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第33話

 


(・・・・なんだろう、この違和感は?)



 ナタクが最初にソレを感じたのは、模擬戦が開始されて暫く経ってのことであった。


 何故か今日に限って、やたらと肌色が目に付いたのだ。


 とは言っても、アキナの服装は何時着ているミニ浴衣にスカートを合わせたのような普段着に、その上に革製の軽装防具を装備をしているだけなので、確かに他の職業に比べれば多少肌の露出も多いだろうが、始めのうちは勘違いかと思い深く考えないようにしていた。


 だが戦闘が激しさを増していく中で、不意にアキナの穿いているスカートがヒラリと(ひるがえ)った場面に遭遇すると、今までナタクが感じていた違和感が決して勘違いなどでは無かった証明に繋がる結果となるのであった。



(って、アキナさん!もしや、“スパッツ”を履き忘れていませんか!?)



 普段から貞潔(ていけつ)なアキナがワザとこのような格好を取るとは考えづらいため、状況から察するに、彼女は睡眠を取らなかったことにより判断力が低下し、“スパッツ”を履き忘れたのではないだろうか。


 だがそれと同時に、この状況を素直に喜べるほど彼に余裕は一切無かった。


 それもそのはず。最近は鳴りを潜めて大人しかった“女難の相”さんだが、今回満を持してトラップを仕掛けてきたのはなんとなく理解することができた。ただしこれまでの経験上、このような展開では必ずと言っていいほど酷い目に遭ってきたのも、このナタクなのである。


 脳裏に今まで受けてきた制裁の数々が走馬灯の様に再生され始め、背筋が凍るような思いであった。しかも今回はこれまでと違い、フィジカルレベルの向上に伴い、ステータスがドンドンと伸びている最中なので、バレれば碌でもない目に遭うことは火を見るより明らかであった。



(なんとか平和的にこの状況を丸く収めなければ、下手をすると今の装備では俺の命まで危ない。しかしながら、異性で尚且つ同年代の自分に指摘された場合のアキナの行動が読めませんし、それにまだ一週間はここで一緒に過ごす予定なので、その間お互い気まずくなるとか考えただけでもゾッとします・・・・)



 一応まだ救いがあるとすれば、この世界の『スカート』というアイテムには何やら不思議な力が働いているようで、何故かある一定の範囲であれば鉄壁のディフェンス機能が発揮するという女性にはありがたい効果がデフォルトで付与されているため、そうそう『スカート』が捲れてしまうような事態にはならないはずだが、流石にアキナが“格闘家”の『蹴り技』を攻撃パターンに織り交ぜた辺りからその能力にも限界が訪れているらしく、先ほどから彼女が脚を上げる度にチラチラと見えてはいけない物がその姿を現し始めていた。



(赤・・・・いや黒かもしれませんね。前回までは白一色でしたのに、今回なかなか攻めた色の選択を・・・・って、そうじゃなありません!!)



 いくら肉体が若返り精神はそのままだったいっても、彼自身は健全な男性であり。しかも、身近でもっとも親しい異性にして誰もが羨むような美貌を兼ね備えたあのアキナが、無意識にとはいえ自分の前であられもない姿を晒しているのである。一瞬でも『こんなチャンス滅多にない!!』と考えてしまった彼を、いったい誰が責められようか。


 藁にも縋る思いで必死にアルンへ視線を飛ばしていると、ここで漸くアルンが何かに気が付いたようで、こちらに向かって力ずよく頷き返してきた。



(よかった、これで最悪の事態は免れ・・・・)



「アキナ様、どうやらマスターは今のあなたの動きに翻弄(ほんろう)されて調子を崩されているご様子!


 ここは一つ、もっと激しく動きまわって畳み掛けてしてしまいましょう!アキナ様の勝利は目前ですよ!!」



(こらぁ、ポンコツ娘!!アキを煽ってどうするんですか!!??)



 もはやこうなってしまうと、ナタクの心境は空前絶後の大パニックである。


 ここで恨みを込めた視線をアルンへ向けると、彼女はやり切った感を全面に出したドヤ顔からのサムズアップを決めていた。どうやらナタクの思いが伝わるどころか、例え伝わっていたとしても、あえてそれを無視することで、より面白くなる方に全力で舵を切ることにしたようである。



 ちなみに、ここで何故アルンがこんな行動に出たのかというと、彼女にとっては主人であるナタクを窮地に陥れることでサディストな一面を満たすことができる一方、それと同時に後でナタクからのお叱りを受けることができるというマゾヒズムな心をくすぐられるという、彼女にとってはどちらに転んでも非常に美味しい展開となっていたためであった。



 アルンの煽りを受け、アキナの猛攻は更に加速してゆく。


 そもそもアキナの戦闘力に関しては、既にナタクが想定していたレベルを軽く凌駕する勢いで成長を遂げており、これはナタクの指導と言うより、紛れもなく彼女自身の努力の賜物であると言えた。


 それも、そのはず。ナタクはこの模擬戦で彼女に対し一貫して自分から攻撃らしい攻撃は加えておらず、どちらかと言うと、彼女が無理な行動を取ってしまったのを戒める意味合いの指導を入れる以外は、殆ど受身に回っていた。


 もちろん、それにはちゃんとした理由があり。まず一つは自分のメイン職業が忍者職ではないため、例え知り合いの動きを彼女に伝授したところで、にわか知識ではその本質を正確に教えることが出来ないことが自分でも分かっていたが(ゆえ)であった。


 また、これは彼の教育方針として他分野にも当て嵌まることなのだが、『会社や軍隊などで上司または上官を模倣した優秀な人材を量産するためならまだしも、そうでないなら個性を奪って個人の能力の芽を潰してしまっては面白くない』という考えが根底にあるため、なるべく伸び伸びと育成させるよう常日頃から心がけていたからであった。



 そんな弟子の成長に感心しながらも、状況は更に悪化していた。



「そこです、ナイス回し蹴り!!」


「いいですね、素晴らしいキックですよ!!」


「今が絶好のチャンスです!ドンドン脚を使って翻弄していきましょう!」



 最早ナタクの味方をするつもりなど毛ほども無さそうなアルンが、先ほどから楽しそうにアキナを煽っているため、色々な意味で攻撃に晒されているナタクは、ますます窮地に追いやられていた。



(くっ!見てはいけないのは解かっているのに、どうしても目が吸い寄せられる!!


 と言いますか、例え目を離せたところで今度はアキの攻撃が捌けなくなって負けてしまうというジレンマもありますし、そして何よりアルンのあの表情。アレはいつ真実をアキに暴露すれば一番面白くなるかを推し量っていますね。くそっ、なんて厄介な・・・・・)



 グダグダと纏まらない考えが頭を巡っている間にも、アキナの攻撃はその苛烈を増し続けており。ステータスの上昇によりスタミナに余裕が生まれたことで、もはや攻撃スキルを使用しないこの模擬戦では彼女のスタミナが一方的に削れるのを期待することすらほぼ不可能になっていた。


 では、此方から打って出るのはどうかというと、これも前ほど隙を突いて容易にマウントを取らせてくれる相手でもなくなっているため、ナタクが自分に課した“被弾無く相手を倒さなくてはならない”という独自ルールが足を引っ張り、どうしても慎重にならざるを得なくされていた。



 そんな手詰まりの状況の最中(さなか)、遂に恐れていた事件が起こってしまう。


 事の始まりは、アルンからの残り時間1分の合図が告げられた直後であった。これに合わせてアキナが勝負を決めにラストスパートを仕掛けてきたので、ナタクも必死になって応戦していると、今度はその反撃を避けるために彼女が今までにないほど高く飛び上がり、ついでとばかりにナタクの頚を目掛けて鋭いハイキックを繰り出したのだが、この試みこそが後の大失態への始まりとなってしまった。



「アキナ様、ソレだとパンツが丸見えですよ?」



 なんとこのタイミングで、アルンが爆弾を投下したのである。


 これに慌てたのは、言うまでも無くアキナであった。ただし不幸中の幸いか、戦闘中であったこともあり思考回路がフル回転で機能していたため、アルンの指摘にも即座に反応すると同時に、攻撃モーションをキャンセルし空中でスカートの押さえ込こむのに成功したようだが、彼女はここで行動キャンセルに伴う、あるデメリットを体感することになってしまった。



 元来、行動キャンセルとはアシストに組み込まれていた動作そのものを自分の意思で止めてしまう荒業のような技術の総称を指すのだが、そこには攻撃だけではなく、攻撃の始点から終点にかけての予備動作も含まれていた。


 そしてここで問題となったのが、アキナの行動キャンセルを入れたタイミングである。


 彼女はナタクへ攻撃を加えるために、空中で“格闘家”の攻撃モーションである『蹴り技』を選択し実行しようとしていたところに、アルンの指摘を受けて咄嗟にそのモーションを解除してしまったのだ。


 例えるならば、体操のオリンピック選手が鉄棒競技中に勢いをつけて離れ技へ挑戦していたところ、突然その選手と鉄棒初心者の一般人とが入れ替わってしまったような状態なのだ。しかも最悪なことに、アキナは自分のスカートを抑えることに意識が集中する余り、着地動作まで考えが回っていなかったのはバランスを崩したその体勢を見れば一目瞭然であった。



 (このまま落ちれば大怪我をする!!)



 そう判断したナタクは即座に武器から両手を離し、アキナを受け止める選択をしたのだが、如何せん攻撃モーションを途中で解除したために、アキナはバランスを崩した体勢のままナタクに()し掛かる軌道でこちらへ向かって来ており。尚且つ、頭が下を向いた状態で落下し始めているため、今から横に躱して横抱きにしていたら間に合いと判断し、ここは下手に動かず最悪彼女の下敷きになることを覚悟して、その場に留まる選択をした。



 結果、二人は大きな音と共に(もつ)れ合う形で地面へと崩れ落ちることになる。



 程なくして、ナタクの上から「痛つっ・・・・って、あれ!思ったより痛くない?」という不思議そうなアキナの声が聞こえてきたので、どうやら彼女に大きな怪我などは無かったようだ。かく言うナタクも、受け止めた際にアキナの膝が右頬を軽く打った程度で特に大きなダメージは負わなかったが、それとは別に、ナタクは現在とても不可思議な現象に見舞われていた。



 息苦しく、視界が全く()かないのである。


 もっと正確に今の状況を伝えるならば、地面に落下しアキナの下敷きになった後に瞼を開けたところ、何故か夜でもないのに辺りが突然真っ暗となっており、更になにか柔らかいもので頭を押さえつけられ、完全に頚から上が動かせない状態になっていた。


 ただし痛みは特に感じなかったので、取り敢えず、自分の安否だけでも伝えるために口を動かそうとすると、何故か自分の上から「ひゃぅ!?」というアキナの奇声が聞こえ・・・・



 ・・・・もう、冷や汗が止まらなかった。


 現在分かっている情報を繋ぎ合わせるだけでも、答えは自ずと導き出すことができ。そして、今も自分の頭を押さえつけているこの柔らかい物体が、アキナのなんであるかも・・・・



「いっ・・・・いやぁぁぁ!!!!!!!」



 これは、転生して何度目になるだろうか。ナタクはここで、再度意識を手放すことになる。


 ちなみにこれは後にアルンから聞いた話になるが、どうやらナタクは仰向けの格好でアキナのスカートの中へと顔を突っ込み、彼女のお尻で頭をガッチリ押さえつけられた状態から、彼女の瓦割りを彷彿(ほうふつ)とさせる見事な一撃を地面と拳で挟まれる形で腹部に受けたらしく、散々悶絶した後にそのまま泡を噴いて失神したんだそうだ。



 友達に格闘技ファンがいたので、ボクサーが試合中にボディーブローでKOされる場面は何度か見たことはありましたが、まさか自分がそれを体験する日がこようとは、夢にも思っていませんでした・・・・


 ですが不可抗力だったとはいえ、一人の男としては大きなプラス収支だった気がします。女難の相さん、今日もありがとうございました。





ちなみに、色は赤でした・・・ガクっ_(¦3 」∠ )_



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[一言] これは無いわ。脱落。
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