある料理のレシピを教えていたのだが、もうマスターしてしまったのか。



 さて、それでは夕飯は期待させてもらうとしますか!


遂に『トマト』を見つけたぞぉ!ヾ(´∇` *)ノ



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