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第3話   転生1日目1-2

 

「あぶなかった、アルカディアの世界には米が存在していなかった事を完全に忘れてた」



 ゲーム時代、バフ効果を与えてくるれる食料に、日本食がまったくない事に気が付いて、クラメン(クランメンバー)と一緒に世界中を探し回った事があった。元々米とはイネ科の植物で、実はあまり珍しい種類の作物ではない。なので見つからなければ最終的に錬金術を使って、近い品種を改良して生み出せばいいとその時は考えていたのだが・・・・


 現実は甘くなかった、まったく無いのである。


 というか、このアルカディアの世界には、まず料理の発達があまりに進んでいなかった。


 唯一盛んに研究がおこなわれていたのは“酒類”で、麦汁を発酵させて作ったエール、葡萄種を発酵させたワイン、一部の民族が作っていた乳製品を発酵させた物や、蜂蜜や果実の糖度を利用して作った物などが挙げられる。


 それでも圧倒的に数が少なく、場所によっては主食として食べられていた芋類でさえ、酒の材料にすらされてはいなかった。


 そもそも、プレイヤーがこの世界で料理法を流通させるまでは、料理といえばそのまま焼くか煮込むかの物ばかりで、あまり凝った物などは存在していなかったのである。


 これは、アルカディアの世界が幾度も繁栄と衰退を繰り返した背景があり、途中で物資の枯渇や作物の絶滅などが原因で殆どの料理法が失われてしまったため、調理技術が後世に残せなかったためであろう。


 ただ、そのおかげでうちのクランの料理部門と錬金部門がタッグを組んでかなり荒稼ぎをさせてもらっていたのだが。


 だが、その時も米麹がどうしても作れなくて、代用で麦麹を使って味噌や醤油を生産してみたのだけれども「なんだろう、これじゃない」感が否めなかった。決してまずいわけではない、ただ「これだ!」と、納得がいく物が作り出せなかったのである。


 それでも馬鹿みたいに売れたのだが・・・・


 そして、肝心の御米様。こちらは、ほぼほぼ全滅で、唯一近い物が東に住む部族が粥として食べていたイネ科の植物があったので、それを元に試行錯誤研究を試みてみたのだが、どうしてもあの『もちもちした食感と適度な粘り、仄かな甘み』を再現することができなかった。


 そして、ついには研究予算が限界を超えてしまい、泣く泣く諦める事を余儀なくされた。日本の先人達の知恵がいかに優れていたかを、まざまざと痛感させられた出来事であった。



「もし、神様がこれを入れてくれていなかったら、一生お米が食べれなかったかもしれないと思うと、ゾッとしますね。先輩、神様。本当にありがとうございました」



 そのことに気がついた先輩と神に最大限の感謝を。



「さてと、将来お米を栽培するための地盤固めをしなくてはならないのだけど。ここって、どこなんでしょうかね?」



 辺りを見回しても、大量の木々が生い茂る森の中である。人の手が入った形跡も無く、道といっても獣道ぐらいしか見当たらなかった。



「取り敢えず、散策ついでに採取でもしますか。ゲームの時とある程度同様なら、自生している種類で大体の地域が特定できるし。早めに錬金術のランクは上げておきたいですからね」



 採取用に冒険者のナイフをインベントリから取り出して、森の中にかき分けてゆく。


 ゲーム時代も錬金術の素材を自分でもよく集めに森の中に入ることが多かったので、採取の腕にも自信があったのでドンドンと森の中に進み、目に付く有用な素材達を収めていった。



「おっ、薬草先生発見。今回からまたお世話になります。こっちはシズク草にヒカゲ草。っと、この蔓はトロル芋じゃないかな?さっそく掘り返すとしますかね。って隣にあるのは新月草まであるじゃないですか!いやぁ、ここポーション材料の宝庫だな」



 それからも採取を続け、始めてから一時間足らずでかなりの量を収穫してしまった。元々人の手が入っていなかった事もあり、荒らされずに貴重な薬の素材が群生して残っていたという幸運もあったのだが、そろそろインベントリの容量が心もとなくなり始めていた。



「さすがに気合い入れて取り過ぎてしまいましたかね。適当なところで蔦でも編んで、籠でも作るとしますか。あっ、そういえばこれだけ採取してたらあれが発現してるかな?」



 ステイタスボードを呼び出してみると、思っていた通り“サブ職業”にある職種が追加されていた。



「サブ職業の“採取人”。これがあれば、なんとなく近くの採取ポイントが判るから便利なんですよね。下級サブ職業扱いなのにかなり優秀だし」



 流れ作業でそのままサブ職業に“採取人”をセットした時に、ふと一つ疑問が浮かんだ。



「あれ?そういえばゲームの時はミニマップみたいなのが画面の端に設置できて、そこに採取ポイントの情報が記載されてたけど、今の状況だとどうなるんだろ?」



 ステータスボードを色々触ってみると、そこにはゲーム時代にお世話になっていた機能が変わらずに残されていた。



「つくづくアバターの身体ってチートですね。便利な機能がてんこ盛りじゃないですか」



 今回呼び出した機能は“体力バー”と“ミニマップ”と“スキルのリキャストタイム表示”である。ゲーム時代からかなりお世話になっていたこの機能をここでも使えるのは、かなりありがたい。


 ついでに“時計”までも見つけた。ここまで忠実にゲームの画面を再現してくれた女神様に感謝しつつ、自分が使いやすいよう各設定をして、馴染みの場所へと配置してゆく。



「さてと、マップもあることだし採取しながら人里への道でも探すかな?」



 時計はまだ正午前を指していおり、まだ日が暮れるまでには時間があるので、先程の散策の途中に収穫したリンゴに似たパリムの実を齧りながら採取を再開する。


 途中に何度か魔物らしき生き物を遠目に発見したのだが、気付かれない様迂回して戦闘を回避した。職業にある“見習い”の特性上、今戦闘するのは得策ではないからである。


 更に小一時間程時が経ったところで、ついにインベントリの中身が限界を迎えてしまった。まぁ、最初はインベントリの容量も少ないので仕方がない。休憩がてら女神様が用意してくれたマルパンを1つ有り難く頂きながら、足元に石で簡単な陣を描き、途中で見つけた丈夫な蔦を使って籠を錬成で編んでいく。


 このナタクという男。自分のことを上位プレイヤーと言うだけあって、かなりの数の生産職にも手を出しており、簡単なものならばそれほど道具が無くとも自分で色々作ることが可能であった。



 本来専用の生産職の“サブ職業”のスキルや錬成陣などの恩恵を受けて作製したりするのだが、実はレベルが足りなくてもアイテムを作れないということはないのだ。ただ、錬成陣のサポートやスキルなどがないと、難易度が非常に高くなり、大抵の場合錬成を失敗してしまう。


 だが、彼はゲーム時代に遊びで「後付のスキルや錬成陣の補助なしでも、上手くすれば錬成できるんじゃないか?」とクラメンと共に試しに色々と作ってみたところ、見事成功してしまったことがあった。



 そもそも、錬成とは数多くのスキルの集合によって対象の物体に変化を与える行為になる。


 その中でプレイヤー達がおこなっていたスキルという行為は、


『錬成陣によって構成されたプログラムに元々存在するスキルを読み取り』


『どのような効果をもたらすかを記憶し』


『プログラムされているタイミング以外でその効果を“追加して”付与をする』


 というものであった。


 そこでナタクがおこなったのは、錬成陣によって作り出された『プログラムに元からあるスキル』を抽出し、任意のところで対象に変化をあたえるという物だ。だがこの行為は錬成陣にある補助機能を全てカットして、膨大な情報量を自分で管理しなくてはならないため、通常であれば目隠しをしながら作業するようなもので、必ず失敗するはずの行為であった。


 ところが彼は長年様々な錬成で培った技術を駆使して、最初こそ失敗を繰り返してはいたのだが、徐々にその完成度を高め、ついには“新たな技能”と言えるほどにそれを昇華させてしまったのである。


 それ以来、この作成方法を“マニュアル錬成”とよんで度々使うようになっていた。



 最後の方など『普通に錬成するより“マニュアル錬成”を間に挟んだ方がいいものができる』と言って他のクラメンから白い目で見られながら、度々高品質を連発で作り上げていた。



 そうしている間にも着々と籠は出来上がっていき、作り始めてからそれほど時間を掛けずに立派な背負い籠ができあがっていた。



 アイテム名

 『シーダ蔓の背負い籠』(高品質)


 シーダ蔓で編まれた背負い籠。軽くて非常に丈夫。


 作成者:那戳(ナタク)




「あり合わせで作ったにしてはいい物ができましたね。後は魔石があればエンチャントもできるのだけれど、持っていないならしょうがないか。


 しかし、人の手の入った道が無いな。このまま野宿とか本当に勘弁してほしいのだけれど、そろそろ本気で覚悟しておいた方がいいかもしれませんね」



 パリムの実がなる木が自生していたので、この辺りがリマリア地方ということは判っているので、実はある程度は自分がいる位置についての見当は付いていた。


 ただ思ったよりも森が深く、もしかしたらゲーム時代より世界が広いのかもしれないことに焦りを感じ始めていたのも確かだった。



「野宿するにも暗くなってからだと危ないのでそろそろ準備もしなくちゃならないし、もう一時間ほど歩き回って変化が無かったら、諦めて寝床でも作りますか」



 それから採取を続けながらしばらく歩き回っていると、籠がそろそろ一杯になる頃に、漸く森の切れ間と、街道にぶつかることができた。


 そこには荷馬車に商品を大量に積み込んでいる商人の姿や、冒険者然とした団体の姿が何組か行き交っていたので、そこそこ街が近いのかもしれない。


 丁度休憩をしていた商人さんに話しかけて道を聞いてみると、すぐ近くに大きな街があるらしくそこに向かう最中らしいので、たくさん採取していたパリムの実をいくつか放出して、街まで荷台に乗せてもらうことにした。



「しかし、君はなんであんな森の中にいたんだい?


 見た感じ冒険者ぽいけど、あそこってたいした魔物もいないし、採取にしても他の森の方が豊かで安全だって聞いたことあるけど?」


「あはは、あんまり人気が無いからこそ、いろんな手付かずの野草や果物が取れるんですよ。そのパリムの実もそこの森で取れましたしね」


「なるほど、確かに立派なパリムだね。これなら結構いい値段で売れそうだよ。しかし良かったのかい?私が言うのもなんだけど、それほど歩かなくてもすぐ街に着くだろうに、こんなに貰っちゃって」



「いいんですよ、旅は道づれ世は情けってね。しかも取れすぎちゃって、重くて歩くのもしんどかったので、乗せていただいて助かりました」



「わっはっは、それじゃ仕方ないな。じゃあ、今度キミが私の店に来てくれたら、うんとサービスしてあげよう。私はリック・ホームナーだ。街の大通りで様々な商品を扱う店を構えてるから、近くを通りかかったら是非贔屓にしてくれたまえ」


「ありがとうございます、俺はナタクです。街では最初、錬金術師をやろうかと思いますので何かあったらよろしくお願いしますね」


「おぉ、錬金術師殿か。それはいいねぇ、ではますますご贔屓にしてもらわないといけないね。是非ポーションなんかを売ってくれるとうれしいね」


「商売上手ですね、分かりました。その時は、是非よろしくお願いしますね」


「いつどこで商売の種が落ちているか分からないからね。手広く情報を仕入れるのは商売のコツってやつさ!」



 ニカッといい笑顔でリックが笑う。実際この商人はやり手なのであろう。荷台に載っている荷物の量や種類の豊富さから言ってかなりの取引量なのが見て取れた。



「しかし、護衛なんかを頼まなくても平気なんですか?結構な大荷物だと思うんですけど」


「あぁ、幌馬車の横の所に模様が書いてあっただろう?あれはここの領主の旗印でね。この模様が書かれた馬車を襲ったとなると、領軍がすぐに駆けつけてきて襲った連中を即根絶やしにしてくれるから、よほどの馬鹿じゃない限り襲ってはこないのだよ。


 それと、この街道は領主のお膝元、領兵の巡回もまめに行われてる比較的安全な道だからね。


 しかも、今回私は領主の依頼で近くの街との取引に出かけてきたわけで、積荷もほとんどが食料品だから、本当に危なくなったら荷物を捨てて馬と一緒に一目散に逃げ出すさ」



 『さすがに高額商品を扱っているときは護衛はつけるがね!』と、またいい笑顔で話してくれた。やはり、やり手の商人で間違いなさそうだ。この巡り合わせは加護のおかげだろうか。


 それから馬車に揺られること数分、小高い丘を登りきると眼下にはかなり大きな街が現れた。



「ここが私達が暮らす街“イグオール”だ!どうだい、たいしたもんだろ?(ニカッ)」



 ゲーム時代、新規プレイヤー達が最初に訪れることになる街の一つ“イグオール”。優秀な領主が治めるこの街は、どこよりも治安が良く。また美しい景観はどこの国の街にも負けることは無く、別名“リマリアの華”とも呼ばれていた。


 気候も温暖で過ごしやすく、もちろんプレイヤーにも人気の街の一つでありゲーム時代にナタク自身も何度かこの街を訪れることはあったが、現実になって初めてこの街を見ると、以前から知っている街並みよりも更に鮮やかに感じた。



「えぇ、これが噂に名高い“リマリアの華”。まさかここまで美しいとは思いませんでした。圧巻ですね」



 街を眺めながら呆けていると、リックさんが嬉しそうに語りかけてきた。



「そうだろう、そうだろう。この辺りに来たのなら是非ともここからの街の眺めを見てほしいからね。この街を好きになってくれたのなら、ここに住む私も鼻が高いよ。わっははは!」



 その後も、たわいのない話をしながら街の入り口付近の城壁まで乗せてもらって門の近くで別れることになった。



「すまないね、できれば街の中も案内してあげたいけど、ここから私はもう一つの専用ゲートを通って、この荷を城まで運ばなくちゃならないから、ここで君とはお別れだ。すぐそこに一般ゲートがあるから、詳しくは領兵の人に聞いてくれたまえ」


「いえ、ここまで乗せていただいてありがとうございました。街で落ち着いたらお店の方にも寄らせてもらおうと思いますので、その時はよろしくお願いします」


「こちらこそ是非よろしく頼むよ、それではまたね!」



 最後まで男前な笑顔のリックと別れて暫く歩くと、次第に巨大な石造りのゲートが顔をみせた。

 ここもゲーム時代に訪れたことがある場所だが、実際に観るそれは歴史を感じさせる圧巻の一言だった。


 入場ゲートはそれほど込んでおらず、身分証が無かったため銀貨1枚で仮の交通手形を発行してもらい、後日正式な身分証を提出した際に預かり金と仮の交通手形を交換する事になるそうなので、その手続きを終えてやっと街の中に入ることができた。


 対応してくれた領兵の人もとても親切で、お勧めの宿や身分証明書の作り方なども丁寧に教えてくれた。


 転生してナタクとなって初めて訪れた街“イグオール”。これから始まる冒険譚は如何なるものになるのか。



「取り敢えず、野宿しなくて済んでよかった。では、お勧めの宿にでも向かうとしますか」



 そう呟きながら一人、夕日を背負いながら行きかう人々の中に溶け込み街に繰り出していくのであった。



はて?ここって、いったいどこだろう?(´・ω・`)

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