第56話 転生7日目1-13
レイドバトルには色々重要な決まり事が存在する。
まずこの世界におけるレイドバトルというのは、通常6人編成で構成されるPT活動を1小隊とし、その小隊を複数集めて共同で目標の攻略を進めるコンテンツの事だ。
ゲーム時代にあったレイドで、もっともポピュラーだったものとして、
まずは2~4小隊で攻略をする小規模レイド。
こちらは主にボスモンスター攻略などで多く存在していた。またレイドの中でもダントツで多いコンテンツだったため、必ず一度はこれを経験したことのあるプレイヤーが非常に多かった。
次に5~8小隊で攻略する中規模クラスのレイド。
こちらは主にPvP(プレイヤーVSプレイヤー)のイベントなので多く開催され、クラン同士の抗争や街エリアでの攻防戦などのイベントで多く編成されたものになる。中規模クラスといっても参加人数が多いため、中々統率を取るのも難しいので、ゲームになれてきたプレイヤー達が好んで参加していた人気コンテンツだ。
最後に10小隊以上で攻略にあたる大規模レイド。
このクラスになると国同士の戦争や攻城戦、魔物の集団暴走など、巨大なフィールドのいたるところで戦闘が繰り広がれるものが殆どとなる。こちらが開催されることは非常に稀なのだが、一度始まるとプレイヤー達が挙って参加するため、とても迫力とスリルを体験できる一大コンテンツとして、こちらも人気も高かった。
今回はこの中の小規模レイドに該当する事になる。
次に小隊での役割についてだが、メジャーなところを上げていくと、
【盾役】
PT戦闘において、敵のターゲットを取り続けて相手の攻撃のほぼ全て引き受ける役職がこう呼ばれる。タンクには高い防御力と判断力に優れた者がつくことが多く、彼らが崩れるとPT全体が崩壊しかねないので、PT編成における重要なポジションと言える。今回うちのPTではモーリスが担当することになる。
また、複数のPTでボスなどと戦う時は、ボスのターゲットを保持し続ける人を“メインタンク”、取り巻きのユニットのターゲットを取る者を“サブタンク”などと呼ばれ、それぞれ役割を分担して戦闘に矜持することもある。
【回復役】
名前の通り、PTの生命線である回復の担当者のことだ。主に怪我をしたプレイヤーの治療を担当し、PTでの戦闘を支える要とも言える職業だ。回復手段も数多く存在し、魔法を使ったものやポーションなどの薬剤を使用した職業などもヒーラーとしてゲーム時代に活躍していた。今回はアメリアがこのポジションを臨時で担当してくれることになっている。本来彼女の職業は戦闘向きなのだが、相性の関係でサブの錬金術師の方を使ってサポートしてくれるようだ。
【攻撃役】
こちらはPTでもっとも人数が多い役職で、攻撃を専門におこない敵にダメージを与えていく役職になる。このアタッカーには複数の種類が存在し、まず剣や槍など直接敵に近づいて攻撃を仕掛けていく“近接アタッカー”、弓や銃など離れたところからの攻撃でダメージを与える“遠距離アタッカー”、攻撃魔法を使用する“魔導アタッカー”などが存在する。この中の近接アタッカーをナタクが、遠距離アタッカーをアーネストが担当する予定だ。
【支援役】
こちらは主に仲間への支援や、敵に対して妨害工作をおこなうことで、PTでの戦闘をスムーズにいく様立ち回る者がこう呼ばれる。こちらも魔法職や戦闘職など様々な職業がこのポジションに付く事があるのだが、今回はアキナがここを担当しながら他の役割を兼任することになる。
次に、先ほどナタクとアキが話し合っていた役割分担についてだ。こちらはPT戦闘の役割を超えて、他の小隊と連携を取るためのものになる。
まずアキナの言っていた『指揮官』とは、レイドバトル全体を見極めて各部隊に適切な指揮を飛ばす、レイドチーム全体の頭脳と言えるポジションのことだ。なので殆どの場合レイドチーム全体で1人しか担当することができず、通常レイドバトルにおいてもっとも重要なポジションとなってくる。
また時には自分の職業の役割を同時におこなわなければいけないため、このポジションの者の力量しだいでレイド全体の難易度が変わるともさえ言われている。
そのため、このポジションに就く者は請け回りではなく、専属でそのレイドチームの指揮を担当し技術を磨いているケースが非常に多い。ナタクも何度か経験させてもらった事もあるが、あまりの情報量と責任に、正直自分から進んでこのポジションには就きたくないとさえ思ったほど、慣れるまで非常に難しかった。
だが、たまに勇者様(笑)を抱えているレイドチームで何度も見当違いな指示を出してチームを敗北に送り続けるところも存在するのだが、そういったところにはチームが解散するか、自然と『参謀』という特殊なポジションを設け始めて対応しているケースがよくみられた。ちなみに、こういったレイドチームはゲーム時代“接待レイド”と言われていた。
ただ中・大規模なレイドバトルになってくると、代表チーム以外の複数のレイドチームの指揮官を参謀として起用するケースもあるので、参謀がいるからと言ってけして弱いチームと言うわけでもない。
次にナタクの言っていた『遊撃隊』だが、言葉の通り『ある時には攻撃を』『ある時は敵の注意を引いて攻防の支援を』『ある時は撤退の手助けを』など状況によって様々な役割をこなすポジションとなる。このポジションはナタクが戦闘職のメインにしていた侍系統の職業と相性が非常に良かったので、ナタクも好んでこのポジションについていた。所謂戦場の何でも屋だ。
このポジションに様々な職業の特性を把握できている者がつくと、各ポジションのポテンシャルがかなり上昇し戦闘効率が上がるので、いかに上手く戦場を動き回れるかが試されるポジションになる。
他にも、様々な役割が存在するが、それはまたの機会に話すとしよう。
今回、普通にこのまま戦闘をすればモーリスが“コマンダー”の役割を兼任することになっているのだが、ゲーム時代の知識を持っていて敵の特徴を良く理解しているナタクかアキナがその任に就いた方が被害が少なく勝利をすることができるはずなので、上手くコマンダーを譲ってもらえるように交渉する必要性があった。ただモーリスは責任感が強そうなため、素直に譲ってもらえるとはあまり思えないので、そのためにある賭けに出る必要がありそうだ。
「アキ、サンドティガーの攻撃パターンは全て覚えていますか?」
「はい!亜種でボス化した個体の物も全て把握しています。確か、亜種は炎系のブレス攻撃が追加で増えましたよね」
「正解です。それでそのブレス攻撃ですが、炎を吐き出すというわけではなく、魔法で言う“ファイヤーボール”の様な何かに触れると大爆発して、辺りを燃やし尽くすタイプのものを使用してきます。それ以外はほぼ通常の個体と同じ攻撃パターンのはずです」
「了解です。他に注意することはありますか?」
「キメラの特徴も併せ持つということですけど、正直一回戦ってみないと解りませんので、ここは一つ賭けに出てみることにします。それを良く見て分析してみてください」
「・・・・先生、いったい何をするつもりですか?」
「ちょっと、あそこにいるネコちゃんに一人で喧嘩を売ってこようかと思います。アキにはそこで得た情報をレイドチームに伝え指示を出してあげてください。
さっきも言った通り、俺はコマンダーが苦手でしてね。ダメージも殆ど見込めないので、それなら情報収集に全力を注ごうかと思いまして」
「駄目です、いくらなんでも危険すぎます!先生、ここはゲームとは違うのですよ!!」
「アキ、声が大きいです。勿論ゲームじゃないことも解っています。ですが、ゲームじゃないからこそ俺が行くべきなんです。俺でしたら、まだ見ぬ新種の魔物以外、殆どの魔物の挙動を理解していますので、回避し続けることが可能です。
ですが、全員でこのまま本格的に戦闘になってしまったら間違いなく死人が出ることでしょう。いくらレベルが高くても初見では対処できない事もありますからね。
その分、俺一人ならある程度の時間は対処し続けることが可能なはず、そうですね3分です。3分間だけ一人で戦わせてください。
その間に殆どの攻撃パターンを引きずり出してみせますので、俺を信じてください。これでも女神様が認めるほどの“ハイジン”プレイヤーだったんですよ。必ず無傷で帰ってみせます」
「・・・・それでも、やっぱり私は先生に戦ってほしくありません。だって、私達はまだ、戦闘面を何も上げていないんですよ」
「そこは見習いの職業で感謝ですね。この職業なら下級職業のスキルを借りて使うことができますから、下手な中級職よりも上手く立ち回ることができるはずですよ。それに、あくまで攻撃パターンの分析と攻撃方法の模索をするだけですから、安心してください」
「ですが私は・・・「ナタクさん、大きな声を出してどうしたんですが。流石にあまり騒ぐと気づかれてしまいますよ」・・・」
「モーリスさん、いいところに。今からあそこの虎の攻撃パターンを分析に行こうと思いましてね。それでお願いがあるのですが、俺がその役割を請け負う変わりにここにいるアキに『指揮官』のポジションを預けてくれませんか?彼女は優秀な人材なので必ず上手く導いてくれるはずです」
「なっ!いくらなんでも危険すぎます。流石に許可はできません。私は領主様に“あなた達”も含めてしっかりお守りするように任されているのですから」
「ですが、このまま情報も無しに全員で戦えば間違いなく死人が出てしまいます。もしかしたら全滅もありえるかもしれない。流石に、もう煙幕だけでは逃がしてくれないでしょうしね」
「それならせめて援軍が到着するまで待って・・・・」
「あいつを見るまではそれがいいと思っていたのですけどね。あの魔物、三段階状態が変化するのですが、現在は状態一の“変化”の段階で止まっていますが、進行早いようでもう少しで状態二の“進化”の段階に移行しそうなんです。
だいたい猶予は一時間程でしょうか、ちなみに“進化”まで進んでしまうと、街が崩壊する可能性すら出てくるほど危険な魔物に変わってしまうので、できれば今のうちに叩いておきたいんです」
「もし、三段階目になったらどうなるのですか・・・・」
「そこまでいくと国が滅びかねません、それほど危険な魔物だとお考えください。ですが、今ならまだ戦い方さえ判ればこの人数でも倒せる可能性が非常に高いのです。それに、アキなら奴の攻撃パターンを上手く分析してきっと上手く指示を出せるはずです。正直、モーリスさんも未知の魔物を相手をしながら周りに指示を飛ばすのは難しいでしょ?彼女なら適任です」
「でしたら、せめて私が!」
「モーリスさんはこのレイドチームの要である“メインタンク”です。あなたが先に潰れたらそれこそお終いですよ。なので、行かせてください。大丈夫、死ぬつもりはありませんから。こう見えても戦闘面にもそれなりに自信もありますし、俺なら大抵の攻撃は予想して回避することが可能です。
それに、ナイトなら味方に向いている敵対心を全て引きつける事のできる、スキル『アンカー・デスティネーション』は使えますよね?」
「えぇ、確かに使えますが・・・」
「でしたら問題ありません。3分です、その間だけできる限り立ち回って相手の攻撃パターンを引きずり出しますので、アキと一緒にそのパターンを覚えて参考にしてください。流石に俺はモーリスさんのように盾で受け流したりはしませんが、参考にはなるはずです」
「ですが、せめて援護くらい・・・・」
「そうすると、ターゲットが外れてよからぬ事故を誘発しかねません。それより一人で立ち回った方が安全なので、触らないでもらえた方が助かります」
「・・・・解りました。納得はできませんが、その覚悟はしかと受け取りました。危なくなったらすぐにでも助けに飛び込みますので、先鋒お願いします」
「モーリスさん!なんで止めないんですか!?先生どうか考え直してください!」
「アキ。大丈夫です、任せてください。あなたが先生と呼んでくれた男の、格好いいところをご覧に入れますので、安心して見ていてください」
そう言ってアキナの頭を優しく撫でた。やはりアキナは納得できていないのだろう。確かに現在フィジカルはLv1だし、戦闘スキルも全くといっていいほど発現していない。不安になるのも当然かもしれない。
(それでも、一番可能性があるならそれに掛けてみたいじゃないですか!)
「先生、必ず。必ず無事に乗り切ってくださいよ。もし死んじゃったら私、承知しませんからね!」
「おぉ、それは恐いので是が非でも生き残るとします」
そう言って笑ってみせると、アキナもぎこちなくだが笑顔を返してくれた。
(さて気合も入ったし、いっちょ暴れてくるとしますか!)
「ではモーリスさん、アキ。後は頼みましたよ。俺はこの時間で全力を出し切ってきます」
「解りました。でも、危なくなったら必ず助けに入りますので、くれぐれもご無理はしないでください」
「先生!3分間だけですよ。それ以上は許しませんからね!!」
「えぇ、ではその時はよろしくお願いします」
そう言って2人の元を離れて、件の虎の前まで歩みを進める。どうやら奴はまだ食事に夢中のようだ。
目の前まで歩いていくと、流石に気がついたのかこちらを睨みながら大きく咆哮を一度かましてきた。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAOOOOO!!!!!」
「随分と良く響く鳴き声ですね、迷いネコさん。それでは、せっかくですので俺も自己紹介をさせていただきましょうか」
一呼吸置いて鞘から刀を引き抜き、正面で構えて高らかにこう名乗り声を上げた。
「クラン:ユグドラシル所属。遊撃部隊筆頭剣士、『剣聖』 那戳。いざ参る!!!」
さて、ひと暴れさせてもらいますか!(`・ω・´)




