第41話 転生6日目1-8
それから暫くして、アキナが実験室に戻ってきた。服装は先ほどと変わらない、転生した当時に装備していたままの姿であった。
「先生お待たせしました!セット全て完了して動作チェックも済ませてきましたよ。特に問題はありませんでした。やっぱりこのアイテム凄いですね、先生が『便利魔導具』って言ってる意味がよ~く分りましたよ」
「お疲れ様です、そう言ってもらえると作った甲斐がありますよ。お茶を用意していますので少し休憩にしましょうか」
「はぁい、賛成です。あ、さっきのクッキーもある!ふぅ、やっぱり先生の淹れてくれるお茶は今日も美味しいです!
そういえば、さっそく錬金術師の装備を着てくれたんですね。思ったとおり、凄く似合っててカッコいいです!まるで、どこかの貴族の青年みたいですよ。どこか手直しが必要そうな場所はありませんでしたか?」
「ありがとうございます。実に快適ですよ。流石はプロですね、どこにもストレスを感じない素晴らしい仕上がりで、とても気に入りました」
「いえいえ!しかし・・・・その格好で先生が出歩くとライバルがまた増えそうでちょっと不安ですね(ぼそっ)」
「うん?何か言いましたか?」
「いえ!独り言なので気にせずに!!今思ったのですが、その格好だったらネクタイを用意すればよかったですね、普通の物でもいいのですが・・・・先生ならループタイなど似合いそうなですね。よし、先生。この後、楕円形のブローチを追加で作製してもらってもいいですか?あくまで装飾なので能力はこだわらなくていいので」
「あぁ、紐型のネクタイでしたっけ?」
「そう、それです。あれならラフな感じに着こなしても似合いますので。私はすぐにタイの部分を作ってしまいますね!」
そう言ってアキナは魔導具に手をかけて裁縫師の装備に一瞬で着替えた。予想通り、アキナに物凄く似合っていたし、彼女の美しさに更に磨きがかかっていて、一瞬息を吸うのも忘れて見入ってしまった。
「裁縫師の装備、どうでしょう。似合っていますか?自分で言うのもなんですが、服のデザインはなかなかの物でしょ。だいぶ拘った自信作ですよ!」
「・・・・えぇ、思わず見とれてしまいました。アキに凄い似合っていて綺麗ですよ。俺も今のはだいぶ不意打ちをくらいました」
「えへへぇ!一つやり返せてとっても満足です。先生もカッコいいですよ♪」
「ありがとうございます、アキも装備に合わせて髪型を変えたのですね」
「はい!アップのままだと、私にはこの服装が似合わなかったので。サイドダウンにして少し編みこんでみました。このアイテムって本当に便利ですよね。髪型まで記憶されることに気が付いて少し遊んじゃいましたよ。先生も結い方を少し変えたんですね」
「俺も流石にこの格好に和紙で結った髪は似合わなかったので、若干結う位置を下げて髪留めを変えましたね。後でアキにも渡しますよ」
「ありがとうございます!髪留めは予備があると助かりますからね。今は女神様から貰ったこれだけですし」
「それじゃ、もう少しお茶を楽しんでから仕上げ作業に入りますか。今日はなんだかんだで錬成しっぱなしですしね」
「そうですね、楽しい作業をしているとついつい時間が経つのを忘れてしまいますよ」
「そういえば、だいこんありがとうございました。つい忘れてしまってましたよ、植え替えてくれていて助かりました」
「いえいえ。あの作業も慣れると楽しかったので問題ないですよ。それに、こっちの部屋を独占しちゃっていたので、それのほんのお礼です」
暫くゆっくりとお茶をしながら会話をした後、お互い作業場に戻って最後の仕上げの錬成に取り掛かることにした。アキナも何かを作る予定らしいので、その間に自分も依頼されたブローチとアキにも新しい髪留めを作ることにする。
素材は他の装備に合わせて『ミスリル合金』を選択することにしたのだが、単色か金で細部を装飾するだけの物も少々飽きてきたので、性能にこだわらなく良いのだから少し合金の配合を変えて明るい色も織り交ぜて遊んでみることにした。デザインは両方とも楕円形をベースに残った『ミスリル合金』を使い土台を作製。その周りを金で縁取りをして見栄えを良くして、本体には鉄を多く含んだ『ミスリル合金』を使って色にメリハリを持たせる。そこに彫刻を施し、細部を金を使って装飾してゆく。今回俺の装備のテーマには炎が多く使われていたので此方もそれに合わせ、アキの物はなでしこの花を刻印しておいた。最後に小粒の宝石を軽く磨いて各所に配置して、最後に裏に留め金を設置すれば完成である。
アイテム名
『ミスリルのブローチ』(高品質)
ミスリル合金で作られたブローチ。器用さにプラス効果。
作成者:那戳
アキナの物は髪留めにするので、金具を鉄で作製し、それを銀を使ってコーティングしてブローチに装着して完成である。一応気分で変えられるように金具は取り外し可能で、ゴムの髪留めでも付けられるようにもしておいた。
アイテム名
『ミスリルのバレッタ』(高品質)
ミスリル合金で作られた髪留め。金具の変更が可能。器用さにプラス効果。
作成者:那戳
1時間もかからずに作業が終わってしまった。難易度的には今日作った物達と大差ないのであるが、装備を変えただけでここまで錬成が楽になるとは、嬉しすぎる誤算である。流石に装備の性能はあまり気にしないで作ったので能力はいまいちだが、見た目はとてもお洒落な物ができたので満足である。
一応2つとも高品質で作ることができたので、両方とも他のアクセサリー同様に『プロテクション』と『効率強化』をエンチャントで付与しておいた。
さて、それでは今すぐ実験室に戻ってもいいのだが、アキの裁縫師の装備を見た時に、もしかしたらゲーム時代に、アキナはこの装備を使っているのでは?というアイテムを思いついたので、それもついでに作ってしまうことにする。難易度もそれほど高くないので、さくっと錬成してしまうことにする。
メインの材料には銀を選択して、まずは骨格の作製をしていく。肝になるパーツも錬金術で比較的簡単に作製できるのでサクッと錬成をし、できたパーツを錬成で一つのアイテムに仕上げて完成である。本来であればこの作業ですら数十分かかる作業であるはずが、今の装備でブーストされたナタクにかかれば、ものの数分で作業を終わらせてしまった。
アイテム名
『錬成職人の眼鏡』(高品質)
シルバーで作られた縁のない眼鏡。精密作業の加工技術上昇。器用さ・精神にプラス効果。
作成者:那戳
『錬金術師の眼鏡』と違い魔力の流れを読み取ることはできないが、裁縫師や彫金細工師など、細かい作業を行う職業によく使われていたアイテムになる。ナタク自身は錬金術師の眼鏡を愛用していたのだが、もしかするとアキナは此方の装備を使っていたのではないだろうか?
等級的には此方の銀の眼鏡の方が少し低いのだが、ゲーム時代にフレンドやクラメンにも結構な数の愛好家がいた事を思い出したので一応作製してみた。まぁ、有用なアイテムではあるので、アキナが使わなければ自分で使用してもよいのだし。アクセサリー関係と同じエンチャントを施して、漸く本日の錬成作業はこれで全て終了である。
さて、今度こそできたアイテムをインベントリにしまって実験室に戻ることにする。あれから結構時間が経っているので、きっとアキナの錬成も終了しているであろう。片づけを済ませてから作業スペースを離れ実験室の扉に手をかけた。
「アキ、此方の作業は全部終わりましたよ・・・・」
「えっ!」
扉を開けると、そこには椅子に座った状態のアキナが錬金術師の服装であろう装備に着替え、片足を持ち上げてニーソを穿こうとしているところであった。それだけならば問題は無いのだが、その角度に致命的な欠陥が生じていた。アキナの格好は膝上丈のミニスカートである。その光景を正面から見た状態で片足を上げるとどうなるであろうか?
正解は、見えてはいけない小さな布地がはっきりナタクの視界に捉えられていた。
『では、ここで追加の問題です。アキは手早くスカートを直すと、すぐ手元にあった空き瓶を持って振りかぶっています。この後俺はいったいどうなるでしょうか!』
『正解は、甲高い悲鳴と共に、全力で投げられた空き瓶を額にクリンヒットして昏倒するでした!』
携帯型ドレッサーであそこまで気をつけてプログラムしていたのに。まさか、ここでのハプニングである。どんなに注意していても、女難の相さんはとても勤勉でいらっしゃるようであった。
(それでも、いい思い出をありがとう!・・・・・ぐはぁ!)
暫くして徐々に意識を取り戻す。後頭部に柔らかい感触を感じながら目を開けると、そこには俺を覗き込む、アキナの涙ぐんだ顔が目の前にあった。どうやら膝枕をされていたようだ。
「先生、本当に申し訳ありません!私の不注意だったのに、スカートの中を見られて、気が動転して手元にあった瓶を投げてしまいました!当たった場所は痛くないですか?」
「あぁ、大丈夫ですよ。俺こそ申し訳ありません、ずっと看病してもらっていたみたいで。俺も注意してちゃんとノックしてから部屋に入るべきでした」
「いえ!私こそ気をつけるべきでした、本当に申し訳ありません・・・。本当にポーションとか飲まなくても平気ですか?」
「大丈夫そうですよ。軽い脳震盪でしょうし問題ありません。それと、お互いさっきのことは忘れましょう・・・・」
「あぅ。先生やっぱり見えてました・・・?」
「・・・ノーコメントでお願いします。どう転んでも不毛な結果になりそうですし」
「はい、確かにそうですね・・・・。私も忘れることにします」
それからしばらく、気まずい空気が二人に間に流れていた。やはり、1回ちゃんと教会でお祓いをしてもらった方が良いのだろうか?
(しかし、良いものが見れました) (*´︶`*)
じぃ・・・・(´・ω・`)




