第20話 転生3日目1-7
「そろそろギルドマスターのところに行きますか」
「そうだね、もう流石にドロモンの奴もいないだろうし。ばあちゃんもげんなりとしてそうだから、これを持っていって元気つけてやるとしよう!」
「たぶん、もっと疲れることになると思うのは私だけなんでしょうか・・・・」
あれから1時間くらい時間を潰していたナタク達は、やっとギルドマスターの執務室に向かうことにした。ちなみに、ミーシャは先ほどお冠の先輩職員に引きずられながら他の仕事へ旅立っていった。どうやらサボっていたのが先輩にばれてしまったようだ。
「ところで、ギルドマスターの執務室ってどこにあるんですか?」
「ばあちゃんの部屋なら、ギルド本館の三階にあるね。元々一階にあったのだけど、『錬金術師は唯でさえ運動不足になりやすいのだから鍛えんと』とか言って、今の場所に移ったんだよ。おかげで職員達も頻繁に三階まで資料を持って行かないといけなくなったもんだから、みんな大変だって愚痴ってたね。まぁ、私は特にばあちゃんのところには行かないから、被害は少ないんだけど。むしろ、ばあちゃんの方からこっちに来る事の方が多いし」
(なるほど、職員さんが一番運動させられているんですね。皆さん、ふぁいとです!!)
ギルド本館に入り長めの階段を昇りきると、すぐにギルドマスターの部屋を見つけることができた。というか、大きな建物なのに三階は二部屋しかなく、他は屋上となっており、そこで薬草や草花を育成できる温室が併設されていた。
「ここがばあちゃんの部屋さ!隣は研究員のレポートなどが置かれている資料室になるね。どれどればあちゃんは・・・お!在席中になっているね。さっそくチャイムを鳴らして中へ入ろうではないか!」
魔導具を操作してチャイムを鳴らすとしばらくしてドアの鍵の解除される音が聞こえた。
「やぁ、ばあちゃん。ちょっと面白い話を持って来た・・ってドロモン、まだいたのかい・・・・」
「まったく話にならん!おぉ、アメリア研究員じゃないか、君からも言ってやってくれ!次回の王都でおこなわれる学術発表会のイグオール代表発表者は、この私ドロモンこそが相応しいと!!」
「だから何度も言っているじゃろ、その年でもっとも偉大な研究をした者にその権利を与えると。まだ何も成果を上げていないお前さんを、何で態々指名せにゃならんのだ。選ばれたかったら、ちゃんと成果を持ってここに来いと、もう何時間同じことを言わせれば気が済むんじゃ!」
「だからちゃんとレポートを持ってきているではないか!何故認めようとせん!!」
「この資料は昔お前さんが持ってきたレポートに、少しだけ手を加えただけではないか!性能が1~2%上がっただけで、改良とか抜かすでない!ワシから言わせれば、こんなの誤差と言うんじゃ!!」
「まだ言うか、この腐れババァ!!それなら此方にも考えがある!近日中に大掛かりな錬成実験を決行してやろうではないか。それを見て、私の研究がどれほど偉大で素晴らしい物だったのかを証明してみせよう。吠え面をかかせてやるから覚悟して待っておれよ!」
ふん!と鼻を鳴らして入り口へとズカズカと歩いて向かってくる。その時、ドロモンは扉の横にいたナタクを一睨みした後にアキナを発見し、今度はいやらしそうな目を向けてきた。
「ほほぉ、君は見ない顔だね、新しい研究員かな?こんな目の腐った奴らと一緒にいると思考が停止してしまって、より良い研究なんてできないであろう。私の実験室に一緒に来たまえ、君なら歓迎しようではないか」
「ひぃ!いえ、結構です!!ナタク先生がいいです!!」
そう言ってアキナに全力で抱き着かれてしまった。確かに、男の俺からしてもあいつの目は気色が悪かったので、アキナが怯えるのも無理はないだろう。軽く頭を撫でてあげた。
「ドロモンさん、人の助手を勝手に勧誘しないでいただきたい。この子は俺の弟子なので諦めてください」
「貴様がナタクとかいう餓鬼か。ふん!生意気そうな顔をしよって。少しばかり珍しい研究成果を出したからと言って調子に乗るなよ!!」
そういって入り口のドアを思いっきり閉めて出て行ってしまった。
(はて、あそこまで目の敵にされる程、あの人と面識はない筈だが?)
「お前さん達もすまなかったね。なかなかあやつが諦めなくて困っておったところだったんじゃよ。正直訪ねて来てくれて助かったところじゃ。巻き込んでしまってすまないね」
「いえ、お役に立てたなら何よりです。しかし、随分と個性的なお人でしたね」
「素直に嫌な奴で構わんよ。どうやら坊主の等級2の再生ポーションの噂を聞いて、焦ってここへ来たみたいでな。あやつは王都の錬金ギルドへの栄転を望んでおるから、強力なライバルが現れたと思って慌てたんじゃないかのぅ?ずいぶんとお前さんを目の敵にしているみたいじゃったし、ここでの罵詈雑言の半分は坊主へ対してじゃったしな」
「正直勘弁して欲しいですね。王都に移る気もないですし、誰かと競って研究しているわけではないので、勝手にライバル視されても迷惑ですよ」
「まったくもってその通りじゃな。しかも、あやつは今年の査定に必要なポイントが足りていないので、更に焦っているみたいじゃからな。とんだとばっちりと言ったやつじゃな。かっかか!」
「楽しそうに言わないでください・・・・」
「して、お前さん達は何しに来たんじゃ?ポーションの件は領主には伝えてはあるが、あやつも忙しいからのぅ。返答が帰ってきてから坊主を呼ぼうかと思っておったのじゃが?」
「ふっふふ!ここからは私が説明しようではないか。いやぁ、あいつと同じ空気も吸いたくないので喋るのをずっと我慢していたからね、早く喋りたくてウズウズしていたよ。まずは最初に、ばあちゃんこの私の髪を見てくれ!見違えたであろう!!」
(随分静かだと思ったらそんな理由で黙っていたんですね。あの人、どんだけ嫌われているんだか・・・・)
「ほぉ、洗髪嫌いなお前さんが、いったいどういう風の吹き回しだい・・・ってアメリア、お前さんなんでそんなに綺麗な髪をしとるんじゃ?いつもウエーブのかかりまくったボサボサ頭が、どうやったらそこまで変貌をとげる?まさか、坊主がまた頭髪特化型の再生ポーションでも作ったのかい!?」
「惜しいけどちょっと違うね!これは専用の洗髪剤と保護薬を使っただけでここまで見違えたのさ!
そしてこの薬剤、なんと新レシピ!しかもここまでの効果を出しながら、等級5相当の錬成しか使用していないという優れものさ!どうだい驚いただろ?(ニヤニヤ)」
「なにぃ、新レシピだと!それに、等級5相当の錬成しか必要としないというのは本当かね!?」
「えぇ、本当ですよ。現物をお出ししますので、鑑定をしてご覧になってください」
アメリアが殆ど話してくれるので、かなり楽であった。そうして、用意してあった3つのアイテムを机に順番に並べてゆく。
「これが新レシピで作られたアイテムかい。どれ、それじゃぁ少し失礼するよ」
「このアイテムには錬金術で作れるいくつかの素材を除いて、殆どが銅貨数枚程度で買える材料で作ることが可能です。もちろん、高級な素材を使用すればそれなりに高い値段になりますが。
そして、この三つのアイテムの最大の特徴が錬成を使用しないでも作製可能なアイテムであることです」
「ほぉ、それでこのアイテムをギルドに売り込もうというのかい?」
「最初はそれも考えたのですが、途中で考えを改めましてね。この製法とレシピを、権利ごとある人物に売ってしまおうと考えましたので、できれば口添えをお願いしたくて、今日はここに来ました」
「坊主は次から次へと・・・少しは老人を労らわんか!昨日からこっちは驚かされ過ぎて参ってしまいそうじゃよ!
まぁ、確かに。この商品ならかなり良い値段で売れることじゃろうて。しかも消耗品ときている、これの利権を売るとなるとかなり大きな商会でないと払いきれないじゃろう。しかも、材料面で必ずギルドが一枚噛めるのであればこちらとしても旨みがあるしのぉ。
いいじゃろう、口添えの件引き受けてやってもいい。して、坊主はどこの商会を希望しておるんじゃ?特に希望がないのであれば、知っていいるところを教えてやってもよいぞ」
『きっとまた驚かせて、怒鳴られそうだな』と思いながらも、ここはハッキリと自分の希望を伝える。
「いえ今回は自分の利益を優先して求めている訳ではないので商会ではなく、これを産業として大々的に雇用を生み出して街自体の発展を望める人物。この街を治めるイグオールの領主様にこの話を受けていただきたいのです」
「なぁ・・・・!」
(予想通り、やはり絶句されましたか・・・・)
「ばあちゃん、ナタク君はこれを領主に売り込むことで、恩を売って後ろ盾を得たいそうだよ。これからたくさんの研究をするにあたって、邪魔者を排除するのにあの人以上の人物は、この辺りには他にいないしね。なにしろ、この国の王様にすら面と向かって意見できる立場にいるわけだし。
しかも、お金よりも他にお願いしたいことがあるらしいから、協力してやってくれないかな?」
「本当に坊主は人を脅かさないと死んでしまう病気にでもかかっているのかね、まったく。しかし、坊主は解かっておるのかい?後ろ盾を得るということは、ある程度領主に対する忠誠を誓わなくてはならなくなるのだよ。時には何かしらの仕事を任されることもあるかもしれんのじゃぞ?」
「そこは交渉でどうにかしようと思ってますし、ある程度ならお手伝いをしても良いとも考えています。勿論、あまりに拘束されて自由に行動できないくらいなら、仕方ないですがこの地を去って他で活動させてもらいますけどね。他にもたくさんやりたいことがありますので」
「それだけはワシも絶対阻止させてもらうし、たぶん領主もしないであろう。昨日も言ったがあやつは“聡明”じゃからな。坊主を手放す代償と、無理をさせずにこの地に留まらせる天秤を間違えるような事はしないであろう。昔からそういう見極めが非常に上手いやつだったからのぅ。
よし、分かった。この話を領主のところへ必ず持っていこう。それにポーションの件もあるから、できるだけ近いうちに交渉のテーブルも用意させよう。このアイテムはサンプルとして持っていっても構わないかのぅ?」
「勿論、構いませんよ。他にも説明書と何種類か香りの違う物や材料が違う物も用意しているので、それも持って行ってみてください」
「本当に用意がいいのぅ。これでは絶対にドロモンの奴では坊主には勝てんな!ライバル視しているだけでもかなり滑稽じゃて。かっかか!」
「ばあちゃん、あんなのと一緒にしてはナタク君に失礼だよ!それで、ナタク君。私も1セット欲しいのだが、後で作っては貰えないだろうか?もう、これを体験してしまってはアブルの実では決して満足できそうにないからね!」
「そう言うと思ってお土産分はちゃんと用意してありますよ。後で実験室に帰ったら渡しますので。アキの分もちゃんとありますから、そんな物欲しそうな顔をしなくても大丈夫ですよ」
「あぅ!ばれていましたか。先生、ありがとうございます」
「そういえば、そっちの娘は見ない子だね。坊主が連れて来たのかい?」
「はい、同郷の者でして弟子に取ることにしました。しばらく様子を見てからブロンズクラスへの昇格試験を受けさせる予定なので、その時はよろしくお願いします」
「初めまして、アキナと申します。これからよろしくお願いします」
「ギルドマスターのガレットさね。このアメリアの祖母でもある、もし解らない事があればこの子にも頼るといいさね。普段はこんなのだが面倒見はとてもよいからね、きっと力になってくれるはずじゃ」
「ありがとうございます!これから頑張らせていただきたいと思います!」
「それじゃ、領主への交渉の件は日取りが決まり次第連絡を入れるようにしておくよ。なるべく早くなる様には言っておくから準備をして待っていておくれ。
それと、ワシは今日はもう疲れたから帰って休むことにするよ。まったく坊主が来てから色々驚かされてばかりで心臓が持たなくなっちまうさね!かっかか」
「申し訳ございませんが、これからも色々やると思うので、今度何か体によい物でも作ってお待ちしますね」
「やめてくれ、それで更に驚きそうじゃて!」
みんなで笑った後に部屋を後にすることにした。これで交渉にはつけそうなので一安心だが、ここからが一番大変な山場でもある。気合を入れて取り組まなければ。
はて?彼はいったい・・・(´・ω・`)