第59話 転生7日目1-16
SIDE:アキナ
遠目から先生が無事に安全圏まで運ばれていくのが見え、やっと胸の閊えが取れた思いだった。
(さぁ、ここからが私の本領を発揮する番だ!)
「正面にいるモーリスさんの邪魔にならないよう、近接アタッカーは奴の左側に展開してください!魔導アタッカーと遠距離アタッカーは仲間の動きに注意しながら各自攻撃をお願いします!」
「了解、皆各自持ち場について攻撃開始だ!」
「「「はい!!」」」
「アーネストさんとアテナさんは、できる時でいいので奴の目のどちらかを狙ってみてください。そこを潰すことができれば、更に楽に戦闘が運べるはずです」
「なかなか難しい注文だがやってみよう。了解だ!」
「・・・・おっけ。両目とも射抜いてあげる!」
「ヒーラーは魔力を温存しながら待機し、モーリスさんを優先的に回復してください」
「「はい!」」
指示が一通り出し終えたので今度は戦場に目を向けると、モーリスが実に見事な技術で攻撃を盾で防いでみせていた。ナタクが命を張って獲た攻撃パターンを彼に見せた甲斐があって、安心してみていられる素晴らしい盾捌きである。
前線に近接アタッカーが到着し攻撃を開始しても、ターゲットがモーリスから外れる様子もなく、非常に安定している。
(先生は、いったい奴にどれだけ恨まれているのやら・・・・)
火傷の箇所も多いため近接アタッカーの攻撃がみるみるダメージを量産していき、堪らず距離を取ろうとしても、痛めた右後ろ足のせいで上手く動けないようで、動きがとてもぎこちない。そこに魔導アタッカーの炎攻撃が着弾し、もがき苦しんでいるところへ再度近接組が組み付いて元の陣形へと戻っていく。
「もし奴が二本足で立ち上がったら、近接組とモーリスさんは一旦距離を離れてください!すぐに範囲のスタン効果がある攻撃を仕掛けてくるはずです!」
「了解!」「おうよ!!」
暫くすると、本当にサンドティガーが立ち上がり始めたので、前線組は少し大げさに距離を離した。即席レイドチームにもかかわらず、実に見事な撤退である。奴の渾身の範囲スタン攻撃は見事空振りに終わったが、その隙に今度は後方へと大きく跳躍をしてモーリス達と距離を離した。
「ブレス攻撃がきます!アーネストさん、アテナさん準備をよろしくお願いします!」
「「了解!」」
先ほどナタクに放とうとした時と同様に、両前足を大きく開いて魔法陣を展開しているのが確認できる。遠距離アタッカーの二人がすぐに合図をくれ、此方も射撃態勢が整った。
「カウント開始します!・・・・5・4・3・2・1、今!!」
アキナの合図と共に放たれた2本の矢は、的確に火球の方向へと飛んで行き、再度ブレスを放とうとしていたサンドティガーの目の前で大爆発を巻き起こした。先ほどの光景の再現のように、サンドティガーは炎に包まれ、火達磨になりながら苦しそうに転げまわっている。
「暴れている奴の動きに気をつけながら、近接組は攻撃を開始してください!今ならどこを切りつけてもダメージが入るはずです!」
「ガッテンだ!いくぞ野郎共!!」
「「「おう!!」」」
そう言って、ゴッツを先頭に転げまわるサンドティガーに近接組が襲い掛かる。ゴッツは先ほどのナタクの攻撃を参考に、今度は左後ろ足の腱を狙って両手斧を振るっているようであった。
炎が鎮火する頃になるとサンドティガーは更にボロボロになっており、全身に火傷と傷を負った実に痛々しい姿になっていた。観察してみると動きがおかしいので、どうやら左後ろ足の腱の切断にも成功したようである。弱弱しくもゆっくり立ち上がろうとしているまさにその瞬間、今度は炎を纏った一本の矢が高速で飛来し、見事奴の左眼を射抜いてみせた!どうやらアーネストが放ったモノらしい、実に見事な射撃であった!
「オーダー、『サンドティガーの目玉焼き』の完成だ」
「・・・・むむ。パパに先を越された」
アーネストは現役を退いてからだいぶ経つみたいだが、その腕前はいまだ健在であったようで、ブランクを感じさせない見事な腕前である。娘のアテナも口では悔しがっているが、表情はとても誇らしそうであった。
「アーネストさんありがとうございます!皆さん、もうひと息です。油断せずに戦いましょう!それと、サンドティガーは瀕死になると『決死』という固有技能スキルを一度だけ使ってきますので注意してください。効果は『次の攻撃を三倍にする』というものです」
「了解です!見事盾で捌ききって見せます」
「了解だ、嬢ちゃん!野郎共ここまできて、へますんじゃねぇぞ!!」
「「「おう!!」」」
その後も順調に戦闘は進み、サンドティガーは徐々に豊富にあったであろうその命を削られ続けていった。ところどころ危なげな箇所もいくつかあったか、ここまで誰一人大きな怪我を負うことなく戦闘が続けられている。アキナも皆が傷つかないよう的確に相手の動きを読みながら指示を飛ばし、いよいよこの戦闘の終焉が近づいてきた。
「アキ!ご苦労様です。ちゃんと見ていましたよ、的確な采配実に御見事でした」
「先生!?もう動けるのですか!」
「えぇ。元々被弾はしていませんでしたし、結構休ませてもらえましたのでスタミナもだいぶ戻りました。けれど、明日は筋肉痛に悩まされそうですけどね。それと、最後に奴の『決死』のスキルにあわせて今使える最後の刀専用スキルをぶつけてやろうと思いましてね。戦場に戻ってきました」
「なるほど、確か二つ目はカウンター技でしたよね」
「はい、カウンタースキル『止水』になりますね。相手の通常攻撃を倍にして返す技になりますので、奴の『決死』との相性は抜群のはずですよ」
「解りました。みんなで隙を作るので、トドメをお願いします」
「心得ました。それでは引き続き指揮を頼みます」
「はい!任せてください!」
SIDE:ナタク
時間はしばし巻き戻る。
アメリアから一通りこれまでの流れの説明を受け、今も続く戦闘を眺めながら徐々にスタミナが回復していくのを、もどかしく感じながら時間が経つのをジッと堪えていた。すでにポーションは飲んでしまっているので、インターバルのためここは自然回復を待つしかなかったのだ。
「それにしても。君といいアキナ君にしても、二人ともなんでそこまで戦い慣れているんだい?君もかなり凄かったけど、前線で指示を飛ばしている彼女にも驚愕したよ。私は軍事にはあまり詳しくはないけれど、それでもアキナ君が凄いことぐらいは解るつもりだよ。まるで、どこかの軍隊の天才指揮官の様な実に見事な采配じゃないか」
「ありがとうございます。きっとアキもそれを聞いたら喜ぶと思いますよ。戦いなれているのは、故郷の事情ということで聞かないでいてくれると助かります」
「そ、そうか。いや、申し訳ない。嫌なことを思い出させてしまったのなら謝るよ。けして、悪い意味ではなくて、素直に感心しただけなんだ」
アメリアになら、転生者であることを話しても構わないとは思ったのだが、ここには他の人もいたのであえて話さない事にした。どうやら、違う意味で捉えられたようで非常に心苦しかったのだが、致し方ない。
戦闘を眺めていると、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。2回目の火球失敗を受けサンドティガーはすでにボロボロとなっており、後ろ足両方の腱を切断されてしまったため、その俊敏な脚力を結局一度も発揮せずに結果がついてしまいそうであった。
「さて、ではそろそろあいつにトドメを刺しに行くとしますね。アメリアさん、色々教えてくれてありがとうございました」
「なっ!君はもう十分に活躍したではないか!このまま、大人しくしているという選択肢はないのかい!?」
「それでもいいのですが、奴の最後に使ってくるであろうスキルと、俺の刀のスキルは非常に相性がいいんですよ。せっかくなので、それも狙ってこようと思います」
「まったく・・・・。どうせ止めたって行くだろう?ならば、せめて無事にまた戻って来るんだよ!」
「了解です。お説教は恐いですからね、意地でも戻って来てみせますよ」
そう言ってアキの下まで駆け寄って行った。あまりに回復が早くて驚かれはしたが、アキも刀術の二つ目のスキルのことは知っていたようで、ありがたくも協力してくれるらしいので、ここは一つ最後の大仕事に取り掛からせてもらうことにする。
先ほどアーネストに片目を潰されたため、奴の側面はだいぶ警戒が薄くなっていたので、近接アタッカー達に混じって暫く攻撃に参加する事にした。
「おう!兄ちゃんもう体はいいんかっよっと!!」
攻撃に参加してすぐにゴッツが話しかけてきた。彼の活躍も休んでいる間に見ていたが、実に頼りになる前線指揮官の素質を持った武人であった。今も的確に相手の動きを読みながら、此方に近づいて来てくれている。
「えぇ、おかげさまでだいぶ休むことができたので攻撃に参加させてもらいに来ました。ただ、ガントレット付きの拳骨を貰いましたので、たんこぶができていそうですけどね」
「それだけ心配されているってことだろ。よかったじゃねぇか!」
「えぇ、とても感謝してます。ですけど帰ったら二人に確実にお説教をされると思うので、今から少し憂鬱ですけどね」
「色男は辛いねぇ。既婚者の俺からアドバイスがあるとすれば、ひたすら謝っとけ。反論しても碌なことにならねぇからな」
「了解です。それと、モーリスさん!奴の最後のスキルにあわせて此方も仕掛けますので、奴が『決死』のスキルを使ってきたら、ポジションを一旦此方に預けてください」
「解りました。何か考えがあるのですね」
「えぇ、飛びきりをコイツにプレゼントしてみせますよ」
「それは楽しみですね。っと。では、よろしくお願いします」
「了解です」
その間も攻撃の手を緩めることはせずに、着実に相手にダメージを与え続ける。普通であればとっくに倒しきっているであろうダメージを与えてはいるのだが、まだ多少なりとも回復能力が残って作用しているのであろう。流石はキメラ種である。
だが、ついにサンドティガーも限界に達したのか、奴も覚悟を決め最後の奥の手で攻撃を仕掛けてこようとしているのが感じ取れた。
「モーリスさん、スキル『決死』がきますのでポジションを代わります!」
「了解です、くれぐれも気をつけてください!」
その間にも、奴の身体の回りを禍々しい赤いオーラが包んでいき、その迫力を増してゆく。近接組も、その変化に気がつきアキの指示のもと一旦奴から距離を離した。
さぁ、それではこの戦いの終焉と参りましょうか!
・・・・パパ楽しそう(*´꒳`*)




