第15話
思っていたよりも早く温室の使用許可が取れたので、鼻歌交じりに来た道を帰ってゆく。まだ日没までには時間があるので、受付に回ってミーシャを連れ研究棟の温室に向ってもいいのだが、品種改良中の植物はとてもデリケートなため、態々リスクを犯さずに明日種を収穫してから、鉢の大移動をすることにした。
まぁ、まだ一回目なので枯れてもそこまでダメージはないのだが、職人としては、つまらない事で“失敗”の二文字を突きつけられる方がよほど癇に障るため、今日はこのままアメリアの実験室に向うことにした。
(そういえば、アメリアさんの実験室って殆ど行った事がなかったな。最初に部屋の使い方を教えてもらった時以来ではないだろうか?)
そんな事を考えている内に目的地であるアメリアの実験室の前までやってきていた。とは言っても、自分の部屋のすぐ隣なので、態々出向いたという気がまったくしなかった。
操作は自分の部屋と同じなので、扉の隣にある魔導具でアクセスして来客を告げるチャイムを鳴らし、自分が来たことを伝えようとしたのだが、どういう訳かこちらが発言するより先に『ガチャリ』と扉の解除音が鳴った。
そういえば、アキナに帰りに此方に寄る事を伝えていたはずなので、アメリアが気を利かせてすぐに開けてくれたのかもしれない。
「失礼します」と扉を開けて中に入ると、そこには自分の部屋と同じ間取りにもかかわらず、設置されている機材でここまで印象が変わるのかと思えるほど様変わりした、アメリアの実験室が視界に広がっていた。
薬剤を専門に扱う彼女らしく、『蒸留器』や『粉砕機』、『抽出機』に大容量の『錬成釜』と自分の部屋にはない数々の実験道具達がナタクを出迎えた。自分も薬剤の研究はするので非常に羨ましい限りの実験道具達である。
『いいなぁ、後で頼めば使わしてくれないかな』とそちらに目を奪われいたせいで、その時ナタクは肝心なことを見逃してしまっていた。今も尚、此方に向かって高速で飛来してくる物体の存在に。
だが、つい一週間前に死線を潜り抜ける戦いをおこなったばかりであった事もあり、意識よりも先に体が反応してくれたおかげでギリギリのところで察知する事に成功し、飛来した物体を紙一重で華麗にかわす事ができた。自分の後ろの壁で大きな音を立てて粉砕したその物体は、どうやら備品として自分の部屋にも置いてあった木製の椅子であったようだ。
(しかし、何故こんな物が・・・・)
不思議に思い椅子が飛んできた方向に目をやると、椅子を投げた犯人とその動機が一瞬にして判明した。
そこには、椅子を投げた後の格好で涙目になっている下着姿のアキナと、同じく下着姿で涙目でしゃがんでいるリズベット。そして、その様子を驚きながらも気まずそうに眺めているアメリアの姿が・・・・・
「かっこよく避けるな!!先生のばかーーーー!!!!」
そうして、もう一度同じタイプの椅子がナタクの顔面目掛けて飛んできた。これは、さっきより早そうだ。
(あ・・・・うん、解ってますよ。これは甘んじて受けた方がいいことぐらい・・・・とほほ)
しかし、アキナは薄ピンクの下地にレース多めの可愛らしい下着姿で、アメリアほどとはいかないが中々の戦闘力を秘めた素晴らしい肉体をその小さな生地で包み込んでおり、完璧にバランスが取れた肢体はもはやエロさを超えて芸術作品ではないかと思えるほどに美しかった。
そして、リズベットは少しおっとりした性格もあってか、普段からゆったりした服装を好んで着ていたため今までは気が付かなかったが、どうやら着やせするタイプだったようで、実はなかなかボリューミーなサイズの持ち主であったことが判明した。
取り敢えず、これだけは言っておこう。
(女難の相さんへ。今回も、実に素晴らしい眺めでしたよっと・・・ぐごばっ!!!)
この直後、もちろん顔面で椅子を受け止めることになったナタクが、あまりの威力に部屋の外に弾き飛ばされ、廊下で暫くもだえ苦しむ羽目になったのは言うまでもない。しかし今回はステータスが若干上がっているせいか、特に意識を失うことはなかったし、歯や鼻が折れることはなかったが、痛いものは痛かった。
それからすぐに、服を着替え終わったアキナが部屋の中から現れ、今だ痛みで悶えているナタクの襟首を掴むと、そのまま部屋の中に引きずっていった。どうやら、これから弁護士不在の裁判がおこなわれるらしい。
「あのアキナさん、とっても苦しいですが・・・・「少し黙っていてください、先生」Yes ma’am!!」
どうやら、紐で縛られるような事にはならなかったが、笑顔で怒りオーラを全開で放っているアキナ、しくしく泣いているリズベット、そして気まずそうに苦笑いを浮かべるアメリアと、部屋の中は中々カオスな事になっていた。
(さて、どうやって弁解するべきですかね・・・・)
「はい、先生。弁明の機会を与えます。答弁をどうぞ」
(アキナさん、表情は素敵な笑顔なのに綺麗な瞳は全く笑っていませんよ?
だめだ、変な言い訳は碌なことにならなそうだ、ここは土下座してでも素直に謝ってしまおう!)
「ガレットさんの所での用事が終わったのでアキを迎えに来たのですが、チャイムを鳴らした後すぐに扉の鍵が開いたので、ちゃんと確認しないで部屋の中に入ってしまいました。・・・・本当に、すいませんでした!!」
「いやぁ・・・・、私もこの後ミーシャがこっちに来る事になっていたから、てっきり彼女が来たと思ってね。確認しないで鍵を開けてしまったのさ・・・。二人とも本当にごめん!!」
扉を開けてしまったのはアメリアであったし、ナタク自身も故意で覗いた訳ではないことは一応アキナ自身も解っていたみたいなのだが、この怒りをどう処理するか悩んでいるような感じであった。ここで変な言い訳をしてたら、確実にその捌け口にされてしまうところであった。
「・・・・はぁ。だいたいの事情はわかりました。そもそも、先生一人じゃ鍵を開けれませんしね」
「・・・・ぐすん、そういうことでしたら。それに私達も油断していましたから」
何とか許してもらえそうでほっとする。しかし、部屋の中で女の子が二人下着姿って、いったい何をしていたのか興味はあるが、聞いても大丈夫なのだろうか?
「しかし、ナタク君も引きがいいね。もう後数分ズレていれば、こんな展開にはなっていなかっただろうに」
「あのぉ・・・・、それで皆さんはいったい何をしていたんですか?」
「えっとね、最初はリズの服を作るために寸法を計測をしていたんだけど。その時、丁度アキナ君が開発した新しいタイプの下着のストックでリズのサイズに合いそうな物があって、試しに試着してみていたところなんだよ。
なんでも、今よりスタイルが良くなるようでね。まぁ残念ながら、私に合うサイズの物はなかったんだけど。
ただ胸当て?のつけ方が付けてる本人からじゃ解らないらしいからって、アキナ君がモデルをかって出てくれたんだよ。それで丁度二人が下着に着替え終わったところに君がやって来たという訳さ。まさか私も、君の方がミーシャより早く来ると思っていなくてね。確認しないで鍵を解除してしまったという・・・・あはは」
「先生もワザとじゃなさそうですから、今回は不問にしますが・・・・今後はもう少し注意深く行動してくださいね。なんか、先生はそういった星の下に生まれたんじゃないかと思えるくらい、ハプニングに愛されている気がします!」
「はい・・・以後、今以上に気をつけます」
(流石、一番被害を受けていらっしゃるアキナさん、とても鋭い!)
(とは言っても、これでもかなり気をつけて行動しているんですけどね。なにやら元いた世界の神様が付与した物だから、女神様曰く簡単には外せないらしいですし。本当に、俺にはいったい何が付与されているんだか・・・・)
「しかし、本当にリズは見違えたね。ここまではっきりシルエットが変わるとは思わなかった。この下着絶対売れると思うよ!私も是非自分のを作ってもらいたいくらいさ」
「うぅ、男性の前でちょっと恥ずかしいですけど。確かに胸の高さも上がりましたし、大きさまで変わった気がします。これならどんな女性でもきっと欲しがると思いますよ」
「となると売り込み先を考えないといけないけれど、生憎私の取引先の商人は薬剤をメインに取り扱っている人だから、紹介してもらうにもマージンを取られそうな気がするし・・・・
家での衣類関係の御用達商人のところはギルド直営の場所だから、あそこに話をしたらレシピがあっという間に広がってしまいかねない。
さて、どうしたものか・・・・。後は、ばあちゃんの知り合いを紹介してもらうって手もあるけれど、あの人にも付き合いがあるからね。どこを紹介したかで揉め事がおこるかもしれないからなぁ」
「あの、別に私はお金儲けをしようと考えてた訳ではないので、そんなに難しく考えないでいいですよ?そもそも、これは自分で欲しかったから作っただけですし。練習で試しに色んなデザインのアイテムを作っていただけなので・・・・」
「いやいや、そもそも君達師弟は金銭に対して無欲過ぎるくらいなんだよ。もう少し自分の利益を追求してもいいと思うよ。まぁ、それでも君の師匠のナタク君は大金を稼いでいるんだけど。それに、お金があれば更に色んな研究なんかが出来るようになるし、稼げる時に稼いだほうが絶対良いよ!」
「それに、この下着なら貴族のご夫人達もたぶん挙ってお買い上げされると思いますよ?」
「確かに、日頃からあんな苦しいコルセットを巻かなくてもシルエットを綺麗に見せることができるとか、夢のようなアイテムじゃないか。生地を変更するだけで、客層を変えることもできそうだし、これは中々に良い商売ができると思うよ。ただ、それだけに商人選びは慎重にやったほうがいいかもしれないが・・・・」
「「「う~ん」」」と三人で話し込み始めてしまった。たぶん途中からナタクがこの部屋にいること忘れられていそうではあるが、意識されて気まずくなるよりはマシであった。
しかし、内容的にも入りづらいので黙っていたが、先ほどの下着はどうやらアキナが最近作った物らしい。そういえば、向こうの世界で女性が付けていた物にそっくりだったから、此方の人達にとっては新しいデザインに見えるのであろう。
それで、その商品をどの商人に売り込むか考えているらしいが、確かに新商品で当たると莫大な利益が出るから、下手なとこには売れないし、そもそもちゃんと売り込んでくれる商人でないと知名度が上がる前に廃れるか、レシピを奪われる危険すらある。
こういう時、自分が所属していたクランは本当に楽でよかった。あの神に愛されているとしか思えないほどの商才の持ち主であるクランマスターがいたのだから。そもそも商売で失敗してるところを見たことないので、あれは一種の化け物だと思う。
今いない人に頼ることは出来ないので、他で条件に合いそうな商人を頭の中で探してみる。
「そこそこ『大きな商会』で『衣類を扱い』、『貴族にも顔が広そうで』尚且つ『商売上手な商人さん』ですか・・・・。あっ、一ヵ所心当たりがあるな(ぼそ)」
どうやら声に出しながら考えていたらしく、三人が勢い良くこちらに振り向いた!
あはは、どうやらこれは話さないと部屋から出してもらえなさそうだ。
今日も・・・素晴らしい光景でした・・・
・・・ズリズリヽ(ー▭ーヽ;)(*`へ´*)




