第22話 転生4日目1-1
今日は朝一で錬金ギルドまでやって来た。昨日の宣言通り、一日中実験室に篭って錬成漬けの予定だったからだ。しかし大変お世話になっている薬草先生の在庫状況が、流石に今日一日分は持ちそうに無いので、冒険者ギルドの卸売市場に寄ってからこちらに来ることも考えてはいたのだが、確か錬金ギルドでも素材の販売を研究者向けにおこなっている事を思い出したので、今日は試しにそちらで買い足すことにしてみた。
今日はまだミーシャは出勤していなかったので、他の職員に場所を尋ねてみると、どうやらギルド本館のすぐ横にある、素材倉庫で販売されているそうなので、そちらに向かってみることにした。
「そういえば、先生は薬草をいっぱいお持ちですけど、いったい全部で何個くらい持っていたんですか?」
「確か・・・・、インベントリを10枠ほどパンパンに占有していたので1000個弱と言ったところでしょうか?」
「えっ!いくら探しやすい薬草でも、そんなに簡単に見つかりましたっけ?」
「何ヶ所か群生地帯を発見して、採取できたからこその数字ですね。それと結構森の奥に転生したせいか、まったく手付かずの状態で何ヶ所か似たような場所を発見できたのは幸運でした。他にもポーションの材料になる草花や実が100個単位で採取できたので、あそこは素材の宝庫でしたね。まぁ繁殖用以外、殆ど撮り尽くしたので当分はあそこは使えそうにありませんがね」
「普通初日でそこまで採取できないと思いますよ・・・・」
「そこは昔取った杵柄ってやつですね。採取なんて錬金術師では当たり前にやる行為ですから、効率の良い採取方法は体に染み付いてますよ」
そんな会話をしながら素材販売エリアまで到着したが、まだ他の研究員がそれほど来ていないためか素材が山の様に積まれていた。値段を確認してみると冒険者ギルドの卸売市場よりも若干高めではあったが、ギルドカードを見せるとゴールドクラス用の値段設定で販売してもらえることが分かった。
販売を担当していた職員のいた場所から、目録を持ってアキのいるところに戻り、それを彼女に見せるとある疑問をぶつけられた。
「あれ?先生、この目録の価格だと、冒険者ギルドよりも安くないですか?」
「職員の話によると、ゴールドクラスの錬金術師だと高品質品を結構数多く作ってくれるから、そっちで利益は回収できるんだそうです。あと大量に買ってもオマケはできないそうなので、先に割引がついてるらしいですよ。なんでもゴールドクラスの錬金術師の方は、だいたい大量に買い込んで実験に使うから、この価格設定らしいですね。俺も気になったので聞いてきました」
「そうなんですか。それで、先生はここで何を買うんですか?」
「今日1日全力で錬成するとちょっと在庫が心もとないので、その不足分を買い足そうかと思いまして。どうやらここでも動物系の素材を仕入れてくれてるそうなので、今日で等級5系のポーションは2人とも卒業予定ですよ」
「なんかやる前から疲れそうな話を聞いてしまいました・・・・」
「では、お買い物開始です!そちらの大きな箱を台車に乗っけて持ってきてください。じゃんじゃん詰めていきますよ!」
「ほんと、先生って錬成関係のことをやっていると、凄くイキイキしてますよね」
そして、30分かけて大きな箱に素材を山盛りで5箱詰め込んだところで買い物が終了した。
「いやぁ、今日もいい買い物ができました!」
「いやいや、おかしいですって!何ですかこの素材の山は。いったいどんだけ錬成するつもりですか!!」
「なかなかの品揃えに驚きましたね。しっかり等級4のポーション材料などもたくさん置いてあるので、ついつい買い込んでしまいましたよ」
「ついついで金貨20枚も突っ込まないでください!職員さんも、呆れて苦笑いしてますよ!!」
「これでもセーブしたつもりなんですけどね。昔なら小銭がなくなるまで突っ込んでいたので、これだけ財布に残ってるのは奇跡ですよ」
「やっぱり、先生の金銭感覚はどこかおかしいです・・・・」
『普通だと思うんだけどなぁ?』と思いながらも販売エリアにいた職員達にも手伝ってもらって自分の実験室の前まで運んでもらった。流石に箱が大きすぎてそのまま扉を通れなかったので、どうしたものかと考えていると、倉庫側の部屋には大きな搬入口があることを職員が教えてくれたので、そこから運び入れることで事なきを得た。
「さて、それではさっそく錬成を開始しようかな。って、アキはどうしました?」
「いえ、あまりの金銭感覚の違いに驚愕しているだけです。私だったら、もしこの後作ったアイテムが売れなくて、在庫の山を抱えたらどうしようと、オロオロしてしまいそうですもん」
「そこは市場調査と何を作るかにもよりますね。ただ錬金術は消費アイテムが殆どなので、まず売れないってことは少ないですし、市場を見て今消費者が何を欲しがっているかを考えながら錬成すると、あんまり失敗することはありませんよ。
それに俺の周りの職人さんも、現金を素材や魔石に変換して持ってる人が結構多かったですしね。お金を必要数以上に大量保管するようになるのは素材倉庫がいっぱいでもう詰め込めないからってのが殆どでした。やっぱりスカスカの倉庫は落ち着きませんからね、ここも早く素材でいっぱいにしてあげたいです」
「なんか金貨数枚で悩んでた自分が、馬鹿みたいに感じる世界ですね」
「まぁ、ちゃんと管理できていることは大前提ですけどね。流石に、どうでも良い物を買い漁ってると自滅はしますから、何事も見極めですよ」
「あっ!先生、錬成を始める前にこれプレゼントです。昨日ここで作り損ねたクッションを昨夜に作っておきましたので使ってください。『特製ふかふか!おおかみさんクッション』ですよ。ちなみに私のは、『特製のびのび!ねこさんクッション』です♪」
「おぉ!作ってくれたんですね、ありがとうございます。随分可愛らしいクッションですね」
「はい!こういうの作るのも大好きなので昨日はあっという間に出来上がってました。ついでに裁縫師もゲットできましたよ」
「いいですね、それでは約束のエンチャントを済ませてしまいますね。疲労回復と空きがあれば効率強化を狙って付けてみますよ」
「はぁい!お願いします」
ちなみに、このエンチャントとは職業とはまた別の錬成枠組みとして存在している。ゲーム初期の頃は運ゲーだと思われており、確率で成否が分かれると思われていたのだが、後期頃になってくると徐々に失敗しないでエンチャントを成功させる猛者達が現れ始める。それはこのエンチャントという行為が錬成作業にとても酷似していたため、腕のよい職人ほど成功率が非常に高かったのだ。このため、職業には存在しない“エンチャンター”なるエンチャント代行屋まで後に現れていた。
ナタクもゲーム時代はよくフレンドやクラメン達にこのエンチャントを頼まれていたので、もう下位のアイテムのエンチャントぐらいならほぼ100%成功させる自信を持っていた。
一応失敗するとアイテムを全ロストする可能性もあったのだが、下位のアイテムで失敗するつもりはまったくなかったので、サラサラとエンチャント用の錬成陣を描き上げて錬成を開始する。さらにクッション達はどちらも高品質のアイテムだったので、問題なくエンチャント二つとも付与することができた。流石は女神に招待された職人達だけあって、共に仕事の腕は一級品であった。
「完成しましたよ。ちゃんと効果も二つ付けられてよかったです」
「ありがとうございます!ねこちゃんが更に可愛くなった気がします」
「ちなみに、このクッション売ったらかなりの高額で買い取られそうな性能になっていますので、盗まれないように気をつけてくださいね」
「うぅ!そんなこと言われたら気軽に座りずらくなっちゃいますよ!!大丈夫です、大事に毎日インベントリで持ち歩くことにしますから!」
軽く二人で笑いあった後に、今度こそ錬成を開始することにした。まずは、等級5用のガイドライン付き特製錬成陣をアキナのために描き上げて渡しておく。今日から二人とも等級5ポーションでのレベル上げになるので、材料を出した後に一気に錬成作業に取り掛かる。ナタクは昼過ぎ頃から等級4のポーション作製に移行するまではアキナと同じ作業を繰り返すことになるのだが、やはりこれまでの慣れの関係上、段違いに速いペースで錬成作業を終えていた。
丁度正午に差し掛かった頃に、昼食を取るために一旦休憩を挟むことにした。錬成も順調で、ナタクが約350本、アキナが約180本ほどをすでに錬成し終えていた。もし、ナタクが一人で錬成をしていたなら、食事も取らずに次の日の朝まで錬成していた可能性もあったのだが、流石にアキナにそれを付き合わせるわけにはいかないので、無理をしないで適度に気分転換に外に出かけるよう、配慮することに決めていたのだ。
「ふぅ。流石にここまで一気に錬成すると疲れますね。いったんお昼って先生言ってましたが、どこか出かけるんですか?」
「そのつもりですよ。ずっと部屋に閉じ篭りだと気がめいってしまいますから、少し外の空気をすいに出かけましょう。この前の喫茶店なんてどうですか?」
「おぉ、いいですね!賛成です」
「それでは、このポーションを持っていったん買取受付まで持っていって査定してもらいましょう。その待ち時間で食事も済ませられるしょうし」
「確かに、この量だと鑑定する職員さんも大変でしょうしね。少しゆっくり食事ができそうです」
喜んでもらえて何よりである。
各自、自分が作製済みのポーションを台車に載せてギルド本館の買い取り窓口にやってきた。受付を見回してもミーシャの姿は見えなかったので、どうやら彼女も今は席をはずしているみたいであった。仕方がないので、他の職員に買取の査定をお願いして、一旦ギルドを後にすることにした。
ついでにギルドを出る際、在庫が少なくなった空き瓶の再発注も済ませておく。あんなにあった空き瓶も、残り数個になるまで減らしたことを考えると、だいぶ錬成をしているんだなぁと、しみじみ感じた。
「今回も結構いい値段になりそうでいいですね。私も、ゲーム時代にもっと前から真面目に錬金術をやっておけばよかったです」
「ある意味、現在進行形で錬金術専攻を絶賛実施中ですけどね。たぶん初期投資から見ても最初からここまで稼げるのはこの職業だけだと思いますよ。他の職業は、結構赤字レシピも存在しますからね」
「あぁ、確かに裁縫師でもありましたね。でもあれ、なんで赤字になるんでしょうか?」
「さっきも説明したとおり需要と供給のバランスが崩壊しているためですね。なかなか売れない商品をお互いに値引きしあって原価割れを起こしているんですよ。見極めのいい失敗例ですね」
「錬金術ってそういったことはないんですか?」
「錬金術は基本消耗品の作製になりますから、作れば作るだけ売れますね。むしろ足りなくて商品の値段が高騰することが度々起こるのが、錬金術の特徴ですかね。高ランクになってくると、工程がドンドン複雑になってきますし、素材も手に入りづらくなりますから。
だからなるべく商品の値段が変動しないように、ギルドが商品が手に入る時期にある一定数は確保しているみたいですよ。これが作れば作るだけ売れるカラクリですね」
「へぇ、だからこんなにたくさん買い取ってくれてるんですね」
「あまり財政のよろしくない街のギルドでは買ってもらえない場合もありますけどね。この街は領主もギルドマスターもやり手みたいなので、しばらくは安心ですね」
「最初にこの街にこれて、本当によかったです!」
こんな会話を楽しみながら、俺達は初めて出会った時に立ち寄った喫茶店を目指して歩いていった。
そんなにお金使って大丈夫ですか?(( ;゜Д゜))
大丈夫だ、問題ない!(`・ω・´)キリッ




