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第37話

 

 第一層・第二層における同時周回を始めてから、今日で二日が経過した。


 予定していた二週間の遠征期間も残り僅かとなり、焦る気持ちを抑えつつ、漸く本日から第三層への攻略に取り掛かれることになったのだが・・・・


 この短い期間に荒稼ぎしたソールと魔石の総数は、頑張って戦っていた彼らにとって、兎にも角にも凄まじい結果をもたらしていた。いや、むしろ『やらかした』の方がより適切な表現だったのかもしれない。



 事の発端は、PT会話を利用した一周目の進捗状況を確認していた最中(さなか)に起こってしまった。


 お互いに殆んど同じタイミングで一周目の周回を終えたため、PT会話で両階層での狩場状況の確認をおこなっていると、どうやら第一層と第二層で敵の数がほぼ同数であることが発覚し、尚且つ地形も殆ど同じことが判明した。


 しかもその時、ナタク達は最初の連携確認で少々手間取っていたにも関わらず、自分達より先に狩りを開始していたアルン達より“タッチの差”で周回を終えていたことをアキナが楽しそうに話してしまい。彼女にとっては悪気など皆無であったのだろうが、無自覚にアルンの競争心に火をつけてしまったことが、事態の悪化に大きく貢献してしまった。


 もちろん、アルンが受け持つ第二層の方がレベルの高い魔物が配置されているため、時間が掛かるのも仕方がなく、PT人数もナタク達の方が多いこともあり、この結果は何もおかしな話ではなかったはずなのだ。


 だがしかし、そのことを素直に聞き流せるほどアルンのプライドも安くはなかった。


 アルンの方でも最初の周回ということもあったので、先ほどはギミックの解除に奔走しており、短縮できる箇所は如何様にもあったため、二周目の際に自分達の方がぶっちぎりで早く周回を終えてみせたまでは良かったのだが、『あれぇ?何かトラブルでもあったんですか?』と存分に勝ち誇ってしまったために、今度はナタク達の方が盛大に焚きつけられてしまったのだ。



 もうそこからはビーチフラッグよろしく、お互い一歩も引かないデッドヒートである。


 そのあまりの討伐数に、気がつけば二人のレベルはたった二日で、レベルが30から38へと飛躍的なランクアップを果たしてしまい、ライバルのアルンの方でも、約束通りに回収された魔石を例外なく全て平らげたことで、なんとレベルが42から48まであっという間に上がってしまっていた。


 これに巻き込まれたのが、言うまでもなくスラキチであった。


 彼は当初、任されていたポーターの仕事を賢明にこなしていたのだが、ナタク組の周回速度が途中から上がってくると、流石のアルンも『キュプロクス』との二人だけでは戦闘火力が追いつかなくなってきたことを危惧し、ポーターの彼にも戦力として戦闘に参加してくれないかと頼んでみたところ、心優しい彼は二つ返事でこれを快諾したのであった。


 そして戦闘に参加した途端に、格闘家張りの『タックル』や『正拳突き』を次々と決めてゆき。アタッカーとしての仕事までこなすことになった彼が、昼夜を問わず彼女達と共に狩りに参加し続けた結果、生後10日足らずで遂にはレベル40の大台を突破してしまっていた。


 と言うか、完全にただのオーバーワークである。


 そんな過剰な準備運動を終えた彼らが集結し現在いたのは、ダンジョン第一層に設置されている魔導エレベーターの真ん前であった。



「さて、色々ありましたが、いよいよ今日から第三層の攻略に取り掛かりますよ!」


「先生、今朝はずっとご機嫌でしたもんね」


「なんてったって、ここに眠る知識があれば今後の錬成活動に多くの道が開けますからね。裁縫関連にも役立つ情報がたくさんありますので、アキも存分に期待していてください」


「ほほぉ、その情報は中々に興味深いですね」


「他にも、これから向かう第三層には宝箱なども期待が持てますからね。第二層までのハズレ箱とは比べ物になりませんよ!」


「ハズレ箱って・・・・。アルンちゃん、ちなみに第二層ではどんな物が入っていたのですか?」


『私が確認したのは、当たりとしてスチール装備がいくつか出ただけで、殆ど鉄製の装備がドロップしていましたね。なのでマスターと相談した結果、ストレージの無駄という結論が出たので、二週目以降は放置していました』


「あらら。他の冒険者からしたら、とても贅沢な話ですね」


「ちなみに、第三層からは低確率でゴッツさん達が使っているような魔法が付与された武器がドロップしますよ」


「それは販売目的ってことですか?


 確かそういったアイテムって、後で作製できましたよね?」


「作れるには作れますが、今は専用の設備がないので難しいですね。まぁ、裏技を使えば無理やり作製することも可能ですが」


「と言いますと?」


「単純に魔法が付与されてるアイテムを分解して、その能力を他の装備に移植するって方法があります。ただし、この場合は練成が不安定になりやすいので、どうしても狙った属性装備が出ない人なんかが、たまに博打覚悟で試す手法ですね」


「なるほど。要するに、先生みたいな人の娯楽ってことですね!」


「まぁ、否定はしませんが・・・・他にも今後の役立ちそうなアクセサリーもドロップしますので、この階層の宝箱をスルーするという選択肢はありませんね。


 それと第三層では魔物もレベル40~45までの敵がメインで出現するようになるため、魔石も中位クラスが確定で出てくれるので、他の階層とは比べ物にならないくらいお得がいっぱいなんですよ」


『私はそっちの方が楽しみですね。さっそく潜って敵を駆逐してしまいましょう!』



(アルンさん、甲冑の中から『じゅるり』って音がダダ漏れですよ?)



「ただし、そろそろ街に戻った時のアルンの活動エネルギーも考えておかなければいけませんので、今日からしばらく備蓄分の確保を頑張ってもらいますからね」


『うっ、それだとこれ以上の戦力増強が見込めませんよ?』


「今でもかなりの過剰戦力なので、当面は心配しなくて大丈夫ですよ。それにこれをちゃんと確保しておかないと、流石の俺でもアルンの維持費で破産しかねませんからね」


「先生の収入でも破産するって、相当ヤバイですね」


『ぐぬぬぅ、動けなくなるのは確かに困ります・・・・


 仕方ありません、頑張って魔石を集めるとしますか』


「できれば練成の方でも魔石を使用しいたいので、手始めに大箱単位での回収を目標に頑張りましょう」


「手始めで大箱って・・・・」



 ちなみに魔導エレベーターについてだが、装置の中には円盤状に大理石の床が広がっており、地下であるため外の景色は見えない仕様になっていたが、アルンのオートマタ達を一緒に乗せてもだいぶ余裕のある造りになっているようであった。


 また、選択階層も事前にアルンが動力炉で魔力充填をおこなってくれていたため、簡単なボタン操作で目的地の第三階層まで運んでくれるので、特に煩わしいこともなく。移動中もかなり揺れが少ないことから察するに、これ一つ取っても如何にこの時代の技術力がどれだけ進んでいたのかを如実に物語っていた。



「ここが、先生が楽しみにしていた第三層ですか。なんか他の階層に比べると、随分とがらんとした印象ですね」


「ここでは主に『研究』『開発』がメインにおこなわれていた場所なので、他の階層に比べると共同エリアに剥き出しの魔導具などが置かれていない分、余計にそう感じるのかもしれませんね」


『ふむ、どうやら出入り口付近には魔物の配置は無さそうです』


「この階層には気になる研究室(ラボ)も多くありますからね。今日は特に急いでないので、順番に調べながら最終目的地でもある資料室を目指して、探索を始めるといたしましょうか」


「『了解です!!』」



 攻略ルートを確認するため、事前に用意していたナタクの地図を参照すると、どうやらここの階層は今までの施設と大きく異なる構造をしているようであった。


 これまでは魔導エレベーターを中心に、東西に伸びる搬出ラインに沿って葡萄の房のように外側へ尻窄(しりすぼ)みに小部屋が並んでいたのに対して、こちらは巨大な円を描くように二重の共用通路が設置されており、そこへ寄り添う形で中規模の部屋がいくつも配置されていた。


 だが、途中の通路は何箇所か瓦礫で埋まっていたり、隔壁が所々が降りているため、真っ直ぐに目的地に進むのは難しいらしく。また隔壁を開くためにも、この階層の動力炉を順番に起動させる必要があるため、最初は思った以上に時間を使わされそうであった。



「むむむ。直線ではそこまで距離はなさそうなのに、結構迂回させられて色んなところを歩かされそうですね」


「ギミックを解放すれば最短距離での移動も可能ですが、最初はどうしても仕方がありませんよ」


『隔壁だけは、マスターキーでもどうにもできませんからね』



 結局、今回は安全地帯を抜けてまずは一番近い動力炉を起動させるため、東回りに進行を開始したが、道中これまで共用通路には敵ユニットが配置されていなかったはずが、こちらの階層からは、そこにもゴーレム型の魔物が闊歩(かっぽ)している姿が確認できた。



「えっと、レベル的には40前半のグループって感じですね。っとと、『看破』に反応がありました。右奥の大きな瓦礫の横に感圧式のトラップが仕掛けられているみたいです」


『何気に、通路にトラップが仕掛けられてるのは初めてですね』


「それだけその階層が重要な場所であるってことでしょう。取り敢えず、アキは戦闘が終わりましたらトラップの無効化とマーカー設置を。アルンはオートマタ達と敵の殲滅をお願いします」


「分かりました、準備をしておきますね」


『了解です!それでは『キュプロクス』ちゃん、突貫して敵を蹴散らしてしまいなさい!“ポーン”達は離れた場所の敵を優先的に叩きつつ、手が空いたらマスター達の援護へ!』



 アルンの号令の下、敵陣へと突き進む『キュプロクス』の迫力は凄まじく、もし相手が生身の人間であったなら間違いなく恐慌状態に陥ったことであろう。自分達のダンジョンのボスユニットより強い相手が、凶悪な棍棒を振り回しながら突っ込んでくるのだから、彼らにとってはただの悪夢である。今回もナタク達の活躍する機会は殆どないまま、戦闘自体も、ものの数分で決着がついてしまった。



『ふっふふ、弱いくせにドロップアイテムだけは優秀ですね。また時間が来たら順番に屠ってあげますので、楽しみにしていなさい』



 なんか隣で黒い鉄仮面が恐ろしいことを呟いているが、きっと気のせいであろう。


 アキナがせっせと罠解除に励んでいるのを眺めつつ、ナタクは暇にかまけてしばし物思いに耽っていた。


 遂に、念願の第三層へ到達することができたのだ。ここまで色々準備していたことが報われる瞬間が、もう目の前まで訪れている。このことを考えるだけでも、彼は小躍りしたくなる衝動を押さえるのに必死であった。


 そして、実は薄っすらと笑い声が漏れていることに彼は気がついてはいなかった。


 しかもその隣で取れたての魔石を手に持ち、こちらも不気味な笑い声を発している鉄仮面の存在が、その光景を更に不気味に演出していたため、何も知らずに一仕事終えたアキナがこの光景を目撃して不覚にも悲鳴を上げてしまったのは、もはや必然の結果であった。

『あれれぇ?』(๑╹ω╹๑ )


((ムカッ!!))(# ゜Д゜)!!

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