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第60話  転生7日目1-17

 

 禍々しいオーラを纏い、此方を睨みつけてくるサンドティガー。先ほどモーリスが撤退する時に、スキル『アンカー・デスティネーション』の効果を解除してから離れてもらったので、ターゲットは再びナタクへと向かっている。


 奴の傷を見るだけで、皆がどれほど頑張ってダメージを与えてくれていたのか手に取るように伝わってくる。トドメを刺す大役を譲ってもらったのだから、是非ともその務めを見事果たしたいものだ。


 サンドティガーは覚悟を決めたのか最後に一つ大きな咆哮を上げると、今持てる最大限の力でこちらに向かって駆けてきた。ただ本来脅威であるその駿脚も、両方の後ろ足の腱が切断されているため、正常時の半分以下の速さしか出ていなかった。


 走りながらの攻撃はカウンターが少し取り辛いのだが、贅沢は言っていられないので刀を構え直し奴が間合いの入るのをジッと待つことにする。


 しかし、後数歩の距離で此方の間合いに入るというタイミングでサンドティガーは急停止し、いきなり横へと大きく跳躍し此方のカウンターのタイミングをずらしてきた。散々いいように痛めつけられたせいで、妙に知恵をつけてしまったようだ。


 サンドティガーは勝利を確信したような表情をして攻撃態勢にはいっていた。舐められたものだと思いつつ、すぐさま対応するためにそちらに構え直すと、もう一歩のところで奴の動きが不自然に止まった。


 その正体はアキナのデバフスキル忍術『影縫い』であった。この技は適正レベル以下の相手なら一定時間その場に相手を拘束するという、低レベルの時から使えるかなり有用なスキルだ。しかし、格上相手にはあまり効果がなく、精々一瞬動きを阻害する程度しか効力を発揮できないのだが、それでもこのタイミングでのスキルの使用は正直かなり助かった。



「先生!今だとすぐに術が解けてしまいます。その間に準備を!」


「アキ!助かりました!!」



 一瞬であろうとも、奴の動きを止めてくれたことは大きい。これでギリギリであった対応時間に、若干の猶予を得ることができた。奴も企みを潰されたことに怒り心頭のようで、再びその場で大きな咆哮を上げた。『随分と(うるさ)(わめ)く虎ですね』と心の中で考えていると、再度炎を纏った矢が飛来し、今度は残った右眼に見事命中した。これで、奴は完全に失明したことになる。



「・・・・止まって鳴くとはいい度胸。追加オーダーお待たせ!」


「お見事!」



 どうやら、今度はアテナが奴の右眼を射抜いてくれたようだ。これで、奴にカウンターのモーションを見られずにスキルを使うことができるようになった。最大限の援護を貰っておいて、ここで失敗するのは格好悪すぎる。



 (みせてやりましょう、俺が今使える最大のスキルというヤツを!!)



「さぁ、終焉(フィナーレ)です。さっさとかかってきなさい!!」



 失明したため、すでにナタクの事を見失っていたサンドティガーではあったが、それでも声のする方向に向かって最後の一撃を繰り出してきた。単純に上から振り下ろされるだけの引き裂き攻撃。いくら攻撃力が三倍だろうと、こんな適当な攻撃が当たるわけがないのだが、スキルを使うためあえてその下へと潜り込む。



「刀術スキル、弐ノ太刀『止水(シスイ)』存分にその身体で喰らいなさい!!」



 刀術スキル、弐ノ太刀『止水(シスイ)


 このスキルは先ほどナタクが説明していた通り、『相手の通常攻撃を倍にして反す』といったものになる。勿論、相手のスキル攻撃などは反すことができない技なのだが、今回のサンドティガーが使った『決死』スキルのように、通常攻撃の倍率を上げる系のスキルだけには適応することができる。


 振り下ろされたサンドティガーの豪腕を刀を使って受け流し、そこに蓄積されたエネルギーを全て刀身に吸収させ、それをまとめて奴の首筋へと叩き込んだ!


 刀はまるで空を切ったように、なんの抵抗なくサンドティガーの身体を通過し、再び外へと姿を現す。それだけ奴の攻撃力が凄まじかったという事がよく判るそんな手ごたえであった。



 刀を振り切りその場を離れると刀身に付いたサンドティガーの血液を払い、ゆっくりとした動作で鞘に刀身を収める。振り返ってみると、サンドティガーは首を綺麗に切断され血を噴出しながらその場に崩れるところであった。流石に、超回復を持つキメラ種であっても首を切断されて生きていることはできないため、これで本当に戦闘終了であろう。


 転生初の戦闘が、まさかこんな大物相手になるとは思ってもみなかったので、心底疲れたというのが本音である。一応観察を続けていると、サンドティガーは徐々にその肉体を白い灰へと姿を変えて、風と共にその場から完全に姿を消してしまった。残されたのは、一つの魔石と小さな指輪ただそれだけであった。


 やはり、“悪魔の書”関連のクエストは後味が悪い。姿は魔物ではあったが、元は一人の人間である。必要であったとはいえ、ある意味この世界での殺人を早くも経験させられたことに少し思うところがあったが、仲間や街の人達に被害が出なくて本当に良かったと胸を撫で下ろしていると、勝ち鬨を上げながら皆がナタクの周りに駆け寄ってきていた。



「先生!!本当に無事でよかった・・・うわぁぁん」


「やるじゃねぇか色男!最後の一撃はしびれたぜぇ!!」


「ナタクさん、お疲れ様です!」


「素晴らしい戦闘であった。また戦場でお前達のような若者と戦えた事を誇りに思う」


「・・・・うん、お客さん凄く格好良かったよ」



 アキナに抱きつかれながら泣かれてしまい、その状態のまま皆にバシバシと背中を叩かれた。



 (止めてください!俺のHPがゴリゴリ削られていってます!!)



 暫くすると、アメリアがヒーラー達を引き連れてこちらまでやってきた。



「しまった!一番最初に抱きつこうかと思っていたのに、アキナ君に先を越されてしまったか。ナタク君、本当にお疲れ様!実に素晴らしい戦闘だったよ、見ていて惚れ惚れとしたさ」


「ありがとうございます。何とか無事に乗り切ることができました」


「うむ、とは言っても今回は私は殆ど何もできていなかったから、非常に心苦しかったけどね。それでも、近くで戦いを見れたことがいい刺激になったよ。これからは対魔物の訓練も取り入れて励むことにするね。もう、こんな悔しい思いはごめんだからさ。


 よし、みんな凱旋と行こうじゃないか!今日は領主が酒代を全部出すことを約束しよう。大いに騒ごうじゃないか!!」


「「「「おぉ!!!」」」」



 (あれ?今、今日一番の歓声が上がったぞ!?)



 しかし、これで今日は上手い酒が飲めそうである。そういえば、なんだかんだで此方の世界に来てから、まだ一度も飲酒をしていないかったから、今から非常に楽しみだ。



「それなら、今日は俺の店を貸切にしよう。皆に手料理を振るまわさせてくれ!」


「おぉ!伝説の冒険者の手料理だ!みんな、今日は大いに飲み明かすぞ!!!」



 皆が徐々に街へと引き返し始めたので、自分達も一緒に帰る事にする。いまだしがみ付いて泣いているアキを宥めつつ、ゆっくりではあるが少しずつ歩き始めることにした。それから暫くして泣き止んだアキナではあったが、今度は腕にしがみ付いたままなかなか離れてくれなかった。何でも『今手を離したら先生がどこか遠くに行ってしまいそう』なんだそうだ。



 (流石にクタクタなのでどこにも行くつもりはないんですけどね)



 それを見て、アメリアも面白がって反対側の腕にしがみ付いて両手に花の状態で帰路へと着いた。歩きにくいので少し離れてほしいのだが、それを口に出す勇気もなかったので、そのまま冷やかされながら歩いていると、漸く街が見えるところまで戻ってこれた。


 遠目でゲートが見えるところまで来ると、なにやら領兵が整列しながら領主指揮の下、今まさに出陣を開始しようとしているところであった。



 それを見て慌てたモーリスが事情を伝えるために、領主のところまで急いで駆け寄り、何とか出陣は阻止できたようではあった。自分達はもう暫く時間をかけて歩いて帰ることにする。正直、もう走る元気すら残っていなかった。それにしても、数百人の兵隊をこんな短時間で集めて運用できるとは凄い錬度である。それだけ、ここの兵とそれを管理している者達が優秀であるということであろう。




「旦那様!無事にサンドティガー亜種の討伐に成功しました。此方の被害ゼロでの勝利です!」


「おぉ、モーリス無事であったか!帰りが遅いから私自ら森に捜索に入ろうとしていたところだぞ。して、アーネストの娘は無事であったか?」


「はい、怪我もなく昨晩からサンドティガーの監視任務に就いていたそうです。おかげで無事再会する事ができました。旦那様、本当にありがとうございます」


「そうか、それは何よりだ。して、勿論アメリアも傷を負ったりはしていないよな?」


「勿論です。旦那様とのお約束をアメリアお嬢様はしっかり守り、今回は後方支援に徹してくれていたので、お怪我はされて御座いません」


「うむ。そうかそうか。それは良かった!それで、私の可愛いアメリアは今どこにいるのだ?」


「お嬢様でしたら、ナタクさん達とこちらに向かっておりますので、もう暫くすれば帰ってこられます」


「そうであるか!では、さっそく私自ら・・・・モーリス、私の眼にはアメリアが今日会った錬金術師の腕に抱きつきながら歩いているように見えるが、これは錯覚か?」


「いえ、それは・・・「こうしちゃおれん!アメリアに付いた悪い虫は私が排除しなければ!!モーリス、兵達の帰還は任せた。アメリア!!今行くぞ!!!」あっ・・・」



 そう言って、アレックスはアメリアに向かって全力で駆けていってしまった。止めようにも全身鎧を着ている自分と、軽装で身軽なレベルの高いアレックスとでは勝負にならず、あっという間にナタク達のところに向かって走っていってしまった。




 そんなこととは知らず、ナタク達は暢気に街を眺めながら歩いていた。



「やっと街に着きましたね。そういえば、せっかくの豪華なランチも食べ損ねているので、お腹もペコペコですよ」


「確かにそうだね。バタバタしていたからつい忘れていたよ」


「少し残念ですが、私はみんなが無事で本当良かったです。先生、お願いですからあんな無茶これからはしないでくださいね。本当に心配したんですから!」


「あはは・・・・(遠い目)」


「アキナ君。彼が無茶をするのは今に始まったことではないんだから、絶対またやらかすと思うよ?」


「はぁ・・・・、ですよね~」


「そういう時は、こうやって捕まえておけばいいんだよ!少なくとも今は逃げられないみたいだしね♪」


「さっきの戦闘で体力全部持っていかれたので、早く美味い食事をしてベッドで寝たいです。今寝たら、たぶん丸1日は起きなさそうですよ」


「あれ?ゲートの辺りから誰かがこちらに向かって走ってきますね。モーリスさんでしょうか?」


「いや、たぶんあれは・・・・父上?」




 『さて、ここで問題です。砂煙を上げながらこちらに向かって全力疾走をしている領主様が、次に取った行動はいったいなんでしょうか?』





 『正解は、両手が塞がっていたため防御姿勢もとることもできない俺の顔面に、渾身のとび蹴りをかますでした!』






 ナタクはこの時すぐに意識を失っていたので後で見ていた人に聞いた話になるのだが、何でも立っていた場所から5mは空中を滑降してから、更に数m後方まで転がっていたらしい。





 遅れましたが、両腕の柔らかい感触はとても素晴らしかったです・・・・ぐはっ!!


 今日も、女難の相さんは絶好調でしたね。起きたら、絶対お払いに行こう。そうしよう!


・・・ぐえぇ! Σ(゜∀´(┗┐ヽ(`皿´ ) ノ



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