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第50話  転生7日目1-7

 

 結局学校建設と運営についてはまた後日ということになった。これは、砂糖の利益がどれ程出るか解らないので、判断しようがないのだから当然であった。一応利益分配は、純利益を『ナタクが3割』『領主が7割』として話が決まり、学校については利益が確定次第、ナタクと同額かもしくはそれより多い金額を領主が出資することで話がついた。


 なんでも、自身の領内での一大事業に自分が出資してないのは体裁が悪いらしい。まだ大規模な民営学術機関の考えがこの世界にはないのであろう、やはり貴族も大変そうである。


 商談が成立したので準備していた資料を全て渡して、流通の流れから種の管理・栽培の方法などを詳しく説明がナタクによってなされていった。その話し合いの結果、発芽した2代目の苗をナタクが生産し、それを育成する畑は警備の厳重な場所を領主が後で用意してくれることとなった。


 これは、なるべく3代目の種の防犯対策を万全にしておけば、それだけナタクが持ってくる苗の情報も隠匿することができると考えられたためだ。


 次にお米様についてだが、『栽培促進』や『陸穂』のエンチャントがどれほどの効果なのかまだ解らないため、まずはその辺の検証がてら場所を用意するところから始めることになった。ただ、領主的には新しい穀物の登場には助かるらしく、検証で良い結果が出せたなら、すぐにでも人手の手配や宣伝を前向きに検討してくれるそうだ。なんでも、麦の栽培に適さない土地での産業として期待しているらしい。後で芋やトウモロコシ・蕎麦などを研究して提供するのも良いかもしれない。



「坊主や、流石にもう隠し玉はないね?お前さんのおかげで、ワシはもう驚き疲れたよ。これからまだ仕事が山積みだというのに・・・・」


「申し訳ありませんが実はもう1つだけ、これは『テンサイだいこん』を作ろうとした時に一緒に生まれた植物なのですが、食べられるだいこんもご用意してあります。


 こちらも一緒にいかがでしょうか?これがあれば砂糖のカモフラージュにもなりますし、もう食べられない『おバカだいこん』を畑で植える必要がなくなりますよ」


「っ・・・・」


「ばあちゃん、これがナタク君だよ。やっぱり面白いね!」


「ほぅ、それは中々興味があるな。この際だ、そちらの商談も受けようじゃないか」



 (よし、君で最後です!シュウサイ君も行ってきなさい!)



「こちらがその『秀菜(シュウサイ)だいこん』になります。『おバカだいこん』の良い特徴をほぼ全て受け継いでおり、尚且つカブの様な味わいで食べても美味しいだいこんになります。こちらは『テンサイだいこん』と違って、何世代変わろうが『おバカだいこん』に戻ることはないので、いくらでも増やして栽培しても構いませんよ。たぶん、農民の方達はこちらの野菜の方が喜ばれるんじゃないかと思います」


「成程、冬にも収穫できる食料になるのは魅力的だな」


「味は悪くないのかい?さっき見せてもらった資料だとテンサイだいこんは甘苦くてそのままでは食べられないと書いてあったけど」


「この野菜は、成分の関係上そのまま生で齧ると少し辛味を感じる野菜になります。薬味などとしても使えますね。それと一度火を通すと成分が変化して、今度は優しい甘さに変化するので、なかなか美味しいですよ。生のまま食べるのであれば摩り下ろしたものを何かのタレと合わせて使うと味に締りができて美味しいですし、細長く切ってサラダなんかもいいですね。それと、煮た物はスープなどにお勧めです」


「ふむ、それで君はこれにいくらの価値をつける?」


「この商品は1度種を販売すれば増やすことが可能なので、独占は難しいと思います。それに、冬の食料の蓄えとして活かして欲しいので、できるだけ安く購入してもらって多くの土地に拡散させて欲しいのですよ。なので、こちらで領主様が金儲けをしないことを了承していただけるのであれば、無料でご提供しますよ。まぁ、俺の研究の名刺代わりみたいな物です」


「・・・・君は本当に欲がないな。これでも十分商売として成立する物になるぞ?」


「先ほども言いましたが、あくまで俺は研究ができればいいので。それと、これはある方との約束でもありますし、できるだけ技術や産業の助けになる働きをしたいのですよ」


「どうやら、君の師匠とやらは本当に立派な方みたいだね」



 (あれ?女神様のことを錬金術のお師匠と勘違いされた?まぁ、都合がいいので合わせて黙っておきますか)



「俺以外にも様々な土地で弟子達が技術を伝授して回っているらしいです。誰がどこに行ったかは知らされていませんけどね。なので、俺も頑張らなければ!」


「君のような人間が他にもいるとは・・・・」


「研究分野はそれぞれ違うらしいですけどね。俺もいつか彼らに会って話がしてみたいです」


「よし、解った!こちらの商品で金儲けはしないと約束しよう。他の地域への拡散も必ず実現させてみせる。それに、これを格安で他の貴族におろせば、それだけで恩を売ることができるからな。そちらの方が後々面白くなるなりそうだ!まぁ、私の手腕をご覧に入れよう!」



 領主のその笑顔は、アメリアが悪巧みをしている時にそっくりであった。



 (やっぱり似たもの親子ですね)



「これで正真正銘、今日用意していた全てのカードを切り終えました。・・・・ガレットさん大丈夫ですか?」


「・・・ここまで驚かせておいて良く言うさね!まったく」


「申し訳ありません。どうしてもこの商談は成功させたかったので“つい”頑張ってしまいました。でも、おかげでよい取引ができたので非常に満足です!」


「お前さんの“つい”と“ちょっと”は、もう言葉通りには信用しないことにするさね。何が“ちょっと”のサプライズだ!どれも大事クラスじゃないかい!」


「まぁまぁ、ばあちゃんもその辺で許しておやりよ。ナタク君も悪気があった訳じゃないんだしさ」


「別に怒っているんじゃないさね、ただ事前にワシに一言報告を・・・・」



 このままガレットのお説教が始まりそうだったのだが、そこで領主が助け舟を出してくれた。



「さて、私も少々次の予定の時間が迫ってきたので、会食に移るとしようか!君達が来ると聞いて我が家自慢のシェフ達に色々作らせているから、期待していてくれたまえ!」


「ありがとうございます。実はそっちもとても楽しみでした。ね、アキ」


「あ・・・はい!是非堪能させていただきます!」


「うちのシェフ達は皆腕利きだから、期待していいと思うよ。父上は変わった料理が好きだから、結構この辺では作られていない料理なんかもだしてくれるよ」


「やっぱりワシも食べてから戻るとするよ。驚きすぎて、疲れたわい・・・・」


「うむ。それではクロード、会場の準備の様子を見てきてくれ」


「畏まりました。それではしばらくお待ちください」



 そう言って、再度クロードが部屋を後にした。漸くこれで予定していた商談を、無事終了することができた。内容的には大成功と言ってもいいのではないだろうか。肩の荷が下りてほっとひと息入れながら、部屋で待機していたメイドに淹れてもらったお茶を楽しむ。うむ、流石は公爵家。いい茶葉をお持ちのようだ。


 アメリアとアレックスは少し離れたところで、砂糖などについての話し合いを始めていたので、それを眺めつつ今日の商談について思い返していると、不意に軽く肩を叩かれた。なんだろうとそちらを見ると、そこにはアキナが泣きそうな表情でこちらを見つめていた。



「先生、申し訳ありませんでした。お手伝いをすると約束していたのに、私、何もすることができませんでした・・・・」


「いえ、隣にいてくれただけでも心強かったですよ。アキはこういった場は苦手みたいですね、俺の方こそ無理に話を振ってしまってすいませんでした」


「いえ、先生は悪くないです!私、普通の買い物や友達の集まりとかなら平気なんですけど、偉い方と交渉とかで話すのが本当に苦手で・・・・。昔、取引相手の偉い人相手にポカをしてしまったことがあって、それ以来こういった場所に来ると震えが止まらなくなってしまうんですよ。もしかしたら平気かもと思っていたのですが、中々治らない物ですね。あはは・・・・」


「確かに、こういった場所は緊張しますしね。俺も昔は苦手だったなぁ」


「でも、先生はとても落ち着いて話されていましたよね?」


「その辺はもう慣れですね。アキも何度もこの様な場所に立てば自然と治ると思いますよ。俺の場合、トラウマになる前に次の会議に引っ張りまわされていましたからね。ポカをして謝るなんて事も何度も経験させられましたよ。しかも、殆どが自分のミスじゃないことでね・・・・」


「あはは・・・それは酷いですね。私もいつかは先生みたいに格好良く交渉ができるようになるのでしょうか?」


「きっと治せますよ、なんでしたら練習にも付き合います。それに、今日の商談は少々特殊なものでしたからね。こちらの要望より、だいぶ多くの利益を相手方に提示できましたから。それに、此方の利益を追求する必要がなかった分、だいぶ気楽に交渉させてもらえましたよ。


 最後は寧ろ此方の取り分を多くするように言われるなんて、普通の商談じゃありえませんからね。これもアキが1%を引き当ててくれたおかげです。俺はとても感謝しているんですから、あまり自分を責めないであげてくださいね」


「あぅ、ありがとうございます・・・」



 そう言ってアキナは俯いて静かに泣き始めてしまった。罪悪感から解放されて、緊張が解けてしまったのだろう。インベントリからハンカチを取り出し手渡してあげ、頭を撫でながら落ち着くまでそっとしておく事にした。



「かっかか、色男は辛いのう。まぁ、ワシで練習相手になるなら付き合ってやるから、今度二人で部屋を訪ねてきなさい。人は誰でもミスをするもんじゃ。悪いのはそこで立ち止まってしまう事じゃからな。


 自分が何をミスしたのかをちゃんと反省して、次に活かせばいいんじゃよ。まだ若いんだからこれからたくさん経験を積んでいくとえぇ。まぁ、坊主は落ち着き過ぎな気もするがな!」


「はい・・・ありがとうございます」



 (やはり、ガレットさんは優しい方ですね。これで、アキも一つ前へ進むことができるだろうし、この世界に来て、とても良い上司にめぐり合えたことを女神様に感謝しないと)



 そう考えていると、何やら入り口の扉の辺りから大きな話し声が聞こえ始めた。最初はクロードが帰ってきたのかとも思ったが、どうやら違うらしい。


 では、いったい何が・・・・


ふはは!私の手腕、とくと御覧にいれよう!(* ̄∀ ̄*)


(やっぱ、そっくりだ・・・)(´・ω・`;)



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