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第4話

 

 注文を終え、料理ができるのを待っている間にたわいもない話をしていたのだが、自然と店の前で話しかけてきた男性についての話題が出てきた。先ほどは適当にはぐらかしてその場を収めたが、やはりアキナはご立腹のようで、未だに怒りが収まっていなかったらしい。



「しかし、さっきの男性はいったい何なんでしょうか。いきなりこの店の悪口ばっかり、本当失礼な人でしたよね!」


「確かに、今まさに入ろうとしている店に対してあの言い方はないね。あれは彼なりの親切のつもりだったんだろうか?」


「・・・・なんか変な人でもいたの?」


「はい。お店の前で痩せ型でこ~んな細めの男性がいきなり話しかけてきて、この店の悪口ばっかり言って通りの向かいのレストランに行くように勧めてきたんですよ」



 そう言ってアキナが自分の瞼を指で横に引っ張り、先ほどの男性の真似をし始めた。普段の彼女らしからぬ行動に少し笑ってしまいそうになったが、ここで茶々を入れたら後で自分が酷い目にあいそうだったので、ここはぐっと堪えて話の補足をしておくことにした。



「どうやら、彼だけではなさそうだったんですよね。他にも数名此方の様子を伺っていた人物がいたようなので、無難に断りをいれてすぐに店に入ったんですが・・・・。最後の『後悔してもしらねぇからな』という言葉は少し気になりますね」


「・・・・ふむふむ。よし、ちょっとその辺見回ってくる!」


「えっ!アテナさん先ほど料理注文してましたよね?」


「・・・・大丈夫。おかわりが来るまでには、必ず戻ってくる」



 そう言って、アテナはあっという間に店の外へと出て行ってしまった。彼女が座っていた席を見ると綺麗に完食されたお皿がかなりの枚数置いてあったので、結構たいらげているはずなのだが、そんなことを全く悟らせない、身軽な足取りであった。



「あらら、出て行っちゃいましたね。領兵の詰め所にでも向かったんでしょうか?」


「う~ん、誰かが暴れていたりケガ人が出たと言うなら彼等が対応してくれるだろうけど、さすがに店の悪口を言って他の店を勧めたくらいじゃ動けないと思うよ。精々喧嘩の仲裁くらいじゃないかな、彼らも通常業務で忙しいからね」


「本当にその辺を見回りに行っただけかもしれませんしね。まぁ、店員さんとも仲良さそうだったしそのうち戻ってくるでしょう」


「しかし、先生はよく相手が複数人だって分りましたね」


「あぁ、俺が気がついたのは丁度店の前についた頃ですかね。弱い殺気を感じたので警戒をしてたのですよ。たぶんですが、店に入ろうとしている人をグループで監視していたんじゃないでしょうか。


 それにアキが反論しようとした時、彼の口角が少し上がりましたから、あのまま口論になっていたら騒ぎを大きくするつもりだったのかもしれません。なので被せぎみに断りを入れたのですが、彼の思惑が何だったのかは謎のままですね」


「そうだったんですか・・・。私、全然気がつきませんでした」


「アキナ君大丈夫だよ、一緒にいた私も気がつけなかったし。気がついたナタク君が凄いだけだと思う」


「まぁ、注意しておくに越したことはないでしょが、気にしすぎても身が持ちませんしね。それより今はどんな料理が出てくるか楽しみです。市場で食用のハーブや香草なんかを探してみましたが、あまり種類がありませんでしたので、どんな物が料理に使われているのか今からワクワクします」


「そういえば、先生はまた鉢植えになにやら育てていましたよね。あれは何の植物なんですか?」


「あれは唐辛子の原種で『チカの実』の種ですね。一応、今日の午後の錬成にも使う予定の物でして、それを今週の頭から植えていたので、既に結構な数を確保できていたりします。まぁ、あまり食用としては知られていないので、市場では見かけませんでしたけどね。


 この街に来た時に偶然森で原種の種を見つけていたので、持ち帰って増やしていました。今は徐々に品種改良を加えて、より食用に変化させている段階ですね」


「あれ?でも実は緑色をしていませんでしたか?」


「そこも改良前ですね。後もう二段階進むとアキの知っている唐辛子に近いものになりますよ。まぁ、今の状態でもほぼ食用として使えるんですけどね。拘りたいので、もう少し改良する予定です」


「へぇ、それはいったいどんな味がするんだい?食用ってことは普通に食べれるんだろ?」


「味は辛味成分が殆どですね。俺も一齧りしてみましたが、中々刺激的な辛さでしたよ。この植物はそれをメインにして食べるのではなく、調味料として使われますが、中には好き好んでそのまま食べる猛者もいましたね」


「ちなみに、今は持っていないのかい?研究者としてちょっと興味があるんだが」


「あるにはありますが、あまりお勧めできませんよ?えっと、はい。これが『チカの実』ですね、もし試すなら水を近くに置いた方がいいですよ」


「これがナタク君が現在研究している植物か。特に毒性はないんだろ?」


「えぇ。寧ろ薬としても扱うことができます。食すと体内温度を高める効果がありますね。例えば、冷え性の方や、寒冷地での作業者なんかに使うと高い効果が得られます。他にも防腐・防虫効果もありますね。ただ刺激が強いので肌の弱い方は、触るだけでただれてしまう場合があるので、その辺は注意が必要です。それに、その強い辛味成分のせいで、よく毒草と勘違いされることがある植物ですね。って、本当に食べるんですか?」


「勿論そのつもりだが。アキナ君も一緒にどうだい?」


「いえ、私は辛いものはあまり得意ではないので遠慮しておきます!」


「くれぐれも一気に食べない方がいいですよ、本当に辛いですから」


「へぇ、それではいただきます。ぱ~く♪」



 (あ、結構ガッツリいったな。どうなっても知らないぞ・・・・)



「むぐむぐ。なんだい確かに辛いが、たいしたことないじゃないか。これならもう一口・・・・!!!!」


「その実の恐ろしいところは、遅れて辛さがやってくるところですね。って、大丈夫ですか?無理しないで水で流し込んでください」


「やっぱりこうなりましたか・・・・」



 アメリアは目をぱちくりさせながら勢いよく自分の水を喉に流し込んでいたが、全く足りていない様だったので、仕方がないのでナタクとアキの分の水を渡してあげると、漸くそこで落ち着きを取り戻した。



「ひぃ、酷い目にあった。まだ舌がヒリヒリするよ。これは本当に食用なのかい!?」


「えぇ、使うときは生ではなく乾燥させた物を細かく刻んだり、粉末にして少量を料理に使ったりしますね。生のままでも使う場合もありますが、よほどの辛い物好きではないと、今のように大変なことになりますよ。


 それに、一応今アメリアさんが食べた実は一番食用に近いものなんですが、まだまだ改良が必要そうですね。よかったらハチミツとミルクで作った飴がありますが食べますか?すぐ溶けるので食事が来るまでにはなくなると思いますよ」


「ありがとう、いただくよ。このままだと、料理を食べても味が判らなくなりそうだ」


「はい、では少しだけお待ちを。アキも食べますか?」


「はい!そっちはいただきます。甘いものは大好きです♪」



 インベントリから飴の入った容器を取り出すと二人の前にそっと置いてやる。これは先ほど言っていた秘密兵器で、昨晩アーネストに厨房を借りてこっそり作っていたものだ。まさか、こんなに早くお披露目するとは思ってもみなかった。



「これはキャラメルと言って・・・・そうですね、俺達の故郷のお菓子といったところでしょうか。日持ちをさせるために本来もう少し乾燥させてから食べる物なんですが。まぁ、生キャラメルも美味しいので是非試してください。普通に甘いお菓子になります」


「それじゃ、さっそく・・・・ちなみに食べたらこれも辛かった!ってことにはならないよね?」


「ありませんって、見てくださいこのアキの幸せそうな顔を!」


「はぁ、久しぶりの甘味だぁ~♪」


「うぅ、確かに・・・・それじゃ・・・・ぱく。・・・!!!」


「ね?甘くて美味しいでしょ?」


「なんだいこれは。濃厚なミルクの味をハチミツが優しく包んでくるような不思議な味わいは・・・・。これは経験したことない美味しさだよ!さっきの舌の痛みがどんどん緩和されていくみたいだ」


「気に入ってくれて何よりです。これは材料も少なくて、比較的簡単に作れるのでお勧めですよ。後で小分けしてお渡ししますね。ただ、その状態ではあまり日持ちしないので、なるべく早めに召し上がってください」


「あぁ、ありがとう。帰ったらさっそくリズと一緒に食べるよ。しかし、ナタク君はこういった物も作れるんだね」


「まぁ、最初はスキルとお茶請けを用意する目的で料理人のレベルを上げてたんですけどね。結構、錬金術に似通った工程が多かったので、自然と上達した感じです。たぶんアメリアさんも始めたらすぐに作れるようになると思いますよ」


「へぇ、そういうものかい?それじゃ、今度練習してみようかな?」



 さてと、アメリアも落ち着いたし、そろそろ料理が完成する頃じゃないかと楽しみに待っていると、入り口の方向から入店を告げる扉についたベルの音が鳴った。そちらに意識を向けると先ほど店の外へ出て行った小柄な人影が再度店の中に入ってきたみたいであった。表情から察するに、どうやら狩りの方は上手くいかなかったようだ。



「・・・・むぅ。逃げ足の速い連中め。私が外にでたらクモの子みたいに四方に逃げちゃった。追っかけたらおかわりに間に合わなさそうだったから戻ってきたけど。まだ料理出来てない?」


「えぇ、まだ届いていませんよ」


「・・・・一応暇そうにしてたのを見つけたから、後でこっちに来るように言っておいたし、これでたぶん大丈夫だと思う。それより、軽く走り回ってきたからお腹空いた。りり~ぃ、おかわりまだ~?」


「はぁい。只今持っていくからもう少し待って~」


「・・・・はやくねぇ~」



 あはは、小柄なのに彼女の燃費は悪そうだ・・・・

カラーーー!!( ̄□ ̄;)


うまーーー!!(´▽`*)


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