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第38話  転生6日目1-5

 

 近場のレストランで食事を済ませ、午前中ですでに疲労困憊であろうミーシャのために、帰り道にアキナと一緒に差し入れのクッキーを選んでから買って帰ることにした。ギルドの本館に入ると、流石にもう昼過ぎなので冒険者達は目的地に既に向かって行ったためか、ギルドの販売エリアも普段通りの賑わい程度まで落ち着きを取り戻していた。


 ミーシャを探してみると、受付の奥の机で突っ伏している姿が見えたので、係りの人に断ってから中に入り、声を掛けてみる。



「ミーシャさん、朝は大変そうでしたね。これ、二人からの差し入れです」


「あ・・・ナタクさんとアキナさん、こんにちは・・・・。いやぁ、大型の魔物騒ぎでポーションが飛ぶように売れたのはいいのですが、通常の販売スタッフだけでは捌ききれなくて、急遽販売エリアを経験したことのあるスタッフも総出で対応していたので、流石に疲れました。


 ついさっきまで、休憩無しであの人数を捌くのは中々骨の折れる作業量でしたよ・・・・」


「あはは・・・お疲れ様です。疲れた時の甘い物って事で、先生と一緒にクッキーを選んで買って来たので、食べて元気を出してください。遠目から見てもあれは中々の混雑振りでしたしね」


「お気遣いありがとうございます。あ、パン屋メルトーリのクッキーだ!ここのお店はパンもお菓子もどれを食べても美味しいので、大好きなんですよ。二人とも、ありがとうございます」



 小動物の様にはむはむクッキーと頬張る姿は、幼く見えて可愛らしかったが、女性が食事している所をずっと見つめているのも失礼なので、挨拶をしてから自分達の実験室に戻ってきた。



「それでは、私はみぃ~ちゃんと一緒に残りの仕立て作業を一気に終わらせちゃいますね。作っている最中にもいいアイデアが浮かんだので、デザイン画よりももっと良い物に仕上げてみせますので、期待していてくださいね!」


「えぇ、お願いします。俺の方も魔導具という大仕事が待っていますからね。気合入れて作ってきますよ!」



 お互いゆっくりと休めたので、気合を入れて午後の作業を開始すべく、各自作業スペースへと向かうことにした。


 いよいよ『便利系魔導具』の作製に取り掛かる。このアイテムもゲーム時代にナタク達のクランの商会から発売されていた物になるのだが、非常に便利で職業を問わず様々なプレイヤーから注文が殺到していた代物であり、今回作るのはそれのダウングレード版の作製になる。


 なぜ性能を落とすのかと言うと、本来このアイテムには上位の魔石使用するのだが、今回入手することができなかったためである。また、加工もかなり高い等級の錬成になるため、現状では正規のレシピで作製することができないからだ。それでもあると非常に便利なため、素材と性能のグレードを落とすことで多少似た効果を得ることが見込めるはずなので、今回挑戦することにしたのだ。



 既に魔石の研磨は終了しているので、バングルの腕輪部分の作製に取り掛かる。主な材料になるのは指輪などでも使った『ミスリル合金』だ。まずは合金を腕輪に必要な分量に取り分けると、加熱して合わせてから薄い板状になるまでハンマーで叩いて伸ばしてゆく。


 ある程度形を整えた後、丸みを帯びた金床に交換して、今度はリング状になるまでひたすら叩いて形を変えてゆく。腕輪の形になってきたら、いったんハンマーを置いて次は回転砥石で研磨作業を開始する。


 見る見るうちに研磨が完了すると、そこには美しい光沢をした深い藍の腕輪が出来上がっていた。このままでも腕輪として結構な値段で売れそうなのだが、あくまでこれは魔石と魔導回路を載せるための土台なので、今度は出来上がった腕輪に刻印を施していき、専用の魔導回路を構築していく作業となる。


 ただ、細かい作業になるので勿論難易度もそれに乗じて高くなっていく。しかも、指輪などに施した回路よりも2段階は複雑で奇怪な回路になるため、一瞬も気も抜けない作業になるのだ。専用の工具を使い軽快なリズムで彫刻をしていき、回路の刻印を施す。しばらくして刻印が完成した物に、今度は金を使って装飾をしながら今度は回路を隠す作業に入る。


 見ただけでは技術は盗まれない自信はあるが、クランの仲間と作り上げた魔導具なので、できるだけ技術の漏洩のリスクは下げておきたかったからだ。一応無理やり回路を調べようとすると、回路が自壊するような細工も仕掛けておいた。


 装飾を終えた腕輪は、まるで美術館に飾られていそうな芸術作品のような仕上がりをしていた。きっと、売りにでも出したら貴族達がこぞって高値の入札を入れるであろうその腕輪だが、ナタク本人はあまり納得ができてはいなかった。



「回路の関係上大きくなってしまうとは思っていましたが流石にこれは大き過ぎたな。アキ用の物はせめてこれの半分くらいの大きさにしたかったけど、現状の工具とレベルではこれが限界ですかね・・・・」



 それでも、男性用の腕時計サイズの大きさには仕上がっているので、あくまでナタク本人が納得していなかっただけなのだが、正規のレシピでは上位の魔石1つで足りていた物を、中位の魔石4つで補おうとしたためにこのサイズで仕上げるのが限界だったのだ。


 同じ作業を繰り返し、何とか2つ目も無事に完成することができたので、今度は磨き終わっている魔石に『ルーン』と言われる特殊な魔導文字を刻んでいく作業に移る。これは先ほど眼鏡のレンズに刻印を施したときに使用した技術と同じで、この作業だけはどうしても錬金術師のスキルが必要となってくる。この作業がこのアイテム一番の肝となるので、更に慎重に作業を進めていく。


 一つ一つ丁寧に刻印をしていき、いつもはあっという間に錬成を完了させるナタクにしては珍しく、この作業だけですでに一時間以上を費やし、ついに全ての石に刻印を刻むことに成功した。


 後は魔石を腕輪の台座に四つ順番にはめ込んでいき、ツメで固定すれば完成である。



 アイテム名


 『携帯型ドレッサー』(小)×2


 ミスリル合金で作製された腕輪。全身の装備を4セットまで記憶し瞬時に着替えることができる。

 アイテムボックス、又はインベントリとの接続が必須。


 作成者:那戳(ナタク)



「よかった、性能は落ちているけど何とか作ることができた。正規の物は10セットまでいけることを考えると性能は半分以下になるのか・・・・、やはりうまくはいかないものですね。まぁ、これでも今の環境なら十分でしょうし、時期を見て必要になったら作り直せばいいでしょう。


 しかし、やはりと言うべきか高品質は無理でしたか。悔しいですが、失敗しないで作れただけでも良しときますか」



 この『携帯型ドレッサー』、察しの良い方なら判るであろうが様々な職業を選択しているプレイヤーにとってこれほど助かるアイテムも他にないだろう。何故かと言うと、職業を変えるたびに専用の装備に着替える手間が一瞬で済むのだから。


 上位の職業になればなるほど専用の装備類が増えていき、そのために装備の変更を手動でおこなっていると、準備をするだけでかなりの時間のロスになってしまう。その作業を一瞬で終えてしまえるこのアイテムが発売された時、あっという間にものすごい数の予約が殺到し、ミシン以上に順番待ちが続いたクランきっての目玉商品に成長した。


 ただ、材料もさることながら、必要な技術レベルもかなり高かったため、月の販売個数にはミシン以上に制限があったので、購入できたプレイヤーの数はかなり少なかった。おかげで、転売業者や詐欺業者まで現れて一時期ゲーム内でも問題になったのだが、その時はクランマスターが上手いこと話を収めてくれて助かっていた。


 その後、いくつかの業者がゲーム業界から完全撤退したらしい噂を聞いたのだが、いったいあの人は何をしたのやら・・・・・



 さて、この魔導具作製で本日予定していた装備作製作業は全て完了した。最後の錬成だけは高品質を逃してはしまったが、成果としては上々なのではないだろうか?


 後は、アキナの錬成の進捗具合で何をするのか考える予定なのだが、そういえば今日はだいこんに触れていなかった事を思い出し、取り敢えずそちらの様子を見に行くことにした。まぁ、時間が来れば装置は止まったままになるので問題は無いのだけれど。


 実験室の方に戻ってくると、アキナが楽しそうに魔導ミシンで仕立て作業の真っ最中だったので、邪魔をしないようにこっそりだいこんの方へ向かうと、だいこんは新たな種が植えられており、成育の真っ最中であった。近くの机に2代目の種と乾燥しただいこんが三セット分置いてあったので、どうやら今日はアキナがこのだいこんの面倒を見てくれていたようだ。


 感謝しつつ、邪魔をしないようにアキナの錬成を見てみると、まだ暫くかかりそうだったので、余った時間でポーションでも作って時間を潰すことにした。素材も十分にあるし、まだ全てではないが装備もいくつか更新されたのでかなり快適に作業ができるであろう。


 一応驚かせては悪いのでお茶を淹れてアキナに差し入れをし、後ろでポーションを作ることを伝えておいた。どうやらいくつか装備は完成しているようなのだが、せっかくなので全て揃ってから装備する旨を伝えて、アクセサリー関係だけ装備してポーションを作ることにした。何でも、アキの方はあと2時間くらいで作製が完了するそうなので、それなら丁度いい暇つぶしになりそうだ。




はむはむ(っ*'ω'*c)うま~♪


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