第23話 転生4日目1-2
丁度お昼時ということもあり、道中の飲食店はどこも大忙しで、いたる所から美味しそうな匂いを漂わせていた。この分だと、今向かっている喫茶店も相当混んでいるかもと、若干覚悟を決めて足を進めていたのだが、意外にも店内はお客が疎らにいる程度で、落ち着いた雰囲気は健在であった。
「お茶がとっても美味しかったので、てっきり満席になっているかと思ったのですが、空いていて良かったですね」
「やはり立地に問題があるのかもしれませんね、ちょっと奥まったところにありますし。隠れ家的なお店で、俺はなかなか気に入りましたよ」
「それは紹介した甲斐がありました。それで、先生は何を食べますか?」
「日本でしたら喫茶店の定番のスバゲッティやオムライス、エビフライなんかを食べると思うんですが。俺はこの麺料理にしてみますよ」
「私はどうしようかな?昨日はサンドイッチみたいなのを食べましたから、私はこの煮込みスープとパンのセットにしてみようかな?ちょっと待っててください、注文してきますね」
日本にいた時も仕事やプライベート共に喫茶店は良く利用していたので、こういう雰囲気の店は結構好みだ。ただ残念なのは、異世界の喫茶店のため、好きだった料理がもう食べられないことだ。
こうなれば、植物の品種改良にも手を出して早めにゲーム時代に作製した様々な作物をこの世界でも再現するのもいいかもしれない。ただそのためには、ある程度広い土地や管理するための設備を整える必要も出てくるので、やはり当分は金策をしているしかないであろう。
小さくため息をしていると、アキナが丁度戻ってきた。
「先生がため息とは珍しいですね。どうかしましたか?」
「いや、食べられないと思うと無性に食べたくなりませんか?」
「止めてくださいよ!私もなるべく考えないようにしているんですから」
「色々再現できる自信はあるのですが、まずは野菜を時間をかけて品種改良して、それを栽培できる大きな土地を用意したり、管理に必要なあれやこれやを準備したりと、色々用意しなくてはいけない物がたくさんありますからね。どうしても時間がかかりそうです」
「再現できる自信があるだけでもすごいと思いますよ。私はあまり料理はできませんので、材料が仮にあったとしても再現できない可能性すらありますもん」
「アキは煮込み料理をすると、鍋を爆発させるタイプの人間ですか?」
「そこまで酷くありませんから!ちょっと苦手なだけです!!」
「俺も最初は得意ではありませんでしたが、一人暮らしが長かったので、やっているうちに自然とそれなりにできるようにはなりましたね。ただ、ここならば錬成で作った方が美味しくできそうな気がしますけど」
「あぁ、確かに。料理人のスキルも覚えなくちゃいけませんから、これを期に頑張ろうと思いますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
「勿論、できる限りお手伝いさせてもらいますよ。ただ俺も、料理人は中級くらいまでしか教えられませんけどね」
「しかし、こんな話をしていると日本人としてはご飯とお味噌汁が食べたくなりますね。こっちの食事も美味しいですけど、そろそろ塩味以外が食べたくなりますよ」
「籾種ならありますから、お米は作れますがそれを育てる場所が問題ですよね。早く栽培したいのですが」
「栽培する土地ですか。流石に宿暮らしには厳しいですよね・・・・って、先生?今なんて言いましたか??」
「栽培する土地がないって話ですか?」
「その一個前です!!なんでお米を作れるんですか!!!」
「あれ?アキは貰っていないんですか?女神ユーミアちゃんの救援物資の中にお米の籾種と味噌と醤油が入っていたんですよ。って、あれ日本人全員に渡したわけではなかったのか!」
「貰ってませんし!そんな話もしませんでしたよ!先生ずるいです、是非早く栽培してお米食べさせてください!!」
「勿論、できたら食べさせてあげますよ!日本人には米は必需品ですからね、食べられない辛さは理解できますから・・・・そろそろ揺らしながら締め上げるのを止めてください・・・ぐるじいです・・・・」
「はっ!すいません、ついやってしまいました・・・・。しかし、先生は良く女神様からそんなにいただけましたね。私は結構あっさり白い部屋からこちらに来てしまったので、特に何も貰えませんでしたよ」
「特別なことはした覚えはありませんけどね。なんか色々お話をしていたら流れで色々くれたみたいです。加護も面白そうだからあげるって、手紙に書いてありましたしね」
「私も、もう少し神様とお話すればよかったなぁ。そういえば先生、味噌や醤油まで貰えたんですか?」
「なんでも、昔に日本人をこの世界に招き入れた時に『お米と味噌と醤油がないと生きていけません』と言った先輩がいたらしいです。その流れで、日本人が泣いて喜ぶ三点セットとして救援物資の中に入れてもらったわけです。先輩と女神様には感謝ですね、ゲーム時代に米を作ろうとしてもまったく成功しませんでしたから。これがなかったらと思うと結構ゾッとします」
「偉大な先輩と女神様に私からも感謝です。ちなみに先生はこれらを増やすことはできますか?」
「可能だと思いますよ。生きた麹を入手できる材料が手元にあるのは大きいですね。後は品種改良を繰り返して、大豆を作製して量産できればどちらも増やせると思います。こちらはゲーム時代に麦麹で挑戦したことがありますので、再現は可能なはずですよ」
「つくづく先生に会えてよかったと思いますよ。あのまま一人だったら途方にくれてたか、見習いは諦めて冒険者とかやってそうでしたもん」
「取り敢えず、今回の領主様との交渉で土地を何とか出来ないか頑張ってみるつもりではあります。そのために、もう1つぐらいサプライズを用意できればいいんですけどね」
「もう十分な気もしますけど。お米様の命運がかかっているので、どうぞご存分にやらかしちゃってください!私にできることがあれば、全力でお手伝いさせていただきますよ!!」
「あはは、まぁ頑張って交渉してみますよ。食事もできたみたいですし、今は腹ごしらえを済ませてしまいましょう」
「そうでした、最近はずっと早起きなのでお昼にお腹がよく空くんですよね。結構食べてしまうので、そろそろ運動も考えないと体重が怖くなってきました」
「見習いがもう少しで終わるので、そしたら嫌と言うほど運動してもらいますので安心してください。むしろ痩せさせてご覧に入れますよ!」
「なかなかデンジャラスな未来に戦々恐々としながら、今はこの塩味のスープと戦うことにしますよ。あ、これも美味しい♪」
「この麺料理もなかなかいけますが、なんか辛味のないぺペロンチーノ風うどんを食べている気分です。いや、美味しいんですけどね」
「調味料も少ないんでしょうね、確かゲーム時代も、NPCのお店は塩味の焼くか煮込むかの料理ばっかりだった気がしますし」
「早めに調味料は開発して広めてあげたいですね。パンはちゃんと発酵パンみたいなので、煮込み料理の王様カレーなんかを広めたら、売れそうな気がします」
「あ、いいですね。お米が欲しくなりますが、パンでもなかなかいけますもんね」
「それと、トマトもあればいいのですが、たしかあれも品種改良しなければ作れなかったはずなので。まずは原種を探すところからですね。ハーブ類は結構あるのでカレーはそんなに掛からず作れそうですけど」
「なかなか最初はままなりませんね、先生」
「まぁ、地道にこつこつ進めていきましょう」
食事を終えて店を後にしたのだが、せっかくなので話に出た品種改良に挑戦するために、作物の種を扱ってるお店へと寄ることにした。そこで種を数種類と、大きめの鉢植えを4つほど購入してきた。
「随分大きめの鉢植えを買いましたが錬金術で使うんですか?」
「さっき話しに出た品種改良でもやってみようかと思いまして、それの下準備ですね。これを魔改造してある物を作るつもりです」
「マンイーターとか食肉生物とかは、やめてくださいよ・・・・」
「そんなの作りませんよ!安全な食べ物です!!」
「冗談ですよ。先生がそんなもの作らないことぐらい分ってますよ!って、あれ?なんで急に黙ってるんですか?そんな怖い笑顔やめてください、本当に作りませんよね!?ねぇってば!!」
アメリアがリズベットやミーシャを楽しそうにからかう気持ちがちょっと分かった気がした、ナタクであった。
錬金ギルドまで戻ってきたので、まずは先ほど査定に出していたポーションの代金を受け取りに、買い取り窓口まで行くと、今度はミーシャが受付に戻っていた。
「あ、ナタクさん。アキナさんお帰りなさいです。鑑定の方は終了してお金も用意できていますので受け取っていってください。しかし、今回はまた随分たくさん錬成されたんですね。ギルドとしても、嬉しい限りです」
料金の確認してみると、俺は金貨84枚と銀貨7枚。アキは金貨35枚と銀貨1枚の稼ぎになっていた。午前中の錬成だけでだいぶ記録を更新できて二人ともご満悦である。ミーシャには、また午後も錬成するので帰りの査定もお願いしてから、自分の実験室へ帰ってきた。それと、空き瓶はすでに部屋の前に置いてあったので、自分達で部屋の中へとしまっておいた。
「なんか、金銭感覚どんどんおかしくなりそうですね。これ上位の冒険者並みに稼げてるんじゃないですか?」
「もっと上の錬成ができるようになれば、もっと稼げるようになりますよ。だって彼らが持ち込んだ高額の素材を材料に更に高額の商品を作るのですから。冒険者よりは稼ぎが上になるのは当然ですね。俺が最初に冒険者ギルドに登録に行かない理由がこれですね」
「苦労して集めてきた素材を高値で売ったと思ったら、それを更に加工してもらってお金を追加で払って商品を買いなおしているんですね。冒険者が少し可愛そうです・・・・」
「まぁ錬成に失敗すれば職人も大きな赤字を抱えることになるので、一概にどっちがいいとは言えませんが、錬金術なら等級4あたりまでは職人が得なのは確かに事実です。ただその技術を磨くために、時にはお金を湯水の様に使わなくてはいけないのも職人ですので、途中で怖くなって辞めてしまう人もたくさんいましたね。一見凄い稼げていそうな職人でも、それなりに自分に投資しているものですよ」
「それも見極めですよね?」
「そうですね、できるだけ赤字を少なく腕を磨けるかによって、後に大きく稼げるようになるかが決まるので、ちゃんと考えて色々作った方がいいですよ。ちなみに、今俺達が作っているポーションも、ちゃんと売れ筋の物を選んで作ってもらっていますからね。売れなければ収入にはなりませんから」
「勉強になります」
「さて、それではアキは引き続き、等級5のポーション作りを行ってください。できれば今日帰る頃には等級5クラスは卒業していてもらう予定なので」
「分かりました!先生は等級4のポーションを作製するのですか?」
「その予定ですけど、まずは最初にさっき買った鉢植えの魔改造をやってしまう予定です。これが上手くいけば、お米様への道が少し開けるので、早めに試してみたいのですよね。改造が終わった後も、結構時間もかかりますので」
「おぉ!それじゃあ、尚更頑張らないとですね!応援してますので、何か手伝えることがあったら直ぐに声掛けてくださいね」
「その時はお願いします。では、お互い午後の錬成も頑張りましょう!」
「はい!先生!!」
さて、まずはこの鉢植えを料理していきますかね。すべては愛しのお米様のために!
お米~お米~お米様~♪(≧▽≦)ヘイ!