第51話
お待たせしてすいません、捻りだしてきました εミ(о;_ _)о
赤面したアキナを宥めつつナタク達が向かった先は、セシリア城内にいくつか点在している訓練施設の中でも一際大きな面積を誇る“第三演習場”と言われる場所であった。この施設は最大で中隊規模での軍事演習が可能らしく、伝令の彼に案内されて扉をいくつか通り抜けると、そこにはちょっとした陸上競技トラックであれば軽く収まってしまいそうな開けた空間が広がっていた。
そして言わずもがな、現在その広場の中央付近では重厚なフルプレートメイルに身を包んだ屈強な兵達が、件の魔物と大立ち回りを繰り広げている真っ最中であり。中でも巨大な魔物に臆することなく正面に立ち、身の丈以上のハルバートを軽々と振るう武人の動きは他と比べ頭一つ抜きに出ていた。
「ほぉ。ハルバートでタンクの真似事とは、ずいぶんと器用な奴がおるみたいだな」
「あやつがバナックじゃ。まだまだ腕は錆びついておらんようじゃのぉ」
レナートが感心するのも無理はなく、本来のハルバートを使った戦い方にはタンクの仕事は含まれておらず。むしろその両手斧に通じる破壊力と槍本来の攻撃範囲の広さを活かしたアタッカー専用の武器として扱われているのが一般的であり、彼のような受け流しを軸とした戦闘スタイルも無くはないが、その使い手は間違いなく少数派になるだろう。
(向こうでも、たまにこういった変則的な戦い方を好むプレイヤーもいましたが、それにしても見事な槍捌きですね。領主様が彼の名前を聞いて全く慌てなかったのも頷けます)
「モーリス!直ちにバナックと交代し、あの魔物を抑え込め!!」
「はっ!!」
流石に本職のタンクが到着した以上アタッカーの彼に無理をさせる必要もないため、アレックスの大きな号令が場内へと木霊した。その指示に従い、モーリスはすぐさまアイテムボックス機能の備わった腕輪から一振りの剣とカイトシールドを取り出すと、こちらもフルプレートを身に着けてるとは思えぬ速さで、件の魔物へ突貫を仕掛けていった。
「バナック隊長!正面、引き継ぎます!!」
「おぉ、その声はモーリスか!!気をつけろ、此奴め見た目以上に堅いぞ!!!」
「承知っ!!!」
モーリスは背後からバナックを追い越す際に、騎士の技能スキルである『アンカー・デスティネーション』を発動させると、奇しくも王虎戦でナタクを庇った時の再現をするかの如く、剛腕から放たれた重たい一撃を左手に持ったシールドで難なく弾き、そのまま返す刃でクレイジーコングの胸部へと鋭い斬撃を放ってみせた。
「グガァァァァァァ!!!!」
その予想外の反撃に驚いたのか、堪らずといった感じにクレイジーコングは大きく仰け反ると、すぐさま姿勢を立て直しモーリスに向かって低い唸り声を上げながら殺意の宿った瞳で睨み返していた。どうやら敵対心を集めるスキル効果も相まって、ターゲットの移行は無事に成功したようだ。
「おっ、かなりいいカウンターが入ったな!」
「私には軽く剣を振った様にしか見えなかったけど、ダメージは悪くなさそうだね。あの斬撃には何か特殊なスキルでも付与されていたのかい?」
「いえ、見た限りモーリスさんの攻撃は通常のものでしたね。単に武器性能が向上した関係で、斬撃の威力が上がってるだけかと。ライルもその剣で攻撃するなら、ヘイト管理は十分に気を付けてくださいね」
「おっと、そうだった。危なくいつものノリで斬りつけに行くとこだったぜ・・・・」
「・・・・私も、調子に乗らないよう気を付けないと!」
「てかさ、みんなしてナタク君の新作装備って何かずるくないかい!?こうなったら私にも、後で凄いヤツを作ってもらうからねっ!!」
「りょ、了解です!」
「あはは・・・・それでは、私は弱体を入れつつ皆さんのサポートに徹しますね。あのタイプは弱点が人間相手とほぼ同じはずなので、アテナちゃんはそこを積極的に狙ってみてください。
スラキチさんは誤って味方から攻撃される恐れがあるので、今回はアメリアさんの護衛を頼みます!」
「・・・・わかった、任せて」
アキナの指示に各自が頷き、自分の持ち場へと駆けていった。
しかしながらと、ナタクは目の前で暴れている件の魔物について思考を巡らせる。ダンジョンで生成されたボスユニットとは異なり、生きた人間を素材とし強制的に生み出された異端な存在として警戒はしていたのだが、近くで見れば見るほどその立ち振る舞いは自分達プレイヤーが良く知るクレイジーコングそのものであった。
と言うのもこの魔物、あちらの世界では主にプレイヤーが中位職へとクラスアップを果たしたタイミングで一度は戦うことになる、一種の登竜門的な存在として扱われていた。
その理由として、まず今まで下位職の者達が普段狩場として利用していた初心者向けのダンジョンなのでは、単に力押しで倒せてしまうような相手ばかりだったのに対して、この頃から『敵の種族特性』や『攻撃パターンの解明』それに加えて『有効なバフ・デバフの見極め』など、様々な戦闘ギミックを考慮に入れながら戦闘に臨まないと途端に攻略が難しくなるボスユニットが増え始める頃合いであった。
そんな中、最も練習台として適任とされていたのが、今自分達の前で大暴れしているクレイジーコングの存在であった。
この魔物、先にも述べていた通り基本的に厄介な特殊スキルや魔法の類は所持しておらず。攻撃手段もただ狂ったように手足を動かし暴れまわるだけなため、攻撃パターンさえ掴めてしまえば比較的容易に対処できる魔物であった。
さらにボスユニットでもあるため、他の魔物に比べて体力も非常に高く。また『獣タイプ』の種族特性として、以前レイドで戦ったキメラ型ほどではないものの『自動回復効果』や毛皮部分に『物理攻撃軽減』のバフ効果も兼ね備えているため、バフ無効化の入門編としても申し分ない相手とされていた。
(どうやらダメージはそこそこ与えていたが、バフの無効化が不十分で焼け石に水の状態だったみたいですね。王虎戦でも思いましたが、もしやデバフの重要性があまり認知されていないのかな?)
そんなことを考えながら視線をアキナに向けると、彼女も自分と同じ疑問へ辿り着いていたらしく、今は手持ちの巻物を展開しながら足りないデバフを埋める作業に注力しているところであった。本来このようなレイド形式の戦闘であれば複数人でのデバフ管理が理想とされるが、今回は彼女一人でも特に問題ないだろう。
ヘイト管理の関係で、アキナのデバフ配りが終わるのをジッと待ちながら同じ近接型のアタッカーであるライルと共に戦闘を眺めていると、先ほど広場の真ん中で大立ち回り繰り広げていたハルバート使いが兜のバイザーを上にずらし、こちらへ歩み寄ってくる姿が確認できた。年の頃はアレックスよりやや上といったところだろうか、疲労感など微塵も見せず二人にハキハキと話しかけてきた。
「何方かは知らぬが、助太刀感謝する。ライル坊ちゃんと一緒にいるということは、王都からのお客人で相違ないか?」
「バナック・・・・いい加減オレのことを坊ちゃん呼びするのはやめてくれ」
「ハッハハ!!それはライル坊ちゃんが軍で立派に独り立ちなされたら改めましょうぞ!!」
「まったく、これだけ元気ならもう少し遅れてくればよかったぜ。アテナのことは知っているな?
こっちの派手な鎧が『王虎殺し』のナタク、向こうにいるのがその弟子のアキナだ。城詰めをしていたんだったら、この二人の噂ぐらいは耳にしているだろ?」
「なんと!『王虎殺し』に『天才軍師』殿でありましたか!!」
「えっと・・・・『王虎殺し』についてはもう諦めましたが、その『天才軍師』ってのは?」
「うん?ナタクは知らなかったのか。確かに冒険者達にはナタクの二つ名である『王虎殺し』の方が知られているけど、あの時一緒に戦った軍人達にはアキナの『天才軍師』って二つ名の方がわりと有名だぞ。
何でも、あの戦いで複数小隊を同時に指揮しながら誰一人の重傷者・戦死者を出さなかったその高い指揮能力を称えてそう呼ばれ始めたんだったかな」
「実際、後におこなわれた報告会議で重傷者すら出さずにあの場を指揮するのは奇跡に近いと結論出されましたからな。いやはや、お目にかかれて光栄の極み。今回も期待させていただきますぞ!!」
「あはは・・・・微力を尽くします。(恥ずかしがり屋のアキが聞いたら、身悶えしそうな二つ名ですね。本人が戦闘に集中している時で助かりました)」
「しっかし、バナックが先に戦っていたわりには、お相手さんそこまでダメージを負っているようには見えないな。さっきのナタク達の話だと、あんまり脅威な相手でもないんだろ?」
「えぇ、ただタフなだけで特質する能力は持ち合わせていないはずです。実際に戦ってみたバナックさんから見て、あの魔物はどのように感じられましたか?」
「然り、初動こそあの見た目に混乱させられましたが、攻撃はワンパターンで読みやすく速度も遅いため、畑違いの自分でも対処するのはそれほど難しくありませんでしたな。ただ、こちらの攻撃もあまり効果が見込めず、今後どう攻めるべきかと難儀していた次第で・・・・『王虎殺し』殿はあやつの対処法を何かご存じなのか?」
「対処法と言いますか、単に“デバフ配り”が不十分でバフの効果を打ち消せていなかっただけかと。今、アキがそちらを対策してくれているので、直にダメージが通りやすくなるはずですよ」
「“デバフ配り”?それって何かの魔法のことか?」
「デバフというのは、相手に身体能力への弱体化を付与するスキルや魔法の総称みたいなものですね。細かい説明は戦闘中なので省きますが、あのクレイジーコングは『獣タイプ』の種族特性を持っているので、『自動回復効果』や『物理攻撃軽減』の効果が常時発動している状態だと思ってください。アキがやっているのは、その無効化ですね」
「それって、普通に脅威的な能力ってヤツになるんじゃないか?」
「いえ、クレイジーコングの場合その能力もまた微妙でして。ぶっちゃけた話、火力と回復さえ足りていればデバフ抜きでも十分倒せてしまう相手なんですよ。
口の悪い人からは、動く木人人形とか言われていましたね」
「何か・・・・元が死刑囚だったとは言え、少し同情したくなってきたぜ」
「えぇ、まったくです」
「死刑囚?ライル坊ちゃん、今の話はいったい・・・・」
っと、ここで一人黙々と仕事をこなしていたアキナから合図が送られてきた。その成果を鑑定で確認してみると、どうやら現在彼女が使える殆んどのデバフ忍術を件の魔物に付与していたようで、一仕事終えた彼女の顔はどこか誇らしげであった。
(うわぁ・・・・弱体耐性が皆無の相手だったとはいえ、継続ダメージ系のみならず各種ステータス異常に至るまで、かなり幅広く付与したみたいですね。てか、この戦闘に関係なさそうなデバフ効果までちゃっかり付与されちゃっていますけど、これって一緒に忍術のスキル上げでもしていたのかな?
あっ!バツの悪そうに俺から目を逸らしたので、これは間違いなさそうですね)
「詳しい話は後だ後っ!!それより今の合図って、その“デバフ配り”が終わったって意味だよな?
もう斬りかかっても問題無いよな!!なっ!!!」
「そうですね。では、俺達アタッカーも削り作業に参加すると致しましょうか。バナックさんも先ほど以上にダメージの通りが良くなっているはずなので、ヘイト管理には十分お気を付けください」
「あ、あぁ・・・・」
無理を言って、基礎攻撃力の高いであろうライルには自分と暫く待機よう指示をだしていたので、彼もだいぶフラストレーションが溜まっていたようだ。ただ、おかげでメインタンクへのヘイト固定もかなり進んでいるはずなので、これで多少二人が燥いだとしても簡単にターゲットが外れるといった事故は起こらないであろう。
さてさて、前回のレイドバトルでは殆んどダメージを稼ぐことができませんでしたからね。今回はアタッカーとして、俺も“そこそこ”活躍させてもらいますよ!!
ずるいずるいっ!!(ρ≧□≦)p
(しまった、アメリアさんのことすっかり忘れてた)(´・ω・`;)