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第39話

 


「もう!こんな美少女が生着替えをしているというのに、マスターは覗きもしないで何処へ行っていたんですか!」



 ナタク達が隣の研究室から戻ってくると、漆黒のフルプレート姿から一転、可愛らしいフード付きのローブに着替えたアルンが、頬を膨らませプリプリと怒りながら、彼らの帰りを今か今かと待ち構えていた。



「前回の二の舞は御免(ごめん)ですからね。嫌な予感しかしなかったので、先に隣の部屋を探索してたんですよ」


「っちぃ!」



(・・・・やっぱり、俺のことをオモチャにする気マンマンでしたか)



「しかし、さすがはアルンちゃんですね。その格好もとてもよく似合ってますよ」


「えへへ。アキナ様、いつも素敵なお洋服をありがとうございます」


「・・・・ふむ。どうやら素材に絹織物(シルク)まで使われているみたいですが、“イグオール”の街だと入手が難しかったんじゃないですか?」


「絹織物はリックさんとキャシーさんにお願いして、少し前から買い集めていたんですよ。そのうち、貴族向けの商品開発にも使えるんじゃないかなと思いまして。


 今回はそれらを使って、向こうで後衛職の女性に人気が高かった『あにまるシリーズ』の『きつねさんバージョン』を再現してみました。本当は『ねこさんバージョン』と悩んだのですけど、アルンちゃんにはこっちの方が似合いそうかなぁと・・・・」


()め、『猫被り』か『虎の威を借りる狐』ってところですね。


 なるほど、確かにそれは俺でも悩みそうです」


「なっ!?この洋服には、そんな意味があったんですか!!」


「・・・・っ」



 アキナが眼を逸らしていることから察するに、どうやら彼女も作っている最中に同じようなことを考えていたのであろう。候補に『とら』が含まれていない辺りに、彼女の優しさが窺えた。


 この『あにまるシリーズ』についてだが、アキナも述べていたように向こうでは人気のあまり熱狂的な収集家(コレクター)までもが存在しており、中には人気裁縫師の手がけた特注品(オーダーメイド)に、その日に開かれたオークションで最高値が付けられたという伝説があるほど、このシリーズはその界隈で名の知れた名品であった。



 ちなみに、現在のアルンの服装についてもう少し詳しく説明すると、フード付きのローブには狐をモチーフにした“けものミミ”が標準装備されており、高位の後衛職が扱うローブの特徴でもある凝った装飾が施されつつも、黄色と白の生地を上手く配置することで、きちんと狐らしさも表現されていた。


 また外套が少々派手なためインナーにはシンプルな白色のブラウスが採用されており、ミニスカートから伸びる見事な脚線美もまた、相変わらず世の男性を虜にする魅力へ溢れていた。



「むむむぅ」


「あのですね、そんな意地悪なつもりでは・・・・」


「これはこれで・・・・“あり”ですね」


「えっと、アルンちゃん?」


「アキ、アルンに皮肉は効きませんよ」


「そうでした・・・・」



 今日もアルンは平常運転のようである。そもそも、この程度の扱いは彼女にとって御褒美だろうし、本人も新しい洋服を気に入っているようなので、何ら問題も無さそうであった。



「ところで、マスター達も新しい装備を用意していましたよね?


 なんで未だに、そちらの兵隊装備を使用しているんですか?」


「あぁ、そのことですか。確かに、職業専用の装備を用意してはいるんですが、あれって少し特殊でして・・・・」


「えっとですね。そもそも専用装備というのは強力な性能を秘めている反面、適正条件を全てクリアしないと装備リンクの効果が発揮されないというデメリットがありまして。今の私達ではフィジカルが足りていないので、装備しても受けられる恩恵が少ないんですよ」


「逆に条件さえクリアできれば、かなり優秀な装備に化けるんですけどね」


「そこが汎用品との大きな違いですよね。なので今は実利を取っているってわけです!」


「それに加えて、こちらの装備は後々領主様に売り込む予定の新レシピになりますので、汎用品を(うた)う以上は性能テストも念入りにおこなう必要がありますしね」


「そういうことならば、私もお手伝いを致しましたのに・・・・」


「アルンちゃんは、このレベル帯の装備を飛び級してましたもんね」


「いずれ機会もあるはずなので、その時になったらお願いします。


 それでは、そろそろ探索も再開するとしますか。アルン、魔法の方は大丈夫そうですか?」


「はい!既にリストの精査は完了していますので、残りは戦闘中にでも試しながら調整してみます」


「そういえば、アルンちゃんってどんな魔法が使えるんですか?」


「ふっふふ。アキナ様、それは見てからのお楽しみです!」


「先生・・・・何故か悪寒がしてきたのですが?」


「まぁ、弱くはないですよ」



 アルンが後衛に回ったことにより、PTのフォーメーションや戦闘手順に変更が生じたため、それらの再確認をおこなってからダンジョン攻略を再開したのだが、後衛に下がったからといって“あのアルン”が大人しくなるはずも無く。むしろ水を得た魚の如く、魔導アタッカーの常識(セオリー)を完全に無視した、とんでもない戦法でPT戦闘に貢献することになった。



 なんと戦闘が開幕した途端に、いきなり範囲魔法をぶっ放したのである。


 通常、ダンジョンにおけるPT戦闘ではヘイト管理が非常に大切なのは以前に述べた通りなのだが、アルンにはその常識を覆すことのできる“身代わり”という反則染みた能力を持っているため、その効果を遺憾なく発揮し、ナタクから継承したプレイヤーメイドの魔法も含め、高威力の魔法を好き勝手に撃ち始めたのであった。



「はっはは!私を攻撃したいのであれば、まずは『キュプロクス』ちゃんを倒してからにしてもらいましょう!!くらいなさい、『サンダーボルト』!!!」



 もはや呆れる二人を他所に、アルンの快進撃は留まることを知らず。また彼女の場合、たとえ魔力が切れを起こそうとも、魔石を摂取することで不足した分を補うことができるため、通常のPT戦闘には不可欠な『MP回復のための休憩』を殆ど挟むことなく、順調に敵をなぎ倒していた。



「まさに、やりたい放題って感じですね」


「・・・・狐の衣装も正解でしたね。本当見事に、今の彼女を体現してます」


「それにしても、私はあんな魔法を模擬戦で使われそうだったんですか・・・・


 ちょっと焦げるどころか、敵さん全員消し炭みたいになってるんですけど」


「殲滅完了!お二人もサボってないで、この調子でドンドン奥へと進んでいきましょう!!」



 そんな紆余曲折(うよきょくせつ)ありながらも、その後は順調にダンジョン攻略は進んでいき、途中の宝箱からもアイテムをしっかり回収しながら、ついにナタク達はこのダンジョンでの最終目標であった“ある場所”の前まで到達する事が出来た。



「トラップは・・・・特に無さそうですね。この部屋が、先生の言っていた“資料室”って場所なんですか?」


「ここはダミーの資材置き場で、本命はこの奥の空間に隠されています。それじゃ、サクッと扉も出現させてしまいますか」



 勝手知ったるといった感じに、ナタクが部屋の奥に置かれていた操作盤を指で弾き始めると、何処かでロックが外れるような『ガコンッ』という大きな音が室内に鳴り響き。直後、入り口にあった壁画のギミックを再現したように突如として壁の一部が豪快に割れ始め、中から巨大な金庫にでも使われていそうな円盤状の金属扉が姿を現した。



「こんなギミック、本当によく発見できましたね。私だったら絶対気が付かないでスルーしている自信がありますよ」


「そもそも、これだけ大きな規模の研究施設に、データの保管をする場所が無いのはあまりに不自然でしたからね。少ないヒントを元に、仲間達と手分けして頑張ったんですよ」


「この場所は限られた研究員にしか知らされていなかったはずが、こうもあっさり発見されてしまうとは・・・・本来なら、私がドヤ顔で案内するはずでしたのに!」


「そういうのはイラっとするので、遠慮しておきます」


「くっ!その塩対応、癖になりそうです!!」


「本当、アルンちゃんってタダでは転びませんね・・・・」


「冗談はさておき、残りの解除はアルンに任せちゃっても構いませんか?」


「了解しました。それではマスターキーを使って、残りのロックも解除してしまいますね」



 選手交代といった感じにアルンが操作盤の前に立ちパネルに手をかざしながら何かの呪文を囁き掛けると、今度は扉本体に大きな変化が起こり始めた。まず、重厚な扉に接続されていた複数の金属片が次々と壁の中へと収納されてゆき、次いで扉自体も金属片とのジョイントから開放されると、大きな音と共に隣接する壁へ転がりながら格納されていった。



「マスターキーって、本物の鍵を使うんじゃないんですね」


「便宜上、マスターキーとは言ってますが、実際はこの研究所の主であった博士の魔力パターンをパスとして使っていますからね。私にはそのパターンが正確にインプットされているんですよ」


「ちなみに操作パネルにある怪しい鍵穴は全部ダミートラップで、誤った操作をすると防護システムが作動する仕掛けになっていました。まさか当たりの鍵自体が存在しないとは思いませんでしたので、おかげで何十回もそのシステムのお世話になりましたよ・・・・」


「それはそれは・・・・」


「博士は人を揶揄(からか)うのが生き甲斐なんだと公言している、とってもお茶目な人でしたからね。ここがダンジョンに変わってしまってからも、その意思がちゃんと受継がれていたんだと思うと、ちょっとウルっとしてきました」


「そのせいで、自分達クランは大変な迷惑を被りましたが・・・・


 って、過去を(なげ)いていても仕方がないですね。さっさと奥へと進みましょう」



 ナタク達が室内に侵入すると、厳重に保管されていただけあって内部はそれほど広くは無かったが、それでも本棚や地面に(うずたか)く積まれている蔵書の数には目を見張るものがあった。また、中にはかなり高価な魔導具もいくつか詰め込まれているようで、もしかしたら戦争中にこの施設を閉鎖する際、持ち出せなかった高価な機材をこの場所に隠していたのかもしれない。



「ここが目的地の“資料室”になります。どうやら、この場所もアルンが封印されていた場所と同じで、部屋全体に“状態保存”のエンチャントが施されてるみたいですね。


 この辺も向こうと変わらないみたいで助かりました」


「となれば、この部屋にある物は全て持ち出し可能ということですね!」


「それを見越して屋敷には広めの書庫を用意しているので、ここの蔵書は全部運び込んでしまいましょう。ここは知識と言う名の宝物庫ですよ」


「しかし、これだけの量を運び出すのは中々骨が折れそうですね」


「おっと!何故か途中の研究室にまったく置かれていないと思ったら、やっぱりここに運び込まれていましたか。マスター、こちらにある書類の山の下敷きに“精密作業台”が複数台保管されてるみたいですよ」


「でかしました!それらは一旦上へと持ち帰って、内部構造を詳しく記録しておいてください。出来れば量産してもらいたいので」


「畏まりました」


「さてと、それでは用意してきた空き箱に、手分けしてこちらの蔵書や研究レポートを詰めてしまいましょうか。アルンは、一緒に魔導具なんかの確認もお願いします」


「「りょうかいです!!」」



 さて、いよいよ目的の物が手に入りましたよ!


 取り敢えず、これで当分退屈することは無さそうですね。それに、ここには失われていた技術もたくさんあるはずなので、アメリアさんやガレットさんにも良いお土産ができました。彼女達なら大喜びでこれらの研究も手伝ってくれるでしょうから、地上の拠点に帰ってからさっそく翻訳作業に尽力すると致しましょう!!

消し飛びなさい!!(っ´>ω<))っ====3


((うわぁ・・・・))(´・ω・`;)

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