表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/194

第57話  転生7日目1-14

 

「クラン:ユグドラシル所属。遊撃部隊筆頭剣士、『剣聖』 那戳(ナタク)。いざ参る!!!」




 名乗りを上げ、さっそく魔物へと斬りかかる。正直時間も無く悠長に構えている暇も無いので、できるだけ動いて相手の攻撃を誘発させることにした。


 まずは相手の防御力が知りたいので、特にスキルなども使わずに通常攻撃を繰り出していく。無論、相手も無抵抗のまま攻撃を受けてくれるはずもなく、あちらも直ぐに臨戦態勢を取り、ナタクの事を迎え撃ってきた。


 サンドティガーは右前足による爪での引き裂きを狙って攻撃を繰り出してきたが、ナタクはそれを紙一重で(かわ)してみせ、無防備になった鼻頭へ斬撃を叩き込こむ。本来のサンドティガーであれば、ここが一つ目の弱点のはずだ。


 攻撃は見事命中して、サンドティガーは鮮血を飛ばしながら苦しそうにうめき声を上げている。どうやら本当に防御力は下がっている様で、今のナタクでも斬り付けることは可能のようだ。ダメージの様子を見てみると、傷口から出る血液が沸騰しているかのように泡立ち、見る見るうちにキズを修復していた。



「なるほど、情報通りの再生能力ですね。治り方からしてやはりキメラの特性を引き継いでいるようですが・・・・、それならこちらも攻撃の方法を変えさせてもらいましょうか!」



 傷の修復が済むと、よほど腹が立ったのか大きな咆哮をした後すぐにナタクに勢い良く飛び掛り、今度は噛みつこうと襲い掛かってきた。それをナタクは予想していたとしか思えないほどゆっくりとした最低限の動作だけで横へと躱し、今度は“ある技能スキル”を使ってもう一つの弱点である横っ腹へと斬りかかった。



 刀術スキル壱の太刀『(ほむら)


 斬撃に炎を纏わせて、攻撃力上昇効果と火傷を負わすことができるスキル



 これは侍が得意とする刀専用の戦闘スキルである。アルカディアの世界で、この刀を使って戦う侍の技能は少し特殊で、『魔法剣の様な技を使用しているはずなのにMPを使わない』という特徴がある。ただMPを使用しない代わりに、スタミナを消費する事で魔法剣に近い技を操るのがこの侍といわれる職業で、両手で扱うことのできる刀から繰り出される攻撃力は凄まじく、本家ともいえる筈の“魔法剣士”より攻撃力が高いため、初期の頃は割りと人気の職業でもあった。


 ただスタミナの消費が他の職業に比べても非常に激しく、確かに一撃のダメージは大きいのだが取り回しを考えると魔法剣士の方に軍配が上がり、ゲーム時代後半になってくると「一撃にかける侍か、手数で攻める魔法剣士か」という住み分けが出来上がっていた。



 この侍という職業は中位職に該当するのだが、何故見習いであるナタクがこの技を使えるかというと下級職の中にある“剣術家”という剣士の派生職業が関係してくる。この職業は、“剣”であればあらゆる種類の武器を装備できるという少し変わった職業になるのだが、その特徴としてその各武器の技能スキルを“最初の二つだけ”使うことができるという特技がある。


 勿論、下級職扱いなのでその恩恵を見習いの状態でも扱うことができるのだが、かといって強いかといえばそうとも言えず、あくまで最初に覚える二つの技が使えるだけなので、物によってはまったく役に立たないこともある。要は剣限定の見習いの様な職業がこの剣術家なのだ。



 話は戻るが、なぜこの技を選択して使おうとしたのか。それにはちゃんとした訳がある。


 今回戦っているサンドティガーだが、どうやらキメラの再生能力を使っている様なので、ならばその弱点を突いて再生能力を奪ってしまおうと考えたためだ。キメラの再生能力は決して無尽蔵なわけではなく、いくつかルールに従っておこなわれているものとなる。なので、今回はそこに干渉することでダメージを入れることができるのではないかと思いついたのだ。


 まず、考えられる方法として、



 一つ、キメラは自身に蓄えられた魔力(マナ)を利用して再生をおこなっているので、ひたすら魔力を消費させて再生能力を奪うという方法もあるのだが、今回は時間がないのと、どれほど体内に魔力を溜め込んでいるのかが解らないので、この方法は使わないことにする。


 ちなみにこの方法を試す場合は、ひたすら攻撃を入れて限界まで再生能力を使わせるか、魔力消費の激しいブレス攻撃などを何度も誘発させて魔力を削ることで再生能力を奪うことができる。



 二つ、これができれば本来は一番楽なのだが、現状戦力では無理なので選択肢から除外した。それは、全身を再生できないほどの速さで切り刻む、もしくは大きな部位ごとに切断してしまうという方法だ。


 この方法を使うには、こちらのレイドチームのレベルが圧倒的に高くなければならないのだが、今回のレイドに対してチーム全体のレベルは適正もしくはやや下回っているので、やはり不可能といえる。


 それと、大きな部位ごとに切り分ける方法だが、流石に高い再生能力を持つキメラでも腕や足、首などを切断されると再生は不可能となる。そこを利用して倒すという方法なのだが、こちらも火力が不足して使うことができない。



 そこで、考えられる最後の方法なのだが、再生中の箇所に干渉して再生をさせない・あるいは遅延させてダメージを蓄積させるという方法がある。今回ナタクが選択したのはこの方法だ。相手に傷を負わせ、さらにその箇所に火傷を負わせることで再生能力を一時的に奪うといったものだ。また、再生能力を抜きにして考えた場合でも、キメラの弱点属性として良く挙げられるものが『炎属性』『氷属性』『雷属性』なので、相性も悪くないはずなのだ。




 横をすり抜けざまに炎を纏った刀をサンドティガーの横っ腹に叩きつけて離れると、再度奴は苦しそうにうなり声を上げてこちらを睨んできた。やはり、再生能力はある程度阻害されているようで、傷がそのまま残っていた。



「さて、迷いネコさん。今ので弱点がばれてしまいましたが、いったいどうやって戦いますか?お相手しますので、全力でかかって来なさい!」



 ジェスチャーも交えてできる限り挑発を入れながら相手の攻撃を誘っていく。今は虎型の魔物の姿をしているが、元は人間なのでもしかしたら言葉は理解できるかも知れない。できるだけの情報を引き出さなくては一人で立ち回っている意味がないので、少しずつダメージを与えながら相手の動きを良く観察していく事にする。


 言葉が通じたかは解らないが、どうやらあちらも馬鹿にされているのだけは理解したようで、怒り狂いながらこちらに向かって突進してきた。本来であれば体長3~4mの化け物が自分に向かって突っ込んでくる光景は恐怖しかないはずなのだが、ナタクは楽しそうに笑いながらその攻撃を回避し続けていく。


 勿論回避にも他の下級職のスキルを使用しているのだが、あまりにも綺麗に躱し続ける光景は、他の者にはかなり異様に見えている事であろう。しかも、隙を突いて弱点にダメージを与えながらながらである。


 攻撃には先ほどと同じ『焔』しか使っていないのだが、威力は低いが見る見るうちに相手の体に傷が増産されていく。しかも、ほぼすべてが相手の弱点にマーキングをしているかのごとくである。



 流石に、これだけ一方的に傷つけられれば、単調な攻撃が通用する相手ではないことを理解したのか、サンドティガーはナタクと一旦距離を離し、仕切り直そうとしてきた。



 実はそろそろこちらのスタミナも切れそうだったので、ナタク自身もこれは有り難いことだった。今のうちにインベントリから等級3の『スタミナポーション』を取り出し一気に飲み干す。その間も相手の様子を伺っていたのだが、奴は前足を大きく開き直してこちらを睨みつけているだけであった。どうやら奴はブレス攻撃をしようとしているようだ。



「そんなものが効くと思っているんですかね。まぁ、待っていた攻撃なので、存分に利用させてもらいますがね」



 それから直ぐにサンドティガーの方も準備が完了したらしく、顔の前に大きな魔法陣を展開してこちらを睨んでいた。なんとなくだが、眼が笑っているように感じた。偽りの勝利でも確信しているのだろうか?


 そうしている間にも、魔法陣の前から現れた火球は徐々に大きさを増していき、ついに発射態勢が整ったようで、最後に大きな咆哮を上げてナタクに向かって火球を打ち出そうとしていた。



「さて、いい感じに大きくなったので、やるとしますか。ほいっと!!」



 そう言って気の抜けた掛け声と共に、先ほど飲みきったポーションの空瓶を今まさに打ち出そうとしている火球めがけて投げつけた。


 噴射型のブレスだったらこうはいかないが、放たれた空瓶は吸い込まれるように炎球に飛んでいき、発射のタイミングぴったりで火球に着弾するとサンドティガーの目の前で大爆発を巻き起こした。


 無論、爆発の目の前にいた奴は無事であるはずもなく、全身を自身がつくった炎に焼かれて苦しそうに叫びながら転げまわっている。



「よく理解していない大技を、いきなり本番で使おうとするからそうなるのですよ。その亜種特有のブレスは、着弾型の火球を打ち出す特殊な物でしてね。最初に衝撃を与えた物の場所で爆発するのを、どうやらちゃんと解っていなかったようですね。


 まぁ、今は火達磨になっていて、こちらの話なんて聞いてないでしょうけど。それより、全身が弱点状態のうちに攻撃でもさせてもらいますか」



 そう言ってニコニコしながら近づくと、ナタクは集中して奴の右後ろ足の腱を狙って大降りに攻撃を仕掛けた。この状態の間に少しでも機動力を削ぐつもりなのだ。暴れまわるサンドティガーに巻き込まれないよう慎重に、尚且つせっかくのチャンスを無駄にしないためにもできるだけ早く腱の切断を試みる。いくら攻撃力が低いとは言っても、両手で振れる武器を装備しているのだから間に合うはずと、一心不乱に刀を振るい続けた。


 暫くすると、サンドティガーの炎も消え。全身火傷塗れの痛々しい姿をした状態でその場に起き上がった。さっきまで固執に斬り付けていた右後ろ足を引きずっているところを見ると、どうやら腱は無事に切断できたようだ。



「う~ん、ここまで火傷が酷いと皮素材は期待できそうにありませんね。あ、でもこのタイプの魔物は倒すと灰になって消えてしまうんでしたっけ。じゃあ、気にしなくてもよさそうですね」



 これで奴の攻撃で“ブレス以上”に厄介であった機動力を活かした攻撃を潰すことができたのは非常に大きい。見た目の傷は確かに痛々しいものであるが、そもそも今はナタクの攻撃力はかなり低いので、ダメージ自体はそれほど入っていないはずである。しいて言うなら、先ほど誘発させた炎によるダメージと、部位破壊による右足の損傷が精々誇れるダメージになるだろう。


 ナタクが余裕をもって対峙しているため、楽勝のような雰囲気をかもし出しているようにも見える。しかし、実際はひたすら相手を怒らせて思考を鈍らせ、できる限りの手の内を探る作業をしているだけなのだ。


 先ほどポーションを飲めたのでかなりスタミナは回復できたが、残り1分見事に攻撃をかわし続ける事ができるかは、正直際どいところである。



「こんな事なら3分ではなく、2分と言っておけばよかったですかね。まぁ、格好付けたぶん最後まできっちり働かせてもらいますけどね」



 そう言って、ナタクは刀を構え直すと、再度魔物に向かって攻撃を仕掛けていった。特殊攻撃は引き出せたので、後は少しでも攻撃パターンを引き出す作業へと移行する。今度はなるべく奴の近くで暴れ回ることによってモーリスの判断材料を増やし、彼の生存率上げることを念頭に立ち回る。


 あちらも、ナタクが突っ込んできたことに気がつき、すでに考えることを止めた様に怒り狂いながら大振りな攻撃を繰り出して反撃を試みてきた。


 その一つ一つの攻撃に、もし掠りでもすれば今のナタクでは瀕死になる可能性すらあるので慎重に、そして時に大胆にと相手に動きを読まれない様に丁寧に対処していく。


 時には回避スキルを使って大きく躱し、またある攻撃には刀を上手く扱い受け流し、刀を返しそのままカウンターを再生能力を失った箇所へと叩き込む。


 他にもスキルを使用しないで体捌きだけを使って攻撃を捌ききる彼の姿は、まるで刀を使った演舞をおこなっていると感じさせる程、洗練されたその動きは美しかった。それを、彼は下級職のスキルと持ち前の判断力だけで体現させて見せている。これを見せられて、彼が今だフィジカルLv1であるとは、誰も信じはしないのではないだろうか。


 軽快に相手を翻弄しながら動き回っていたナタクではあったが、どうやらそろそろ限界が近いようであった。スタミナの残りも僅かで、先ほどから足取りもかなり重たく感じていた。残り時間を確認している余裕がないので分らないが、たぶん後10秒足らずでスタミナが切れ、自分は動けなくなるだろう。それでも、約束を守るため、ナタクは全力で動き続けた。


 そして、サンドティガーの大振りの引き裂き攻撃を躱そうとしたところで、ついにスタミナが切れてしまい、ナタクの足が止まってしまった。だが、最後まで諦めることなく相手を見据え、刀を構えを解くことはしなかった。



 そこに無慈悲に近づく豪腕を視界に捕らえながら、それでもナタクはその場所に笑みを浮かべたまま立ち続けるのであった。


おっと危ない!(・ω・ノ)ノ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ