第7話 転生2日目1-3
さて、待ちに待ったこの世界に来てからの本格的な錬成の始まりである。“ハイジン”職人さんとしては、作製したのが未だに背負い籠だけというのもアレなので、ここは一つ“ハイジン”職人さんの本領発揮といきたいところだ。
ざっと机の上を見る限りこの中の材料で作れるもっとも難易度の高い組み合わせは、等級3の『治癒のポーション』になるであろう。等級3は中級位に該当するレシピで、今のナタクが“通常錬成”をすれば、まず高確率で成功はしないであろう。
たぶん、これを作り出せれるかどうかを見極めるテストなんだろうが、それでは面白くない。きっと出題者の想定の範囲内から出ることはできないからだ。
勿論、難易度の低い等級外~等級4のポーションも何種類か作れるように材料は用意されているのだが。取り敢えず、一通り確認するために材料を精査していると、ある包みが目に留まり、ふと中身を確認してみる。
「おっ!これは・・・・」
明らかにこの用意された材料の中で、飛びぬけて等級の高い“ある物”がその包みの中に存在していた。
(これがあるなら素材のエンチャントと、等級を“クラスチェンジ”で格上げすることができれば、アレを作ることができますね。って、魔石も随分と等級のいい物がもそろっているじゃないですか!
素晴らしい、これなら楽しい錬成になりそうです。では、まずは専用の錬成陣をいくつか用意するとして。おぉ、アメリアさんなかなかいいインクを貸してくれたなぁ。これでブーストもかかるので成功率も一気に上がりますね)
そうと決まればと、さっそく錬成陣を紙に描き写してゆく。まずは、これから作るあるポーションの受け皿となる特製瓶の作成だ。
と言っても、元から用意されている瓶を、そのポーションを保存するのに特化させたエンチャントを付与するためにおこなう作業になるのだが、せっかくの大掛かりな錬成なので特別こった器を“2つ”用意することにした。何故“2つ”用意するかというと、これは予備などではなく、錬成の関係上大体2つ分は材料から採れそうだったからである。
さらに追加で何枚か陣を描き終えると、今度は今用意した物を使っての錬成作業へと移る。陣の中心に瓶と魔石を置き、まずは『形質変化』で形を変える。この『形質変化』とは、“錬金術師”のスキルに該当するもので、対象の形状や性質を変化させることのできるスキルになるのだが、勿論まだナタクはこのスキルを覚えてはいないので、今回は錬成陣と魔石の力を借りて“マニュアル錬成”で強引におこなっていくことになる。
だが、難易度の割りに失敗する素振りも全く見せずに終始安定したまま錬成が終了すると、そこには先ほどまでの素朴な薬瓶ではなく、著名な芸術家が作製したと勘違いしてしまうほど、手の込んだ作りの薬瓶が出来上がっていた。
それが終わると、今度は別の紙に描かれた陣の上に、先ほど作った瓶と魔石を更に追加でいくつか置き、間髪いれずに直ぐに次の錬成をおこなってゆく。今おこなっているのは薬瓶をあるポーションの保存に適したエンチャントを施す作業だ。
もはや成功するのが当たり前だと言わんが如く。出来上がった薬瓶は、すでにそれだけで相当の価値が付きそうな、芸術的な作品へと仕上がっていた。
この作業をもう1度繰り返して、一度休憩を挟む事にする。しかし、ここまではまだ受け皿を作っただけに過ぎない。
休憩がてら、ここで一旦ステイタスボードを呼び出して“錬金術師”が発現しているかの確認をすると、狙い通り“サブ職業”に“錬金術師”が発現していたので、これをセットし直して次の作業へと進むことにする。
次はいよいよポーション自体の作製作業になるのだが、それにはまず材料となるポーションを二種類作らなくてはいけないので、今からそれのための準備に取り掛かる。最初はやはり錬成陣の作製からだ。
スキルさえあれば、この作業は少しは使い回しで省略できるのだが、無いものを強請ってもしかたがない。それに別に嫌いな作業というわけではないので、ナタクはあっという間に描き上げてしまった。
今回はすぐに材料として使ってしまう事になるので、専用の薬瓶を用意せずに材料と一緒に用意された空き瓶を使って“マニュアル錬成”でサクサク錬成していく。本来であれば殆どの者がここで躓いてもおかしくない錬成を淡々とこなし、程なくして等級3の『治癒のポーション』と等級4の『スタミナポーション』(高品質)が出来上がった。
この時点で『治癒のポーション』を提出すれば試験には合格するであろうが、そんなもったいない事をする考えは、今のこの男には存在していなかった。
更に、今度は今出来たばかりの等級4の『スタミナポーション』(高品質)を“クラスチェンジ”させる作業へと移行する。専用の特殊な錬成陣を用意して、その上にポーションと魔石をいくつか、それと触媒として“あるアイテム”を置いていく。このアイテムは『フォレストベアの肝臓』で、試験用に置かれてあった材料の中で“2番目”に高価な材料であり、それを目ざとく見つけるあたり流石だが、そのおかげでこの“クラスチェンジ”ができるので、なんとも言えない。
では、材料も並べ終わったので早速錬成を開始する。ちなみに、“クラスチェンジ”とはその素材となった物の等級を無理やり1つ上げてしまうという、かなりの力技な錬成の一種である。
高品質の素材であることが絶対条件で、尚且つ無理やり等級を上げる作業のため、非常に難易度が高く、成功確率がほとんどない錬成と知られている。細心の注意を払って錬成に挑ばなければいけないはずの作業なのだが、ナタクはそれを鼻歌交じりに作業して、高い難易度など無かったかのように錬成を無事に成功させてしまった。
錬成の光が収まるとそこには普通に錬成していれば、用意していた材料では絶対作ることのできなかった等級3の『スタミナポーション』が置かれていた。
ここまでやって漸く作りたかったポーションの“材料”が全てそろった。ふと時計を見てみると、すでにここまでで1時間を消化していた。「やれやれ、手間取りすぎですね」と少し反省しながらアメリアの方を見ると、何故か口をパクパクさせながらこちらを見ていた。
(まぁ、今は放っておきますか、まだ錬成の途中ですしね)
気を取り直して、最後の錬成に使う錬成陣を描き上げていく。ここで失敗すれば全部無駄になってしまうので、流石のナタクも慎重かつ丁寧に作業を続けていく。
そして今まで描いていたどの錬成陣よりも複雑で大きなその陣を描き上げると、そこに先ほど作った『薬瓶』『治癒のポーション』『スタミナポーション』を置いてゆき、最後にこの試験で用意された材料の中でもっとも高価な素材を陣の上に置く。
『レッドドラゴンの肉』それがそのアイテムの名前だ。なぜギルドの登録試験でこのような素材が置かれているのかは分からないが、せっかくあるのだから使わせてもらおう。そして魔石をセットすれば用意は完了である。
「さて、伸るか反るかの錬成開始。うまく成功してくださいよっと!」
今までで一番派手なエフェクトと共に、陣の中央に置かれた素材達が混ざり合い変化してゆく。そして最後に一際大きく虹色に輝いた錬成の光が収まると、陣の中心に二つの薬瓶が残されていた。
「ふむ、まさか高品質で出来上がるとは運がいいですね。無事錬成成功です!」
最後の虹色に輝いた光は、等級2以上の錬成で高品質を成功させた時の合図になっている。ちなみに、どの職業でも等級2相当のアイテムを作製できるという事は、本来であればな中位職が上位職になれるかどうかの一つの指標となるのだが、ナタクがおこなった錬成がどれだけ異質な事であったのかを、本人はさほど気にした様子は感じられなかった。
アイテム名
等級2『四肢特化型・再生ポーション』(高品質)×2
欠損した四肢を再生させることのできるポーション。1本で最大で2箇所まで再生することが可能。
作成者:那戳
「アメリアさん、ポーションできましたの確認お願いします。ってアメリアさん?お~い」
未だ意識が半分以上飛びかけていたアメリアを揺すってみると、チューブトップに包まれて辛うじて支えられている大降りの果実が、バインバインと揺れている。
(ほんと凄いなこの人、眼福眼福!)
「あぁ、すまない。なぜか突然白昼夢を見てしまったようで、呆けてしまっていたよ。それで、ナタク君はいったい何を作ったのかな?」
「はい、等級2『四肢特化型・再生ポーション』が2本できましたので、確認お願いします。いやぁ、運よく高品質でできましたよ。ラッキーでした」
「そうか、『四肢特化型の再生ポーション』で高品質とはラッキーだね・・・・
って、なんじゃそりゃーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
近距離から繰り出されたその“口撃”に、危なく鼓膜が破れるかところであった。四肢ではなく鼓膜の治癒ポーションにすればよかったと思うナタクであった。
さっそく、やらかしちゃった♪(*ノω・*)テヘ