第36話 転生6日目1-3
無事に『ミスリル合金』も完成しアキへの授業も終わったので、ここからは倉庫エリアに篭って本格的に装備作製に取り掛かることにする。アキナもさっそく新しい縫い針の感触を確かめるために自分の作業へと戻っていった。
(少し羨ましくもありますが、やはり本職装備の更新は嬉しいものなので、その気持ちは十分に解りますがね)
自分の作業台に着いたので、さっそく先ほどの合金を指輪へと加工していく。合金を必要な分量に仕分けてから、それをバーナーで加熱して細長い板状になるようにハンマーで叩いて伸ばしていく。今回は2人分で計4個の指輪を作る予定だ。
内訳は『鍛冶に適した指輪』と『裁縫に適した指輪』、後は『汎用性の高い指輪』を2つ。それぞれ最後にはめる石と、刻む魔導回路によって効果が変わってくるのでデザインは一緒でも構わないのだが、せっかくなので加工も拘って作っていくことにする。
まず、『鍛冶に適した指輪』は一番無骨なデザインに、幅も槌の握りの邪魔にならないギリギリの太さのリング状に加工していく。後は魔導回路を刻んで石の台座を作ればいいのだが、そのまま素直に魔導回路と判る物を刻むつもりも無く、石の台座から外へと吹き出る炎をイメージしたようなデザインに魔導回路を隠しながら刻んでいく。
次は『裁縫に適した指輪』を加工していくのだが、アキの指は細いのであまり太いリングは似合わないため、今度は逆に魔導回路が刻める限界の細さに挑戦しながらリングを慎重に削り込んでいく。そのため、魔導回路も表面だけでは仕込むスペースが足りないので、裏面も使って加工を施していった。勿論回路はリボンをモチーフにしたデザインへ巧妙に隠しながら加工し、台座は丁度結び目の中心になるように調整してみた。
最後、残りの2つの『汎用性の高い指輪』なのだが、今度は逆にシンプルなデザインを採用し、魔導回路は裏面に全て隠し、台座もそれほど目立つ加工はしないように仕上げていった。これは汎用性の指輪になるので、あまり派手な加工をしてしまったりすると職業によってはデザインとイメージと合わなくなってしまうので、それを避けるためにあえて何にでも合わせやすい様シンプルに加工した。
これでリングの大体の加工は終わったので、後は細かな装飾とそれぞれの職業に適した石を台座に合う様に磨き上げていく作業になる。装飾はアクセントに極小の金を使って細部を際立たせ、魔導回路を目立たなくなる様加工をしていく。
次に填め込む石は、今回はかなり小粒の研磨になるので作業的には難しいはずなのだが、錬成を利用しながらの研磨になるので、ナタクがおこなうと普通に磨き上げるよりかなり素早く全ての加工を終えてしまった。研磨された石をそれぞれの台座に填め込みツメでしっかりと固定すれば、ついに指輪の完成である。
アイテム名
『鍛冶師の指輪』(高品質)
ミスリル合金で作られた指輪。金属加工の安定性上昇。筋力・器用さにプラス効果。
作成者:那戳
アイテム名
『裁縫師の指輪』(高品質)
ミスリル合金で作られた指輪。仕立て加工の安定性上昇。俊敏力・器用さにプラス効果。
作成者:那戳
アイテム名
『錬成職人の指輪』(高品質)×2
ミスリル合金で作られた指輪。錬成時のスキル使用回数増加+2。
作成者:那戳
「我ながら良い出来の指輪に仕上がりましたね。アキにも今のうちに渡してあげた方がいいでしょう。後でまとめて渡した方がもっと喜ばれそうですが、今にこそ必要なアイテムでもありますし」
アキナが驚く姿は可愛いので好きなのだが、『なんで先に渡してくれなかったんですか!』と怒られる可能性も少しはあったので、先に危険分子は潰しておくのに限る。これは社会に出て大いに学んだ一つの処世術である、決して彼女に怒られるのが恐いわけではない!
そうと決まればさっそく指輪をアキナへ届けに向かうことにした。実験室に入ると、彼女は丁度裁断作業をしているところであった。
「アキ、指輪が完成しましたので先に渡しておきますね。裁縫師用と汎用の指輪なのでさっそく使って作業してみてください」
「先生はもう指輪作り終わったんですか?私はまだ裁断作業が終わってないと言うのに、本当に仕事が早いですね」
「まだ、たくさん作る物がありますので、これからもっと速度を上げて作っていきますよ。これがさっき作ったばかりの指輪ですね。両方とも左右の中指に通して使ってください。その指が一番効果が高いはずなので。もし、サイズが合わなかったら言ってくださいね。すぐに直せますから」
「薬指では・・・・、なんでもないです!分かりました、さっそく装備してみますね。サイズは大丈夫そうです、二つとも問題ないですね」
「よかった、後で他の物と一緒に渡そうかとも思ったのですが、今あった方が良さそうだったので先に持ってきたんですよ。効果もいいものが付きましたので是非役立ててくださいね。それでは、また使えそうな物ができたら持って来ますね」
「ありがとうございます、大切にしますね。しかし、先生ものすごく器用ですね。裁縫師の指輪のデザインなんてすごく可愛い形してますし」
「あぁ、彫金細工は武器加工にも施しますからね。触れる機会も多かったのでだいぶ勉強もしましたよ。やるからには拘りたくて、指輪のデザインの研究のためにデパートまで現物を見に行ったりもしましたね。いやぁ、懐かしい~」
「先生ってほんと、そういう努力を惜しみませんよね。ミシンを分解したりとか」
「そうですね、知らない技術に触れるのはなかなか楽しいことですから。『広く浅く』情報を仕入れる様にしているのですが、気がつくと、『広く深く』掘り下げて研究していることも多かったですね」
苦笑いしているアキナに断わりを入れて、また作業台での作業へと戻ってきた。せっかく良い指輪ができたのだから、このまま一気に金属加工を終わらせてしまうことにする。
次はネックレスと腕輪に使うチェーンを作製していくのだが、今回作る予定のチェーンは無骨な物ではなく、デザイン性を重視した洒落た物にする予定だ。
『ミスリル合金』をバーナーで加熱しながら細長い針金状に伸ばしてゆき、それをハンマーで叩きながら形を整え細かいリング状に加工し、それを大量生産していく。できたリングは、自分用の物はアキの物より若干太めに作製し、後は必要な長さになるまで黙々と繋げていく作業を繰り返す。錬成の力を借りているからといってもかなり量があるため、いくら得意分野だとしても結構時間がかかってしまったが、なんとかネックレスと腕輪用のチェーンを無事に完成することができた。
「ふぅ、流石に単純作業の繰り返しだと疲れますね。まぁ、すごい勢いで彫金細工師のレベルが上がっているので助かりますが。後はネックレスのトップの作製と腕輪につける石の台座部分の作製か・・・・
自分用の物はドックタグ風なのが好きなのでそれでいいとして、流石にアキにはもっと可愛らしい物を作った方が良さそうですね。さてと、問題はどの様なデザインにするかですが・・・」
昔自分で作ったデザインを頭の中から引っ張り出してきて、メモ用紙にいくつかのデザインを書き出していく。男性向けの無骨なデザインと違って、女性物はワンポイント系のトップの方がゲーム時代は売り上げがよろしかったので、今回はその中から選ぶ予定ではいるのだが・・・・
ふと、どの様なデザインにするか考えていると、昔作ったデザインの中に“なでしこ”の花があったことを思い出して描き出してみる。
「たしか“なでしこ”は秋頃に咲く草花で、赤い花びらをしているのでアキにぴったりな花ですね。花びらも細かいので魔導回路を隠して仕込むにもってこいですし、このデザインにしてみますか。花言葉はなんだったけ?まぁ、悪い言葉ではなかった気しますし大丈夫でしょう!」
デザインが決まったので、さっそく『ミスリル合金』に彫刻を施していく。細かければ細かいほど取得する経験値のボーナスも期待できるので、重くならないように注意しながら丁寧に加工を施していく。単色ではトップとしては寂しいので、こちらも金を極小に加工して細部にアクセントを加えてデザインを際立たせていく。最後に、指輪同様に石を研磨した後、花の中心に石を填め込み、これでトップの完成である。
自分用のドックタグ風のトップは、造形がとてもシンプルなので特に捻る事もなく石を填め込んで終了である。しいて言えば、錬成陣をイメージしたデザインが彫られて縁を金で加工しているくらいであろうか?性能は2つとも同じなのだが、使われている技術にだいぶ差がでてしまった。
アイテム名
『錬成職人のネックレス』(高品質)×2
ミスリル合金で作られたネックレス。疲労回復効果上昇。器用さにプラス効果。
作成者:那戳
このまま腕輪の方も作っていってしまう。ちなみに、便利系魔導具はバングル型の腕輪になる予定なので、今から作る職人用の腕輪は、ブレスレット型にして邪魔にならない大きさにすることにした。
すでにチェーンは完成しているので、留め金を手早く作り、石を固定する台座のデザインを決めれば後はすぐにでも完成することができる。せっかくなので、アキナの台座は再び“なでしこ”の花を、自分用の物には炎をイメージしたデザインを施した物を作ることにした。両方ともデザインの見本が共に完成しているので、できるだけ近いイメージの加工を施していく。最後に金で細部の加工をした後に研磨された石を填め込み、チェーンを繋げば完成である。
アイテム名
『錬成職人の腕輪』(高品質)×2
ミスリル合金で作られた腕輪。錬成作業の安定性上昇。器用さにプラス効果。
作成者:那戳
今度は『錬金術師の眼鏡』を作製していく。アメリアが普段胸ポケットに引っ掛けている物がそうだ。
あのアイテムは錬成中などの魔力の流れを見ることができるので、様々な職種で使われているのだが、レンズの加工が難しいので、結構高額になっているのと、錬金術でしかレンズに魔導回路を刻印できないのでアイテム名に錬金術師の名前が記載されている。ちなみに、フレームは普通の銀でも良かったのだが、せっかくなのでこのまま『ミスリル合金』を使用していく。
フレーム作りはそれほど難しくないのでハンマーを巧みに使って細く加工していき、あっという間に形を整えてしまった。次は、難関と言われるレンズ作りになるのだが、錬金術が得意なナタクにとってそこは問題にはならなかった。手馴れた感じでレンズを作製していき、そこに極薄の専用魔導回路を刻んでいく。後はフレームに取り付けてしまえば完成である。
アイテム名
『錬金術師の眼鏡』(高品質)×2
ミスリル合金で作られた眼鏡。魔力の流れを視覚化できる。
作成者:那戳
これで、予定していたアクセサリーは全て作り終えることができた。まだ、『便利系魔導具』の作製は残っているが、これは先に革細工師の加工が終わってから作業をする予定だ。なぜかと言うと、魔導具は作製が少々複雑なので、少しでも使えるスキルを増やして選択肢を広くしておきたいためである。
またアキナに完成したばかりのアクセサリーを持っていこうかとも思ったが、せっかく集中して作業している時に、度々手を止めさせるのも悪いので、次はベルトと靴が完成したタイミングで一緒に渡しに行くことにした。
さて、触ってみた感じ、干していた革の状態も良さそうですし、こちらもサクっと仕上げていきましょう!
単純作業は堪えますね!( ̄◇ ̄;)