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第46話

 

 突如として始まった、二人の大貴族による利権を掛けた激しい競り合いの結果だが、最終的に薬品の製法及び製造権を勝ち取ったのはローレンス家のお抱え錬金術師が発明したということでアレックスが獲得し、販売権に関しては名目上ローレンス家がその権利を王家に譲渡したという形を取って、国で一括管理をする方向で話が纏まった。


 後はレナードが息子である現国王のところまでこの話を持ってゆき、そこで細かいすり合わせがおこなわれるらしいのだが、概ねこのままの形で履行される見込みらしい。


 要するに、こちらのアイテムも国営管理で取引がおこなわれる製品となり、ローレンス家は王家に恩を売りつつ他の貴族達を牽制し、更には生産メーカーのポジションを独占的に獲得したというわけだ。


 これにより、例えローレンス家と敵対している派閥の貴族であっても、王家から直接買い付けることが可能となり。流通や価格も王家が自在にコントロール出来るようになるため、アイテムの需要を考えると、こうした方が国としても何かとメリットが大きいそうだ。


 また、販売権を王家が独占していることから、仮にこの先、ローレンス家を出し抜いてこのアイテムの製法を盗み取ったとしても、元々の単価が安いことやアイテムの使用用途、更にはこの国の王家に喧嘩を売ってまでして得られる利益も多く見込めないため、この商談内容はナタクやアレックスにとっても最高の結果と言って過言ではなかった。


 というか、むしろ途中からアレックスはこれを狙っていたかのように話の軌道を上手く調整しレナードを誘導している節があったため、こういった頭の回転の速さも彼が世間から“聡明”であると評価される所以なのであろう。


 ちなみに、完成品はそのまま『チャンバラブレード・シリーズ』として売り出され、装備に振り掛ける薬品の名称は『チャンバラ』となるらしく、将来的にナタクへ支払われる金額もかなりの高値になる見込みだ。



「お二人とも利権を高く評価していただき、誠にありがとうございました」


「お前に上手くのせられた感は否めんが、まぁ内容としては許容範囲といったところだろう」


「くっ!やはりこういった話になると、アレックスは他の誰よりも手強いな」


「はっはは、このような仕事は私の本分ですので」


「それにしても、ナタク君はたった数分でまた凄い金額を稼いだものだね」


「しかも今回、先生自身は全く値段交渉に参加していないのに、価格がどんどん釣り上がっていましたからね。その辺も含めて、流石といった感じです」


「まぁ軍務に長年就いとった人間から言わせてもらうと、怪我の心配をしないで訓練に臨めるこのアイテムの存在価値は計り知れんからのぉ」


「・・・・私的には、このアイテムが国中の冒険者ギルドでも使えるようになりそうで、ほっとした」


「正直な話、これは当家で研究開発資金を捻出していたわけではないからこそ取れた手段だと言えるな。そうでなければ、いくら叔父上とて販売権は譲れなかったが、今回の落し所としてはここらがベストであろう。


 それに、こういった需要の大きな製品はしっかりと物流を管理をしないと末端価格が目も当てられない事態になるので、叔父上と陛下にはこれから頑張っていただかないと」


「まぁ、私は息子に丸投げにするつもりだから、あんまり困らんがな。それに苦労も多いが、得られるメリットも大きいことだし、後はあやつの采配に期待するとしよう」


「まだお会いしたことはありませんが、国王陛下も中々の苦労人ぽいですね」


「今回は、殆どお前が元凶だがな」


「なぁなぁ。せっかくだし、この後の模擬戦はコイツを使って戦おうぜ!」


「自分は別に構いませんよ」


「しかし、そうなるとある程度のルール改正が必要になるんじゃないのかい?


 確か軍が採用している訓練ルールだと、相手の戦闘継続不能も勝敗に含まれていたよね?」


「お嬢様のご指摘通り、我々のルールですと場合によっては相手の意識を刈り取ることも勝利条件に含まれますな」


「それは・・・・中々に痛そうですね。それでしたら、自分達がよく訓練で使用していたルールがありますので、そちらを利用してはいかがでしょうか?」



 ナタクが提示したルールとは、遠征中にアキナとの訓練でおこなっていたモノに戦闘スキルの使用も追加で認めるといった趣旨の内容であった。とは言っても、攻撃魔法の使用などに関してはアイテム効果が見込めないため、そちらは再び禁則事項となるのだが、今回戦う予定の二人は明らかに前衛職であることから特に問題無しということになり、ナタクの案がそのまま採用されることになった。



「要するに、先に相手へ攻撃を5発当てるか、クリティカルを取った方の勝ちってことだな」


「そうなりますね。他にも状況に応じて細かいルールを追加することもできますが、今回はシンプルな腕試しの意味合いが強いので、このまま戦うとしましょう。それと、商談用に武器の種類もある程度用意させてもらっているので、この中からお選びください。


 もし得意武器がこの中に無ければ、即席で作成することも可能ですよ」


「どれどれ・・・・おっ、ちゃんと騎士剣も用意されているじゃないか!」


「そちらは売り込み用に準備していた、領主様の愛用されている剣と同じ長さと重心になるよう調製した一品ですね」


「お前、そんな物まで用意していたのか・・・・」


「最初から、父上に売り込む気マンマンだったんだね」


「それなら尚のこと問題無いぜ。なにせ、オレと父上の戦闘職は同じ『剣闘士(グラディエーター)』だし、得意武器まで一緒だかんな」


「なるほど、それで騎士剣というわけですか」


「えっと、対人特化の『剣闘士』ってことは、アメリアさんの剣術版ってことですか?」


「中位職って括りだと確かにそんな感じかな。ただし、私の場合は薬剤研究が本業みたいなモノだから鍛錬にはあまり積極的ではないけど、ライルは自他共に認めるほどの剣術狂いだからね。正直かなり手強いよ」


「それに加え、ライルは幼少の頃よりわしが直々に鍛えておる自慢の剣士じゃからな。共に良い試合になることを期待しとるぞ」


「おうよ、任せとけ!」


「あはは・・・・お目汚しにならないよう、微力を尽くさせていただきます」


「・・・・う~ん。私はどっちの戦い方もみたことあるけど、技術的には結構いい勝負になると思うけどなぁ」


「先生も先生で、並外れた剣技をお持ちですからね・・・・」


「へぇ、そいつは楽しみだ」


「あの・・・・あんまりハードルを上げないでくださいね?」


「共に腕には自信ありといったところか。これは思っていた以上の催しとなりそうだな」


「では、我々は少し離れたところで観戦させてもらいましょう。クロードに言って、あちらに観覧席をご用意させてあります」


「ほぉ、酒まで用意してるとは中々に気が利くではないか」


「さて、どんな戦いになるか楽しみじゃのぉ」


「それじゃ、私は紅茶でもいただくとしようかな。二人とも頑張ってくれたまえ、あちらで応援してるよ」


「先生、ふぁいとです!」


「・・・・わくわく!」



 ナタク以外は気楽なもので、いつの間にか敏腕執事であるクロードによってテラスのような場所に人数分の椅子やサイドテーブルが準備されており。更にはゲストの安全を図るためであろう、防御結界を張るためにいかにもベテランといった風貌(ふうぼう)の魔術師までもが数人体制で配置されていた。要するに、こちらは気にせず存分に戦えということなのであろう。



「ではブルーノよ、二人の用意ができたら始めてくれ」


「畏まりました。それでは、お二人はこちらへ。モーリス、副審は頼んだぞ!」


「はっ、謹んで勤めさせていただきます!」



『もはや観念して戦うしかあるまい』と渋々といった感じに開始位置に着いたナタクとは対照的に、対戦相手のライルはというと、こちらは意気揚々と新しく渡された模擬刀で素振りをしながら武器の感触を確かめていた。


 未だ手に何も武器を持っていなかったナタクが、試合のためにインベントリから取り出した得物は、無論、『侍』の得意兵装である遠征初日にアキナと初めて戦った時にも使用していた、二振りの日本刀であった。



「へぇ、ナタクは武器を二本(・・)も使うのか」


「俺の戦闘職は中位職の『侍』になるので、メインは本差であるこちらの太刀を使わせてもらいますが、もう一本の脇差は長ものを振り回すのに適さない場所で使用するための予備兵装になりますね。


 本当は一本差しでも問題はないのですが、どうも昔からの癖で腰にこいつの重みがないと落ち着かなくて」


「別に使えるんなら同時に使ってくれても構わないぜ?」


「確かに『侍』の派生職にも二刀流は存在しますが、“今は”発現していないので止めておきます」


「ってことは、条件が揃えば扱えるってことか。こりゃ、楽しみが増えそうだ!


 オレの方は、いつでも大丈夫だぜ!!」


「こちらも、準備が整いました。・・・・どうぞ、始めてください」



 互いに手にした得物でそれぞれの構え始めると、突如、二人の間にあった和やかな雰囲気は一瞬にして凍りつき、凄まじい緊張感が場の空気を瞬く間に支配してしまった。こういった現象は、戦場で実力のある者同士が互いの殺気をぶつけ合うことでしばしば起こるのだが、転生する以前から幾多の強者と矛を交えてきたナタクを相手に、ライルも一歩も引かずに殺気を放てている時点で、彼がどれだけ稀有な実力を保持しているのか、容易に想像することが出来た。


 二人の殺気に当てられ、席に座りながら観戦を楽しもうとしていたレナード達はもちろんのこと、なし崩しに見学することになった警備隊の面々が固唾を呑んで見守る中、彼らの隊長であるブルーノの張りのある掛け声が、大きな広場へと一気に響き渡るのであった。






「模擬戦、始めぇぇぇっっ!!!!」







【メスティア王国:王城にて】


ぶへっくしゅぃっん!!( >д<)、;´.・


陛下!くしゃみをするなら他所を向いてくださいΣ( ̄皿 ̄;;)


(悪寒もするな、カゼでも引いたか?)(⊃ω・` )


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