第50話
未だ、アメリアの周りでは戦闘参加の可否を巡る激しい押し問答が繰り広げられているようだが、そんな騒ぎもどこ吹く風といった感じに、手早く着替えを済ませたライルは、続けて各種パーツの動作チェックへと移っていた。
それにしても、男心をくすぐる軍隊仕様にカスタマイズされたその鎧。元々は一般兵向けの新装備として後ほどアレックスに売り込む予定でいたこともあり、量産も視野に入れ敢えて控えめな装飾に止めていたはずが、『高身長』に『整った顔立ち』『金髪碧眼』といった、まるで絵本に出てくる『理想の王子様』を体現したかのようなルックスを持つライルが身に纏うだけで、その印象を大きく変えてみせていた。
(いやぁ、思った以上に装備が映えますねぇ。これは素晴らしい広告塔になってくれそうです!)
「取り回しも問題無しっと。すげぇなこの鎧、何処にも違和感を感じねぇや」
「サイズの方も大丈夫そうですね。その鎧は軍隊向けに開発していた試作品の一つなんですよ」
「ほぉ、これほどの品を試作品と申すのか」
「・・・・なんか男の子が好きそうなデザインの鎧だね」
「確かに、これならば部隊兵装としても見栄えはかなり良いじゃろうな」
「スチール製なので性能面も保証しますよ。もし良かったら、そちらはライル君に差し上げますね。必要なデータも、十分に取り終わっているので」
「おっ、そいつは得をしたな!それと、オレのことは別に敬称無しで構わないぜ」
「了解です。それでは、これからはライルと呼ばせてもらいますね」
そんな会話を皆でしていると、少し離れた場所で話し合っていたアレックスが、不貞腐れたアメリアとそれを宥めるアキナをその場に残し、一人こちらへ戻ってくる姿が確認できた。ちなみに、彼の右頬はアメリアによる怒りの鉄拳で赤く腫れあがっていたが、本人にさほど気にした様子などは無く。寧ろ、愛娘とのスキンシップに笑みすら浮かべているところは流石であった。
まぁ、周りの大人達は苦笑いを浮かべていたが・・・・
「姉貴・・・・また派手にやったな」
「頬も腫れていますけど、大丈夫ですか?」
「なぁに、あれで諦めてくれるなら安いものだ。それより、そっちの用意はもう済んだのか?」
「後は武器の準備が残っているくらいかな」
「丁度、そのことで一つご提案が。もし領主様さえよろしければ、先ほど執務室にて紹介し損ねてしまった騎士剣がございますので、この際そちらを使用されてはいかがでしょうか?」
「あぁ、ライルが扉を破壊して有耶無耶になっていたヤツか」
「肯定です。ご依頼された二本とも、領主様の愛刀と重心や刀身の長さはそのままに。材質をワンランク上の物で作成し、最後にちょっとした仕掛けを追加した俺の自信作となっています」
「お前のちょっとは信用ならんからな・・・・あれのワンランク上ということは、素材に魔鉄でも使ったのか?」
「確かにギミックの関係で一部少量の魔鉄は使用しておりますが、今回メインの素材に選んだのは『強化鋼』というスチールの上位素材になりますね。分類的には同じ種類の金属になりますが、配合比率を徹底的に調整し、より強度を向上させた代物とお考え下さい。
ですので、スチール製の模擬刀をあれだけ使いこなせる彼ならば、まず問題無く扱えると思いますよ」
「まぁ、元々片方は来月頭にあるライルの誕生祝として一緒に作らせていた物ではあるが・・・・致し方がない。いいだろう、少し早いが好きな方を持っていくといい」
「マジか、やったぜ!ナタク、さっそくその剣を見せてくれ!!」
思いのほかあっさりと許可も取り付けられたので、そうとなれば遠慮すること無く剣のお披露目をしてしまおうと、ナタクはインベントリから上質な布に包まれた二振りの騎士剣を取り出した。
その様子をその場にいた全員が興味津々といった感じに見つめていたので、ナタクがそれら一本ずつを彼ら親子に手渡すと、ライルが手にした包みからは至極色の鞘に納められた真新しい騎士剣が姿を現し、アレックスの方にも同様に、こちらは深紅の鞘に納められていた。
「そちらが領主様のご依頼で打たせていただいた二振りの騎士剣、紫の鞘が雷の魔剣『ライトニングエッジ』。赤い鞘に収められているのが、炎の魔剣『フランベルジュ』となっております」
「やはり、ちょっとどころでは無かったか・・・・」
「うおぉ、かっけぇ!!」
「大まかな性能解説をさせていただきますと、
まず、雷の魔剣『ライトニングエッジ』に付きまして
こちらは、領主様も愛用されている『バスターソード』をモデルベースに、先ほどご説明していた『強化鋼』を主軸に据えて打たせていただきました。また、諸事情により途中から魔剣に改造することにしたので、より魔力の通りを良くするために皮鉄を当初用意していた物から属性石(雷)と魔鉄を一定比率で配合した特殊合金に変更し、柄頭には魔剣の心臓部でもある宝珠(雷)を嵌め込み仕上げてあります。
魔剣の特殊効果としましては、グリップの部分から起動用の魔力を直接送り込むことで刀身全体に帯電する仕掛けになっておりまして、この剣で切られた相手は“感電”という蓄積型のデバフ効果が付与され、その追加ダメージも然ることながら症状が進んでいきますと、“スタン”や“麻痺”“昏倒”といった強力な状態異常を相手に与えることが期待できます。
続きまして、炎の魔剣『フランベルジュ』の方ですが
同じモデルの剣を披露するのも少々面白味に欠けるので、こちらは思い切って趣向を凝らせていただきました。この剣は名前の由来でもある『炎の剣』をモチーフに作成しており、刀身に揺らめく炎を連想させる独特な形状の刃を持たせてあります。
ちなみに、この騎士剣は殺傷能力の高い剣としても有名でして、この特殊な刃に肉を裂かれると縫合がとても難しいらしく。史実では戦場で出血が止まらず死に絶える者が続出したことから、『死よりも苦痛を与える剣』としてより多くの敵兵から恐れられていたそうです。
そのままでも十分に強力な剣となっていますが、せっかくなので今回はこちらにも『ライトニングエッジ』とほぼ同様の機構を仕込んでおりまして、違いとしましては使用した属性石と宝珠の種類が共に炎属性であったくらいですかね。
特殊効果は、刀身に炎を宿し“燃焼”ダメージを与える他、運動能力低下や治癒効果の阻害が期待できる“やけど”の付与が可能となっています」
「聞いただけでも、恐ろしい性能を持っているな」
「てか、魔剣って人の手でも作れたんだな。勝手にダンジョンからしか手に入らないと思っていたぜ」
「あながち、その考えも間違いではないですけどね。魔剣の製造法には色々と種類があるので詳しい説明は省きますが、今回は『宝珠の移植法』という少し変わった手法を使わせてもらいました。
もちろん、素材や設備さえ揃っていれば正規の方法でも魔剣を打つことは可能ですよ。要は、核となる宝珠の作成がやたらと難しいだけなので」
「・・・・なるほど、私の弓もそうやって作られたんだね」
「アテナさんに渡した弓には、風の宝珠が使われていますね。特殊効果は射速の上昇と貫通強化、他にも自分の意思である程度矢の軌道を変えることが可能になりますが、こちらは慣れるまで練習が必要になるかと思います」
「剣の他に弓までも・・・・お前は本当に人を驚かせることに事欠かんヤツだな。それで、ライルはどちらの剣を選ぶのだ?」
「う~ん、今回は使い慣れた形をしている雷の魔剣にしようかな。炎の方は明らかに癖が強そうだし」
「妥当な判断だな」
ちなみに彼ら親子の後ろでは、色々と質問したそうにしている大人達もちらほらといたのだが、今は時間も無いので気にしないことにした。そんなこんなでライルの騎士剣を背中に固定する手伝いをしていると、件の魔物が暴れている隣のエリアから伝令を務める兵士が慌てた様子で広場に現れたため、離れた場所にいたアメリアとアキナも加わり、全員で彼の報告に耳を傾けた。
どうやら初動に大きな混乱はあったものの、魔物の封じ込めには無事に成功しているようだ。
それもこれも、バナック率いる重装歩兵隊の獅子奮迅の働きあっての成果であるが、何分相手の魔物の防御力が非常に高く、要約するとこのままではジリ貧のため至急増援を乞うとの内容であった。
「なんとか持ち堪えてくれているようだな。では、我々もバナックのところへ向かうとしよう」
「うむ、だいぶ時間も使ってしまっておるしな」
「よっしゃー!じいちゃん達の分も大暴れしてくるぜ!!」
「ガッハハハ、期待しておるぞ」
「うぅ、私も参加したかったのに・・・・」
「・・・・わくわく」
準備も整い、後はPT編成をして現場に向かうだけとなったが、このままナタク達だけ普段着でいるのも憚られるため、目配せで着替える旨をアキナへ伝えると、彼女も漸く覚悟を決めたのか一度小さく頷いたので、そのまま“携帯型ドレッサー”を起動させ二人の身体は大きな光に包み込まれた。
しかしながら、何故アキナがここまで着替えを渋っていたのかというと、最初に衣装合わせをした際、アルンに散々弄られたことが原因なのだが・・・・詳しい理由については衣装を直接見ていただいた方が分かりやすいであろう。
光が解け、まずナタクの方に目を向けると、黒色の魔鉄をベースに赤い飾り紐と金細工で装飾された、見た目も豪華な勇ましい『武者鎧』が装着されていた。また頭部には防御力の高い専用装備の『武者兜』ではなく、より攻撃力に特化した『魔鉄の鉢金』が装備されており。左脇には一目で魔剣と分かる宝珠の埋め込まれた二本差しの刀が堂々と吊るされ、それらにも負けず劣らず目を引いたのが、純白の絹織物に金糸や銀糸を惜しみなく使用された、アキナ渾身の作品である『戦羽織』の存在であった。
この羽織こそが、ナタクから贈られた高価な腕輪のお返しにとアキナの持てる技術を最大限発揮し作成された逸品であり、背中の部分には猛々しい龍神が天に向かって駆け上がっていく様が、見事な刺繍で力強く表現されていた。
もちろん、こんなド派手な羽織を身に着けていたら戦場で悪目立ちすること必須だが、アキナの手前断ることも出来ず。また退路を断つがごとく、性能面も文句無しの一級品であるため、ナタクにこれを着ないという選択肢がそもそも存在していなかった。
そして問題のアキナの服装についてだが、実は元プレイヤー視点からすると彼女の装備はそこまで奇抜な格好というわけではなく、寧ろ職業別の専用装備というだけあってゲームの頃は同じような格好をしているも者も多く存在したため、彼女自身もアルンに指摘されるまではそれほど気にすることもなく普通に着こなしていた。
ちなみにベースとなっているのは、材質こそ違うものの普段アキナが着ている浴衣姿にスカートを合わせたような格好で、ハーフアップに纏められた彼女の紅い髪には金細工で作製され美しいデザインの簪が光り輝き、肘までをカバーしているギミック満載の『忍手甲』にロングブーツ型の戦闘靴。そして装甲付きの帯の上から帯刀用のベルトが装着され、そこへ宝珠付きの二本の忍者刀が帯の結び目の下でクロスする形で吊るされていた。
ここまでならば、特に彼女が恥ずかしがるほどでも無いように感じるだろうが、問題なのは浴衣のデザインとスカートの丈の短さ。そしてそれらをカバーするための装備が、ことごとく存在しないという点にあった。
少し前にも紹介したが、このアルカディアの世界には何故か高レベルの“女性用”装備についてのみ、とある不可解な制約が設けられていた。そう、どういうわけかレベルが上がるにつれて肌の露出が増えていくのである。一応これにはある年齢ラインに到達することで、この呪いにも似た制約は解除されるようだが、これはこれで色々と波紋が広がるため、詳しくはまた別の機会に話すとしよう。
アキナの服装もその例に洩れず、普段は鎖骨のラインでキッチリと浴衣の合わせ目を作っていた彼女も、現在はデザインの関係で胸の谷間をはっきりと確認できるほど大胆に胸元が開いてしまっており。浴衣の袖もノースリーブ状になっているのに加え、脇の下から帯の上辺にかけて鋭いスリットまで入っているため、今は何とか装備制限ギリギリの薄い晒布を使い、どうにか誤魔化してる状態であった。
またスカートの丈もそれ相応に短くなっているくせに、なんとスパッツさえも装備制限の影響で使えないため、苦肉の策でかなり丈の短いホットパンツで無理やり代用しているような有様だった。
ちなみに装備を披露した二人に対して、賞賛を抜きにした感想が以下の通りである。
「もし私が敵側の司令官だったら、間違いなくお前を最優先目標に指定するだろうな」
「どう見ても、大将首にしか見えん出で立ちじゃしな」
「あはは・・・・まぁ『侍』は戦場で目立ってなんぼの職業ですから」
「・・・・そして、アッキーは普通にエロいね」
「くっ、まさかアキナ君までそっち路線で攻めてくるとは!」
「うぅ、女性用の専用装備って大体がこういう物なんです!だから人前でこの格好になりたくなかったんですよ!!」
アキナの悲痛な叫びを他所に、男性陣からは概ね好評であったのは言うまでもなかった。
「「「おぉ・・・・」」」((* ̄∀ ̄*))b
あんまり注目しないでください!!(つ﹏<。)ノシ