第36話
『ゲートキーパーの撤去完了しました』
「最早、時間稼ぎにすらなっていませんね・・・・」
「まぁ、元から強さにだいぶ差がありましたからね」
攻略準備を終えてから全員揃って地下のダンジョン入り口までやって来たわけだが、今日も律儀にボスユニットの特徴でもある24時間周期のリポップを果たして待ち構えていたゲートキーパーを、『ちょっと扉の鍵を開けてきますね』くらいの感覚でアルンが再度消滅させてしまい、あんまりの作業感にナタク達が呆れるのも無理はなかった。
『タイマーも再セット完了です。それでは予定通り私達はこのまま奥へと向かいますが、マスター達もご無理はなさらぬようにお願いしますね。“ポーン”達、マスターとアキナ様の警護を頼みましたよ』
「そちらもたぶん無いとは思いますが、事前情報との差異や違和感がありましたら、連絡をお願いします。あと第二層は今後もそれほど用事がありませんので、今回のうちに『動力炉の件』も一緒に終わらせておいてください」
『畏まりました。それではスラキチさん、今日も楽しい狩りの時間を堪能しましょう!』
非常に頼もしいセリフを残し、アルン達は安全エリアを抜けて更に奥へと進んで行った。それもそのはず、アルンは昨日までの魔物討伐の結果によって、遂に第一層での目標であったレベル40を超えるレベル42へのランクアップを果たしていたため、最高でもレベル40までの敵しか出現しない第二層では、余程の無理をしない限り、心配とは無縁の状態にあると言えた。
ところで、度々話題に上がるわりには個体名が無いため影の薄かった“ポーン”についてだが、本日より新たにもう一体がアルンの配下に加わっており。便宜上、先に稼動していた個体を一号、新たに加わった二体目を二号としたとしよう。
装備している鎧は共に漆黒の魔鉄製フルプレートを使用しているため外見は殆ど変わらないのだが、武器に関してだけは確たる違いが存在し、一号は左右に一本ずつフランシスカと呼ばれる投擲も可能な片手斧を装備しているのに対して、二号に与えられたのは同じ斧でもバルディッシュと呼ばれる、片刃で柄が槍の様に長い形状をした、俗に言う両手斧と呼ばれる代物を装備していた。
ちなみに、なぜ個体によってこのような違いを持たせたのかと言うと、これについては完全にナタクの趣味であり。彼曰く「“ポーン”が修める“戦士”とは、全職業中もっとも多才な武器の使い手でもあるので、せっかく複数体いるのなら是非ともそれぞれに個性を持たせたい」と主張をし、それについて特に誰も異論を述べなかったため、そのまま彼の案が採用される形となっていた。
「そういえば先生、さっきの『動力炉の件』って何のことですか?」
「動力炉とはここのダンジョンギミックみたいなもので、各フロアごとに複数ヶ所設置されている、その階層全体にエネルギーを供給するための出力装置のことですね。他の階層へ向かうためには、これらを全て起動させて魔導エレベーターに魔力を充填する必要があるんですよ」
「そんなものが用意されていたんですね。ということは、さっきアルンちゃんが進んだその先に、その魔導エレベーターってのがあるんですか?」
「そういうことです。それに加え、アルンはこのダンジョンのマスターキーを保持していますので、謎解きをしないで全ての動力炉の在り処まで進むことができるため、言う事無しの適任者なんですよ。ちなみに、第一層分は最初のマップ埋めをした際に一緒に終わらせてありますよ」
「本当、こういった環境の変化が乏しい防衛型のダンジョンって、攻略が済んでしまうと、ただのアスレチックみたいになりますよね。
てか、マスターキーなんて便利なアイテムがあるのでしたら、態々ゲートキーパーさんを毎回倒さなくても良かったのでは?」
「それができればもっと楽だったんですがね。どうやらダンジョン化に伴い、扉自体が魔物として再登録がなされてしまってるらしく、システム的には扉のロックが解除できても、全然言うことを聞いてくれないみたいなんですよ」
「ありゃりゃ、中々上手くはいかないんですね」
「変わりに、少ない手間で結構な量のソールと大きめな魔石も落としてくれるので、全部が全部悪いことばかりではありませんけどね。
ところで話は変わりますが、先ほど渡した装備で何か不具合などはありませんでしたか?
一応汎用性に特化した品なので、調整はわりと自由に弄れますよ?」
「おっと、それについては私も是非ツッコミを入れねばと思っていました!
確かにレベル30になったばかりの私達では、二人で一緒に用意している職業別の専用装備はまだ厳しいことには十分理解できますが、だからってなんでこんなに用意がいいんですか!!
しかも明らかに兵装寄りの作りをしてるところから察するに、これって領主様絡みの品ですよね!?」
アキナの指摘の通り、本日から近接戦闘をするのに当たり、前回まで使用していた武具では些か適性レベル的に厳しいものがあったため、そこで急遽代替品を使うことを告げられていたのだが、朝食後にナタクから「今日からこれで!」という軽いノリで渡された木箱の中には、かなり統一感を意識して作られたであろう防具一式が納められていた。
ここまでの統一感のある防具一式となるとオーダーメイドでも無い限り、後は軍隊向けのレシピくらいになるのだが、今回ナタクの用意した品は明らかに後者を意識した特徴があちこちに施されており、自らも裁縫職人である彼女の見立てはかなり的を射ていた。
「本当は短い期間しか使用しない武具ならば、店売りの物を適当に見繕っても良かったんですけどね。
ですが、これもこの“イグオールの街”の土地柄なのか、どこを探してみてもゲームの頃と同様に、何故かアイアン製品の武具までしかどの店舗も扱っていなくて。それならばいっそうのこと、このレベル帯の防具も自作してしまい、その完成品やレシピなんかをそのまま領主様と鍛冶ギルドに売り込んでしまおうかと思いまして。
ちなみにアキが身に付けてるのは軽装歩兵用に開発した軽鎧セットで、俺のはより前衛向けに作られたハーフプレートメイルになりますね。どちらもスチール製で装備適性もレベル30からと、今の俺達なら試作品のテストに丁度良かったので、そのまま流用させてもらいました」
「先生って、そういうところマメですよね」
「せっかく領主様から騎士剣の発注も受けてますしね。鍛冶師としても腕を見せる丁度よい試金石にもなりそうだったので、この際全力でアピールさせてもらおうかと」
「はぁ・・・・なんだか領主様の驚く顔が目に浮かびますよ。この一緒に渡された忍者刀も、恐ろしいぐらい手に馴染んでましたし」
「そちらは、アキが使ってた模擬刀を参考に鋼で作ってみた試作品になりますね。問題なければ、メインは魔鉄でそのまま仕上げる予定でいますよ」
「このレベルで試作品って・・・・」
「それでは、そろそろ俺達も周回を始めるとしますか。どうやら経験値バーを見る限り、アルン達も第二層で狩りを始めたみたいですし」
「おっと、それは負けていられませんね」
「“ポーン”達のおかげでこちらも十分に過剰戦力ですので、今日は魔石の数だけでもアルン達に勝ってやりましょう」
「りょうかいですっ、今日も一日頑張りましょう!!」
こうして始まった第一層組による魔物狩りについてだが、最初こそ連携確認に手間取りはしたものの、次第に慣れてくるとそれに比例して殲滅速度もグングンと短縮されてゆき。最終的にお互いの役割を把握できた頃には、少し前にアルン達が周回していた時と殆ど大差がないぐらいのペースでダンジョンを周回できるようになっていた。
特にこの成果を牽引したのは、ジャマーとしてのアキナの行動が非常に大きな役割を果たしており、中でも彼女が使っていた『行動抑制』『攻撃・防御力低下』『スリップダメージ』といったデバフ忍術の存在が、今回の戦いで大いに役立つこととなった。
簡単にそれぞれを説明しておくと、この『行動抑制』とは、以前に遠距離を主体とした戦闘をおこなった際に彼女が使用していた忍術などが該当し、その他に攻撃速度を遅延させ相手の攻撃機会を奪ってしまうモノなども含まれる。
次に『攻撃・防御力低下』についてだが、こちらは直接相手の腕力や体力などに干渉し、相手の戦闘能力自体を奪ってしまう目的に使用されるものであり、一般的に敵の弱体化と言ってイメージされやすいのが、こちらのデバフ効果になるのではないだろうか。
そして最後に『スリップダメージ』だが、これで一番有名なモノを挙げるとするならば、やはり毒などによる継続ダメージになるだろう。これらの利点は敵の防御力を完全に無視して、一定時間相手にダメージを与え続けることが出来るため、戦術によって格上の相手だろうと一人で完封してしまえるほどポテンシャルを秘めている。
アキナはこれらを巧みに操り、遠くの敵には『行動抑制』と『スリップダメージ』を併用することで、仲間が他の敵と戦っている間にも相手の体力を奪いながらその場に縛りつけていた。
またPT戦闘のメインターゲットになっている相手には、防御力を下げることで殲滅速度を加速させ、その取り巻き達には攻撃力低下のデバフを重ねて付与することでタンクのダメージをできる限り抑えるといった、PT全体の戦闘能力を飛躍的に高める動きを術の張替え作業などを含めて、ほぼ完璧にそれらをおこなっていた。
更には術のリキャストタイムまでも利用して近接攻撃にも参加しているのだから、彼女一人で他のPTメンバーに求められる期待値の二倍以上の仕事量をこなしているのではなかろうか。
もちろん、これは単純に彼女の処理速度と戦術構築がずば抜けて優秀であるからこそ回せるのであって、他の忍者にここまでの仕事を期待するのは酷といえるほど、彼女の立ち回りは突出していた。
「ふっふふ。やっぱり、同格相手はデバフがバシバシ入って気持ちが良いですね」
「先ほどから、ジャマーの本領発揮って感じですもんね。正直、ここまで動ける忍者も中々いないと思いますよ」
「なんてったって、PT戦闘でのジャマー忍者の最大の敵はレジストとリキャストタイムだって言われてますしね。ここまでポンポン術が決まってくれると、やっていて達成感が違います!
あっ、左のゴーレムさん。残り10秒で拘束が解けますので、次はその子でお願いします」
「了解です。それでは、今やってる奴は沈めてしまいますねッ!」
「先生こそ、よくそんな威力の攻撃を連発していてタンクからターゲットを奪いませんよね?」
「その辺はヘイト管理をしながら、緩急を付けて調整しているんですよ。そもそもアタッカーがタンクからターゲットを剥がしてしまっては、戦犯行為になりますからね」
「あぁ、なるほど」
「まぁ、それでも腕力自慢でやらかす方って結構いますけどね。アルンなんかも、その辺立派な予備軍な気がします」
「・・・・ごめん、アルンちゃん。否定できませんっ!」
ただ、あの子の場合はタンクも十分できますので、奪ってくれても一向に構わないんですけどね。
さてさて、俺達までこのペースで周回ができるのなら、今回の遠征での最終目標でもある第三層への到達も、思ってた以上に早く達成できそうでなによりです。
あそこには、これから錬成をしていく上での必要不可欠な設備や知識がたくさん眠っていますからね。
より良い錬成ライフのためにも、まずは目の前の彼らに俺達の糧となっていただきましょう!
この子はOK。君はもう少し固まっててね( ・`ω・´)
ぐっ、ぐおぉぉぉん。゜(゜´Д`゜)゜。