第49話 転生7日目1-6
「実はそちらについても、本日はご紹介したいアイテムを持参しております」
「なっ!坊主にしては、随分と大人しい商談だと思って黙って聞いとったが、やっぱり何か用意しておったのかい!!」
「おぉ、ここからは私も知らない話だね。いったい何を用意しているんだい?」
(二人の食いつきがいいですね。まぁ、さっきから領主様としか殆ど喋っていなかったですしね。さて、それではお米様のための第二ラウンド開始といきましょう!)
「まずは、皆様はこちらの植物をご存知ですか?」
そう言って『おバカだいこん』をインベントリから取り出した。先ほどポーションをしまって見せたのは、アイテムボックスのような物を持っている事を知ってもらい、持参したアイテムをスムーズに出し商談を円滑におこなうための下準備でもあったのだ。
「うむ、良く農村部などに冬の畑などで育てられている作物だな。確か乾かすと薪の代わりになるものだったと記憶している」
「それもあるけど、最大の特徴は畑に植えることによって翌年の麦の収穫量を増やす効果を持っていることだねぇ。何かの論文で読んだことがあるよ」
「補足させていただきますと、寒さに強い作物であること。それとこいつの味のせいでまったく外敵がいないのが特徴ですね。別に寒さに強いだけで年中採取できる作物になります」
「確か、非常に不味くて食えたもんじゃなかったと記憶しているがのぅ。して、この作物がどうしたんじゃ?」
「今回ご用意した作物は、この作物を品種改良した物になります。きっと領主様も気に入っていただける品になると思いますよ」
「お前さん何時の間にそんな物を研究しておったのじゃ?確かこの街に来てまだ一週間しかたっておらんじゃろ」
「もしかして、ナタク君の実験室に置いてあった、あの鉢植えかい?」
「はい、あれがこの植物の品種改良をするための魔導具になりますね」
「何じゃと!坊主そんな物を作れる知識があったのかい。後で詳しく話を聞かせてもらうからね!!」
「母上、一応彼との商談中ですので落ち着いてください。して、そのだいこんの改良品を持ってきたと言っていたが、見せてもらってもよいか?」
「勿論です、それではご紹介します。アイテム名は『甜菜だいこん』と言います」
そう言ってインベントリからこの日のために苦労して作り上げた『テンサイだいこん』を取り出して、ここぞとばかり皆に披露した。
「なんだい、これは?馬鹿面が舌を出しているだけに見えるのだが。まさか、それだけの違いじゃあるまいな?」
「肯定です。これからある錬成をご覧に入れますので、クロードさん何かお皿をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「お皿でございますか。厨房の方から大皿をお持ちいたしましょうか?」
「いえ、コブシ程の大きさが入る物だったら何でも構いません。それと人数分のティースプーンもお願いします」
「畏まりました、それでしたら隣の部屋にもございますので、すぐにお持ちいたします。暫くお待ちください」
そう言ってクロードは隣の部屋に取りに行ってくれた。それでは、こちらもその間に準備を進めていこう。
「すでに錬成陣は用意していますので、こちらを使っていきますね。本当ですと、こちらの錬成も錬金術師でなくてもおこなうことができる魔導具を作ることもできるのですが、今回は生憎用意していないので、代わりに錬成陣を使ってやらせていただきます。錬成の内容など詳しく書いてある資料も用意しておりますので、待っている間に此方をご覧になってみてください」
「なんだって!そんな魔導具も作れるのかい!!かっかか!こうなったら、後で坊主にはワシの部屋に来てもらって、とことん話してもらわんといけないのぅ!」
「まぁまぁ、ばあちゃんも程ほどにしてやっておやりよ。しかし、君はいつも見たことがない陣を描くね。これも情報量からいって、それほど等級は高そうじゃないが、私の知らない文字が多数使われているし。どれ、さっそく資料を読ませてもらうことにするよ」
「俺の錬成は少し特殊ですからね。それに合わせて改良しているうちに今の形になりました。あ、クロードさんお帰りなさい。用意していただいて、ありがとうございます」
「いえいえ、お待たせしてしまって申し訳ございません。して、旦那様はそんなところで何故いじけていらっしゃるのですか?」
「アメリアが彼と親しげに話してる・・・・・あいたぁ!!」
「馬鹿言ってないでちゃんと話を聞いておかんか!お前との商談じゃろ、まったく!!」
(あはは・・・・本当にこの人アメリアさん絡みになるとダメになるみたいですね。覚えておこう。そういえば、アキがこの部屋に入ってからまったく喋っていないが・・・・。あぁ、まだ緊張しているのか。先ほどよりは顔色は良くなったがまだ表情が硬いな。よし、後でパスでも出しておきますか)
「それでは錬成に入らせていただきます。お皿の方を注目してご覧になっていてください」
そう言って、錬成陣の上に『テンサイだいこん』と魔石を一つ、それと用意してもらったお皿をセットして、さっそく錬成を開始した。今回おこなうのは、錬金術の初期の段階で覚えることができる“抽出”というスキルを使用したものだ。効果は、だいこんから糖質を含む物質を取り出しお皿の上に移していく作業になるので、錬成自体はそこまで難しいものではない。錬成陣も本来は等級5相当のものだったのだが、ナタク専用の陣を使ったため特殊なものと勘違いされたようだ。
しばらくして錬成の光も収まり、お皿の上には白い顆粒状の砂糖が姿を現した。
アイテム名
『白砂糖』
甜菜だいこんから取れた顆粒状の上白糖。
作成者:那戳
(よし、無事に成功である。さて、それではアキにパスでも出しますかね)
「こちらがこの『テンサイだいこん』から取れる砂糖。『白砂糖』と言うアイテムになります。皆さん、スプーンでその味をお試しください。ちなみに、この『テンサイだいこん』は私の助手であるアキナの頑張りによって生まれたアイテムとなっております」
「えっ、私ですか!!あの、頑張りましたので是非よろしくお願いしまひゅ・・・・」
(また噛んだ・・・・、今日はアキ調子悪そうですね。あれ?思ってたより周りが随分と静かですね?)
「アメリア、お前さんの鑑定結果は!」
「間違いなく砂糖と表記されてるね。ばあちゃんも一緒だね?」
「あぁ、また坊主がやらかしてくれたね。これは大事件になるよ!」
「母上とアメリアがそう言うならこれは“砂糖”で間違いないのか。これはとんでもない商談を持ち込まれたようだな」
(なんか、ローレンス家の皆様で会議が始まったみたいなので、取り敢えず、涙目でこちらを見つめているアキナの頭でも撫でて慰めておきますか。本当にこういった場所が苦手なんですね、前もガレットさんの仕事部屋でもこんな感じだったし。悪い事をしてしまったな)
アキナで和んでいると、あちらの会議も終了したみたいなので、気合を入れて商談の続きを再開させる。
「坊主は本当に、どれだけ人を驚かさんと気がすまんのだ!そもそも、なんでこんなだいこんから砂糖が取れるんじゃ!」
「品種改良でそういった特性を持たせたとしか言えませんね。今回はこちらの利権の全てを手放すつもりはありませんので詳しくは話せませんが、こちらの砂糖の販売権を商品とさせていただきます。まぁ、こういった商品を生み出す研究をしていると思ってください。なのでどうしても後ろ盾が欲しかったのですよ。ちなみに、これを生み出すだけでもかなりの金額を投資していますね」
「まさか、サトウキビ以外から砂糖が取れるとは。味をみてもいいかね?」
「是非お試しください。サトウキビの物と比べても雑味がないと思うので、純粋に甘みをだけを楽しめますよ」
「本当に、まったく癖のない甘みだね。しかも一本からこれだけ砂糖を取れるとなるとコストもだいぶ抑えられるだろうし・・・・。はは、いやぁまいった。手助けに来たつもりが私まで驚かされるとは。本当にナタク君には興味が尽きないよ」
「本当に素晴らしい味だ。これなら確実に莫大な利益を生むことができるだろう。それこそあの三つのアイテムよりな。二人が絶対抱え込みたくなる錬金術師だと言っていたのはこういうことだったのか・・・・」
「いや、以前より更に坊主の価値が急上昇しておるよ。まさか、こんな隠し玉を用意しておるとはな」
「ちなみに、我々で利益を独占できる方法も考えてありますので、種の盗難などもばっちり対策済みになります。商談を受けていただきましたら、その辺も詳しくお話しますね」
「本当に用意がいいね!流石は君だよ。父上、勿論この商談受けますよね?」
「あぁ、値段にもよるが受けなければ、私は皆に馬鹿者と罵られてしまう。して、君はこれをいくらで売りつけるつもりだい?」
「そうですね。本来であればかなりの金額になると思いますが・・・・俺達の後ろ盾になることと、今後品種改良で生み出された植物達の栽培の手伝いとそれを各方面に宣伝していただけるのであれば、毎年純利益の1割でいかがでしょうか?」
「「「な!!!!」」」
「あれ?高すぎました?」
「何を言っているんだい!“安すぎる”から驚いているんだよ!てっきり5~6割は要求すると思っていたからみんな驚いているのさ。私も吃驚だよ!」
「坊主や、いくらなんでも取り分が少なすぎる。考え直せ!」
「流石にそれで商談を受けてしまったら、私が権力を奮って奪い取ったと思われる。それだけは勘弁してもらいたい。私も貴族だ、周りの評価は重要なのだよ」
「あれ?喜ばれると思ったのですが予想外の反応ですね。ただ俺としましても、今回は確実に領主様の後ろ盾が欲しかったのと、これとはまた違う“ある植物”の栽培を手伝ってくれる人員が欲しかったので、このだいこんを生み出しましたからね。お金はそこまで重要ではないのですよ」
「そんなの、砂糖の利益で支払えばよいではないか!いったいいくら稼げると思っておるのじゃ!」
「それでもいいのですが、できれば“その植物”も増やして新しい名物にしてほしいのですよ。それに俺が宣伝するよりも領主様がおこなっていただければ、それだけ知名度を得る事もできますし、宣伝費を支払うつもりでのお話だったのです。それに、俺個人で栽培して増やすよりも、領主様主導でおこなってもらう事でその地域に根付いた物になると思うんですよね」
「この期に及んで、まだ隠し玉があるのかい!」
「こちらは俺とアキの故郷の主食ですね。とても美味しいので、こちらでも人気が出るとは思いますよ」
「まったく、それでアレックスはどう考えておるんじゃい?坊主は御主からの後ろ盾の確言が欲しくてこんなことを言っているみたいじゃが?」
「後ろ盾か。分かった、勿論受けようじゃないか。流石にここまでの人材を手放すのは惜しい!それと君への支払いだが、やはりもっと取り分を増やしてくれ。これでは私が周りから叩かれてしまう」
「なんか、普通と逆の交渉になってしまっていますね。それでは3割を戴いて、その中の1割を学校の建設運営に使ってください。その子供達に様々な技術を仕込んで、さらに新たな産業を生み出しましょう。勿論教材提供などで協力もさせていただきますよ」
「学校か・・・・、それも面白いね。そこではどんなことを学ばせる気だい?」
「そうですね、まずは基礎知識として・・・・」
ナタクとアメリアが楽しそうに学校での授業や教材について話し合っている反対側でも、アレックスとガレットが小声でこれからについて話し始めていた。
「まったく、次から次へと。アレックス大丈夫かい?」
「母上が、彼絡みの仕事で疲れて帰ってくる理由が良く解かりました。まさか、この私が商談相手にもっと金を受け取れと言わされるとは、考えてもいませんでしたよ。
彼はしっかりとした者が付いてやらないと、いつかとんでもない事態を引き起こしそうですな。良い意味でも、悪い意味でも。後ろ盾を引き受けたからにはしっかりと手綱を握っておかねば、たちまち私まで転びかねない。優秀な駿馬を得たと思ったら、とんだじゃじゃ馬だった気分ですよ。乗りこなすのに苦労しそうです」
「その割には楽しそうじゃな」
「えぇ、じゃじゃ馬だろうと性能は間違いなく一級品です。これほどの逸材がこの街を選んで訪れてくれた幸運に感謝したいぐらいですな。それに、さっきからポンコツなところばかりを彼に見せてしまいましたからね。私の実力もしっかり見せて、彼に愛想をつかれて出て行かれないようにしませんと」
「解っているなら最初からしっかりせんか、馬鹿もん!しかし、坊主は大変じゃぞ。しかも、あの男にまったく興味を示さんかったアメリアがあそこまで懐いておる。お前さん、本当に大丈夫か?」
「・・・・ふっふふ、娘が欲しかったら私を倒してからにしてもらいます。まだまだ現役ですよ、私は」
「うちの家系から言って無駄な抵抗な気もするがな。アメリアが折れるとは到底思えんのが、まぁ頑張れと言っておこう」
「うぐぅ。それを言われると確かに・・・・。ですが、負けるつもりはありませんよ!最後まで抗ってみせます」
やれやれと、ガレットが小さなため息をつく、どうせ結果は見えているがなと。そんなこととは露知らず、アメリアと学校について楽しく語らうナタクであった。
あぅ・・・(> <。)
よしよし。ヾ(-`ω´-。)




