第8話 転生2日目1-4
(未だに耳鳴りが治らない・・・・)
あれからアメリアはナタクそっちのけで『四肢特化型の再生ポーション』を手に取りながらモゾモゾと何かを呟いていた。たぶん鑑定でもしているのではないだろうか。
急に手持ち無沙汰になったので、実験で使った道具の片づけをして待つことにする。
錬成で使用した錬成陣の書かれた紙を集めて状態を確認してみると、やはりかなり無理をして錬成したためか、読み取れないほどに黒く焼け焦げてしまっていた。
(やはり自分で作った専用の用紙でやらないと駄目ですね。一回使っただけでこうなってしまうと、繰り返し錬成したい時に、準備するのに時間が掛かってしまいますね。ただ、この紙でも下位の等級くらいなら、数十回は使いまわせるとは思いますけど)
そんなことを考えながら片付けをしていると、何の前触れもなくいきなり実験室の扉が激しい音を立てて“文字通り”吹き飛んだ。
いったい何事かとそちらに目を向けると、まさに怒髪天がごとく白髪を振り乱しながら、鬼のような形相で室内に一人の御婦人(※老婆とは恐くて言えません!)が殴りこんできた。
「アメリア!お前ちゃんと試験監督やっとたのかい!!」
「やぁ、ばあちゃんいらっしゃい。何度も言うけど、私の実験室の扉を破壊しながら入ってくるの止めてもらえないかな?実験中だったら大惨事だよ、まったく。あと試験はちゃんと監督してたし、今も実技試験結果の採点中さ」
「じゃあ、何かね。このナタクとかいう受験者は実力で満点を取ったというのかい!」
「私が見ていた限り不正は何もしていなかったよ。てか、満点って本当かい!すごいじゃないか。私も試験前にちらっと問題見せてもらったけど、かなりのエグさだったはずだよ?」
「エグいとはなにさね、エグいとは!ワシは回答不可能な問題なんか一度も作った事はないよ!点数が取れないのはそいつの勉強不足が問題なだけさね。
ただ、簡単に満点を取れるような問題を作った覚えもないのも確かなんじゃが。このテストで満点を取れるということは、かなり“錬金術”や“医術”に精通していない限り取れないはずなんじゃ」
「そこはそのまま実力で取ったんだと思うよ。ってか見てくればあちゃん!ナタク君がたった今、歴史的大錬成を成功させたところだったんだよ。これ凄すぎないかい?『四肢特化型・再生ポーション』だよ!等級2の、しかも高品質ときている!」
「何を馬鹿なこといってるさね、等級1の治癒のポーション並に珍しい再生ポーションが人の手で作れる訳ないじゃないか。そもそもあれらは遺跡からの出土品でしか手に入らないし、レシピもとうに失われている幻の・・・・ってあれ、おかしいねぇ?
ワシの鑑定に、等級2『四肢特化型・再生ポーション』(高品質)と表示されているさね。ついにボケてしまったか?」
「ばあちゃんがボケてるなら、そう見えてる私もってことになるからまだ大丈夫だと思うよ。てか、私はそれを作り出すところを間違いなく見ていたから自信を持って彼が作ったと証言できるよ」
「ってことは本物ってことかね!?たしかに失われたはずのレシピが復活ってことになるなら大事件になるが。ふむ、確かに製作者のところに名前も載っておる。
じゃが、そもそもワシはそんなに変わった素材を用意しろと言ってはいなかったはずじゃ。では、ありふれた素材を使ってここまでの物を創り上げられるというのかね!」
「そこは作った本人に直接聞いてみてはどうだい?さっきからばあちゃんに圧倒されてそこで固まっているんだからさ。
てか、材料に関しては私も不思議に思っていたんだ。用意されていた素材では作り得ないはずのポーションも作製して、材料に使っていたみたいだしね。
もちろん彼が不正に何かを持ち込んだんじゃないのは見てたし、保証もするよ。たぶんリズが間違えて置いた物だと思うよ、私は」
(いやぁ。いきなりすごい剣幕で話し込んでたから完全に会話に入る機会を失っていたら、まさかこのタイミングで振られるなんて。なんか、もの凄く御婦人から睨まれてるんですが・・・・)
「お前さんがナタクかい、脅かして悪かったね。まずはこのポーション、見事だと褒めておくよ。これほどの腕を持つ“錬金術師”がこの街に来てくれたことに感謝する。
しかし、このポーションの材料はいったいどうやって作ったのかね?そこがどうにも腑に落ちん。これは間違いなく、簡単に作れるものではないはずだ」
「あ~、ナタク君。ばあちゃんは睨んでいるんじゃなくて眼が悪いんだ。それでよく勘違いされやすいが、結構優しい人なんでどうか許してやってほしい。
まぁ、こと自分の興味のある話になると、時々アグレッシブになってしまうのは、我が家系の特徴というやつでね、あははは・・・」
「自己紹介がまだだったか。ワシの名前はガレット・ローレンス。ここ“イグオール錬金ギルド”の長をしているものさね。それと、ここにいるアメリアの祖母でもある。宜しく頼むよ」
「初めまして、昨日この街に来た那戳と申します。材料というか製法についていくつか秘伝が含まれるため、お話できない部分があるのですが、それでもよろしいでしょうか?」
「そこは残念だが仕方がないさね。錬金術で生計を立てる者が、飯の種をおいそれと他人に教えていいものではないしね。ただ、不思議なのはあそこにあった材料でこれを作ったという点についてだ。これだけは教えて欲しいね」
「それは構いませんよ、知ったからといっておいそれと真似ができるものではないと、自信を持って言えますので。
まず、なぜ用意された素材では作れないはずの等級3『スタミナポーション』を用意できたのかですが、これは一つ下の等級の『スタミナポーション』を“クラスチェンジ”させたからです。
これには触媒となるアイテムが必要で、今回は『フォレストベアの肝臓』がありましたのでそちらを使い、やや強引に錬成をおこないました。成功率はそこまで高くありませんので、もし失敗したらそのまま等級3の『治癒のポーション』を提出しようと考えていたのですが、今回は成功してくれて助かりましたよ。
次に、 等級2『四肢特化型・再生ポーション』ついてですが、今回使用したレシピは正規のものではありませんので、お教えしても仕方がありませんので詳しくはお話しできませんが、触媒となるアイテムがかなり優秀だったので成功する確率は高いと思い、錬成に踏み切りました」
「成程ね、あの工程は“クラスチェンジ”を使用していたのか。それならば等級3の『スタミナポーション』が素材としてあの場所にあったのは分かったよ、成功率はこの際置いておいてね。
ただ、最後に錬成した時に使った優秀な触媒とは、いったい何を使ったんだい?あそこにはそこまで変わった物はなかったと思うんだけれども」
「はい。そもそもこの 等級2『四肢特化型・再生ポーション』を作ろうと思った最大のきっかけは、用意してあった材料の中に『レッドドラゴンの肉』があったからです。
俺もギルド登録の試験になぜあんな高価な素材が置いてあるのかと思いましたが、せっかくなので挑戦させていただきました。いやぁ、ほんと成功してよかったですよ」
「『レッドドラゴンの肉』とな?ワシはそんなもんを材料に入れるようには言ってはおらんかったが。アメリアはどうなんじゃ?」
「あぁ、それについては思い当たる節がある。今日の午後からそれを使って等級2の『治癒のポーション』の研究をしようと思っていてね。
氷付けで保管されていたそれを今朝方保管庫から出して自然解凍している最中だったのだが、たぶんリズが間違えて潜り込ませたんだろうね。とほほ・・・・」
「あの・・・、なんかすいません」
「いや、あのお肉も必ずしも成功してポーションになれるとは限らなかったんだ。むしろ素晴らしい薬になって生まれ変わってくれたことに感謝することにするよ。ただ、リズにはきついお仕置きを用意しなければいけないね、ふふふ・・・・」
「それで、試験の結果はどうなりましたか?よろしければ、今日の午後から実験室をお借りしたいのですが」
「それについては、文句なしの合格じゃ。筆記試験は満点であったし、実技についてはどう点数をつけていいか分からんレベルじゃ。
となると、階級を決めねばならないのだが本来あの試験をパスした場合ブロンズを与える予定だったんじゃが、等級2のポーションを作れる奴をそんな階級に置いておくのはワシの目を疑われるので却下じゃ。
よってシルバーかゴールドのどちらかにしようと思うが、アメリアはどう思う?」
「私かい?私が口を挟んでいいならゴールドを押すね。もしシルバーだったら是非私専属の助手に欲しいところだが、下手をすると自分よりも腕の立つ錬金術師が、自分の階級より下というのはちょっと勘弁して欲しいね。正直、あの技術力には感服したよ。
なので同じゴールドになってもらって隣でよい刺激を与えて欲しいかな?」
「決まりじゃな、それでは後でギルドカードを届けさせよう。
しかし、坊主なぜあの試験を受けたんじゃ?よほど受付でごねん限りこの試験は適用されんようにしておったのに。
じゃから、今回どんな業突く張りの高慢ちきが、高い鼻をへし折られに来たのかと思って待ち構えておったら、会ってみたら中々の好青年じゃないか。坊主はなぜ、そこまで上の階級を欲しておったんじゃ?」
「あぁ、それ私も気になっていたんだ。もし暴れられても取り押さえられるだけの戦闘力のある私が、試験監督やらされてたのにね。
とてもそんな風に見えない感じの男の子が試験を待っているから、もしかして違う人が案内されてきたのかと思っちゃったよ」
(あれ?なんか認識にズレを感じるな?これって全員が受けるものじゃなかったのか?)
「えっと、俺は受付でギルド登録には試験か講習のどちらかになりますと言われたから、面白そうだったので試験を選んだだけですよ。
そもそも、身分証明書の発行と午後に実験室を借りたかっただけなので、階級にも興味ありませんでしたし・・・・あれ?俺って、なんか勘違いしてました?」
「いや、間違えたのはキミじゃないことが今ハッキリ分かったよ。お仕置きはミーシャも追加でいいね、ばあちゃん」
「あぁ、ワシもおかしいと思っていた謎が解けて今すっきりしたところだ。存分にやってきなさい」
ふっふふ・・・・、とアメリアさんとガレットさんがそっくりな低い声で笑っているのを見つめながら、今日会ったばかりである二人の少女に、こうアドバイスを送りたい。
二人とも逃げてーー!超逃げてーーー!!!
彼女達の運命やいかに!(゜ロ゜; 三 ;゜ロ゜)