第1話 プロローグ
メスティア王国リマリア領“領都イグオール”。王国西部に位置する一大都市で、近隣の貴族領から王都への物流の中継地として非常に栄えており、また広大な肥沃な台地を周辺に有しているため“王国の食料庫”としても有名な地域である。
更に、この土地に都市を築き上げた初代領主を始め、歴代の領主達の手腕によって見事な区画整理がおこなわれてきたため、建物の高さ・色までに拘り、区画ごとに統一されたその美しい街並みは“リマリアの華”としてこの街に住む者や訪れた多くの人々に長く愛されていた。
また、那戳達プレイヤーがアルカディアの世界をゲームとして疑似体験して遊んでいた頃には、この場所はスタート都市にも選ばれており。治安の良さもあって多くのプレイヤー達が最初の本拠地として、この街を選んで活動をしていた場所でもあった。
そしてナタクがこの街に転生してから、今日で二週間になる。転生初日からの怒涛の一週間を乗り切った後は比較的平穏な生活を送り、休日を何度か挟みつつ今日は弟子のアキナと共に錬金術で使う素材の買出しに来ていたのだが・・・・
「先生の金銭感覚はやっぱりおかしいです!何ですかこの大きな箱の山は!!いったいどれだけ買えば気が済むんですか!」
只今、絶賛お説教中であった。
「いやぁ、流石はイグオールの冒険者ギルドですね。いい素材が山の様に取り揃えられていたので“つい”買いすぎてしまいましたよ。これだけあったら二~三日は余裕で錬成できますね!」
「何が山の様にですか!いくら良い物がたくさんあるからって、対抗して自分も山のように買わないでください!それと“つい”で金貨150枚分の買い物って、私達は卸問屋ではないんですよ!?しかも昨日も同じくらい買い足したばかりなんですから、そろそろどうにかしないと倉庫がパンクしちゃいます!!」
「そういえば、そうでした。今日は魔石を買い足しに来ただけのつもりでしたが、販売担当の職員さんがとっても買わせ上手だったので、ついつい目移りしてしまって。しかし、本当にいい素材がたくさんありましたね。見ていてワクワクが止まりませんでしたよ」
「私はハラハラが止まりませんでしたよ!そもそも先生が良い物を無尽蔵に買い漁るから、私達にだけ専属で職員がついているんですよ、いい加減気付いてください!あっ、フィーリアさんもお願いですから、今日はこれ以上先生にお勧めの品を持ってこないでください」
「にゃにゃ!今さっきギルドに届いたばかりの新鮮なマンドラゴラの根を持ってきたんにゃけど、これはいらないかにゃ?」
「いえ!是非買います!」
「もぉ!先生!!」
もはやお決まりになりつつあるやり取りを繰り広げた後、買い物を無事?に終わらせて今度は錬金ギルドへと向かって歩を進める。ちなみに、魔石はなんとかアキナを宥めながら金貨50枚ほど使って追加で購入しておいた。ついこの前大金が転がり込んだばかりなので、懐的にはまったく痛くない出費なのだが、それを言うとまた怒られそうなので黙っておくことにする。
(まぁ、今日買った素材をポーションに加工すれば、また何倍にもなって返ってくるんですけどね!)
錬金ギルドへの帰りの道中、やっと機嫌が治りかけてきたアキナがとある質問をしてきた。
「そういえば、頂いた屋敷と先生の鍛冶施設って何時頃から使用できるんですか?」
「えっと、現在改装中で早ければ来週中に引き渡しできるみたいですよ。丁度、領主様もそれまでには王都から帰ってこられるそうなので、引き渡し際に一緒に立ち会ってくれる手筈になっています。ただ、大きな屋敷なので手入れに何人か人材を雇い入れなくてはいけないようなので、そちらの斡旋もクロードさんが同時におこなってくれているそうです。
アキも今のうちに自分の部屋に置く家具などを見繕っておいてくださいね。備え付けの家具も既に搬入しているらしいのですが、自分の好みに変更しても構いませんので。
それと、もし気に入った物が見つからなかったら言ってくれれば作れますからね。俺は木工細工も得意ですから」
「はぁ、しかし本当に私も一緒に住んでもいいんでしょうか?」
「クランホームと思って気楽に使ってください。俺もちょこちょこ現地に行っては改装工事の手伝いという名のレベル上げをやらせてもらってるんですが、『錬成炉』はもちろん、『キッチン』『風呂』『トイレ』と中々の物が仕上がったと思いますよ!」
「先生がここ数日、何度か休みを取ってどこかに出かけていると思ったら、そんなことをしていたのですか」
「えぇ、自分がこれから使う施設ですからね。拘れる所は拘りたいじゃないですか。アキも何か要望があったら言ってくださいね、できるだけ希望にそった形に仕上げてみせますよ」
「はぁ・・・・、私はここ数日これからの先生との二人暮らしにずっとドキドキしていたのですが。やっぱり二人きりではないんですね・・・・(ぼそ)」
「うん、何か言いましたか?」
「いえ!なんでもないです!!それで、結局御屋敷には何人くらい雇い入れるんですか?」
「そうですね、クロードさんともあれから何度か打ち合わせをしているんですが、規模的に執事一人にメイド二~三人。料理人一人と庭師を一人、合計六人で募集してくれているみたいです。できるだけ若い人材で探してもらって、その人達を育てていく感じですね。
それと執事とメイドの一人は領主様のところから派遣してくれるそうなので、その人達が新人の教育を担当してくれるそうです」
「なんか、物語に良く出てくる貴族様みたいですね」
「俺はゲーム時代にもNPCを雇い入れて施設管理を頼んでいたので、あまり抵抗はありませんでしたけどね。それに、皆いい人ばかりだったので。アキのホームではどうしてましたか?」
「うちは中規模のクランだったので、そういったのは自分達でやっていましたね。人数もそこそこいたので、何とか回っていたって感じです」
「此方は結構大規模だったのですが、各自専門分野に特化した人が多かったので細々したことに手が回らなかったんですよね。その時、執事がいるだけでどれだけ楽ができるか、身をもって経験しましたよ」
「そうだったんですか。私は物語でしか執事の人って知りませんでしたので、本物を見たのはクロードさんが初めてです」
「実はクロードさんも貴族らしいんですけどね。なんでも、代々領地経営をリマリア領領主に任せて、その代わり歴代領主の補佐を一族でおこなっているそうですよ。他にも何人かそういった人がいるそうです。
アキの知っている人だと、モーリスさんの家もそうだって言っていましたね。ただ彼は次男なので、婿養子には行かずに、功績を挙げて自身の力で貴族になることを目指しているそうです。アルマさんはかなり愛されていますね」
「そうだったんですか!わ・・私なにも失礼なこと言っていませんでしたよね!?」
「大丈夫だったと思いますよ。それに二人ともそんなことで怒る方達じゃなかったですからね。しかも、一番身近にいるアメリアさんだって貴族令嬢だったわけですし」
「そういえば、先生は交渉の日になんであんなに落ち着いていたんですか?私、声には出しませんでしたがアメリアさんが貴族令嬢だったと知ってかなり驚いたんですけど」
「あの時も言いましたが、周りの人達の反応と彼女の普段の仕草でなんとなく予想ができていたからですよ。元々お茶を飲む仕草にも品がありましたし、お城で通り過ぎる人々が必ず前をいくクロードさんにではなく、アメリアさんに頭を下げていましたからね。あれで、この城の関係者だってすぐに分りました」
「一緒にいた私には、誰に頭を下げているかなんて分りませんでしたよ?」
「その辺は、経験の積み重ねですかね。俺は交渉の場で常に警戒するように体ができてしまっているので。昔、会社の取引先でワザと従業員のふりをして此方の様子を伺っていた社長さんもいましたからね。このおかげで、人を見る目はだいぶ鍛えられました。今では少しだけ感謝しています」
「そんな方もいらっしゃるんですか」
「聞いた話によると上層部の社員にしか知らせずに、そういった監視を担当する人材を各部署に配置して社内を管理している会社もあるんだとか。うちの会社でもその制度を採用してくれれば、俺もだいぶ仕事がしやすくなったんでしょうが・・・・
今更なので止めておきますか。思い出しただけでもムカッとしてきました」
「なんか、先生の仕事場は大変だったみたいですね。私のところは結構和気藹々としいて楽しい場所でしたよ?」
「羨ましいですね。うちは上司が働かないでトラブルばかりを起こすところだったので、後始末を押し付けられる部下達には辛い現場でしたから。俺も板ばさみでだいぶ苦労させられましたよ。しかも、そういった上司に限って地位が高かったり、弁明が巧みだったんですよね。そこだけはいい大学出なだけはあるなと感心していたものです。
同時に、俺は絶対こいつらと同じにはならないと心に誓っていました。まぁ、俺が此方の世界に来たことによって、部下や彼らがどうなったかを見ることができなかったのが、少しだけ心残りですけどね」
「あはは・・・・」
アキナと会話を楽しみながら錬金ギルドに到着すると、館内はいつも通りの賑わいを見せていた。そのまま素通りして自分の実験室に行ってもいいのだが、今日はギルドマスターであるガレットに面会の用事もあったので、予定を聞くためにミーシャのいる受付まで二人で足を進める。
総合受付エリアに来ると、ミーシャの列は丁度前の利用者の対応が終了したところの様だったのでそのまま彼女と話すことができた。
「おはようございます。髪留めを変えたんですね、とてもお似合いですよ」
「ナタクさん、アキナさんおはようございます!えへへ、昨日はお休みだったのでリズと一緒にお出かけをしてショッピングしてきました。その時にこの髪留めに一目ぼれしてつい買ってしまったんですよ。褒めてくれてありがとうございます!
それに、昨日はアキナさんに作ってもらったおニューの服を自慢しながら色んなところ回ってきたんですけどね。中々の注目度で、すっごく楽しかったです。ほんとは職場でも着ていたいくらいなんですけど、流石にここでは制服を着用しなくてはならないので、次のお休みがとっても待ち遠しいです」
「気に入ってくれて、ありがとうございます。また欲しい服があったら言ってくださいね。可愛い服を作るのは大好きなので!」
「ミーシャさんはリズベットさんとはご友人だったんですね」
「はい。親同士が知り合いなので、私が三歳の頃からの付き合いの幼馴染・・・と言うより私のお姉ちゃんみたいな存在ですね。私がこのギルドに就職を決めたのもリズがいたからですし、今でも一緒にお出かけたりしてますよ」
「そうだったんですか」
「はい!そういえば、アキナさん。リズも洋服を作ってほしいって言っていたのですが、お願いしてもいいですか?私と一緒で可愛い系の服がいいそうなんですけど」
「そうしたら、後でアメリアさんの実験室に顔を出してみますね。リズさんも可愛らしいですから洋服を作るのが楽しみです!」
「あれ?アキってリズベットさんと面識ありましたっけ?」
「あぁ、ええっとですね。ここ数日先生がいない日は、課題のレポートを持ってアメリアさんの実験室で錬金術を習っていたので、その時お会いして仲良くなりました」
「なるほど」
「というか、アメリアさんは毎日先生の実験室に来られていましたからね。その時に色々アドバイスを貰っていたので、もう少しでレポートが完成しそうです。できたら確認お願いしますね」
「(はて、アメリアさんと特に会う約束はしていなかったけど、何か用事があったのかな?)分りました。確認して問題がなかったら、そのままガレットさんに提出しておきますね。
そうそう、それとミーシャさん。ガレットさんに面会を予約したいのですが、今日の予定は空いていますか?」
「ギルマスですか?ちょっと待ってください・・・・。えっと、夕方なら大丈夫そうですね。今は外回りをしているので、帰ってきたら伝えておきます。詳しい時間が決まりましたらご連絡に伺いますね」
「ありがとうございます、それではよろしくお願いします。今日は貯まった素材を加工する作業に没頭していると思いますので、たぶん昼食以外は実験室にいますよ」
「了解です。あっ、それとナタクさん達のお薬がとても評判が良いので、できれば等級4と5のポーションをたくさん作っていただけると助かります。入荷してもすぐに売り切れてしまうんですよ」
「分りました。それでは素材はたくさんあるので、さっそくアキと手分けして作っちゃいますね」
「ありがとうございます。って、あれ?アキナさんが遠い目に・・・・どうかされましたか?」
「・・・いえ。忘れてた倉庫の状況を思い出しただけなのでお気にせずに・・・・」
「??」
「はいはい!それでは、俺達は実験室に向かいますね!ミーシャさんも、また後で!」
「あ、は~い。またです!」
そう言って手を振るミーシャと別れて、足取り重いアキナの肩を押しながら今度こそ実験室へと向かって歩き始めた。
さぁ、今日もポーションを大量生産するぞ!
買い物ってたのし~♪(* ̄∇ ̄*)
もう!先生いい加減にしてくださぁい!!ヾ(*`Д´*)ノ




