第37話 転生6日目1-4
革細工師は、まだ発現させて間も無く、スキルも殆ど覚えていないため、少し慎重に作業を進めていく。彫金細工師の時は、ゲーム時代にもそこそこレベルを上げていたので得意なジャンルになるのだが、革細工師は必要なスキルを習得するためにだけに途中までしか上げてはいなかったので、若干不安が残るのだ。それでも、中級レシピまでは全て把握している辺り、ナタクらしいと言える。
まずは、革を必要なサイズにカットしていき、パーツごとに切り分けてゆく。今回はショートブーツの予定なので部位ごとに、硬さの違う革を選んでパーツを用意する。切り終えたら、次に刃物で縫い糸を通す場所に薄く溝をつけていき、今度は菱目打ちと言う専用の道具とハンマーを使って溝に縫い糸を通す穴を開けてゆく。この作業をしないと、仕上がりの印象がだいぶ変わってしまうので慎重に作業を進める。
全てのパーツに加工を施せたら、次は買っておいた木製の靴型にパーツをのせ、錬成を使いながら専用の道具で革をゆっくりと型に沿って伸ばしていく。ある程度の形に加工できたら、今度は蝋引きした麻紐を取り出し、専用の太い針でパーツを縫い合わせて、段々と靴の形に仕上げてゆく。最後に用意してあった靴底のラバーを同じように縫い合わせていけば、ショートブーツの完成である。
アイテム名
『錬成職人のショートブーツ』(高品質)
ステップカウの革で作製されたショートブーツ。錬成作業安定化上昇。体力・器用さにプラス効果。
作成者:那戳
サイズ違いの物をもう一足仕上げると、革細工師のレベルとスキルがかなり上がっていた。やはり錬成を挟むとはいえ、工程が非常に多く、自分のレベルより格上のレシピの作業を続けていたため、ボーナス経験値が多く貰えているようであった。
次はベルトの作製である。使う素材は靴と同じ物なのだが、こちらは更にやわらかくした革だけを使って作製していくことになる。工程は先ほどの靴と同じで、必要な長さに切り分けた後、革の両端に溝を彫り縫い穴を開け麻紐を通しておく。
これだけではただのベルトになってしまうので、今度は、革に絵柄を描いてゆき、そこに刻印を施して魔導回路を分からないよう仕込む。デザインはアキ用の物には花の柄を、自分用には炎の柄を刻んでおいた。この作業は彫刻に似ていて、わりかし得意分野なので、サクサクと作業が進んでいった。
最後に金具を通す穴を開け、買っておいた金具を取り付ければ完成である。本当は金具も作りたかったのだが、鍛冶の工程が必要だったので泣く泣く諦めて既製品で良い状態の物を選んでおいた。
アイテム名
『錬成職人のベルト』(高品質)×2
ステップカウの革で作製されたベルト。錬成作業スピード上昇。器用さにプラス効果。
作成者:那戳
「よかった、どちらも高品質で作製できましたね。既製品を挟むと、全ての工程に触れていないので成功確率が若干落ちるのですが、目利きも成功してよかった。これも鑑定のおかげですね」
残すは『鍛冶師の革手袋』の作製だ。鍛冶で使用する手袋なだけあって、耐熱・炎耐性の強い素材を選択して加工していく予定なので、今回は難易度が手頃だった『ワイバーンのなめし革』用意してみた。
ワイバーンはゲーム時代はフィジカル25~35位の狩場で良く討伐されていた魔物で、炎系のブレスと噛み付き攻撃を主に戦ってくる、少々厄介な魔物である。ただ、亜竜種に分類されていただけあって素材もかなり優秀で、中級冒険者の装備としても人気が高く、多数の討伐クエストが組まれていた人気の魔物でもあった。
また、ある国ではワイバーンに乗った特殊職業の“竜騎士”の相棒としても活躍しているため、アルカディアではもっとも馴染み深い竜種でもある。
ゲーム時代ではかなり乱獲されていたため、素材の値段はかなり安かったのだが、どうやらここではそこまで狩りが行われていないようで、思っていたより安くは販売されてはいなかった。ただ、亜竜種とはいえ竜には違いないので、革素材として高い耐熱・炎耐性を有しているため、ここは値段に目をつぶってでも購入する事にした。
昨日ブーツ用の革を軟化剤にかけている間に、実は購入してきたワイバーンの革にも炎の属性石の粉末と専用の薬剤で作った溶液に浸けておいた。通常の防具の作成ではこの作業は挟まないのだが、加工の難易度を下げる目的と、少しでも性能を向上させるためにおこなったナタクが持つ秘策の一つでもある。
この作業は本来であればもっと加工が難しいレシピなどで使用していたモノなのだが、現状ではナタクをもってしてもワイバーンの革の加工は厳しいため、打てる手は全て使う事にしたのだ。
溶液から取り出したワイバーンのなめし革は非常にしなやかになっており、心なしか漬け込む前より赤みを帯びた色へと変化していた。本来革の加工は乾かしてから行うのだが、それだと少々硬くなってしまうので、今回はそのまま仕上げてしまう事にする。
ただ、水分を含んでいるため、柔らかくはなっているが、加工するには向かない状態なので非常に技術力を要する錬成になっている。それでも、通常に加工するよりは難易度が低いため、どちらを選択するかは判断が難しいところではあるのだが・・・・
革をパーツに切り分けてゆき、縫い穴を開ける溝を彫る作業に入るが、これが非常に難しい。ナタクも珍しく汗を滲ませながら、慎重に革を加工してゆく。程なくして、時間はかかったが無事に加工を終えて一息ついた。
後は、他の革細工と同じでパーツを型に馴染ませてから、蝋引きされた麻紐で縫い付けていくのだが、せっかくの耐熱・炎耐性の物なので、革を漬け込んだ溶液に麻紐も浸して炎耐性を高めた物に加工してから、パーツを縫い合わせていく。
蝋を塗っていないので、そのまま使用すると紐の滑りが悪いので、代わりに『岩ガマの油』と言われるカエル型の魔物から取れる油を使用して補填していく。こちらの油は革細工では艶出しに良く使われるモノなのだが、イメージがよろしくないので、実はあまり職人以外には用途は知られていない代物になる。普通に素材屋にも置いてあったので、品質の良さそうな物を選んで買っておいたのだ。
順調に縫い合わせてゆき、最後に自分で手に填めてみて感覚を確かめてみたが、特に問題は無かったので、これで手袋も完成である。
アイテム名
『鍛冶師の革手袋』(高品質)
ワイバーンの革で作られた革手袋。耐熱・炎耐性効果上昇。体力・器用さにプラス効果。
作成者:那戳
革細工の全ての工程が終了したので、一息入れようと時計を見ると、もう少しでお昼の時間になりそうだったので、できたアイテムを持ってアキナの所へ行き、一旦作業を中断してお昼休憩を提案することにした。
「アキ、そろそろいい時間なので、休憩を挟んでお昼を食べに行きませんか?」
「もうそんな時間になっていましたか。やっぱり錬成作業をしていると時間の経つのが早いですね。やっと全ての仮縫いが終わったところなので、今からみぃ~ちゃんで片っ端から縫い合わせてしまおうと思っていたところでしたよ」
「まぁ午後もこの作業の予定ですし、ご飯にしましょう。ここで食べてもいいのですが、気分転換に外食にしましょう」
「そうですね、今日はやる気に満ちているので、午後も頑張っちゃいますよ!」
「それと、これが俺が午前中に作り終わったアイテムになるので、帰ってきたらさっそく装備して使ってみてください。便利系魔導具以外は全て完成させましたので」
「もうそんなに作り終わってるんですが!専門外の錬成のはずなのに・・・・」
「専門外と言っても、以前殆ど作ったことのある物ですからね。工程は全て頭の中に入っているので、後は思い出しながら作業するだけなので、割りとスムーズに作業が終わりましたよ」
「午後は私も頑張らないと。まとめて縫おうと思っていたので、まだ完成品が一つもないんですよね。お渡しできるものが無くてすいません」
「いえ、慌ててもいい物はできませんので、じっくり錬成と向き合ってください。俺も午後は便利系魔導具という大仕事が待っていますからね。しっかり休んで、最高の仕事をさせてもらいますよ」
「それにしても、アクセサリーやベルトにまで、先生は本当に器用ですね。デザイン可愛くてすごく気に入りました。これは“なでしこ”の花ですか?」
「そうです、良くわかりましたね。秋頃に咲く赤い花なので、アキにはぴったりの花だと思いまして。花言葉は忘れてしまって申し訳ないのですが、確か良い言葉だったはずなので気に入ってくれて嬉しいです」
「あ・・・ありがとうございます。花言葉はですね・・・って、やっぱなんでもないです!先生、せっかくなので今ネックレスを着けてもらってもいいですか?」
「構いませんよ。それでは着けさせてもらいますね」
ネックレスを着ける為にアキナの後ろに回り、留め金を外して抱きかかえるように手を回してチェーンを首にかけていく。彼女からはシャンプーだけでは説明できない、女性特有の良い香りがし、後ろから見える彼女の後姿にぐっと来るものを堪えながら、なんとか平静を装って留め金を填めた。
(これは、分かっていてもかなりくるものがありますね。理性がもってくれてよかった)
普段はそこまで意識はしないようにしているが、やはり間近で見るアキナの魅力には相当の破壊力があった。よくよく考えてみると、アキナはもの凄い美少女であったことを思い出し、少し気恥ずかしくなってしまった。
「えへへぇ♪やっぱりこのネックレスも可愛いなぁ。どうですか?先生似合ってますか?」
嬉しそうに薬棚の窓ガラスを鏡代わりにしてネックレスを見つめていたアキが質問をしてきた。咄嗟だったので、気の利いた言葉が出ればいいのだが・・・・
「えぇ、可愛らしいアキにとても似合っていますよ。花にも負けないアキの魅力がまぶしいくらいです。最初にこの姿を見れた俺は、とても幸せ者ですね」
そう言った途端、ぽん!とアキナの顔がみるみる赤くなっていき、その場にペタンと座り込んでしまった。
「だ!大丈夫ですか!?どこか具合が悪くなりましたか!!」
「だだだ、大丈夫です!!不意打ちだったので腰が抜けてしまっただけです・・・・」
「本当に平気ですか?ここには仮眠室のベットもありますので、そちらに運んで少し休みますか!?」
「いえ!ほんと大丈夫です!!今そんなところに行ったら頭がパンクしてしまいます!!」
それから、アキナが復活するまでに多少時間はかかったが、復活した彼女は終始ご機嫌で、出先のレストランで楽しそうに食事を食べていた。
しかし、本当に大丈夫だったんだろうか?
【赤いナデシコ】
花言葉は「純粋で燃えるような愛」ですよ、先生・・・・
(〃・ω・〃)テレッ