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第44話  転生7日目1-1

 

 いよいよ交渉の日の朝がやってきた。この日のために色々と準備を重ねてきたので、用意は万全である。プレゼン用の資料も再度見直し、できる限りの手直しも昨夜のうちに済ませてあるので、これで問題ないであろう。睡眠時間も十二分に取れているので、もしかすると転生してから今日が一番のベストコンディションではないだろうか。


 寝巻き姿から錬金術師の装備に着替え、顔を洗うために部屋の外へ出る。隣の部屋は静かなままなので、アキナはまだ眠っているようだ。まぁ、まだ日が昇ってからそれほど時間も経っていないので、もし朝食の時間までに降りて来なければ、PTチャットか通話機能で起こせば問題なかろう。


 宿屋の中庭にある井戸で顔を洗い、手拭で残った水分をふき取ってから食堂まで足を進める。今日は此方の世界で日曜に該当する日であるため、まだ宿泊客もまばらであった。


 何時もの二人席に腰掛け、一応アキナにモーニングメッセージを飛ばしておくと、直ぐに返信が帰ってきて、身支度を整えたらすぐに来るとのことだったので、二人分の朝食を注文して待っている事にした。


 それにしても、いつもであればアルマが直ぐに注文を取りに来てくれるのに、今日はやけに遅いな?と思っていると、厨房の方から慌てた感じの彼女が出てきた。



「おはようございます、ナタクさん!すいません、ちょっと奥で話をしていて、気づくのが遅れてしまいました。今日は休日なのに早いですね」


「アルマさん、おはようございます。そこまで待っていませんでしたので大丈夫ですよ。すぐにアキも来ますので二人分の朝食をお願いします。飲み物は何時ものお茶で大丈夫です」


「畏まりました。・・・・あの、ナタクさん。つかぬ事をお伺いしますが、些細なことでも結構ですので、昨日の大型の魔物関係で何か情報をお持ちではないですか?」


「魔物と言いますと、昨日から森に出没しているという話のヤツですか?」


「はい!それです!!」


「う~ん、俺は昨日殆ど実験室に篭もりっぱなしだったので、それ関連の話題ですと錬金ギルドの薬剤販売エリアが冒険者の皆様で大混雑していたのを目撃したぐらいですかね?


 アキも殆ど一緒にいたので同じ感じではないでしょうか?あ、丁度来ましたね」


「うん?おはようございます、なんかお待たせしてしまいましたか?」


「いえ、昨日話してた大型の魔物について聞かれていたのですが、アキは何か情報ありますか?」


「私ですか?えぇっと、昨日は殆ど先生と一緒にいたのでそれ以外ですと、ちょっとした噂ぐらいですかね。しかもはっきりと聞いたわけではなく、錬金ギルドのミーシャさんの席で絵を描いていた時に、たまたま耳にした程度なんですけど・・・・」


「それでも構いません、何か知っていることがあったら教えてください!」


「分かりました。ちなみに、これはギルドの職員さんが話していたことなんですが。何でも昨日は結構な数の冒険者の方が森に入って念入りに捜索したみたいなのですが、特に例の魔物の姿を見つけることができなかったそうなんです。


 でも、せめて何か変わったことがないかと色々探し回っていたら、うちのギルド研究員のギルドカードとその人物の物らしい荷物が辺りに散乱していた場所があったそうで、冒険者の方が気を利かせてカードを届けてくれたらしいんですよ。


 その研究員・・・ドロモンさんと言うんですけど、実は一昨日から行方不明になっていて、連絡が付かなくなっていたそうなんです。それで、『もしかしたら襲われて食べられてしまったのではないか?』と職員さん達が話をしていましてね。現場は結構血が散乱していて、肉片や骨なんかも落ちていたらしいので・・・って食事前にする話ではなかったですね。申し訳ありません。場所は西の森の結構奥に入ったところにある、小さな広場らしいですよ。恐いですよね」


「流石はアキですね。何時の間にそんな情報を・・・・」


「いえ、今回は本当にたまたまですよ。それと、捜索中にやたらと森が静かで不気味だったと冒険者の方が言っていたらしいですね。私が知っている情報はこれくらいです」


「そう・・・ですか、話してくれて、ありがとうございます。それではすぐに朝食をお持ちしますね・・・・」



 そう言ってアルマは顔を真っ青にながら厨房の方へ帰っていった。



「あの、私なにか不味い話をしてしまいましたか?」


「いえ、特にはないとは思いますけど、随分と元気がありませんでしたね」


「ただの野次馬って感じではなかったですし、少し心配ですね・・・・」



 その時出てきた朝食はいつも通り美味しかったのだが、なにやら少し物足らない感じがしていた。食事を済ませた後、受付で部屋の鍵を預けてから予定通りアキナと一緒に錬金ギルドへ向かうことにしたのだが、やはりアンジュも笑顔ではあったが、いつもの様な覇気は感じられなかった。



「しかし、ドロモン研究員が魔物に襲われていたかも知れないなんて。なんで彼はそんなところにいたのでしょうか?」


「先ほどは関係なかったので話しませんでしたが、あの人結構色んな所に借金があったらしく、ランク落ちの話もあったそうなので、自殺でもしようとあそこを訪れて襲われたんじゃないかって職員さん達は話してましたね。誰にも心配されていないところが凄かったです」


「確かに凄い嫌われ方してましたからね。あのアメリアさんがあそこまで人を毛嫌いしているのを見たのは初めてでしたし」


「そうそう、アメリアさんといえば!昨日の話しは感動しましたね、ガレットさんのためにそんなに凄い薬の開発に成功するなんて!」


「えぇ、俺も驚きましたよ。ヒントを出したと言ってもほんの切っ掛けしか教えていないのに、こうも早く正解を導き出すとは思いませんでした。本来、数ヶ月単位の時間を掛けて成し遂げることを、たった一日でやり遂げましたからね。やっぱり彼女は天才なんだと思いましたよ。自分が同じ状況で成功させられるかと聞かれたら、間違いなく無理と断言できますからね」


「先生から見ても、そこまで凄いのですか?」


「アキが俺のことをどう見えてるか気になりますが・・・・。ゲーム時代はインターネットや医学書などの便利な検索ツールが存在しましたからね。それを参考に色々実験を繰り返してポーションや薬剤を作っていましたが、彼女はそれを自分の力で解決して見せたので、それはとんでもない快挙だと思いますよ」


「あの『セレーネの霊薬』というアイテムは等級はどれくらいになるんですか?」


「確か等級2のレシピだったはずです。配合がとてもシビアで、中々作るのに骨が折れる錬成になるのですが、それに見合う価値はありますからね」


「普段は気さくなお姉さんにしか見えないのに、やっぱり凄い人だったんですね」


「まぁ、あの年で2級研究員(ゴールドドクラス)に就いている人ですからね。俺のような偽者とは大違いですよ」


「いえ、先生がそのクラスにいるにいるのは納得ができますよ。私から見たら先生も、十分天才だと思いますもん」


「あ・・・・ありがとうございます。少し照れますね。ただ、俺の場合は地球の偉大な学者達が残した知識をこの世界に当てはめて、似通った技術を生み出してるに過ぎませんので、天才とはまた違うと思いますよ」


「そうでしょうか?謙遜もいいですけど、先生はもう少し自分を誇っても罰は当たらないと思いますよ。なんてったって、女神様のお墨付きなんですから♪」



 (これは一本取られましたね。そこまでアキの評価が高いとは思っていませんでした。自分では好きなことを研究して遊んでいただけなんですが、それが人のためになればそれで良し、特に相手にされなくても自分が満足できればそれでもいいと思っていたのが、弟子に気づかされることもたくさんあるものですね)



「どうしました、先生?早くギルドに向かいましょう!」



 楽しそうに歩くアキナを少し照れながら苦笑いをして、後に続いた。


 錬金ギルドに着くと、まだそれらしい馬車などは止まっておらず、休みの日だからなのかギルドも少し閑散としていた。



「人があまりいないギルドと言うのも珍しくて新鮮ですね。ガレットさんの部屋に行けばいいのでしょうか?」


「昨日の感じだとガレットさんは泊まりで作業をするみたいだったので、たぶん仕事部屋にいると思いますよ。ですが、まずは自分の実験室に寄ってから行きましょう」


「了解です。何か忘れ物ですか?」


「えぇ、『シュウサイだいこん』と『テンサイだいこん』の現物を持っていこうかと思いまして。昨日こっそり実験室に戻って植えなおしておきましたので、今頃成長したものが実っているはずですよ」


「おぉ、いつの間に!」


「ガレットさんの部屋からアキのいるところに戻る最中にぱぱっと用意しておきました。さほど時間のかかる作業でもありませんしね」


「流石ですね。ではさっそく回収しに行きましょう!」



 受付の前を通ると職員の数も少なかったので、今日はミーシャも休みか、まだ出社していない様子だった。程なくして自分の実験室にたどり着いて扉の鍵を開けると、室内は朝の冷気を溜め込んでおり、少しひんやりとしていた。まだまだ新築特有の香りはするが、少しだけ薬剤とお茶の香りもそこに混ざるようになってきていた。


 だいこんの状態を確認すると、流石は『おバカだいこん』の根性を受け継いでいるだけのこともあり、寒さをものともせず、立派な『シュウサイだいこん』と『テンサイだいこん』に成長していた。



「今回はまた一段と立派に育ってますね」


「魔石を一つだけ多く投入してみたのですが、しっかり育っていてくれたみたいですね。これなら、領主様に見せてもまったく恥ずかしくありません」


「私には『テンサイだいこん」は更に人をバカにしているように見えるのですが、大丈夫なんでしょうか?」


「鑑定結果を見ても問題ないので大丈夫でしょう。さぁ、これで全ての準備が整いましたよ。お米様のために戦いに行きましょう!」


「お~!!」




 さて、それでは今日の交渉がうまくいくように、精一杯頑張るとしましょうか!


 そういえば、アメリアさんとガレットさんは昨日あの後どうしたんでしょうかね?


さぁ、先生行きますよ!(*´∇`)ノ


・・・・(〃・ω・〃)


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