第19話 転生3日目1-6
「それは、この“イグオール”を治める領主様です!!」
アメリアとミーシャが一瞬驚いた表情を見せたと思ったら、すぐにアメリアが大声で笑い出した。
「あははははぁ。いやぁ、ナタク君は実に面白い!私はてっきりギルドマスターであるばあちゃんか、私と取引をしている商会への口利きかと思っていたら、まさか領主ときたか!」
「最初は俺もそのつもりだったんですけどね。製法やレシピを一番上手く活用して産業に発展できる人物を考えると、商人やギルドよりもこの地域を管理している人物に託すのが一番賢いやり方だと思いましてね。
勿論、一番利益が多いのは商人に、貢献や名声を得るならばギルドに、それぞれ商談を持ちかけるのが一番いいのは判っているんですが。リスクや手間を考えるとここは領主様一択でしたね」
「成程ね、それが判っていての交渉相手が領主になるなら、私も反対はしないよ。実際、あの人なら間違いなくこれを一大産業として成功させるだけの財力と才能があるからね。
しかし、本当にいいのかい?これだけの商品だ、間違いなくこの製法を独占するだけで一生遊んで暮らせるだけのお金と名声を手にすることができるのだよ。それを他人に売ってしまっては、後から返せといってももう手遅れになってしまうのも分かっているよね?」
「それは構いませんよ。別にこれだけに縋っていなくてはいけなくなるような人生設計はしていないつもりですからね。後、正直これのレシピを独占したために、いろんな人から狙われて生活を脅かされるなんて御免ですから。
それなら、たとえ多少利益が減ろうが先に領主様に恩を売っておいた方が、後々自分のためになると判断しましたので。それに、まだまだ作りたい物や研究したい物がたくさんありますからね。これだけに構ってる時間は俺にありませんよ」
「あはははは!いやぁ、実にいいね。それでこそ研究者たる錬金術師のあり方だ!王都の古狸共にも聞かせてやりたいね。奴らいつまでも過去の栄光にしがみつく事しかできない老害でしかないからね。
分かった、私にできることがあるなら、その交渉手伝わせてもらおうじゃないか!」
「ありがとうございます、本当に助かります」
「しかし、領主相手の交渉に何で私の協力を得ようとしたんだい?それこそ、ギルドマスターを抱き込んでから領主へと交渉を持ちかけた方がいいと思うけどね。というか、この話はギルドを通さないでおこなうつもりかい?」
「そこはアメリアさんの人望の厚そうな人柄・・・って、冗談はさておき。本音はギルドマスターを巻き込むに当たってアメリアさんを連れて行った方が勝率が高いと考えたからですよ。もちろんギルドを通してからおこなう予定です。といいますか、ギルドの協力も不可欠といいますか。
実はこのレシピ等級5相当の物になるんですが、これ材料さえ揃えれば錬成しないでも作ることが可能なんですよ。ただ、材料を作るのにどうしても錬金術が必要になってくるので、この材料をギルドの錬金術師達に作ってもらって、完成品を錬成無しで一般の人達に作ってもらいたいと考えています。
こうすれば産業として雇用が生まれますし、錬金ギルドの一人勝ちにはならないので他の職種のギルド達からの抗議も少なくなるんじゃないかなと考えています。それ以上に、この街全体で豊かになってもらう方法が俺の中ではこれが一番いいものだと考えたからですね」
「そこは言い切ってくれたまえ!勿論、ばあちゃんの説得には協力するがなんか面白くないね。私だって拗ねたりするのだよ?
しかし、ナタク君は本当に面白い持論を持っているのだね。普通の人間は利益を独占することは当たり前に考えるものだ。多少人に分け前を与えることになろうとも、優先すべきは自分になる。当たり前だが、人は生活をするために稼がなくてはならないからね。
ナタク君と同じ考え方をしている者、それは国益を考えなくてはいけない王様や、土地を任されている領主になるだろう。もちろん、真っ当な考えをしている人達のことだよ。土地を豊かにし、民達の生活の向上を考え実行できる者。それを人は名君と呼ぶ。君がもし貴族になって領地経営を任されたら、きっとそこの民達は幸せだろうね」
「俺はそこまでできた人間ではないですよ。ただ面倒ごとを他人に押し付けてお金を得ようとしているだけです。それにタダでレシピを渡すわけではありませんからね。
それと、貴族はごめんですね。色々しがらみが多そうなので、研究者をやって自由に錬成している方が今の自分には合っていますよ」
「そこは私も同感だ。あんなパーティーやらで、ひらひらしたドレスを着て無駄口聴きながら愛想笑いしているくらいなら、実験室に篭ってポーション作ってるほうが何倍も有意義だろうしね!
しかし、どうせ君のことだ。領主からできるだけ絞り取ろうといった考えでもないんだろ?」
「えぇ、よく判りますね。今回は領主様とのコネクションと次ぎへのきっかけができればいいと思っています。それに無理のない範囲でお願いを聞いてもらおうかとも考えているので、本命はそっちですね」
「なるほどねぇ。更に次を見ていると。いやぁ、私は君がどんな交渉するのか待ち遠しくてならないよ!本命は、その時までのお楽しみにさせてもらおうかな」
「それでは、これを持ってギルドマスターの所にまずは行きたいのですが。今日はこちらにいらしているんですか?」
「今日は外出の話は特に聞いてなかったから、たぶんギルド内にはいるんじゃないかな?ミーシャどうなんだい?」
「はひぃ!ギルマスですか?たぶんご自身の部屋でお仕事をされているんじゃないかと思いますが、ちょっと待ってくださいね。あ・・・たぶんドロモン・・先生との面会が昼過ぎに予定されてるみたいなので、今頃は丁度お話が終わってる頃なんじゃないですかね・・・・」
「ちっ、ドロモンか。正直あんまり顔も見たくないからバッティングすることだけは勘弁して欲しいね」
(なんだろう、ドロモンという人の話になったとたんアメリアさんとミーシャさんが揃って顔を顰めたが、いったいどんな人なんだろうか?)
「あの~その方はいったい、どのようなお人なんですか?」
そう思ってると、アキナが俺の代わりに聞いてくれた。
(しかし戻ってから初めて声を聞いたな。まぁ、確かにアメリアさんと話してると、なかなか会話の主導権握るのは難しいですからね)
「奴かい?奴は私達と同じゴールドクラスの研究員で主に生物学、キメラなどの研究をしている男だね。ただ、女好きで目つきが非常にいやらしいから、一緒にいると不愉快だ。それと、何人もの女性職員にセクハラをかましているどうしようもないクズだよ。
まぁ、今回の査定で貢献ポイントが足りないみたいで、あと数日でランクを落としそうな落ち目の錬金術師さ。アキナ君はたぶん奴の好みのど真ん中だろうから、絶対一人でアイツに会わない方がいいよ。きっと不快な思いをするから」
「しかも妙に弁解が上手いので、なかなか訴えることができないんですよね。研究者としては腕はそこそこいいので邪険にもできないので、本当にめんどくさい男です。職員の中で一番嫌われているのが彼ですね」
「わかりました。常に先生にくっついている事にしています!」
「それはズルイです!ナタクさん、私も助けてください!!私なんて、もう2回もお尻触られてるんですよ!」
「ナタク君モテモテじゃないか。色男はつらいねぇ、私も襲われそうになったら助けてもらおうかな?」
「アメリアさんなら簡単に撃退しそうな気がしますけど・・・・」
「「激しく同意です」」
「酷いじゃないか!私だってまだ18歳の乙女なのだよ。心配してくれないと傷つくじゃないか!!」
珍しくアメリアを言い負かせて、皆で揃って笑ってしまった。アメリアもワザとらしく拗ねて見せたがすぐに立ち直って、なぜかミーシャをくすぐりの刑に掛けていた。きっと何時までも一人で笑っていたからムカっとしたのだろう。
「それなら、タイミングをもう少しずらしてギルドマスターの所に行きますか」
「ぜぇ・・・はぁ・・そ、そうですね。それでは今のうちに私はこちらの査定を済ませてしまうことにします。あっ!それと、こちらがアキナさんのギルドカードになります。ついお渡しするタイミングを逃してしまっていました、遅れてすいません」
「ありがとうございます。これでやっと身分証明書が手に入りました!」
「アキ、使い方の説明とここのドアの登録を済ませてしまうからこっちで少し話しましょう。アメリアさんは、よかったらさっきのアイテムのレポートありますから、これで時間を潰していてください」
「なに!もうレポートを用意しているのかい!?是非読ませてもらうよ、プレゼンの手伝いは任せてくれたまえ」
こうして、俺達は各々で1時間ほど時間を潰して過ごす事になった。
その間に、ミーシャが査定を済ませてくれてアキナは金貨4枚銀貨7枚の収入。ナタクは金貨28枚銀貨3枚の収入をそれぞれ得ることになったのだが、アキナ自身は今の状態でここまで自分が稼げると思っていなかったらしく、えらく感動しているのがちょっと可愛らしかった。
あはっはは!!((´∀`*))
イラッ!(# ゜Д゜)