幕間:2 とある錬金術師の焦り
注意:この話しでは、真実とかなり異なる内容が含まれます。
あくまで、彼の感情と認識によって構成されていますのでご注意を!
SIDE:ドロモン
時は少し遡り、アメリアがナタクの実験室を訪れていた時刻。
彼、2級研究員ドロモン・コルセリスは非常に焦っていた。
査定の期限の日まで残り二日を切り、いよいよ後がなくなってきたのに、一向に状況が改善されてない。件の少年への抗議は聞き入れてもらうこともできず、自身の持っていった研究レポートも受理してもらう事もできなかったため、後は時を待つことしかできなくなった。
辛うじて、魔導書の解読は順調で、此方の研究は、後少しの所まで来ているが、研究結果の検証やレポート作成がどうしても間に合うことができそうになかった。
いっそうの事、他の人間を使って実験をしてもいいのだが、この実験が成功すればその者が“完全なるもの”へと昇華してしまうため、軽い気持ちで試すこともままならない。
“完全なるもの”に昇華するのはこのドロモンにこそ相応しいのであって、それ以外の者が先に至ることは、彼の高いプライドが許すことができなかった。
期日を過ぎてから研究レポートを出したとしても、年内の査定は終了しているので、次の機会まで待たなくてはならなくなる。キメラ研究には莫大な資金が必要なため、ここでランク落ちをして年間研究費を得る事ができなければ、自分の研究は終りである。商人やギルドからも決して安くない金額を借りているので、ここでランクを落とすということは破滅を意味するため、とても看過する事はできなかった。
とにかく、時間が足らない・・・・・
幸いな事に、研究自体は既に全体の90%以上を終了しているので、後は実地試験のデータを集めて不備がないかの確認作業をすれば終了のはずだったが、こうなっては仕方がない。ぶっつけ本番になるが、他でもない『天才錬金術師であるこの私が研究している実験なのだ、失敗するはずなどない』そう自分に言い聞かせて、必要な素材をさっそく買い集めることにした。
この実験にはより高純度の魔石が必要であり、大きければ大きいほど得られる力は強力なものとなる。中々に高額な買い物になるため、ギリギリまで購入を見送っていたが、今日こそ魔石を買って研究の糧にしようではないか。そう意気込んで冒険者ギルドに赴いたのだが、目当ての『レッドサイクロプスの魔石』はほんの数時間前に売れてしまっていた。
何たる不運、話を聞くとどうやらババァの弟子の誰かが購入していったらしい。きっと奴が嫌がらせで、弟子を此方に遣わし魔石を購入させたに違いない。
(なんと忌々しい、後で絶対抗議してやる!)
本当であれば人型の魔物の魔石を使用したかったのだが、こうなっては仕方がない。大きさは少し劣るが、『サンドティガーの魔石』で実験をするしかなかった。まぁ、多少エネルギー量が劣るだけで、たいした影響は出ないであろう。残り少なかった年間研究資金から金を支払い自身の実験室まで戻ってきた。
ここも、後数日で引き払って新しい実験室を移る予定だったのだが、残留が確定していなかったので、まだ新しい部屋が割り当てられてはいなかった。しかし、今日でここともお別れだ。実験が成功すれば研究棟の最上級の部屋が自分のものとなる!
さて、これからおこなう実験はかなり大掛かりな物になるのと、あまりこの偉大な研究を人目につかせたくはなかったので、実践は街の外の森の中で行うことにした。必要な道具はアイテムボックスが付与された指輪に全て入れてあるので問題はない。まだ日も高いので、実験が成功すれば暗くなる前に街に戻ることもできるであろう。
解読中の魔導書もこの実験には必要不可欠な物なので、忘れないようしっかり手に持ち、購入したての魔石もポケットの中にちゃんとあるのを確認済みである。これで忘れ物はないので、このまま実験室を出て街の外の森へと向かう。
(私を見下しているここの連中よ、覚えておれ!!すぐに“完全なるもの”へと至って、今度は私が、お前達を見下してやるからな!!)
そう錬金ギルドを一睨みすると、彼は一人街の外へと向かって歩いていった。
再注意:この話しは真実と異なる内容が含まれます。
あくまで彼の妄想です!