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第12話

 

 さて、販売の方針も決まったことだし、これで赤字を気にしないで錬成の続きを始められると思いきや、どうやら未だに火薬モドキの存在が恐いのか、アキナが中々席に着こうとしないので、安心させるために小規模な実験をすることにした。



「あんまり恐がりながら実験をすると、思いもよらぬ事故の元になるかもしれないので、こちらの火薬モドキに火をつけたらどういった変化を起こすのか、始めに見せた方が良さそうですね」


「えっ!危ない事はやらなくても大丈夫ですよ!」


「いえ、逆に危なくないところを見せた方が良いと判断しました。確かに、いきなり火薬モドキと言われても恐がらせるだけですからね。どういった物なのかをちゃんと理解して、しっかり観察してもらった方が恐怖心も薄れるでしょう。時に、アキは火薬による爆発の仕組みってご存知ですか?」


「・・・・いいえ。私の人生で火薬を直接扱うことなんて、家族と花火を楽しむくらいだったので、専門的な知識は持ち合わせていませんよ?」


「まぁ、確かにそうですよね。それでは火薬について簡単に仕組みをご説明いたします。まず、今回使用する材料から作れる火薬というのは『黒色火薬』と言われるもっとも原始的な火薬になります。


 この火薬は、炭素・・・・今回は『木炭』のことですね。此方を燃料としてそれに酸素と結びつけることによって急激な燃焼反応を起こして気体の体積を増やしたり熱や光、音を発生させます。これを短時間で起こす現象が、アキの知っている爆発というものになります。ですが、知っての通り普通に『木炭』を空気に触れさせたり、火をつけたぐらいでは爆発は起こりませんよね?」


「あっ、確かに爆発はしませんね。精々たまにパチンと跳ねるぐらいです」


「それは木炭に含まれる水分が気化・・・・まぁ、今はいいか。それでは何故火薬は爆発とまで言われるエネルギーの解放ができるのか。察しているとは思いますが、それにはその反応を助ける材料が必要となります。それが今回使用した『硝石』と『硫黄』になり、此方のことを便宜上『酸化剤』といいます。


 詳しく説明すると長くなるので省略しますが、要はこの二つが爆発に必要な酸素を供給して、炭素に酸素をくっつけるお手伝いをしてくれると考えてください」


「その二つがあると爆発するって事ですか?」


「そうですね。ここに燃焼という刺激が加わることで火薬と言う箱の中にある炭素にいっせいに酸素結合が開始され、その連鎖が急激に起こった結果を爆発といいます。ただ、もしその時に結合できる酸素の量が少ないとどうなるか?


 答えは火薬の中で酸素との結合の順番待ちが発生します。ご家庭で遊べる花火なんかに使われている火薬の仕組みがこれに該当します。アキの知っている手持ち花火も、火をつけた瞬間に大爆発なんて起きませんよね?」


「あっ!確かにそうですね」


「あれは炭素と酸化剤の比率を調整しているからなんですが、今回俺達が作る煙幕もその酸化剤の比率を下げて、あえて酸素結合を遅らせてゆっくりと延焼するように調整したものになります。


 なので、『材料は一緒なのに爆発しない』というのは、こういった仕組みを利用するからになります。ここまでで解らないところはありますか?」


「要するに火薬は火薬でも、花火で使うような物を今回は使っているという事ですか?」


「まぁ、だいたいそんな感じです。なので、この火薬モドキに火をつけても・・・・この様に良く燃焼する粉になるという事です。あっ、結界があるのですぐに消えてしまいましたね」



 アキナに説明するために少量の火薬モドキを薬皿にのせて火を点けたのだが、激しく燃えるだけで爆発せずにものの数秒で消火されてしまった。結界の性能も問題なさそうだ。



「なので、必要以上に恐がることはないんですよ。ごらんのように、もし火が点いたとしても結界の効果ですぐに消火されてしまいますので」


「確かに、これならあんまり恐くはありませんね」


「解っていただけて良かったです。しかし、アキはなんでそこまで火薬が恐かったんですか?まぁ、安易に扱う物でもないので警戒心を持って作業に当たってくれた方がいいことは確かなのですが」


「あの、笑わないで聞いてくださいよ?」


「?」


「実は小さかった頃に、親戚の子供達が集まって花火大会をしたことがあったのですが・・・・」


「あぁ、俺もやった事がありますね。子供の頃、あの花火がいっぱい詰まってるビニールの袋を買ってもらえた時は嬉しかった思い出があります」


「その時に、『ロケット花火』っていうやつで男の子達が遊ぼうって騒いでいて。私はその時線香花火を女の子達と一緒に近くで楽しんでいたのですが、どうやらあちらで支柱にしていた空き缶が風で倒れてしまったらしく、此方に向ってロケットが飛んできたことがありまして・・・・


 当たりはしなかったんですが、こちらに向かってピューー!って大きな音を立てながら向ってくるロケットを見てしまったために、それ以来花火が苦手になってしまって・・・・」


「あぁ・・・・そういうことでしたか」


「さすがに大人になるまでにはある程度克服したんですけど。ただ、未だに家庭用の打ち上げ花火とか、飛び出す系の花火は自分から進んで近づいたりはできないんですよね」


「だからあんなに火薬を恐がっていたんですか」


「はい、お恥ずかしい限りです」


「まぁ、誰にも苦手な物ってありますから。もしあれでしたら、他の錬成に変更しましょうか?」


「いえ!これなら大丈夫そうなので平気です!ご心配をお掛けしました」


「辛かったら言ってくださいね。他にも苦手な物があればできるだけ避けるようにしますので」


「ありがとうございます。しかし、先生ってほんと博識ですね。なんで火薬についてもそこまでご存知だったんですか?」


「あぁ、それはですね。ある時クランメンバー達から俺とお師匠にある物の製作依頼がありまして。その道具を作るのにどうしても必要だったので勉強したんですよ。『黒色火薬』はその過程で生み出した物になります」


「火薬が必要になる依頼って。いったい何を作ろうとしたんですか?」


「一応クランの極秘案件なのですが、まぁアキならいいでしょう。当時のクラン所属の狩人達に『銃器』の作製依頼をされたんですよ。『弓やボーガンもいいけど、この世界でも銃を扱ってみたい!』ってね。どうやら彼ら、現実世界でもサバイバルゲームを楽しんだり、他にもFPSのゲームなどをこよなく愛している人達だったらしくて。


 ちなみに、その当時にも魔法式の銃器は存在していたのですが、彼らからしたらあれは銃の形をしたただの“魔法の杖”だったらしくて。自分達が使いたかった物とは別物だったらしいんですよ。そもそも弾に魔力をこめる必要があるのに自分達では満足に『補充(チャージ)』もできないし、何より同じ威力の魔法なら魔法使いをPTに入れればいいだけの話と言っていましてね。


 さらに魔導具の構造上、込められる魔法もそれほど威力がある物を込められませんでしたから、それならスキルを使って弓を使っていた方がまだマシだったらしく。そこで、自分達のスキルを活かせる『銃器』を作れないかと相談されたんです。


 なので、銃の本体は鍛冶師の俺が担当して、弾丸の開発を錬金術師のお師匠が作製を請け負うことになったんですが、その時に火薬の作製の手伝いもしていたので、レシピを憶えていたと言うわけです。


 結局、最終的に弾丸には『黒色火薬』を数回進化させた物を用意したんですが、今は必要な機材がなくて作れませんけどね」


「その『銃器』って一般にも販売されたんですか?」


「いや、あまりに高性能の物ができてしまったので、販売するとゲームバランスの崩壊や戦争の道具として扱われそうだったので、クラン内だけでの使用に限定して扱っていました。それでも一応、ばれた時のカモフラージュ用に途中で開発された『マスケット銃』だけは販売したんですが、個数を限定してプレイヤーのみに販売したのに、それでもやたらと売れましたね」


「銃って公式のレシピじゃなかったんですか・・・・。本当、先生のクランっていろいろな物を作っていますね。実は『飛行艇』の製造も先生達とかだったり?ってそんなわけないですよね!」


「はっはっは(よそ見)」


「・・・っえ?」


「ソッチハ オレジャ ナイデスヨ?(遠い目)」


「えぇ!!あれこそ公式の乗り物じゃなかったんですか!!」


「アキ、顔が近いです!!それと苦しいので襟首を絞め上げないでください!!


 ・・・・ふぅ、そっちはお師匠の手伝いくらいしか俺は携わっていませんよ。『飛行艇』はお師匠とうちの魔工師連中の合作ですね。彼らは魔導具作製と分析のスペシャリストですからね。分かりやすく言うならガレットさんと同じ研究をしていた者達と言ったところでしょうか?なので、流石に俺だけでは再現できません」


「失礼しました。しかし、先生達ってとんでもないですね・・・・。本当に同じゲームをしていたプレイヤーなのか、更に疑わしくなってきましたよ。実はゲーム開発者だったりしませんよね?」


「しませんって。それじゃ女神ユーミア様と同じ神様になっちゃうじゃないですか」


「そういえばそうでした。しかし、先生のお師匠様っていったい何者なんですか?お話を聞く限り、凄腕の錬金術師の方ですよね?」


「・・・・確かに色んな意味で思考がぶっ飛んでいる人でしたね。間違いなく天才でしたし、知識の幅もとんでもなく広かったですから。ちなみにあの世界で唯一、称号ではなく職業“賢者”の持ち主でしたよ。たぶんあれユニーク職業なんだと思います」


「っええぇ!!お師匠様ってユニーク“賢者”!!!」


「ユニークな賢者じゃなくてユニーク職業の賢者です。本人の前で間違えると酷い目にあいますよ!見た目はファンタジーの常識に喧嘩を売ってるようなグラマラスな森エルフだったんですが、中身はほんと凶器の塊のような人でしたから・・・・


 過去に、彼女を何とかして自国に取り込もうとして国が滅んだことがあるとか無いとか、本当かどうかは知りませんけどね。それと、実はあの世界には公式に存在しないとされている魔王なんじゃないかって噂もあるくらいです。うちのクラン『変人三人衆』の一角ですね」


「先生ってとんでもない人の弟子だったんですね。ちなみに、その『変人三人衆』のもう一人は誰なんですか?」


「・・・・言わないとダメですか?って後一人?」


「はい。“先生”とお師匠様、あと一人は誰ですか?(ニコ)」


「なっ!なんで俺だと判ったんですか!!・・・・っく、あと一人はクラマスです。あの二人と同列にされるのは、大変不本意なんですが」


「やっぱり、それは普段の行動からなんとなく判りますよ。いまだメインの鍛冶師の仕事をしていない先生が、これだけぶっ飛んだことをしているんですよ!言われなくても、先生が今まで色々やらかしてきたことは簡単に想像ができますって!」



 (ぐぬぬぅ、心当たりがあり過ぎて言い返すことができない!)


 確かに、これから始まる本格的な鍛冶仕事再開をアキナが目にしたら、絶対ツッコミの嵐になること待った無しなので、ここは大人しくしておこうと心に誓うナタクであった。




 ぐすん。変人なんかじゃないぞ、ちょっとお茶目な鍛冶師だっただけですっ!


ぐぬぬぅ(; ・`д・´)



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