第52話 転生7日目1-9
「クロードさん。折り入ってお願いしたいことがありますので、耳を貸していただけますか?」
「はて、私めでございますか?どの様な御用件でしょうか?」
「はい、実はここに“丁度”使い道のなかったポーションがあるのですが、効果を試すのにうってつけの人物がここに居られるので、競売に出す前に、一度検証実験をしてみようかと思いましてね。ご協力願えませんか?」
そう言って、ナタクはインベントリから先ほど返してもらった等級2『四肢特化型・再生のポーション』を取り出して、クロードへと見せた。
「なっ!!本当によろしいのですか。それだけでもかなりの資産になる物ですよ!それを・・・・」
「俺はただ使い道のなかった薬剤に役目を与えるだけです。先ほどの商談でかなり儲けさせていただきましたし、そのお礼みたいなものとお考えください。それに、アーネストさんの家族にはこの街に来てから大変お世話になっていますしね。何より『救える手段と方法があるのに見て見ぬふり』をするのは、俺の行動理念に反するのですよ。
勿論全てを救う事はできませんが、せめて知り合いの幸せぐらいは守ってあげたいじゃないですか。お金なんてまた稼げばいいのだから、ここは気持ちよく使ってしまいましょう」
「あなたと言う人は・・・・。承知いたしました。それで、私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「このポーションを自然な感じで全てアーネストさんに飲ませたいのですが、上手くお茶だと言って飲ませることはできないでしょうか?正直に話せば、素直に飲んではくれないと思うので。
ちなみに、このポーションは特に変な味はしないので、お茶だといえば気づかれないと思います。記憶が正しければ、寧ろフルーツティーのような味わいのはずです」
「畏まりました。それでは私にお任せください、必ずや全てをあのお方に全て飲ませてみせましょう」
そう言ってポーションを受け取ってもらうと、クロードは隣の部屋へと下がっていった。どうやらひと芝居打つための準備をしに行ったようだ。
アレックス達の方を見ると、まだ大いに揉めているようであった。アーネストは少しでも早く娘を探しに行きたいようで、それをアレックスとモーリスで抑えている感じだ。
「何も、手を貸さないとは言っているわけではないのだから、もう少し落ち着いてくれ。俺もお前の娘のことは良く知っているし、助けてもやりたい。ただ、現状でできる手はそれなりに打っているのだから、少し結果が出るまで待ってはくれないか?」
「アーネストさん、落ち着いてください。いくらあなたが強いからといって、その足では森の中を歩き回るのは困難です。我々もできる限り力になりますのでどうか堪えて下さい」
「足が悪いのは俺が一番承知している!それでも、俺は娘が心配なんだ。あの子は、俺なんかのことを誇りに思ってくれて、『弓を引き継ぐ』と言って冒険者になったんだ。俺はそれが嬉しくて、アンジュの反対を押し切って・・・・。くそっ!俺が弓なんかを教えなければ、こんな事には」
「あなたの事は私や家族の皆も慕っております、どうか御自分を責めないでください。旦那様お願いです、アーネストさんの代わりに私を捜索に向かわせていただけませんか?
私も妹になる彼女の事が心配です。それに、私であれば多少の無理をしてでも救い出すことは可能だと思いますので」
「う~む、お前は王都への護衛にと思っていたが、やむを得ないだろう。私も出発を少し遅らせて対応させてもらおう。親友なのに、ずっと一緒にいてやれなくてすまないな。ただ、できる限りはやらせてもらうからな」
「いや、本当にありがとう・・・・無理を言ってすまない」
「なに、私とお前の仲だ。気にするな!モーリス、小隊を二つお前に預ける。すぐに手の開いている者を集めて訓練場に集めておけ。準備が出来次第俺もそっちへと向かう!それと冒険者ギルドにも連絡を出しておけ。できれば、あちらの情報も仕入れておきたい!」
「は!畏まりました。旦那様、ありがとうございます!!」
そう言って嬉しそうにモーリスは部屋を出て行った。それと入れ違いに、今度はカートを押しながらクロードが部屋へと戻ってきた。実にナイスなタイミングである。
「旦那様。皆様も喉が渇いてしまっているだろうと思いまして、冷たいお飲み物をご用意させていただきました」
「そうか、すまないな。私は後でいいから皆に先に振舞ってやってくれ」
「畏まりました。それでは、お席にお持ちしますので座ってお待ちください。ささ、アーネスト様もこちらへどうぞ」
「クロードもすまない、気を使わせてしまって・・・・」
「何を仰いますか、お嬢様を思う気持ち痛いほど伝わってまいりました。顔色もだいぶ優れないご様子、こちらは疲労回復と精神安定に良いといわれる特別な茶葉になっておりますので、是非お試しください。多少即効性もあるそうなので、一気に飲み干すことをお勧めさせていただきます」
「ありがとう、そういえば昨夜から何も口にしていなかった・・・・頂くよ」
「どうか、ご自愛下さい。あなた様まで何かあったら、皆様がさらに悲しまれてしまいますよ」
そういって、クロードが液体の入ったグラスをアーネストに手渡すと、彼はそのまま全てを飲み干した。
(あっ、クロードさんがウインクしている。どうやら飲ませることには成功したようだ)
『錬金術師の眼鏡』を掛け、さっそくアーネストを観察してみると、体内の魔力が活性化していることが直ぐにわかった。さぁ、ここから一気に変化が起こるはずだ。
「本当に身体がなんだか軽くなった気がする。クロードありが・・・・なんだ!足と腕が急にうずきだし・・・・」
観察を続けると、魔力の塊が損傷しているであろう腕と足に集まり始めて効果を発揮し始める。確か痛みは感じなかったはずなので、ただ不思議な感覚を味わっているだけのはずだ。ここで、周りの人達もアーネストの状況に気が付いたようで、次第に皆慌て始めた。
「アーネスト!これはいったい・・・・・まさか、クロードお前あれを飲ませたのか!!」
「おぉ、魔力の活性が凄まじいね。これがあのポーションの効果か」
「坊主がまたやらかしたね!少し目を離すと直ぐこれじゃ!!」
「先生!これはいったい・・・・」
「アーネストさん、初めましてですかね。一週間前からあなたの宿屋でお世話になっている那戳と申します。いつも美味しい食事をありがとうございます。毎日、とても楽しみにさせていただいてますよ。それで、今日はそのお礼に俺からの“ちょっと”したプレゼントです。
現在、再生のポーションの影響で多少違和感を感じるかもしれませんが、直に収まりますので、そのままお待ちください。すぐに、あなたの腕と足を元気だった頃の状態まで復元させていただきます」
「いったい・・・なにが・・・・」
そのまま魔力の活性化は進み、暫くするとそこには反対側の足と比べても遜色のない『立派な右足』が存在していた。
「魔力の活性化も落ち着きましたね。足もちゃんと再生されたみたいでほっとしました。聞くところによると左腕も痛めていたようですが、動かして違和感などはございませんか?」
「俺の足が・・・『右足』があるだと!?それに左腕?確かに、常にあった鈍い痛みが嘘のように消えている。俺は夢でも見ているのか?」
「問題なさそうで良かったです。場合によってはある程度筋力が衰えた状態で復元されることがあるのですが、左腕の状態がまだ良かったので、その分を筋力増強に使えたようですね。一応、このスタミナポーションも飲んでみてください。きっと本調子の状態まで、身体が戻せるはずですよ」
「あぁ、ありがとう・・・・ってこれは夢じゃないのか!なんで俺の身体が治っているんだ!」
「アーネスト。そいつは今日、私と商談をしに来ていた凄腕の錬金術師だ。その再生ポーションを作った張本人でもある。私が買ってお前に飲ますはずが・・・・先を越されてしまったか」
「『必要な時に、必要な方へ』薬という物はそうあるべきです。他に違和感などはありませんか?」
「・・・・いや。寧ろ痛みが全く無いことに違和感に感じるくらいだ。本当に俺の身体は治ったのか?」
「診察してみた感じ特に悪そうなところもありませんね。無事に治療が完了したと思って良いでしょう。これで、アテナさんの救出に行くことができますね。俺も、魔物にはだいぶ詳しいのでお手伝いしますよ」
「っ!確かにそうだ!アレックス、俺もモーリスに同行させてもらっていいか!」
「・・・・あぁ、もう好きにするといい。まったく、母上の言う通り、本当にちょっと目を離すととんでもないことをやってのけるな、君は。アーネスト、どうせ装備は持ってきていないだろ。私のコレクションから好きな物を、好きなだけ持って行け!同行できないせめてもの侘びだ!」
「何から何まで本当にすまない。この借りは必ず何かしらで返させてもらう!クロード、部屋まで案内してくれ。それにナタクと言ったか、本当に君には感謝をしてもしきれない。後で、何でも言ってくれ。俺にできることなら何でもやろう!」
「そうですね、それでは料理の腕を見込んで、今度色々お願いをしに行くことにしますね。できれば、俺達の故郷の味を再現して欲しいので」
「そんなことでいいのか・・・・。いや、今はそれどころではなかった。とにかく礼はきっちりさせてもらう。本当にありがとう」
「いえいえ。それと俺も娘さんの救出にも同行させてもらいますね。先ほども言いましたが、魔物にはかなり詳しいので。きっとお役に立てると思いますよ。それに、俺も一度アテナさんには会っていますからね、知り合いがピンチならばお手伝いさせてください」
「私も先生と同行させてください。戦闘の情報収集管理は得意ですので、きっとお役に立ってみせます!」
「それじゃ、私も行こうかな。ポーションも結構持ち歩いているから、何かあった時の治療スタッフとしても動けるからね」
「すまない・・・・本当にありがとう」
「・・・・まったく。それでは、君達も必要なら装備を好きに持っていきたまえ。どれでも好きに使って構わん。ただし、壊してもいいが必ず生きて帰れ。それだけは約束しろ!
それと、アメリアはパパと「父上、だいっきら・・・」気をつけて、本当無理はするなよ!ただ、流石にアメリアの戦闘参加は認めんからな。同行はあくまで医療スタッフとしてだぞ!」
よし、領主様の許しも得た事だし、それではアテナさん救出作戦の準備へと取り掛かりますか!
ほっほっほ♪(`・ω-´)b
ぐっじょぶ♪d(*´Д`*)




