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第9話

 

 それでは即栽鉢植えに植える種の合成を済ませていくことにする。今回は最終的に三種類の植物を“配合”で生み出していく予定なのだが、最初の“配合”での変化はまったく同じなので、用意した全ての鉢植えに同じ種を植えてゆくことになる。


 まずは元になる『ライネの実』と『ヒカゲ草』という植物の種を合成した物を用意する。この『ヒカゲ草』は良くこの“配合”のレシピに登場してくる植物なのだが、特徴として“植物の変異を助ける”という効果を持っている。


 なので、この“配合”から得られる種はほぼ元となった植物の種との違いは無いのだが、この作業を二~三度繰り返すことによって、より次の“配合”での変化を得やすくできるという効果があるのだ。ただ、変化しやすいという事は同時に対象を不安定な状態するという事なので、その見極めも非常に難しい。


 また、この“配合”と逆の性質である“現在の状態を固定する”という効果を与える『ヒナタ草』という植物もあるのだが、こちらは“配合”最終段階で使用する予定だ。


 細かい手順や見極め方法などはアキに教えながら作業していく予定なのだが、最初の数回はあまり面白みがないのであっけなく終わってしまった。


 まぁ、失敗のリスクと“配合”の回数が少ないほど他の特徴を多く持たせることができるので、最初から全部の鉢植えを使ってより良い状態の種を作り出すんだよ、とアキに教えながら1回目の種蒔きは終了した。



「なんか、用意にかかった時間の方が断然長かったですね。先生、次の種蒔きはどれくらい後になるんですか?」


「“配合”はだいこんの時と違って状態をあえて不安定にしますので、最初の結果はだいたい6時間前後になりますね。余裕を持って一日に三回くらいを目処に様子を見るつもりですが、そこまで張り付いて観察する物でもないので気長にやっていきましょう。それでも10日前後で結果が出ると思いますよ」


「なかなか時間のかかる物なんですね」


「普通に育てたら、それこそ数年。錬金術で合成をしなければ数百年かかる変化を、たった10日でできると思えば、まだマシですよ。さらに、正解の“配合”ツリーを知らなければ、何度も失敗してかなり時間がかかりますからね」


「言われてみれば確かにそうですね。『銭喰らい』ちゃん、ただの大喰らいと思っていてごめんね」


「まぁ、確かにコストはかかりますけどね、時間を買っていると思えば安い買い物ですよ」


「・・・・ちなみに、この“配合”のコストってどれくらいなんですか?」


「今回のですか?そうですね、今は“配合”の準備段階なので一つの鉢に小粒の魔石三つくらいですが、最終的に変化をつけるために、1つに付き魔石が一度に10~15個ほど必要になりますね。


 なので、鉢植え全体のコストとして最終的には金貨で約・・「先生、もう結構です!恐いので聞かなかった事にします!!」・・・そ、そうですか?まぁ、それなりに投資は必要な物になりますね。それでも、下位の物なので安い方なんですよ?」


「やっぱりお利口さんでもこの子は『銭喰らい』ちゃんでした。私とは決して仲良くなれそうにありません!」


「あははは・・・・


(実は植物の品種改良は他に比べてまだまだ低コストの部類にはいるのですが、今のアキには言わない方が良さそうかな?しかし、少しずつ金銭感覚を“こちら側”に誘導しといた方がいいかもしれませんね。等級1クラスになると、更にとんでもない金額を湯水のように使わないといけませんし)


 それでは、そろそろ午後の錬成作業に入るとしますか。なんだかんだでかなり時間を使ってしまったので、今日は作り方を憶えてもらって、明日以降本格的に錬成を開始しましょう」


「了解です!それで先生、これからいったい何を作るんですか?言われた通り材料は持ってきましたが、私が扱ったことのない組み合わせなので見当もつきませんでしたよ」


「あぁ、あくまでアキに持ってきてもらった素材は材料の一部ですね。残りは俺のインベントリに入ってるので順番に並べていきましょう。ですが、まず作業をする前にいくつか準備をしなくてはいけないので、少しだけお待ちください。すぐに済ませますので。


 あっ!後、この作業をする際は必ず“火気厳禁”でお願いします。一応大丈夫なように今から準備しますが、万が一があったらいけないので」


「はい?わかりました・・・・が、先生。これからいったい何を作るんですか?ちょっと恐くなってきたんですが」


「作ってからのお楽しみという事で。まずはこの部屋に炎に対する結界を施す魔導具と、匂いを完全に遮断する魔導具2個を置いて起動します。・・・・よし、これで準備完了ですね」


「なんか、サラっと大きくてお高そうな物が出てきましたが、その魔導具はいったいどうしたんですか?」


「あぁ、勿論自作したものなのでお金は大してかかっていませんよ。数日前にこっそり作っておいた物なんですが、性能試験でも特に問題はなかったものですし」


「いえ、聞いたこともない魔導具だったので、なんとなく先生が作ったのは分るのですが。また市販されたらとんでもなくお高いアイテムだったりしませんか?」


「う~ん、実はこちらの魔導具もクランの商会で販売していた物なんですが、その時全然売れなかったアイテムなんですよね。炎耐性の結界を生み出す魔導具は消火器代わりに、匂い消しの魔導具は空気清浄機のつもりで開発したのですが、此方の世界ではあまり需要がなかったみたいで、結局自分達のホームぐらいでしか使用していなかったんですよ。


 やはり、世界が変わると必要とされる道具も変わってくるみたいで、なかなか勉強させられたアイテム達になります。ちなみに両方とも金貨150枚くらいで売り出してたんですが、全くといっていいほど買い手がつきませんでした。お値段以上のいい商品だと思うんですけどね・・・・」


「十分にお高いアイテムだと思うのは私の金銭感覚がおかしいからなんでしょうか?いくらなんでも、流石に空気清浄機に金貨150枚も出す人はいないと思います・・・・」


「エアコン機能完備の空気清浄機で、一台の効果範囲がこの研究棟がすっぽり入るほどの性能があるんですよ?しかも、燃費もかなりいいので初期投資くらいしかお金はかかりませんし、中々のお買い得商品だと思うのですが・・・・まぁ、売れなかったという事はそういうことだったんでしょうね。


 ただ、手間を考えると、これ以上値段が下げられないので此方でも自分使い用に死蔵することになりそうですね」


「あれ?先ほど自作だからお金はあんまりかかっていないって?」


「あぁ、それはですね。こちらの魔導具達は回路が複雑なのもありますが、それ以上に技術隠蔽のためにダミー回路や分解防止のギミックがふんだんに仕込まれているので一台作るのに結構時間がかかるんですよ。しかも、多機能を持たせたために使われている技術が他の魔導具にも転用できる物がたくさんあるので、一切(いっさい)手が抜けませんし。


 でも、材料は本当にお安く仕上がっているんですよ?一番高い素材でも魔石を数個とミスリルを少量使う程度なので、殆ど技術料ですね。ちなみにこの値段以下だと、正直他の魔導具作ってる方が断然利益が出ます」


「はぁ・・・ってエアコン機能まで付いているんですね、この空気清浄機」


「範囲内だったら壁があろうが関係なく設定温度を維持してくれますし、消臭効果も優秀で選択した匂い以外を全て清浄化する優れ物、また室内で危険性のある毒薬を一定以上撒かれた際もあっという間に無効化する性能まであったのですが、効果範囲と性能は劣りますけどもっと安価なアイテムで対応できてしまうので、そちらに売り上げを全部持っていかれてしまいました。まぁ、そっちも俺の作品なんですけどね・・・・。詰め込みすぎは良くないと、いい教訓になりましたよ」


「自分で自分の商品を産廃に追いやったんですね・・・・」


「そうなりますね、お得意様の依頼で馬車用に小型の物を作ったのがそもそもの間違いでした。思いの他使い勝手が良く、それなりの部屋なら一機で余裕で対応できてしまう性能を発揮してしまいまして。効果範囲と機能を下げたおかげで、大きさと値段も驚くほど小さく安くできたので、それはもう貴族相手にバカみたいに売れましたよ。商会主のクランマスターは大喜びでしたが、俺はなんか釈然としませんでしたけどね」


「あれ?それじゃ、今回もそっちを作ればよかったんじゃ・・・・」


「生みの親としては、せめて自分だけでも使ってやりたいという親御心が・・・・。まぁ、確かにアキの言う通りなんですけどね。今も機能を抑えて使っているので、効果範囲はこの部屋と隣の倉庫に限定して使っているだけなので性能の20%も発揮させてやれていませんし・・・・。まぁ、お屋敷が完成したらあっちにでも設置しておきます。


 それに、結界の魔導具も似たような感じで、お城とかに設置してくれれば良い防火設備になると思ったんですけど、日本のように木造家屋ではないからそもそも建物が燃えにくいのと、常駐している魔法使いで事足りるとかで此方も全く売れませんでした。しかも炎系の魔法も使えなくなりますから防衛力下がるとか。まぁ、その辺が向こうの世界との考え方の違うところですかね」


「なんか先生の失敗談って意外ですね。最近は、先生のこと何でもできる完璧超人なんじゃないかと思い始めていましたよ」


「それこそまさかです。俺も人間ですからね、今までたくさん失敗を繰り返してきましたよ。まぁ、今は昔とった杵柄をなぞっているので失敗が少ないだけで、昔は研究やら商談などで結構失敗を経験させられましたからね。そうやって人は大きくなっていくのですよ。それに今は弟子をとっているので、なおさらボロが出ないよう努力しているに過ぎません」


「あれ?先生って人間だったんですか!私はてっきり・・・・」


「アキナ君、先生怒ってもいいですか?(にっこり)」


「あはは、冗談です♪やだなぁ、先生怒らないでくださいよ!」


「まったく。さて、話がそれてしまいましたが午後の錬成を始めるとしましょう。それと、罰として今日のおやつの時間は無しとします」


「はうっ!しまった、せっかくのクッキータイムが・・・・」



 さて、話してばかりで全く作業が進んでいないので、ここからは気合を入れて頑張りますか!


 って、あれ?アキが思いの他ダメージを受けてるな、そんなにクッキーを楽しみにしていたのか。


 仕方ない。さっきはああ言いましたが、後で時間を見つけて休憩を入れるとしますか。


私のクッキータイムが・・・(> <。)



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