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第43話  転生6日目1-10

 

 扉の横に設置してある魔導具を操作してインターフォンを鳴らすと、すぐに鍵の解除音が聞こえたのでノックしてから部屋に入ることにした。



「こんばんは、ナタクです。呼ばれたと聞いてお伺いしました」


「おぉ、坊主か。ちょっとソファーにでも掛けて待っておれ。もう少しで今やっとる書類作業が終わるでな」



 そう言うと、そのまま此方には目を向けないで、引き続き書類とにらめっこしながら何やらサインをしていた。こうして改めて見ると、本当にだいぶ目が悪そうであった。だからアメリアはあんなに頑張って薬の開発をしていたのであろう。


 しばらくゆっくり待たせてもらっていると、暫くして書類作業が終わったのか、申し訳なさそうにガレットが此方に歩いてきた。



「いやぁ、待たせて悪かったね。明日が査定の締切日なもんで何時もより書類が多くてのぅ。今夜はここに缶詰になりそうじゃて、かっかか!」


「お疲れ様です。俺は特に査定について言われていなかったのですが、明日が締め切りだったんですか?」


「坊主の場合は昇格初年度なので査定は無しじゃよ。それと、この前の薬剤のレポートとポーションのこともあるので、取り敢えず4年は確定で査定はパスじゃ。更に、この研究成果の影響によってポイントが加算されるじゃろうから、だいたい少なくても後5~10年近くは坊主には関係ない話になるじゃろうて。自分がどれだけのことをやったのか少しは理解できたかの?」


「そこまで凄い事をした自覚はまったく無いんですけどね。まぁ、必要になったらまだまだ切れるカードはありますので頑張ります」


「かっかか。本当にとんでもない錬金術師が来たもんじゃ!おぉ、今気がついたが随分と錬金術師らしい服装になっておるではないか。街で仕立ててきたのかい?」


「いえ、この前連れてきた助手の子が仕立ててくれました。彼女は裁縫師でもありますので。俺もこの服装は気に入ってますね」


「ほぉ、一流の仕立て人の様な仕事ぶりじゃないか、若いのにすごいのぉ。しかも、タイミングも良いときておる。坊主、領主との交渉の日にちが決定したぞ」


「おぉ、それで何時になりましたか?もうプレゼン用の資料も用意が終わっているので、こちらはいつでも構いませんよ」


「まったく、用意がええのぅ。ちぃとばかし急なのじゃが、明日の午前中に時間が取れるそうじゃ。それ以降になると、領主は王都へ視察に行かなくてはならないそうじゃから、かなり後になってしまうからのぅ。無理を言ってねじ込んできたわい!」


「ありがとうございます。明日ですか、了解しました。そのままお城の方に向かえばよろしいですか?」


「いや、客扱いで招待したいらしいので馬車で迎えを寄越すそうじゃ。じゃから、明日はギルドに朝一で来てもらってもいいかね?会食も予定しているそうじゃから昼までは城におることになりそうじゃて。


 それと、一応ワシとアメリアも口添え人として同行することになった。それにお前さんの助手も特別に連れて行っても良いそうじゃから、上手く交渉をしてしっかり美味い物を食ってくるとええ!領主だけあっていい物を出すはずじゃからな」


「それは楽しみですね。それではより良い交渉になるように資料を更に見直すことにしましょうか。“ちょっと”したサプライズも用意していますので、明日は楽しくなりそうですね」


「坊主の“ちょっと”はまったく当てにできんからの、どんなとんでもない事をしでかすか冷や冷やするわい!」


「まぁ、双方どちらにもメリットになるお話になる予定ですので楽しみにしていてください」


「まったく、あまり領主の前でヤンチャするでないぞ?取り敢えず、話しは以上じゃ。明日は寝坊せんように頼むぞ」


「分かりました、それでは明日よろしくお願いします!」


「うむ、それではな」



 挨拶も済んだのでこのまま退席しようとすると、タイミングよくチャイムが鳴った。今日のガレットは本当に忙しそうである。このままここにいるのは迷惑になるので、入れ違いで出ようとすると、部屋の外にはアメリアが立っていた。



「おぉ、先客がいると思ったらナタク君じゃないか。って、どうしたんだい、その格好は?・・・そうか!これが昨日アキナ君が作っていた服なんだね。うんうん、非常に似合っているよ、実に素晴らしい!お姉さんの好みに合わせてくるとは、ナタク君もなかなかやるではないか♪」


「こんばんは。アメリアさんの言う通り、昨日から彼女が作っていた服ですね。俺もこの服はかなり気に入っていますよ。お褒めいただき、ありがとうございます」


「ほほぉ。ここまでセンスがいいのであれば、私もアキナ君に服の作製依頼をしてこようかな?そういえば、今日は一緒ではないのかい?」


「いえ、先ほどまで一緒にいましたが、俺がこちらに呼ばれていたので、アキはミーシャさんのところで彼女の服のラフ画を書きながら待っているって言っていましたよ。今頃ミーシャさんの机で服のデザインを描いてると思います」


「何っ、ミーシャに先を越されたか!!それは悔しいね。では後でまた何かしらで、からかっておくとするか・・・・」


「あはは・・・・お手柔らかにしてあげてくださいね」


「う~ん、私も今すぐそちらに行きたいが、今日はばあちゃんに渡したい物があってね。急いで届けに来たんだよ、せっかくだからナタク君も立ち会ってくれたまえ。あの薬がついに完成したんだよ!!」


「えっ、もう完成させたんですか!?」



 本当にこの人は凄いと思う。あれだけのヒントでもう薬を完成させてしまうとは。ナタクの予想ではひと月くらいでそれなりの形になるのではないかと思っていたのだが、予想を覆す脅威の早さであった。それだけあの薬の配合は難しかったのだが、たった1日で完成までたどり着くとは、やはり彼女は天才なのだとしみじみ思った。



「いやぁ、あの後配合に少し難儀したが、あれだけ楽しく研究ができたのは久しぶりでね。ついついのめり込んでしまっていたら、ふとある特徴に気がついて、そこからはもうトントン拍子で実験が成功し始めてね。つい先ほど、目当ての薬剤が完成したんだよ!」


「俺の予想だともっと時間が掛かると思っていたので、本当に驚きました。流石はアメリアさんですね。おめでとうございます!」


「照れてしまうじゃないか!でも、ありがとう。ナタク君のヒントが大いに助かった結果だね。私もキミにとても感謝をしているよ」


「俺はただ切っ掛けを教えただけに過ぎませんよ、作り出せたのはアメリアさんの実力です」


「うぅ、背中がむず痒くなってきた!よし、さっそくばあちゃんで最終実験といこうじゃないか!」



 (珍しく本気で照れているアメリアさんはなかなかレアですね。今は後姿しか見えないですが、耳まで真っ赤になっていました。せっかくなので、しっかり心のフォルダーにしまっておきましょう!)



 照れて勢いづいたアメリアが力いっぱい扉を開けて部屋の中に突入していった。立ち会うよう誘われていたので、ナタクもガレットの執務屋に再度お邪魔することにした。



「やぁ、ばあちゃん。新しい薬の開発に成功したから、是非最初の被験者になってくれないかい!?」


「なんだい、騒々しい!扉は静かに開けてお入り!」


「あっはは!まさかばあちゃんがそれを言うとはね。それよりもこの薬だよ、ついに新薬の開発に成功したんだ!」


「ほぉ、アメリアにしては珍しく長い時間同じ研究をしていると思ったら、新薬を作っておったのかい。お前さんも今回の査定はポイントが十分貯まっておるから関係なかったじゃろうに。その薬を提出するのかい?」


「おぉ、そういえば明日が今年の査定の締め切り日だったっけ?まったく気にしていなかったよ。そうだね、せっかく研究レポートもあるし出しておこうかな・・・・・ってそうじゃなくて、この薬!これをばあちゃんに試して欲しいんだよ!」


「分かったからそう大きな声を出すでない。って、坊主も戻ってきたのかい、孫がすまないねぇ」


「いえ、俺もアメリアさんの研究には興味がありましたし、良い機会ですので是非立ち会わせてもらおうかと思いまして。俺から見てもその完成した薬は、非常に価値のある物だと思いますよ」


「坊主までそんなことを言うと試すのがちと怖くなるのぉ。いったいどんな効果を持つ薬剤なんじゃ?」


「これがその『セレーネの霊薬』と言う薬さ。鑑定結果は文句なしだったから是非早く試しておくれよ!」


「どれ、それじゃまずは鑑定させてもらおうかね」



 アイテム名


 『セレーネの霊薬』


 眼に関係する病の治療薬。失明・眼球喪失以外のあらゆる眼の病を治療することができる。


 作成者:アメリア・ローレンス



「なぁ・・・・・!!」



 やはり、ガレットも絶句したか。ナタクから見てもこの薬の効果は飛びぬけて優秀だ。流石に失明や眼球喪失などは再生ポーションの領分になるので効果はないが、それ以外の様々な眼の病での治療薬として使用できるこの薬の効果は破格だといえる。


 実はナタク自身は、視力回復薬や白内障専用の特効薬のレシピも知ってはいたのだが、アメリアの研究の進み具合から、いずれこの薬剤までたどり着けそうだと確信できたので、あえて此方の薬剤のヒントを出していた。


 ただ、配合がとても難しいため時間がかかると思っていたのだが、彼女はそれを実力で解決させてみせたのだ。こういった奇跡ともいえる薬の調合を、実力で成し遂げる人物の手助けができたことを、今では誇らしく思える。たとえヒントを出したからと言って、決して簡単な道のりではなかったはずだ。



「アメリア、これはいったい・・・・」


「自分には勿体無いとか言わないでくれよ?私は、ばあちゃんのために研究していた薬なんだからさ。これで皆から目つきのことで誤解されないで済むし、眼が見えづらくて滞っていた研究も捗るんじゃないかい?


 それとこの薬なんだけど、これは眼に直接点眼してもいいのだけれど、飲み干した方が効果が高そうだからグビッと一気にやっておくれよ。すぐに効果が現れるはずだからさ♪」


「まったく、ワシみたいな婆さんのためにこんな凄い薬を・・・・。わかった。その薬試させてもらうよ・・・・」



 そう言って、ガレットはアメリアから薬を受け取り、それを一気に飲み干した。



「薬の効果はどうだい、ちゃんと見えるようになったかな?身体に変な違和感とか出ていないかい?」


「・・・まだ解らん。今は視界がぼやけてて良く見えんのじゃ・・・・」



 あれ?おかしいな??とアメリアは少し慌てているが、後ろで『錬金術師の眼鏡』をかけてガレットの魔力の流れを観察していたナタクには良く解かっていた。ちゃんと薬の効果は発揮されて眼の治療が完了しているはずだ。


『それは、ガレットさんが涙を流して喜んでいるからですよ』と言うのは無粋であろう。自分がいるとガレットが素直に喜べなさそうだったので、そっと二人を残して部屋を後にすることにした。錬金術師の生み出す薬はこうやって人を助けることもできるのだ。



 (やはり錬成って面白い!)



 研究者の一つの喜びに立ち会えてとてもご機嫌なまま、その足でいったん自身の実験室に少し寄った後、アキのいるギルド本館一階の受付のところまで戻ってきた。



「あれ?先生ずいぶんとご機嫌ですね。向こうで何かいいことありましたか?」


「中々、感動的な場面に立ち会うことができました。詳しくは帰りながらお話しますね」


「おぉ、なんだろう?こっちはラフ画が書き終わったので、帰ってデザイン画を仕上げるところまで準備ができましたよ」


「さすが、仕事が速いですね。あ、それと明日に領主様との交渉が決まりましたので予定を変更して朝一で錬金ギルドに向かいましょう。馬車でお迎えも来るそうですよ」


「明日とはずいぶん急ですが、いよいよお米様のための大事な交渉が始まるんですね!先生頑張ってください!!」


「アキも一緒に来ていいそうです。何でもお客扱いで美味しいお昼ご飯まで用意してくれているみたいですよ。そちらも楽しみにして行きましょう!」


「私も一緒ですか。うぅ、何ができるか解りませんが、微力ながらお手伝いしますね。できることがあったら言ってください」


「はい、頼りにしてますよ。それでは宿に帰りましょう!」



 その後受付でポーションの代金を受け取って宿へと戻っていった。



 いよいよ明日が待ちに待った交渉の日になりますね。気合入れて取り掛かるとしますか!


あれ?あれれ??(゜ロ゜; 三 ;゜ロ゜)


・・・・(*´﹀`*)


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