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第47話

 


「模擬戦、始めぇぇぇっっ!!!!」



 主審を勤めるブルーノから発せられた張りのある掛け声が場内へと響き渡る中、合図と共に駆け出した両者が初撃に選んだ斬撃は、奇しくも同じ、下級職の『剣士』で覚えることができる『スマッシュ』という戦闘スキルだった。


 この技は、少ないスタミナ消費で程よい威力の斬撃をコンスタントに放つことができる使い勝手の良いスキルとなっており、もう一つの大きな利点として、斬属性を持つタイプの武器ならば殆ど縛りなく使用できるその汎用性の高さも相まって、ナタクも転生以前から大変お世話になっていた技の一つであった。


 両者から同時に放たれた光を帯びた斬撃は、周囲の風を切り裂きながら互いの武器へと勢い良くぶつかり合うと、スキルの効果も加わり、激しい火花を散らしながら甲高い金属音を辺り一帯へ轟かせた。



「てっきり噂通りのカウンタータイプと思いきや、まさか初撃がオレと同じとはな!」


「こちらも、対人特化の『剣闘士(グラディエーター)』を相手に、悠長に構えてるほど(おろ)かではありませんのでね」


「それじゃ、ここからお手並み拝見とさせてもらおうか!!」



 一歩も引かぬ激しい鍔迫(つばぜ)り合いを披露した(のち)、弾けるように一旦お互いに間合いを空けると、次にライルが取った行動は、俗に『カウンター殺し』といわれている、素早い斬撃を繰り返しおこない相手の行動を制限しつつ、相手がバランスを崩したタイミングで一気に大技で畳み掛ける、わりとオーソドックスな戦術であった。


 この選択(チョイス)は、間違いなく王虎戦(サンドキングティガー)の影響であろう。


 その証拠に、ナタクが少しでもカウンターの挙動をみせると直ぐさま距離を離されてしまい。反対に、ライルが繰り出すテンポの速い斬撃は、ボクシングでいうところのジャブのような牽制に重きを置いている攻撃であるため、まったくと言っていいほどカウンターを仕掛けるのに向いてはいなかった。


 また、大技の(たぐい)をカウンターで返そうにも、このレベル帯では対応しているスキルが極端に少なく。それでいて、相手が仕掛けてくるスキルの方が圧倒的に数も多いのだから、予め対処法を知っていなければ、あっという間に追い詰められていたと断言できる、実に見事な立ち回りであった。



 しかしながら、そんなありきたりな方法でナタクを倒すことができるのであれば、弟子のアキナも遠征中にあれほど苦労はしなかったであろう。


 そもそも、王虎戦でナタクがカウンターを切り札にしていたのも、自身の攻撃力の無さをスキルで補う苦肉の策であって、遠征を無事に終え、ある程度の戦力強化を果たすことに成功した彼にとっては、今更その戦い方に固執する必要も無くなっていた。


 それに加え、この戦術に限り、ライルの扱う騎士剣という武器にも致命的な弱点が存在していることを、鍛冶師でもあるナタクが気付くのに、それほど時間は掛からなかった。


 まず大前提として、この騎士剣の成り立ちは、重厚な鎧を身に纏って戦う『騎士(ナイト)』同士が相手の硬い装甲の上からでもダメージを与えるよう設計・開発がなされた武器であり、分類上は“片手剣”に属してはいるものの、その性質はより強力な破壊力を持つ“両手剣”に近く。使用用途の関係上、他より丈夫に作る必要があるため、その分どうしても重量が犠牲になっていた。


 そんな事情を抱えたこの武器を、他の片手剣と同じように振り回していたらどうなるか。


 その答えは明白で、ある程度相手の攻撃を(あしら)いながら上手く時間を使わせるだけで、みるみる剣の重さがネックとなり始め、直にスタミナの回復が追いつかなくなり。無理をしているのが一目瞭然といった感じになっていた。


 たぶん、普段はここまで時間の掛かる戦い方はしていないのだろう。


 反省点を挙げるとするならば、スタミナのペース配分を完全に見誤っていたことや、『剣闘士』の職業特性である『装備重量軽減【剣】』の効果を過信し過ぎたことが原因に挙げられるが、この辺の見極めは地道に実戦を重ねながら経験を積むしかあるまい。



 ライルもそれを悟ったのか、このままでは埒が明かないと一旦仕切り直すために、ナタクから大きく距離を取った。



「ハァハァ・・・・、やっぱ付け焼刃じゃ上手くいかねぇか」


「着眼点は悪くありませんでしたが、少し時間を掛け過ぎましたね」


「ならば、こっからは自分の得意な戦い方に変更するまでだ!!」


「っと!思い切りの良い斬り込みですが、いいんですか?


 俺がカウンターを得意としているのは、事実ですよっ!」


「しまっ!?」



 一瞬の隙を突き、ライルの力の入ってしまった斬撃をナタクが見逃すこと無く的確に打ち払うと、淡く光を帯びた返す刃で、ライルの左腹部を容赦なく斬り裂いてみせた。


 今の攻撃こそが、王虎戦でナタクが切り札として使用していた刀術専用スキル、弐ノ太刀『止水(シスイ)』そのものであり。今回、ライルがもっとも警戒していた技の一つでもあった。



 かなり際どかったが、咄嗟にライルが後方へと飛んだことにより、辛うじて致命傷(クリティカル)部分への被弾は避けられたようだが、肝が冷えたであろう見事な一撃に対し、観戦していた兵士達からも一際大きな歓声が湧き上がった。



「今のは中々に危なかったな。もし回避行動が間に合わなければ、今ので勝負が決まっていたかも知れんぞ」


「ライルの奴め、戦術を変えようとしたタイミングを見事に狙われたな。アテナ、あれが君が言っていた彼の切り札で間違いないか?」


「・・・・虎さんの首を落とした時とまったく同じ光だったから、たぶんそうだと思う」


「先生がお使いになられのは、弐ノ太刀『止水』という、刀術専用の戦闘スキルですね」


「それにしては、この前より随分威力が小さく感じたけど、結局あれはどんな技になるんだい?」


「えっと、技の効果は『相手の“通常攻撃”を倍の威力で相手に返す』というカウンタースキルになるのですが、前回の王虎戦であれだけの威力が出せたのは、相手の切り札である『決死』のスキルに先生が上手く合わせたからになりますね」


「なるほどのう。じゃが、今の一撃で誰かさんが俄然やる気になったようじゃぞ?」



 レオンの指摘通りに、今しがたナタクによって斬られた部分をジッと眺めた後、まるで新しい玩具を見つけた子供のような不適な笑みを浮かべながら、実に楽しそうに得物を構え直すライルの姿がそこにあった。



(どうやら、まだ何かありそうですね・・・・)



 再び戦闘が開始されると、ライルの戦術に明らかな変化が生じた。今度は騎士剣の特徴をフルに活かした破壊力のある斬撃を主軸に添えながら、先ほど牽制に使っていた細かい斬撃を減らす代わりに、新たなカウンター対策として、返し技が存在しない範囲攻撃を間に絡め、ナタクの攻撃テンポを狂わせる作戦にシフトしたようである。


 たぶんこちらは、第二プランといったところなのであろう。



「くらいやがれっ!『旋回斬(ローリングスラッシュ)』!!」


「っ!?まさか斧術スキルまで習得してるとは・・・・今のは少し驚きました」


「そのわりには、随分と綺麗に躱されたけどな!」


「まぁ、そんなに楽しそうな顔をされていては、何か狙っているようにしか見えませんからね」


「げっ、マジか!・・・・ちなみに、習得スキルが多いのは、小さい頃から色んな武器に挑戦していたから、その副産物みたいなもんだぜ」


「なるほど。それでは、まだまだ隠し玉に警戒しておいた方が良さそうですね」


「しっかし、さっきから回避が上手過ぎて全然当たる気がしねぇんだが?


 まるで、近衛の団長やじいちゃん相手に稽古を付けてもらってる気分だぜ」



 後頭部を掻きながら口では弱音らしき言葉を吐いてはいるものの、ライルに諦めた様子は微塵も感じられず。むしろ、彼の瞳の奥底には『絶対にその堅い守りを打ち崩してやる』と、並々ならぬ闘志が炎々と燃え上がっていた。


 確かにこれは、剣術狂いと言って間違いないかもしれない。


 事前に『ライルは同世代で敵無しである』と周りから教えられていたので、ナタクのようなイレギュラーな相手と対峙した際、彼がどんな反応を示すか少し気になっていたのだが、プライドが高いだけ人間ならば憤慨(ふんがい)したり動揺してもおかしくない状況下においても、彼の剣には驕りや焦りが一切感じられず。そこにあるのは、ただただ戦闘を楽しんでいる一人の青年に他ならなかった。


 それともう一つ、ナタクが気になったのは、彼が『強者を相手に戦い慣れている』という点であった。


 普通、中位職へ上がったばかりの頃はというと、覚えたての戦闘スキルを試さずにはいられず、無理に発動を狙ってはベテランなどに返り討ちに合う者が多い中、彼のスキル構成はその殆どが使い勝手の良い下位職の戦闘スキルで纏められており、これは上位職などのベテランに多く見られるスキルの選び方であった。


 そして『ここぞ!』というタイミングで選択されるスキル選びのセンスもずば抜けて優秀であることから、確かに、こんな戦い方をされてしまっては、同世代では太刀打ちするのも難しかろう。



 一応マナーの関係上、貴族であるライルに対して人物鑑定などは使用していないが、ナタク見立てによると、フィジカルレベルは現在の自分達とほぼ同程度。そして戦闘技術については、既に上位職へと片足を突っ込んでいるのではないかと思えるほど、高い水準で技能が備わっていた。


 今の段階で、これだけの実力を身に付けるためには、並大抵の努力ではなかったはずだ。


 いつしかナタクの頭の中から模擬戦の勝敗などすっかりと抜け落ちてしまっており、今では目の前にいるダイヤの原石を如何にして磨き上げるか、そればかりを考えながら戦うようになっていた。



 ライルからの息をつく暇も無い嵐のような猛攻を、ナタクはまるで戦闘のお手本を見せつけるかのように、揺るがなく、そして演舞を披露するかのような落ち着き払った剣技で打ち返す。


 決してライルも調子が悪いわけではない。


 むしろ、何時も以上に動けているにも関わらず、攻撃がまったく当らないというのは、実に不思議な体験に違いない。ここ暫く、まったく同じ状況に置かれていたアキナを除き、多くの者がかなり困惑した様子で試合を眺めていた。



「ライルがここまで苦戦するとは、目の前で起こっていることが(にわか)に信じられん」


「前回、彼と共に戦った部下からの報告は受けていたが、まさかここまで・・・・」


「やっぱり、ナタク君って対人戦も得意だったんだね」


「・・・・ハルっちも、なんだか凄く楽しそう」


「もはや試合と言うより、ライルの打ち込み稽古と化してるな。


 どれ、これが終わったら次はわしが彼に勝負を挑むとするかのぉ・・・・」


「あははは・・・・(先生!こんなところで指導者スイッチ入れちゃダメですって!!お隣のレオンさんが、獲物を狩る眼になっちゃってますよ!?)」



 観客席で、こんな会話がなされているとは露知らず。このまま決着が付くまで白熱した攻防が続くのかと思われた矢先、急遽、全員に冷や水を浴びせたような出来事が発生し、有耶無耶なままにこの戦いは一時中断させられた。


 そう、この訓練場からでも良く見える位置に存在する白亜の塔の最上階近くで、いきなり大きな破壊音が鳴り響き。その場にいた全員が注目する中、塔に空いた巨大な穴から人型の魔物が姿を現したためであった。

ウズウズ・・・・(((*゜Д゜)))


(先生!ストップですっ!!)(゜ロ゜; 三 ;゜ロ゜)


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