第53話 転生7日目1-10
「さて、それではワシもいったんギルドに戻って、薬剤の準備でもさせておくとするかのぅ。出発する時に必ず錬金ギルドに寄るんじゃぞ」
「ばあちゃんありがとう。必ず寄るよ」
「クロード、参の間まで許可をする。用意ができたら城の訓練場まで全員連れて来い、私も準備が出来たらすぐに向かう」
「畏まりました。それでは、皆様。武具の飾られております部屋まで、ご案内させていただきます」
クロードの案内で部屋を後にして、歩くこと数分で目的の部屋まで到着した。てっきり先ほどの部屋に案内されるかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「こちらも、旦那様のコレクションルームになっております。許可は得ておりますので、どうぞ好きな物を手にとってお使いください」
やはり良いものは分けて置いてあったのか。中を見せてもらうと、確かに先ほどより等級の高い物や珍しい装備の数々が部屋には飾られていた。せっかくのご好意だ、色々見せてもらうとしよう。ただ、職業がまだ“見習い”なので、あまり等級のいい物を装備することができないのが非常に残念であった。
職人目線から見せてもらっても、ここにはかなり良い品揃えられており、正直見習いでなければ是非使ってみたい装備も数多く揃えられていたが、今の自分には『宝の持ち腐れ』もいいとこなので、ぐっと堪えて今必要な物だけを装備してゆく。
武具のコレクションが趣味と言うだけあって、この辺りでは珍しいはずの武者鎧まで置いてあったので、今回はそれをいくつか組み合わせて装備していくことにする。本当はフルセットで装備したいのだが、今だと重量に耐え切れなさそうなので、『鉢金』『革の胸当て』『小手』『脛当て』『戦闘職用のアクセサリー』を装備させてもらうことにした。これだけでも装備重量がギリギリだったので、そろそろ本気でフィジカルを上げることを考えた方がいいかもしれない。
ここで携帯型ドレッサーを使う訳にはいかないので、取り敢えず装備は机の上に置いておき、後でまとめて着替えることにする。他のメンバーだが、アーネストは狩人系の装備を、アメリアは動きやすそうな格闘家系の装備、そしてアキナは忍者系統の装備をそれぞれ物色しているようだ。
それで武器に関してなのだが、ここにある物では等級が高すぎて上手く扱えなさそうだなと困っていると、そういえば最初に案内された部屋に置いてあった刀のことを思い出したのでクロードに聞いてみることにした。
「クロードさん、最初に通された部屋にあった刀が使いたいのですが、取りに行ってもいいですか?」
「刀・・・・でございますか?あぁ、東方の両手剣のことですな。それでしたら、こちらにも何本かございますが、そちらはいかがでしょうか?」
「いえ、今の俺の腕ではここにある武器は分不相応で扱いが難しそうなのです。それよりも、あちらの部屋にあった刀の方が扱いやすそうだったので、できればあれを使わせてもらいたいのですよ」
クロードの言う通り、この部屋には他に刀が二本置いてあり、どちらも素晴らしい一品であったが、やはり必要な筋力が足りていないため、とても振り回すことは難しそうであった。そもそも、サブ職業は器用さばかり上げていたため、筋力は見習いで上げた+9しか加算されていなかったのだ。一応、ここに置いてあったアクセサリーで底上げはできるのだが、ギリギリ過ぎると今度はスタミナの消費が激しくなってしまうので、選択の難しいところだ。その点、あそこの部屋に置いてあった刀ならば攻撃力は落ちるだろうが、無理なく扱うことが可能であろう。
「畏まりました。でしたら使いを出して取りに行かせましょう。確か、あそこには一本だけでしたので、間違うこともないでしょう」
「ありがとうございます」
「いえいえ、装備が選び終えたら、別室に着替えるためのお部屋をご用意いたしますので、お声をかけてくださいませ」
「それなら、さっそくお願いします。武器以外はもう選び終わっているので」
「左様でございますか、それではこちらでございます」
他のメンバーはまだ装備選びに時間がかかっているようなので、先に別室へ行って着替えさせてもらうことにした。案内された部屋で一人になれたので、すぐに携帯型ドレッサーで普段着に着替えを済ませ、選んできたアイテムをその上に装備していく。普段着からして侍の様な服装をしていたため、選んだ装備を更に追加で身に着けていくと、まるで合戦場にいる武士の様な出立ちとなっていた。
「やっぱりこういった格好も落ち着きますね。まだ、完全に侍系の装備をフルで着る事はできませんが、それは中級職が発現するまで辛抱しますか」
ちなみにゲーム時代はネタ扱いされていたが、見習いは下級職ならばどの職業の服装も一応装備することができるというメリットもある。現在、ナタクが装備しているのは下級職業である“剣術家”という剣士の派生職業のモノになるが、これは中位職である侍の前提職として用意されているもので、下級職業ながら幾つかの侍の装備と技を少しだけ使える変り種の職業である。普通に剣士の装備でも良かったのだが、ゲーム時代は侍の上位職を戦闘職のメインとして選んでいたので、これが一番動きに自信があったのだ。
着替えが終わり暫くすると部屋の扉がノックされ、招き入れるとクロードが頼んでいた刀を持ってきてくれた。
「お待たせいたしました、こちらでお間違えございませんか?」
「はい!これですね。ありがとうございます」
刀を受け取ると、それを左の腰にセットすれば装備の完成である。二本差しにできないのは残念だが、仕方がない。職業の関係上、等級の高い装備で身を固めることはできなかったが、それでも中々の性能を持ったアイテムを身につけることができたので、非常に満足である。
「ほぉ、とても良くお似合いです。刀とはそういった服装で使われるのですな」
「そうですね、これは東方の国で活躍する“侍”という戦士職の専用装備になります。レベルの関係上フルセットで着ることができなかったのが非常に残念ですが、それでもかなり上質な装備のおかげで性能はだいぶ良さそうですね。流石は領主様の目利きですね」
「それを旦那様が聞かれたら、さぞお喜びになるでしょう。それでは、皆様が揃うまで暫くこちらでお待ちください。私は他の方のご様子を確認してまいりますね」
そう言って、クロードは部屋を後にしていった。一応刀を鞘から抜いて刀身のチェックをしてみたが、特に問題なさそうだ。等級こそそれほど高くはないが、とても丁寧な仕事ぶりが細部に見て取れる。時間があれば柄を外して色々調べてみたかったのだが、今はやめておこう。鑑定で名を調べてみたが、ただ『鋼の刀(高品質)』としか表示されないし、作者の名前も表示はされていなかった。
刀身を鞘に収めて他の装備のチェックをして待っていると、再び扉をノックする音がしてクロードが部屋の中に入ってきた。
「ナタク様お待たせしました。皆様の準備が整ったご様子なのでこれから訓練場の方へご案内させていただきますね」
「解りました、お願いします」
そう言って部屋の外に出ると、他のメンバーも戦闘職の服装に身を包んで廊下で待っていた。
アーネストは先ほど着ていた服装に革の胸当てと狩人用の特殊な革手袋、それに脛当てに新しいブーツと、かなりの軽装をしていた。そして、背中には強弓に分類されるミスリル合金で作られた西洋弓を背負っていた。矢筒が見当たらないところを見ると、指輪型のアイテムボックスか何かに全て収めているのだろう。軽装をしているが、決して誰もこの人を弱そうとは言わないであろう、そんな凄腕の狩人のオーラを纏っていた。
アメリアも戦闘用の服装に着替えたようで、普段着よりはまだ布の面積が多いが、きわどいスリットの入った服装をしていた。腰には何時ものポーションホルダーが巻かれており、唯一防御力があるとすれば、かなりしっかりとした作りのガントレットと、金属パーツが多く使われているロングブーツだけだろう。せめて胸当てぐらいは装備すればいいのに・・・・。と言うか、随分と綺麗な回し蹴りだとは思ったが、彼女はどうやら“格闘家”系統の職業の持ち主だったようだ。
そしてアキナだがこちらもかなりの軽装で、普段着の上に革の胸当て、それと革製の小手と脛当てが追加で装備されており、腰のベルトには短剣が2本吊るされていた。そういえば忍者刀は残念ながら置いてなかったので、短剣で代用したのであろう。たぶんだが、アキナは下級職業の下忍の装備を選択したんだと思う。あの職業は主に忍術を使ったデバフを主として戦うので、防御力より動きやすさを優先したのではないか。しかし、何時の間に用意したのかスカートの下にはスパッツがしっかり穿かれていた・・・・何がとは言えないが、ちょっと残念だ。
「先生は、また一段と似合う格好をしていますね。侍装備って下級職でできましたっけ?」
「いえ、これは剣術家の服装を侍寄りにアレンジして着ているのですよ。“あちら”では戦闘職は侍系統を選んでいたので、一番動きに自信があったので。でも、今回はサポートメインで同行しますので、戦闘には殆ど参加できないと思いますけどね。それでも、もし戦わなくてはいけなくなった時のために、一番動きやすい服装を選択させてもらいました」
「私も下忍の服装を考えてみたのですが、殆ど下級職のスカウトと変わりませんね。一応、回避とデバフをメインに動けるように装備を選んでみました。いい装備が多かったですが、レベル的に選べないのが多かったですから、どうしても軽装になってしまいましたよ。ちなみに、スパッツは装備を作った時に一緒に用意していたのですが、まさかこんなに早く使うとは思いませんでしたよ」
「・・・・成程。そういえば、アメリアさんは“格闘家”系統の職業をお持ちだったんですね。先ほどの綺麗な回し蹴り、納得しました」
「ふふ~ん♪私の戦闘職は中級職の“拳闘士”さ!まぁ、そのせいでガントレットとブーツ以外の装備はできないんだけどね。元々は護身用に体術習っていたのだけれど、領兵の訓練に混ざってやっているうちに、はまってしまってね。いつの間にか対人戦闘に特化したこの職業が発現していたというわけさ。まぁ大型の魔物相手じゃ、相性が悪くてあまり戦力になれそうにないんだけど、今回はしっかり医療スタッフとして頑張るさ」
これには素直に驚いた。まさか格闘家ではなく“拳闘士”だったとは・・・・
この職業はユニークほどではないものの、中々レアな職業で発現するのが難しい職業だったはずだ。確か条件が、『素手の状態で同レベルの相手を200人ほど殺さず戦闘不能状態にする』だったか。
主に対人型の戦闘をメインに考えられた技を多く持ち、自己回復能力も高いせいで、対人型との戦闘であれば単騎で戦場に突入しても涼しい顔をして暴れまわることができるポテンシャルを持つ職業の一つだ。ただ、中級職の時はまだ大型の魔物などはあまり得意ではなく、ダメージが入りづらいという欠点もあるので、今回は相性が悪いのも確かだと言える。
知り合いにもこの職業の上位職をメインにしている者がいたが、正直一対一では絶対戦いたくない相手の一人だった。ちなみに、その人は元プロボクサーだったが・・・・
本当に、この前襲い掛からなくてよかったと心の中で思うナタクであった。
あぶないあぶない・・(A;´・ω・)




