第35話 転生6日目1-2
今回の彫金細工師での錬成は『ミスリル』を使った、『指輪』『ネックレス』『ブレスレット』『眼鏡』と、ある『便利系魔導具』の作製を計画している。とは言っても、ミスリルをそのまま使用するのではなく、もっと難易度の低い『ミスリル合金』を作製して、それを加工してアイテムを作っていく予定だ。
ミスリルの錬成は確かに高難易度の錬成になる場合も多いのだが、実は他の金属と合わせて使用すると、魔力伝達力は下がるものの、ミスリル自体にはない硬さや錬成の難易度を下げて作製することができるようになる。
前にナタクが作った等級2の再生ポーションを覚えているだろうか?あれがミスリルを単体で使用した際の難易度とだいたい同程度の物になる。それで、今回作る予定の合金での錬成は、その時に素材として使った等級3のポーション程度の難易度になるといえば、お分かりいただけるであろう。
あの時は、優秀な触媒である『レッドドラゴンの肉』があったので錬成に成功したが、今回はそれ相当の素材を確保することができていないので、無難に『ミスリル合金』を選択する事にした。
彫金細工の作業台で一人で『ミスリル合金』を作ってもいいのだが、せっかくアキナが頑張って買ってくれた物なので、今回はミスリル合金作りまでは錬金術を使用して、実験室の方で作製することにした。
「アキ、せっかくなので錬金術で『ミスリル合金』の作製をしようと思うのですが、見学してみませんか?スキルの使い方での参考になると思いますよ」
「えっ!てっきり彫金細工でミスリルをそのまま使用したスペシャルアイテムの作製になると思っていましたが、錬金術でも作製できるのですか??」
「いくら俺でもミスリル単体を何の触媒やスキルを使用しないで作製できるほどの腕は持っていませんよ。“鍛冶なら別ですが!”」
「鍛冶ならできるのですね・・・。では、一旦手を止めて見学させていただきますね。今からおこなうのは合金の作製という事でしょうか?」
「そうですね、錬金術は物体を均一化させたり分解したりするのが得意な職業になるので、結構色んな職業の素材を作製するのに向いているのですよ。今日はそこをお見せしようと思います。
ちなみに、今回の錬金術の等級は3程度のレシピになりますから少し早い予習になりますが、確りと見て覚えてみてください」
「分りました。では、よろしくお願いします!」
「はい。ではまずアキが買ってきてくれたこのミスリルインゴットから不純物を取り除く作業をお見せしますね。ただ、ミスリルは魔力伝達が優秀なため、ほんの僅かな力加減を誤るだけでもすぐに失敗してしまいますので、注意が必要です」
「あれ、インゴットって不純物なんて入っているんですか?」
「えぇ、錬金術以外での加工した際には必ず何かしらの成分が残留してしまうので、それを除去してやる作業になりますね。これには『抽出』のスキルを使いますので見ていて下さい」
そう言ってナタクは錬成陣すぐに用意して、インゴットと魔石を陣の上に置き錬成を開始した。
「ちなみに、ミスリルは素材の状況であれば、実は等級3レシピの作製技術さえあれば加工が可能なんですよ。
高い素材になるので、レベル上げなどには使われないため、あまり知られていないんですけどね。こうやって、ミスリルとそれ以外の鉱物に別けることが可能です」
そうして出来上がったインゴットは、多少大きさに変化はあったが、ほぼ変わらぬ大きさで錬成陣の上に残っていた。
「今回のインゴットは当たりだったみたいですね。混ぜ物が多い物だと、この段階でかなりの量が減ってしまいますから。あの素材屋の目利きは信用できますね」
「おぉ、これがミスリル純度100%の輝きですか!綺麗な藍色になりましたね」
「『抽出』のコツは、その色を指標にしておこなうと上手く錬成できますので、確りと覚えて置いてくださいね。今度、各鉱石の純度の100%の見本も作ってお渡ししますので勉強してみてください」
「分かりました!それで、次はこのインゴットを使って合金の加工に入るのですか?」
「流石にこの量は使いきれませんので、必要な分だけ取って残りは保管しておきましょう。後で何かに使えるかもしれないので。
では、次はこのインゴットをナゲットに加工していくところをお見せしますね。こちらは『形質変化』というスキルを使っていきます。こちらも、用途がかなり多いのでお勧めのスキルですよ。今は対象の形を変えるものと、覚えておいてください」
「りょうかいです。それで、どれくらいの数のナゲットに変えるのですか?」
「今回は・・・・、そうですね。半分ほどをナゲットの粒に変えて後はそのまま保管することにします。ただ、形を変えるといってもそれほど難しい作業ではないので教えることはあまりないのですけどね。これは、どれだけ完成のイメージができるかによって錬成の難易度や完成度が変わりますので、最初は見本などを用意しながら加工すると上手く作製できますよ」
そうして喋っている間に、ナタクは錬成を終えてしまっていた。
「本当にあっさり終えてしまうんですね。しかし、この粒だけでも綺麗な宝石みたいですね、かわいいです!」
「次から、いよいよミスリル合金への加工になりますね。今回は武器などではないので、硬さなどは必要ないので、銅と金と少量のレアメタルを使って合成をしていきますね」
「おぉ、先生レアメタルなんて何時の間に!まさか買ってきたんですか?」
「いえ、今アキの目の前で抽出した中に入ってた物を使用しますよ。それほど量はありませんが、元々加工する合金もそこまで量は多くありませんからね。今回はこれで十分です。それで、配合の分量ですが、アクセサリー関係の作製になりますので、今回は金を多めに使用しましょう。残りはこれくらいで大丈夫ですね」
買っておいた他の金属のナゲットを陣の上に並べていき、丁度合わせて500gになるように置いていった。
「これで後は魔石をセットすれば完了ですね。合金は用途によって配合に違いが出ますが、今回はこの配合でいきたいと思います。後でいくつかの配合表を作ってお渡ししますので、読んでおいてください。ですが、この配合の知識だけでも一生食べていけるだけのお金は稼げるので、他の人に教えてはいけませんよ?」
「さらりととんでもない知識の伝授ですね!恐いので、誰にも言いませんよ!!」
「どのくらい均一に配合できるかによっても合金の性質が変わっていきますので、この錬成はだいぶ奥が深いですよ。俺も最初はこの研究がしたくてクランの錬金術師の人に弟子入りしましたからね。でも、いつの間にか『銭喰らい』さんの研究ばかりになっていましたけど」
「やっぱり鍛冶関係でこの錬金術を学び始めたんですか?」
「そうですね、強い武具を作るのにどうしても既存の鉱石などでは納得がいかなくなりましてね。新しい素材の開発が錬金術を学ぶ切っ掛けになったのは確かですよ。それに錬金術師は、スキルも優秀ですからね」
こうして話している間にも、手を動かし続けて錬成の準備を進めていたのだが、準備が完了すると、そのまま休まずに錬成を開始してしまった。錬成は終始安定したまま進み、程なくして錬成が無事に完了した。
「なんか、話している間に錬成が終了していますけど、これが『ミスリル合金』ですか?」
「しまった!つい喋りに夢中で、無意識に手を動かしてしまっていました。・・・・すいません、配合時のコツはまた今度詳しく教えますね」
「いえいえ、それより等級3レシピを集中せずに錬成しきる先生にびっくりですよ、しかも高品質ですし・・・」
「もうその辺は長年の癖みたいな物ですね。ゲーム時代は半分寝ながら錬成している時もありましたので。特にこのレベル帯の物は上位のレシピの練習教材みたいな錬成が多くて、少し退屈なんですよね。そこそこの難易度ってやつです、アキも慣れるとほぼ失敗しなくなると思いますよ」
アイテム名
『ミスリル合金』(高品質)
ミスリルを多く含んだ合金、高い魔力伝達力を持つ
作成者:那戳
「ミスリルの成分しか表記されないんですね。金も結構入っていたと思うのですが。色も深い藍色に変わりましたね」
「そうですね、どんな配合の合金を作ったとしても表記は同じ物になりますが、性質はまったくの別物になりますし、色にも変化がありますね。例えば鉄を多く含んで武器用に仕上げると、明るい藍色になったりします。ちなみに、錬金術師中位で『解析』というスキルが手に入ると、素材の性能が判るようになりますよ、配合比率は流石に解りませんけどね」
そう言って、余っていた小さいミスリルナゲットの粒と鉄のナゲットを錬成陣の上に置き錬成をおこない、できた物をアキナに渡して見てもらう。
「おぉ、色もこんなに変わるのですね、本当に奥が深いのです」
「こちらの研究もお金はかかりますが、遣り甲斐のある錬成の一つですね。こうやって色々な職業で様々な分野の勉強をするとメインの職業で思わぬ助けになりますので、何でも臆せずにチャレンジする心が大切ですよ」
アキナから作ったばかりのナゲットを受け取ると、そのまま錬成陣の上に魔石と一緒にセットして、また何かの錬成を開始した。程なくして錬成が完了すると、そこにはあるアイテムが数個置かれていた。
「これは先ほどミスリルを頑張って買ってくれた御礼ですね。せっかくなので使ってください」
そうしてナタクからアキナに手渡されたアイテムが、これである。
アイテム名
『ミスリルの縫い針』(高品質)×3
ミスリルで作られた縫い針。素材安定化に効果。
作成者:那戳
「おおぉ、ミスリルの縫い針だ!!私、ゲーム時代ずっとこれ使ってましたよ。でも、確か合金のナゲットを使って作ってましたよね?」
「なぜか、縫い針だけはどのミスリル合金を使ったとしてもミスリルの縫い針になるんですよね。しかも、そこまで手の込んだ作りをしていないので、錬金術でも作ることのできる、少し変り種のアイテムになります。どうですか、錬成って面白いでしょ?」
「はい!毎日が驚きと発見の連続で飽きることがありませんね。本当に、先生の弟子になってよかったです♪」
そう言って、アキナは嬉しそうにできたばかりの縫い針を見つめていた。こうやって錬成の魅力に気づいて、より良い職人に育ってくれれば、教えている自分もうれしい限りである。
鍛冶なら別ですが!(`・ω・´)キリッ