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第5話   転生2日目1-1


 遠くの方で『ゴォーンゴォーン』と鐘の音が聞こえてくる。


 薄く覚醒し始めた意識を、視界の端に設置してある時計の方へ向けてみると、午前6時を示していた。


 どうやら昨晩は風呂から戻って、すぐに眠ってしまっていたようだ。確かに、自分の身の回りが一変するような体験をした後に、ほぼ一日中森の中をさ迷い続けていたので、思っていた以上に疲れが溜まっていたのかも知れない。


 肌心地のよい布団の温もりに別れを告げてベットから起き上がると、一度大きく背伸びをする。


 さて、顔でも洗いに行こうと宿から貸し出されている手ぬぐいを片手に部屋のドアを開けると、一階の方からだろうかパンの焼けるよい香りが漂ってきた。


 空腹に負けそうになりながらも(かぶり)を振って外にある井戸まで行き、冷水で顔を洗い、確り目を完全に覚ましてから、食堂の方へと向かって行った。


 食堂に着くとまだ早い時間だというにもかかわらず、結構な数の宿泊客が席に座り朝食を楽しんでいた。どうやらレストランとしての営業は昼と夜だけのようで、早朝は宿泊客だけの貸切になるようだ。


 席を探してみると、昨日座った二人席が空いていたので、そこに腰掛けて給仕をしている少女が来るのを待つことにする。腰掛けて暫く待っていると少女が気が付いてくれ、こちらへ急いでやって来た。



「おはようございます。朝食はスープとサラダとマルパン二つになります。あとお飲み物は、お茶は無料でミルクが銅貨1枚となりますが、いかがなさいますか?」


「おはようございます、それではお茶でお願いしようかな」


「畏まりました。すぐにお持ちしますね」



 程なくして持ってこられた食事も、昨日同様シンプルながらも絶品で、その食事に舌鼓を打ちながら今日の予定を考えることにする。


 昨日の決意は覚えている。今日から本格的に活動するに当たり、軍資金が心もとないので、まずは金策をメインにしながら行動することになるのだが、選択肢として一番現実的なのは錬金術を使用したポーション作製になるだろう。


 ゲーム時代はメインの生産職として“鍛冶”の派生職業を選んでプレイしていたのだが、もし今から鍛冶を始めるのであれば、越えなくてはならないくつかの条件が存在する。


 まず材料費が他の生産職に比べてかなり高いのだ。


 また高品質の品を作ろうとすると、どうしても必要な他の職種スキルが多くあるため、最初には選びにくい。


 そして最大の難問が、鍛冶を生業としている“ドワーフ族”が非常に曲者で、自分が認めた者以外を工房の中に招き入れることを決してしないことである。今の状況で工房を借りに行ったとしても、高確率で門前払いされるだけであろう。一応、丁稚(でっち)としてなら雇ってくれるとは思うが、槌を握るまでに時間がかかりそうなので、金策にはとても向いていない。そうなると、あとは自分で工房を持つしかないのであるが、専用の炉が必要になるので、此方もどうしても高くなる。


 以上の事から、現実的ではないので選ぶことが非常に難しい。



 だが、錬金術であれば話が少し変わってくる。錬金術の場合、用意する錬成陣とギルドで借りられる簡易的な道具さえあれば、ある程度のポーション類なら無理やり“マニュアル錬成”で作成可能であるし、しかも昨日の散策でかなりの量の素材を確保できているので、後は錬成しながら錬金術師のスキルを覚えていく事ができるはずだ。


 また、昨日から“サブ職業”にセットされている採取人と錬金術師のレベルアップ時のステータスボーナスは同じ“器用さ+1”なので、そこも気にすることも無くサクサク上げる事ができる。



 よし!取り敢えず腹ごしらえも済んだし、目標も決まったので出かけるとしよう。


 っと、席を立ったところで肝心の“錬金ギルド”の位置が分からないこと思い出したので、部屋に背負い籠を取りに戻ってから、受付にいる女将さんに鍵を預けながら聞いてみることにした。



「錬金ギルドですか?確か、中央噴水広場まで戻っていただいて、そこから西大通りの方向へ真っ直ぐ進んでもらえれば見えてくるはずですよ。大きな建物で薬瓶のマークが目印なので、行けばすぐに分かると思います。もし分からなかったら、広場で領兵さんが巡回してると思いますので、聞いてみるといいですよ」


「ありがとうございます、それでは行ってきますね」


「は~い、お気をつけていってらしゃいませ」



 昨日の夕方に通った時とはまた違い、通勤のためか人々が忙しそうに行きかう通りは活気に満ちており、その合流地点となる噴水広場は更なる賑わいを見せていた。


 その人々を狙ってすでに何軒か朝食用の屋台が開いており、噴水の前で大きな声で呼び込みをしている。朝の通勤ラッシュは異世界でも変わらないんだなと感心しながら、女将さんに聞いた西大通りの方向へ足を進めた。


 たしか薬瓶のマークが目印と教わっていたので、辺りを見渡しながら歩いていると、不意に微かな違和感を感じ取った。たいした違和感ではない、普通であれば確実に見逃していたであろう些細な感覚。それは、丁度探し物をしていて、周りに注意を向けながら歩いてたからこそ気づけたものだった。たぶん“鑑定”を使われたのだろう。“看破”系のスキルがあればもっと詳しくわかったであろうが、あいにく今はどれも習得できてはいない。



 (しかし、こんな街中でなぜ俺を?今はまだ見られて困るスキルなどは持ってはいませんが、注意した方がよさそうですね)



 とっさの出来事ゆえ、思いのほか大げさに反応してしまったので、相手にも自分が何かに気がついたのがばれてしまっているであろう。


 ただ、それ以降特にアクションも無かったので、相手方もすでにこの場を離れていったのかもしれない。そもそも、このたくさんの人が行きかう大通りの中で、犯人を見つけるのは至難の技だと諦め、警戒はしつつも当初の目的地であった錬金ギルドに向かうことにした。



 それから暫く道なりに歩いていると、漸く目的の建物を見つけることができた。


 さすが、ある程度の規模の大きさの街には必ずある錬金ギルドである。建物の大きさもかなりの規模を誇り、街の薬の全てがここで揃うといわれるだけあって、販売エリアに訪れる多くの商人や冒険者達の姿を見ることができた。


 取り敢えず、忙しそうな販売エリアの横を通り抜け、奥の総合カウンター窓口に座っていた、同世代ぐらいの可愛いらしい女性の職員に話しかけることにした。




「おはようございます。錬金ギルドに研究員登録をしに来たのですが、受付はここで大丈夫ですか?」


「おはようございます。こちらでも手続きできますので、大丈夫ですよ。当ギルドには初めてお越しですか?」


「はい、以前は故郷で薬師の先生の下で学んでいたので、この街に居を構えるに当たり、独立をしようかと思いこちらにお伺いしました」


 (ちなみに、“ゲーム時代”(以前)にクラメンの“錬金術師のお師匠”(仲間)に色々教わっていたので嘘はついていませんよ?)


「おぉ、経験者の方でいらっしゃるのですね、歓迎いたします。それでは研究員登録ですが、試験を受けていただくか、講習を全受講完了した際に発行となりますが、本日お時間はございますか?」


「はい、時間は取ってあるので大丈夫ですよ。それで試験とはいったいどのようなものになるのでしょうか?」


「えっ?そ、それではご説明させていただきます。


 え~と、まず筆記試験についてですが、『薬品に対する知識』『錬成陣について』『毒物に対する知識と対策』『植物の生態』『薬品の製造方法について』こちらから何問か出題されます。


 試験時間は大体2時間程度となっていますね。


 次に、実技試験ですが。こちらは当ギルドで用意した材料と機材を使って、制限時間内に薬品を錬成していただくことになります。特に縛りはございませんので、好きに錬成していただいて結構ですが、持ち込みは認められませんので、その点はご注意ください。


 また、試験中不正行為が発覚した場合、2年間のギルド登録停止処分となりますので、くれぐれもそのような事がないよう、お願いいたします。


 ちなみに、試験を受けない場合はギルド規定に基づいて初心者講習を合計で50時間と、ギルド教員による特別研修を受けていただくことになっています。これは薬物が人体に大きな影響を与えるため、間違った知識を覚えてしまって処置を誤らないための予防策となっていますので、ご協力の程お願いいたします」


「分かりました、それでは試験の方でお願いしますね。今日ってこのまま受けれますか?」


「え?あっはい、本日受講者はいませんので準備ができ次第すぐに試験は開始できますが。あの・・・本当に試験を受けるんですか?」


「よかった、ではお願いしますね。あぁ、それと。筆記用具などを持ち合わせていないので、貸していただくことは可能ですか?」


「か、畏まりました。それでは係りの者に伝えておきますね。それでは、そちらの階段を御進みになって左奥の廊下のベンチに座ってお待ちください。試験の準備ができましたら、担当者がお声掛けいたします」



 ニコニコしながら挨拶をして、階段を上がっていくナタクの姿を、椅子に座ったまま見送る受付の女性が小さくため息をはいた。



 (あぁ、あの人試験受けちゃうのか、可愛そうに・・・・


 ギルマス(ギルドマスター)の悪意満載のスペシャルテスト、今まで受かった人いないからなぁ。しかも、点数悪いと更に厳しい講習になるから、きっと私まで嫌われちゃうよ。


 結構タイプの人だったのになぁ。はぁ・・・・)



 なぜこのような試験が存在するかというと、この錬金ギルドが扱う薬剤の存在が関係してくる。薬剤とは人体に多大な影響を与える物になるため、(にわか)知識で患者に与えてしまった場合、猛毒となって患者を襲ってしまうことがあるからだ。


 そうならないためにも、しっかりとした知識をもった錬金術師を育てるために、階級を作り講習会などを頻繁にギルドが開催しているのだが。


 中には、ほんの少し勉強した程度で錬金術師になれたと勘違いしている輩が後を絶たず、『俺はもっとできるのだから、こんな初心者講習なんか受けていられるか!』と騒ぎ立てる者がかなりの数、存在していた。


 なので、ギルド登録の際に試験を設けることで『試験にも合格できないのだから、しっかり勉強やり直せ』という意味を込めておこなうようになったのが、この試験となっている。



 ちなみに、絶対合格できないわけではない。ただただ非常に難しいのである。特に、現在のギルドマスターがこの“イグオール錬金ギルド”に就任して以来、まだ誰一人合格できた者がいなかった。


 そんなこととは露知らず。この男、階段を進み試験会場の前に置かれたベンチでウキウキしながら時間が来るのを待っていた。



 (試験なんて何時振りでしょうか。大好きなゲームの内容の、しかも得意分野をテスト問題にされるって、これはなんというご褒美でしょうか!


 どれだけ攻略サイトの情報を知っているかを試されているみたいで、なんか燃えてきますね。


 “ハイジン”さんとしては負けられませんよ!)



 この時、この“イグオール錬金ギルド”の職員達は知る由も無かった。


 ゲームというものに、他の物には一切目もくれず、情熱を注ぎ込み続けた“ハイジン”とまで言われるプレイヤーの知識量を・・・・



この気配、なに奴!( ゜Д゜;)!?



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